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第四十五話 暴かれる真実

 さて真澄達が、そんな衝撃の事実(主にルチルが)で、時間を取られている中。先程刑務所から脱走したルシア達、異人達一行は、大分裏側の街道を抜けて、近くの村に到着しようとしていた。

 何千人という囚人服を来た者達が、ぞろぞろと街道や周囲の林を行進している姿は、あまりに目立ちすぎる。これだけ連れ歩くと、村で騒ぎが起こるのではなかろうか?

 これだけ目立つ団体ならば、空から見たら、尚のこと簡単に見つかるだろう。もし真澄たちがあの場に到着したのが、あと十分早かったら、事態は大きく変わっていたかも知れない。


「急げブルーノ! さっきの爆発音が何なのか知らんが、もう敵が近くまで追ってきているかもしれないんだぞ!」

「そう焦らないで下さいよ! ほら、もう見えてきたでしょう!」


 街道を進むと、その先に林が開け、そこに田畑が広がっているのが見えた。そして更にその先に、この街道が続く村がある。


「おお、見えたか! よし、さっさと行け! そして早めに村の連中を言いくるめろ!」


 先頭にいた高官であったらしい囚人が、乱暴にブルーノの背中を押して、そう強い口調で命令してくる。


「言いくるめるって……? というか、私が一人で行くんですか?」

「当たり前だろう? もうお前に護衛はいらないからな。後貴様にできることと言ったら、蛮賊共と話しするぐらいだ。あんな汚い奴らの相手など、私らは御免でしな!」

「蛮族……汚い? あなた何てことを……」


 ここでまた発せられる、この国の者達に対する差別発言。

 以前自分の護衛騎士が、真澄や現地の子供に対して、そのようなことを言って酷い振る舞いをしたことがある。だがそれは、慣れない土地での生活のストレスからの、一時的な暴挙だと解釈していた。

 だがここで、ディークの上位騎士という神聖な地位の者が、それを当たり前のように言ったことに、彼は憤慨していた。


「口答えするな! 貴様のような一介の司祭と私との地位の差が判らんのか? そもそもここで無駄な話しをして、殿下をお待たせさせるか?」

「くう……判りました」


 高圧的な物言いの上位騎士に対して、ブルーノは屈辱的に顔をゆがませながらも、我慢して命令通りに動いた。

 もしかしたら敵がいるかもしれない村に、彼は犬形態のロビンと共に、向かっていく。





「殿下、ブルーノが村に向かったようです」

「そう……では朗報を待ちましょう」


 後続で大勢の護衛達に囲まれているルシア。ここからでは先頭は見えないが、今の騎士とブルーノの、怒りに満ちたやり取りの声は聞こえていたはずである。だがそれにルシアはさほど気にしていないようであった。


「上手くいくでしょうかね? もしかしたら村人達が、我らを捕らえに来るかも知れませんよ?」

「そうなったら、急いでここから逃げるべきね。ああ、でもあんた達全員は駄目よ。これだけ大勢いたら、逃げられるものも、逃げられないし。貴方たちはここで、私が確実に逃げられるように、壁役になりなさい」


 この殿下の言葉に、囚人達の反応は二種類であった。

 王族のために自分を犠牲にするのは当たり前と頷く者。

 もう一つは、ルシアの自分たちを捨て石にする非常な言葉に、戸惑い怒りを見せ始める者達である。


「何だか、私の意思に反発している愚か者もいるようね? 私はディークの王族であり、聖女よ? 私の為に犠牲になって死ぬことは、この世でも最も名誉なこと。もしそれに意義があるようでしたら、この場で私の手で処刑されるという、不名誉な死を与えますけど?」


 この言葉で、何かを言いかけた者達も、一斉に押し黙る。つい先程、トーマが無情に焼き殺されたことは、彼らの間にもかなり広まっていた。

 誰もそのような目に会いたくないと、彼女に意見する者はいなかった。


「あら皆さん従順で、あまり面白くありませんね。気晴らしで後十人ぐらい殺したかったところですけど……」


 何やら心底残念そうなルシア。どうやらこの自称聖女は、人殺しが好きな性分であるようだ。


「まあ、多分大丈夫でしょうね。あのブルーノという男、すっかりこの国の民から、信頼を得ていたようですし。ロア教をこの地に広めて、民を懐柔させる計画は失敗のようでしたけれど。でも今のままでも充分いけそうな気がするわ」

「そのようですね。新聞を見ましたが、あの無知な司祭は、すっかりこの国の英雄になってましたし」


 先程真澄が聞いたセヴァルの話しだと、眼妖をばらまいたのは、他ならぬディークの手下。ブルーノを見下した彼らの発言を聞くと、どうやらブルーノは、その事実を知らないようだ。


「悪しき敵を倒して、英雄を作り上げる策は、簡単に人心を掴める。それはこのアマテラスでも同じようですね……。ああでも、先程誰かが言った、蛮族とかいう言葉は、事が済むまで皆さんしばし言わないで下さいね。今は私達が、悪国に囚われた被害者という設定ですから。それでうっかり民から疑われては、計画に支障をきたしますから」


 それからまもなくして、ブルーノと村との交渉が終わり、彼らは村に受け入れられる。

 刑務所に囚われていたという、数千人の異人達が雪崩れ込んだときは、村だけでなく、近隣の集落でも大騒ぎとなった。

 そしてこの村を発信源に、この国中を騒がせる大報道がなされることとなる。







 刑務所の事件が起きてから二日後。国中にある途方もない事実が報じられ、人々は混乱しきっていた。

 とある村に、突如雪崩れ込んできた、五千人もの異人達。彼らは今までずっと、王政府の公的機関である、千江梨刑務所に監禁されていたというのである。

 その中には、つい最近異人狩りに捕まり、警察に被害届が出ていた人物もいたのである。


 まさかの話しに、人々は困惑しきっていた。それは駆けつけてきた警官隊も同じであった。

 そして今まで、どういった人物を収監していたのか、警察側にも公表されていなかった刑務所は、見事にもぬけの殻となっていた。

 だがここで、ついさっきまで大勢の囚人が暮らしていた痕跡はあった。それがどこに行ったのかといえば、もう考えられるのは、この突如出現した異人の集団に他ならない。


 政府の手配も追いつかずに、この話は報道機関を通じて、国中に広められた。

 現在この件で、多くの民や報道機関、更には事情を知らない警察にまで、強く詰問されている王政府は、現在のところ、この件に関する説明を一切行っていない。


「どういうことだよ? 異人狩りの黒幕は、王政府だったてのか?」

「本当にこの人達、その刑務所に捕まってたのかしら? それが芝居だったりとか……」

「そりゃないだろう? じゃあこんなに湧いてきた異人は、今までどこにいたんだってんだ?」

「十年前に、この国を訪れた国交使節団を交流……何で国はこんなことをしたんだ? 今までずっと、異国との付き合いを大切にしろって、俺たちに言ってきたのに……」

「ていうか使節団って、そんな何千人も人を連れてくるもんなのか?」

「今回もブルーノさんが事件を解決か……。この人がいなかったら、この人達もずっと、おりの中で終わってたんだな……いやはや、これは運が良かったのか悪かったのか」

「しかしウェイド王国か……聞いたこともない国だよな。異国の本にも、そんな国の名前はなかったし……」

「そもそもどうして刑務所に眼妖が出てきたんだ? 俺としては、そっちの方が謎なんだけどよ……」


 昨日発売された新聞の内容に、人々は未だにこの事件に関して、騒ぎあっている。

 それは真澄たちが拠点にしている、この弘後町でも同じであった。道行く人々が、そんなことを語り合っているのを、ただ通りがかっているだけでも嫌と言うほど聞こえてくる。


「あっ、あの子達……」

「異国の聖女か。そういえばあの人達も戦ったんだっけ?」

「あの子も可愛そうに……確かあの子も、異人狩りに襲われたんだってね。まさか御国がそんなことを……」


 買い出しに出ていたルチルが、通りがかる人々に、結構注目されていた。今回は真澄は一緒でなく、一人での外出である。もう異人狩りの心配は無いだろうと、初めての一人でのお使いだ。


「……」


 ルチルは無言だった。それは買い物の時に、会計席の前に出たときもそうである。周りで自分を見ている人も、まるで置物のまるで気にしない。

 彼女にとっては、何が信じるべきなのか、何も判らない状態。今現在の彼女はただ、今自分に与えられた、買い物というちっぽけな使命を果たすためだけに動いている。


(ウェイド王国……それがあの刑務所に閉じ込められた大部分の人達。でもブルーノさんとトーマさんは、捕まってるのはディーク人だって言ってた。捕まってた王女の名前も同じだったし……。嘘をついてるのどっち? ディーク神聖王国? それともブルーノさん?)


 そんな答えの判りきっている問いかけを、ルチルは考え込んでいる。解放された彼らは、自分たちをウェイド王国の使節団を名乗っていた。

 ディーク神聖王国の名前は、一言も口にしていない。だがそのウェイド王国の名前を誰も知らなかった。この名前を聞いた、とある異人の商人が、報道陣の質問に答えた内容が、新聞に掲載されていた。


『ウェイド王国ね。そんな名前の国知らないな。まあゼウス大陸は広いですからね。当然国も沢山ある。もしかしたらどこかに、そうした小国があるのかもしれませんね』


 とまあこんな回答が出てきた。異国と付き合いのある者達も、今国内にいる異人達も、誰一人として、ウェイド王国という国の名前を知らなかった。

 異国の地理の書物にも、そのような国の名はない。だがそれは、現在王政府にかけられた疑惑と比べれば、あまり注目されていない疑問点であった。


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