表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/62

第四十七話 小次郎との出会い

(あれ……ここは?)


 気がついたらルチルは、何もない世界にいた。大地も空も生物もいない、全てが夕焼けのように赤く染まった、広大な宇宙のような空間。そこは以前、源一が訪れた、冥界と現界の狭間の世界と同じであった。

 その中に、魂ではなく、生身の姿のルチルが、いつのまにか立っている。寝る前に来た、寝間着着物の姿で、その場で何が何だか判らず、呆然としていた。


(確か……真澄さんが警察の人と何か話し合いをしてて……もう遅くなったから、私が先に寝たんだっけ? それじゃあこれは夢?)


 普通に考えれば、とても現実とは思えない場所。だが夢にしては、随分意識がはっきりしている状況に、不思議に思っている中、その場でルチル以外の者の声が聞こえてきた。


「こんばんはルチルさん……一応初めましてかしらね?」

「!?」


 さっきまでは四方見渡しても誰もいなかったのに、ルチルが考え込んでいる中、突如彼女に声をかける者が現れた。

 ルチルが慌てて、声が聞こえた方向に振り向く。するといったいつのまにそこまで移動したのか、さっきまで誰もいなかった背後の空間に、誰かがいた。


 それは、着物姿の頭に角が生えた鬼少女。それは小次郎であった。

 今までずっと、真澄とルチルの側で、彼らと旅をしてきた女性。されとで、ルチルは彼女の存在を、今まで一度も認識したことがない。知らない連れであった小次郎。それが今、この夢か現か判らない世界で、突如対面したのである。


「あなたは……どちらさまでしょうか?」


 困惑しながらも、ルチルは割と冷静に問いかける。

 頭に生えた角など、特に気にしない。それよりももっと人間離れした特徴を持つ、鰐人を見慣れている彼女にとっては、角が生えているかどうかなど、特に気にするようなことではない。


「私は小次郎。冥界の役人よ。現世で死んで、冥界に渡ってきた魂の裁定を行う者よ。まあ今は諸事情で、その仕事をさぼっている状況だけどね」

「冥界の……じゃああなたが鬼神様!? この世界の本当の神様!?」


 冥界と聞いて、即座にこの大陸で崇められている、鬼神のことだと認めたルチル。それは以前、巨人眼妖に会う前に、彼女たちが訪れた寺院で、崇められていた神である。


「神様っていうほど偉くはないわよ。まあ、御使いという事かしらね?」

「小次郎様! お教え下さい! この世界の真実を! 私の故国は……ディーク神聖王国は、やはり悪国だったのでしょうか!? 本当の神は、やはり小次郎様の主である、鬼神様だったのでしょうか?」


 その場で跪くルチル。重力関係がどうなっているの謎の、赤い空間の地面に座り込んで、何やら必死の様子で、ルチルは問いかけている。

 それに小次郎は、やや引き攣っているようだった。


「女神ロアが胡散臭いと判ったら、今度は鬼神様に助けを求めるの? 随分と改宗が早いわね。まあ……別にいいけど。その問いの答えは……まあ前半は完全に肯定よ。ディーク神聖王国は、あなたが考えていたような、綺麗な国じゃないわ。国の穢れを何も知らずに、温室の中で綺麗な心で育ったあなたは、ある意味幸福かも知れないわね。これを見てみなさい……」


 突如この二人しかいない空間に、何か映し出される。二人から少し離れた所にある空間に、大きな四角い鏡のようなものが現れる。

 その鏡面には、映画館の映写機のように、こことは別の風景が映し出されていた。


「これは……ディークなのですか?」

「ええ、そうよ。あなたが初めて見る、あなたの祖国の光景の、一部分よ」


 そこの映し出されているのは、どこかの工事現場と思われる風景。どこかの砦の建設途中の光景だろうか?

 巨大な石造りの不格好な建物が、そこにある。そしてそれを囲う城壁と思われる建築物を、大勢の人達が石を組み上げる作業を繰り返し、建設中だ。

 その人々は、髪も髭も手入れされておらず、ボロボロの布服を着せられていて、全身の汚れだらけである。またあまり良い食事をとっていないのか、皆ガリガリに痩せている。


 千江梨刑務所にいた囚人は、犯罪者として扱われていたが、それでも一定以上の食生活はさせられていた。だがこれには、そのような配慮がなされているようには見えない。

 皆、その健康的でない身体で、一生懸命重い石を持ち運んでいた。とても金で雇われた労働者には見えない。


「この人達はいったい……何でこんな弱ったお姿で、こんな無茶をして働いて? あそこまでするほど、大事なお仕事だったんですか?」

「皆好きで働いているわけじゃないわよ。この人達は奴隷なのよ。祖国をディークに滅ぼされ、使い捨ての労力として、ディークに連れてこられた人達。そして今建ててるのは、ロア教の神殿よ。いや神殿という名の、教会の軍事用拠点ね。ロア教の神聖なる場所は、こうして沢山の罪のない人を痛めつけながら作られてるのよ」


 奴隷という言葉を聞いて、ルチルはやや驚くものの、まだはっきりと呑み込めていない。

 その言葉の意味を知っていても、それがどれほど非道いものなのか、理解が足りていない。


「奴隷……それは確か、神に背いた愚か者が、罪を償うために背負う仕事と……」

「今でもその言葉信じられるの? それは全部、自国の労働力を補うための詭弁よ。ここで働いている奴の殆どは、何の罪もない人よ」


 そう言っている間に、映像の中に、奴隷で無いものが現れた。大勢の者が汚れだらけで働く中で、実に小綺麗な服を着た者達が、数人現れた。

 それは以前会った、ブルーノの護衛騎士達の服装と、全く同じ物である。


 その人物は、不快な物を見るように、奴隷達を見渡す。そしてその中に、一人の奴隷に目を付ける。

 それは大きな荷車で、積み上げた土を運んでいる一人の男。全身が骸骨のようにガリガリに痩せており、荷車を引く両手からは、血が滲み出ている。

 もういつ倒れても……いやまだ立てているのが、不思議なぐらいである。その人物の所に、一人の騎士が詰め寄ってくる。

 そして何やら見下した視線で、何事か呟くと、その場で剣を抜き、その人物の首を刎ねた。


「えっ!?」


 ルチルが何が起きたか判らず、口をあんぐりしている。どうも彼女にとっては、かなりショッキングだったらしいが、小次郎の方はむしろその反応の方に呆れているぐらいだ。

 映像の中の人々は、人が殺されていることにどよめき震えている。そして騎士が彼らに何事か叫ぶと、奴隷達はまたせっせと働き始めた。


「何なんですこれ!? あんな弱った人に……」

「奴隷達の仕事効率を上げるための措置だそうよ。弱っていて、もう使い物にならない者を殺し、そして他の人達に、働けなければ次は自分がこうなるという恐怖を植え付けて、とにかく一生懸命働かせる。こういった処置は、ディーク神聖王国各地で、ごく当たり前のように行われているわ」

「酷すぎます! 神聖な国を名乗って、野蛮なのはこの国の方じゃないですか!」


 既にルチルの中では、ディーク神聖王国は、自分の敵となっているようであった。数ヶ月前までは、あれほどディーク神聖王国を賛美していたのに、この数日で一気に認識が変わっている。

 彼女自身、隔離された部屋で育って、祖国のことを文面だけでしか知らなかった。そのせいか自分のよく知らない物を、切り捨てるのを早めにできたのかも知れない。


「そんな風に怒れる辺り、あんたはやっぱり良い子よね。私はもう、こんな光景を見ても、あまり何とも感じなくなったわ。仕事上こういった、汚い人間の記録を、嫌と言うほど見てきたおかげでね」

「仕事上? 死んで冥界に来られた方々ですか?」

「ええ、そう……」


 かつて源一が初めて小次郎と会う直前に、彼女が裁定を行った魂。それもまた、そういった罪を重ねて、小次郎は地獄送りにしていた(※第一話)。

 この冥界は、そういった罪を背負ったものに、死後の罰を与える罪人の処分場なのである。そこで働く者は、殆どが現界を隅々まで知らず、そういった汚い部分しか見ていない。


「残念だけどねルチル。これは何もディークだけじゃないのよ。どこの国の歴史でも、大抵これぐらいの罪の歴史は、それなりに持ってるもの。勿論かつてのアマテラスの国々だってそう。何から何まで綺麗な国なんて、全くないわ……」


 それは歴史というものを、きちんと学んだ者であれば、誰でも知っているであろう、この世の真理。そういった人ならば、ここで行われいることを、既知の事実として冷静に受け止められたであろう。

 だがそういった世界の汚点を、殆ど知らなかったルチルには、これは信じがたい驚愕の事実であったようだ。ルチルが何も言えず黙っている中、小次郎は話しを黙黙と話を続ける。


「更にもう一つ。あなたがこれまで、おかしな環境で育てられた理由も教えるわ。それはあの眼妖という怪物の話しから始まるわ。まあおおよその所は、あのセヴァルという男の言っていた通りよ。あれは元々、ディーク神聖王国が、兵器として作ったもの。高い戦闘力はあるけど、不安定で暴走しやすいことと、特定の属性の魔法で簡単に倒れてしまうことで、戦争では使えないとされたのね」


 目の前に映し出されていた映像が、別の画面に切り替わる。奴隷達が無理矢理働かされている、建設途中の聖堂から、どこかの寂れた村の風景になった。

 広大な草原の中を開拓したらしい、畑に囲まれた、レンガ作りの家々が建ち並ぶ村。恐らくつい最近はのどかな場所だったのかも知れない。


 だが今そこには、畑を踏み荒らし、村を蹂躙する巨人眼妖の姿がある。

 巨人の姿に怯え、逃げ惑う者。その一方で、鍬や草刈り鎌など、頼りない武器で、巨人に立ち向かおうとする者。各々異なる行動を取る人々の姿も映っている。


 そしてそんな絶体絶命の危機を迎えた人々の元、戦おうと無謀に行動する人々を制止するように、その場に駆け込んで来る者が現れた。

 それは美しい白馬に跨がった、ルチルと同じ司祭服を着た、一人の金髪の少女であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ