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第四十三話 天からの矢

(これでこの国は堕ちるか……呆気ないな)


 おぞましい魔物二体が、王都に迫るのを、まるで空を鳥を眺めるように、軽い息持ちで見送っている中。

 セヴァルがこの国を堕とした後の、事後処理でのことを考えていた時だった。


 ドォオオオオオオオン!


「!!??」


 これから蹂躙するだろう王都の方向を、セヴァルが見据えている中で、それは起こった。それは何の前触れもなく突然に・・・・・・

 それはセヴァルが何かを思考する暇も無いほどに、ほんの一瞬で起きたこと。空から何かが降ってきたのだ。


 それは高速で北方から飛んでくる、光る矢のような物体。大量の煙を線のように細長く、後ろから噴出しながら飛ぶ物体。それは以前真澄が撃った、ロケット弾と似ている。

 だがそれは速さも大きさも、そして飛ぶ方向も、まるで違っていた。目にも止まらぬ速さで、隕石のように急降下してくるそれは、寸分の狂いもなく、今地面を這い進んでいた、大蛇眼妖の一体に直撃したのだ。


 そして途端に起こる大爆発。赤い輝きと大量の煙が、大蛇の姿をかき消した。その威力は、以前のロケット弾など、児戯にも感じる程だ。

 大蛇眼妖の身体は、その一撃で木っ端微塵に消し飛んだ。もう跡形もなく、その真っ黒な身体の大部分が消し炭となり、その肉体がみじん切りにされたように分解されて、辺りに噴水のように飛び散った。

 唯一残った部分は、着弾地点の首の分かれ目辺りの胴体から、少し離れた所にあった、蛇の尻尾部分のみ。後は全て砕け散る。

 勿論首と頭もだ。眼球が弱点だとか、そんなことは関係ない。見るからにこれは即死である。


 しかもその爆発の威力は、大蛇を粉々にする程度では済まない。爆風が中心点から、暴風のように吹き荒れて、林の木々が何本かへし折れる。他の木々も、盛大に揺れて、少し早い葉落としの時期にかかった。

 唯一原型が残っていた尻尾と、後続にいたもう一匹の大蛇も、その爆風に煽られて吹き飛びOR転倒していた。


(何だよいったい!?)


 吹き飛ばされたのはセヴァルも同じであった。爆風に煽られて転倒し、その身体に大蛇の残骸が泥の雨のように降り注ぎ、その身体が墨を被ったように汚れていく。

 彼の虎皮はまだついている。だが不思議なことに、もう死んでいるはずの虎の顔が動いているのだ。虎の目が開眼し、驚きの表情を見せている。

 まるでそれは、彼が虎皮で顔を隠しているのではなく、まるでこの虎皮こそが、彼の顔であるかのよう。


 セヴァルが混乱しながらも、何とか立ち上がろうとする。それと同じく、もう一匹の大蛇も、起き上がろうとしていた。

 だがそれは叶わなかった。すぐに次のその謎の落下物が、そいつを襲ったからだ。


 ドォオオオオオオオン!


 今日二回目の大爆発。残りの一体の大蛇も、最初と同じく空から降ってきた謎の矢によって、爆破四散した。

 そしてその衝撃で、セヴァルはまたもや転倒する。いや転倒だけではすまなかった。爆発の時に飛んできた小石が、倒れ込んだ彼の右足に直撃した。

 銃弾ほどでは無いものの、勢いよく飛んできた飛礫が、足に衝撃を加え、そこに血を流させた。そして更にそこに、眼妖の破片の雨が降り注ぎ、セヴァルの綺麗な虎皮は、更に汚れていく。


(くそっ!? 何だってんだ!? しかしこれで任務は失敗……早く逃げないと……)


 彼が持っていた全ての眼妖の素を使い切った。それはつまり、これで実質上、この王国内を脅威にさらしていた眼妖が、完全に駆除されたことを意味する。

 即退避を望むセヴァルだったが、足の怪我のせいで、すぐにそこから離れることができない。


 ゴオオオオオオオッーーーー!


 そうしている間にその場で何やら、不思議な轟音が聞こえてきた。それは空から聞こえてくる。

 セヴァルがこれに気づき、空を見上げると、北方の空から、この大地に向かって何かが近づいてきていた。


(鳥じゃないな……竜か?)


 それは遠目からすると、鳥のように見えた。だが近づくにつれて、その大きさが普通の鳥ではないと判る。

 恐らく鬼鴨よりも大きいだろう。だがそれは竜でもなかった。下から見ると、歪な三角形のような、謎の物体。それがゆっくりと、この街道に降りてくる。


 それは竜どころか生き物ですらなかった。青と灰色の模様が全身に塗られた、人が入る乗り物である。

 基本的な体型は、槍のように細長く、先端が白い色で尖っている。そしてその更新の両側には、刀のような反り返った翼がついていた。

 また尻の部分にも、上部に向けて鮫の鰭のような翼が、前方に刃を向けるように取り付けられている。

 首下の部分には、まるでナマズの口のような、青くて太い筒が取り付けられている。それには足がなく、その代わりに腹と胸の下に、合計で三つの車輪がついていた。

 金属の棒で、本体と繋がって取り付けられた、黒くて小さい車輪が、まるで三輪車のように前部一つ後部二つついているのである。

 それは全長が十数メートルもある、巨大な物体であった。それがゆっくりと空から舞い降りて、この大地に車輪を足にして着地した。


 その謎の物体には人が乗っていた。先端から後ろ部分上部に、硝子で覆われた、人が入れる入れ物が半分埋まった状態でついている。

 全体が窓のような、その乗車席に、硝子越しに見える内部には、前後に二人の人間が乗っていた。


「ふぁあああーーーー! 快適な空の旅だったな!」

「快適って……私は怖かったですよ。あんな凄い速さで風景が変わって。鬼鴨に乗ったときよりも怖いです……」


 その硝子の窓はスライド式になっており、それを開け放って、内部から人が出てくる。

 それはつい先程、セヴァル達が話題にしていた人物達。

 そして彼らは、このF-2戦闘機に乗り、セヴァル達が予想していたよりずっと早く、この場に到着した、真澄とルチルであった。


 戦闘機の搭乗席から飛び降りる真澄とルチル。戦闘機の全高から降りるには、少々高い位置だが、二人は梯子など使わず、簡単に飛び降りた。

 どうやら前部座席に真澄が、後部座席にルチルが乗っていたようだ。主に操縦していたのは、真澄の方のようである。


 本来ならば戦闘機の操縦ができるようになるには、並半端でない訓練が必要である。少なくとも、銃の射撃よりも難しいはずである。

 だが真澄はこれを初搭乗で、軽快に乗りこなした。そして二体の大蛇眼妖に、対艦ミサイルを一発ずつ正確に命中させて見せた。

 この異様な早い乗りこなしも、源一の能力があってのことか? それとも真澄の元々の素養があったせいなのか? それは、現時点では判断できないが。

 そしてその戦闘機は、彼女たちが降着してすぐに、元の勾玉に戻って、真澄の元へと帰っていく。


 周囲の木々が幾つも薙ぎ倒されており、道ばたには眼妖の残骸である泥が四散している。ミサイルを落とされた地点には、大地が抉れ、小さなクレーターが出来上がっている。

 真澄たちは、靴が濡れるのを裂けるために、可能な限り残骸を避けて歩く。汚染範囲が広すぎて、避けきれない場所は、やむなくなるべく薄いところを歩く。

 彼らが向かっているところは只一点、前方の道ばたで倒れている、セヴァルの所である。


「お前どうした? さっきの爆発で、怪我をしたのか?」


 実際に足に血を流してるので、すぐにそれは判るのだが、真澄は何故かそんな質問を投げかける。目の前まで二人が迫ってきたとき、倒れ込んでいたセヴァルは、慌てて言い放つ。


「ああ、そうだ! いきなり化け物が出たと思ったら、急に爆発して……おかげ足がこの様だ! 頼む! 近くに王都があるから、早く回復魔法をかけてくれ! このままだと血が流れて死んじまう!」

「それは大変だ! ルチル、すぐに回復を!」

「はっ、はい! 少し落ち着いて、足を見せて下さ……」

「な~~~んて手に引っかかるか、ダアホが!」


 ルチルが真面目に彼を回復させようと歩み出たときに、何故かたった今彼女に回復するよう言った真澄が、手を出してルチルの歩行を静止する。

 そして素早く拳銃を取りだして、倒れているセヴァルを見下ろしながら、彼の顔に向けて銃口を突きつけた。


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