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第四十九話 ロア教と地獄

「ともかくその異世界の魔道士は、この世界の乱世が始まりそうな国に目を付けて、そこにその二つのイレギュラーを放り込んだわけ。ちなみに真澄が最初に会った眼妖は、彼女を襲わせるために、魔道士が魔法で知性を与えて命令を与えたそうよ。そいつらに追い詰められた真澄は、追い立てられた神社でその勾玉を見つけて、否応なしに使わざる終えなくなった……それが魔道士がお膳立てした話しの筋書きよ」


 真澄が始めて会った、あのやたらと饒舌に喋る眼妖達。あれには今まで謎が多かったが、それが実にあっさり解明された。

 最初に眼妖に襲われたあの日から、真澄はその魔道士の仕組んだ英雄劇に、無理矢理主演をさせられていたのである。


「ちなみにそのイレギュラーの内のもう一人。あの武器の勾玉のその次に作られた、変身魔具が、あのロビンと呼ばれてる獣よ。勾玉と違って、あれは武器という無機物じゃなくて、元は生きていた動物の記憶をダウンロードしたそうよ。普段は犬の姿でいるけど、本当の姿は、真澄さんが持ってるのと同じ、色違いの勾玉の姿よ」


 ロビン=湖川は、源一と違って、変身すると自力で自由に動き回れる。そのため本来の姿である勾玉になることが全くないために、源一とは似て非なる存在に思われていた。

 だが実際の正体は、源一と同じ素材の魔石であったようだ。


「じゃあ、ロビンさんとブルーノさんが出会ったのは?」

「あれはブルーノが異人狩りに襲われるタイミングを見計らって、彼に会わせたみたい。ブルーノ自身は、それを最初はロアの導きと思って、後からただの偶然と思い直したみたいだけどね。ちなみにそれを作った魔道士曰く、そいつは失敗作だそうよ。戦闘力は、武器の変身魔石を持った使い手よりも、ずっと弱かったからね……」


 そしてそれは、開発者から失敗の烙印を押されていた……。確かにあの大蛇眼妖のとの戦いでは、源一と比べてあまり活躍していなかったが……


「まあ、これが私があなたに話したかったおおよそのことよ。悪いわね、こんな風に時間をとらせて……。まあここは精神世界だから、現界との時間の調整はできるけど」

「小次郎さん……どうして私にそんな話しを?」


 この話しで確かにルチルは、自分の祖国の実体を、書物で見る以上に知ることができただろう。そして誰も知らなかった、あの不思議な勾玉の正体も。

 だが何故鬼神の使いである小次郎が、わざわざルチル一人を呼び出して、このような説明を親切にしてくれるのか?

 特に勾玉のことは、ルチルではなく真澄に話した方が良かったのではないだろうか? その辺が彼女にとって、現時点祖国のことよりも疑問であった。


「いや何……あなた何か色々悩んでたから、ちょっと助けてあげたかったのよ。正直私は、あなたを地獄に送りたくなかったからね……」

「地獄!? 私が!?」


 何やら晴れやかな顔で、結構物騒なことを言う小次郎に、ルチルが逆に驚愕していた。


「だってさ……つい最近まで、あんなにロア教を信仰してたのよ……。その信仰を急に覆されて、そうすぐに見切りをつけられる人なんて、早々いないわ。現実を受け入れられずに、ロア教に最後まで信奉し続けることだってありえた。私がこうしてあなたの前に出てきたのも、もしあなたにその気があるようだったら、ここで説得してやめさせようと思ったの。でもその様子だと、大丈夫だったみたいね。思いのほか、信仰を取り替えるのは早かったし。まあ、あなたが今崇拝し始めてる鬼神様ていうのも、この世の全てを救ってくれるほど、ありがたいものじゃないけどね」


 それが彼女が、わざわざルチルの前に姿を現した理由。

 目の前の鬼の少女は、ルチルにとっては初対面の奇怪な人物であるが、小次郎からすればルチルは、しばらく共に旅をした中まである。

 そのためか、彼女はこのような冥界の法ギリギリの行動に出たのである。


「そうなんですか……お気遣いありがとうございます小次郎様。私はもう大丈夫です。こうして落ち着いて、現実を受け止められたのも、きっと真澄さんと出会えたおかげ…………ちょっと待って下さい!」


 礼の途中でルチルは何かに気づいたようで、彼女は慌てて言葉の途中でそのことを口にした。


「私がロア教を信奉し続けたら……て言っておられましたが……もしかしてロア教を信じている人達は、皆地獄に堕ちるんですか!?」

「ええ、堕ちるわね」


 結構重大な事実とルチルが認識したことを、小次郎は何てことでもないように、実にさらりと肯定してしまい、それが更にルチルを驚かせている。


「ロア教はディークの横暴を正当化させるアホ精神論よ。さっき見せたような所業を直接しなくても、その行為を賛美するだけで、充分罪だわ。少なくとも大鬼神様は、そう考えている。まあ、直接事を起こしていない場合は、堕とされるのは浅層の地獄で済むわ。刑期も百年ぐらいだし」

「百年……それは短いんですか?」

「まあ、短いほうね。今日も何千万ものロア教信徒の魂達が、煮え湯の池の中で、オタマジャクシみたいに、どぼどぼ泳いで喘いでいるでしょうね。初日にそこに堕ちる奴らは、最初は結構騒いでいるわよ。“ロア様はどこに!?”“私は天国に行けるのではなかったのか!?”“教えと違う! 私は何も間違ってない!”とか……そんなことを泣き叫びながら、もがき苦しんでるわ。まあそれも1年ぐらいたつと、静かになるものだけど……」


 冥界の地獄の内容を、具体的に説明する小次郎。死後の世界の実体が、現界で教えてもらったのと違うことに、愕然とする死者は多い。

 そしてそれは、ロア教の信者などは、その頻度は高いのだ。今地獄では、ディーク出身の罪人の魂が、毎日大量に堕とされている。

 先程説明した、地獄の池(に似せて作った、霊体の拷問場)では、無数の魂が養殖場の魚のように、過密して放り込まれているのである。


「皆、祖国に騙された被害者ですよ……」

「それと同時に、祖国の横行の賛同者よ。彼らはあなたと違って、国が何をしているのか、全部知ってて、それを支持してるのよ。実質ディークの非道を支えてしまっているんだからね。まあ可哀想だと思うけど、罪は罪だし……」

「じゃあどうして、その人達を止めて、正しい教えを広めようとしないんですか!? 神様は、人を導くんじゃないんですか!?」

「さっき言ったでしょ? 鬼神は全てを救えるほど、ありがたいものじゃないってね。それに最初に鬼神の教えを否定して、勝手に自分に都合のいい宗教を作ったのは、彼ら自身。ならそいつらの好きなようにさせるだけ。こっちはこっちの意思で、そいつらを裁くだけだし……まあ実の所、私達も元は人間霊で、裁く基準も別の人間の意思で勝手に作った物なんだけど……」

「鬼神様が人間霊? ……じゃあなおさら……」


 罪を裁く独自の法律を作っている以上、彼らもまた人の領域に入る存在である。何が正しく、何が間違っているかを、彼らが独自で決めているのだから、神というのはかなり人間的である。

 だがそれを現界の国の法律と、区画して考えるのは、ルチルは納得していないようであった。


「まあ、不満なのは判るわよ。私もちょっと最近になって、そう思ってきたところだし」

「最近?」

「ええ、もっぱらあなたが原因ね。今まで私は、ロア教信徒なんて、人間とは考えてなかったわ。死んだら地獄に落とすだけの、粗大ゴミ共って感じ? でも……あなたみたいな、都合のいい教育を受けて、操られている人がいるのを、現界を旅して直に見ると……ちょっと罪悪感があるのよね。だからこうして、直に話してきたんだけど……」

「でしたら、私以外にも、もっと沢山の人に、ディークの間違いを教えて下さい! そうしないとこれからも、沢山の人が何も判らずに地獄に堕とされて続けてしまいます!」


 どんなに酷い国であっても、自分の祖国の人間には、正しいことを知って、死後も救われてほしい。

 ディークの教えそのものに見切りをつけたルチルだが、ディーク人全てを見捨てる意思はないようであった。


「悪いけど、こんなやり方で、救える人はあなたぐらいよ。多分他のロア教信徒だと、悪魔が夢に出てきて、誑かしてきたとしか思われないでしょうね。それに私は現界に直接介入することはできない。今までずっとあなたのことを見てきたけど、勾玉の中の人を唆す以外に、碌な事をしてないし」


 巨人眼妖に襲われたときに、人型眼妖に取り憑いて操ったのは、数に入っていないのだろうか?

 ともあれ小次郎は、自分は直接彼らを救えないと、言い切って見せた。その上で、彼女は言葉を続けた。


「でも私の言葉を信じてくれた、あなたにはできることがあるんじゃないの? あなたには、まだ未熟だけど、現界で戦える力があるんだし……」

「私にですか?」

「ええ、神は人を導く存在だけど、実際に人を動かすのは、同じ人だけ。それはどこの宗教でも同じ事よ、インチキか本物かは、関係なくね……。さてこれで私が、あなたに言いたいことは、全部言い切ったわ。後はあなたと真澄に任せるわ。さっき言ったとおり、私は貴方たちに、力は貸せないけど、近くでずっと見守って応援してるわ。じゃあ、頑張ってね」


 その言葉を最後に、ルチルの視界から全てが消えた。小次郎の姿も、あの真っ赤な空間も、全てである。そして彼女の意識は、再び闇に落ちる……






「ふはっ!?」


 そして再び光が昇ったときに、ルチルは自室の布団の中にいた。飛び上がるように掛け布団を押し上げて、身体を半分起き上がらせたルチル。


「夢? でも……」


 先程見た夢の記憶は、現実としか思えないほど、はっきりと記憶に残っていた。

 ルチルは周囲を見渡し、自身の身体も見る。この畳部屋には、真澄と二人分暮らせる広さと、先代の残した家具があるのみ。

 窓の方を見ると、どうやらもう深夜のようで、部屋は薄暗い。ただし大きな窓から注ぐ、月と星の光が、部屋をうっすらと照らしていた。

 どこを見ても、今の夢が本物かどうかを、証明する物は何もない。


「真澄さん……どこ……」


 それほど動いていないのに、随分疲れた表情のルチル。彼女は寝間着姿のまま部屋を出て、フラフラと階下へと降りていった。



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