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第三十九話 幻の女神

 それから数十分ほどして、その辺一体は大変な騒ぎであった。

 その戦場跡に、大勢の警官・野次馬・報道者が集まり、この普段静かな農村は、お祭りのように賑やかになっている。

 倒された巨人眼妖の亡骸を、多人数の警官が検分している。以前にも巨人眼妖の検分はあったが、今回はその時の15倍はある。

 まあ調べたところで、さほど大した証拠は出ないだろう。いつものように、無数に倒された眼妖の一つとして、ただのゴミとして大掃除されるであろう。

 さっきまでは人がいなかった農村の民家がある場所で、真澄たち一行が待機していた。源一も戦車に変身した状態で、そのまま村内の道ばたで待機中だ。 


「すごいな……これも例の万能武器が化けたのか?」

「頼むが、もう一度乗ってくれないか? 俺こいつが動いてるところ見てみたいぞ!」

「いや……私一人じゃちょっと……」


 この巨大な乗り物は、大勢の報道者から写真機で撮影されていて、すっかり人気者だ。これに搭乗したという春日が、色々質問攻めにあっている。

 さて本来の主役である真澄とルチルは、村内の駐在所で、規則上の理由で警官達から質疑応答中だ。


「村がまだ避難中で助かったよ。おかげで民間の被害は出ていないわ。でも畑の被害は甚大ね……」

「そうだな。さすがに私も、そこまでは守れなかったよ」


 駐在所の畳の上で、胡座で座っている真澄とルチルと、正面から向き合って質問をしていたのは、弘後町から速攻でやってきた美夜子である。

 ここは弘後町のすぐ近くの村で、眼妖出現の際に、村人全員が避難していたため、幸いにも巨人達が村を襲撃することはなかった。

 だがそもそも、一時は全滅したかと思われた、眼妖が唐突に出現したのを、皆不可解に思っていた。


「酒井が弘後町を出ようとした、丁度その時に、そんな大物がワラワラ出てくるなんてね。これって偶然かしら?」

「さすがにそれはない。どうやらあちらさんは、いよいよ私の存在が邪魔になってきたらしいな……」

「あちらさん? えっ? 眼妖は誰かが、操ってるんですか?」


 真澄が眼妖出現の黒幕の存在を臭わせる発言をしたときに、隣で座っているルチルが驚いていた。


「何を今更・・・・・・」


 ただし驚いていたのは、この場では彼女だけである。眼妖が人為的に放たれたものである可能性は、警官や鉄士だけでなく、一般市民の間からも、多くが考えていたことである。


「“あちらさん”ね。酒井は、眼妖を放ったものに、心当たりがあるのか?」

「ああ、ある。でもまだ何の確証もない、ただの勘だけどな」

「そう、あなたもね。実は私達の間でも、勘だけで確信してることがあるわ。ゼウス大陸の国のことで、色々調べたからね。でも……」


 彼女たちが何やら重大そうな話しをしたときに、何故か二人同時に、ルチルの方を見やった。ルチルがそれに首を傾げると、二人は何故か苦々しい顔をする。


「あの……何でしょう?」

「ともかく私は、これから王都付近にある、千江梨刑務所に行く。ブルーノさんは、もうついたかもしれないし。もう事が起こってるかも……。だがもし、まだ事が起こってなかったら……そしてもし私の勘通りなら……悪いがあの人に、恩を仇で返すかも知れないな」

「そうだな……悪いな、あなたに重大な仕事を押しつけてしまって」


 警察官という国と民を守る立場でありながら、自分たちでは力になれないことを悔いて、美夜子は頭を下げる。


「あの・・・・・・さっきから何の話しを? ブルーノさんに仇って、どういう意味です?」


 そして二人とも、横で何度も問いかけているルチルを完全に無視していた。


「これから先、急いで空路を手配する。間に合えばいいが……」

「そうだな。できるだけ速く飛べる奴が欲しい」


 陸路をやめて、空路に切り替える相談をする二人。丁度その時だった。二人の会話を聞いたのかどうか知らないが、少し離れた位置で、人々の注目を浴びていた戦車が、突如又変異を起こした。


「なっ、何だ!? 光ったぞ!?」

「まさか、これが変身か!?」


 戦車の巨体が、突如光に包まれたことに、人々はさらにざわめきたつ。光と化した戦車は、どんどん姿を変える。

 それは戦車と同じぐらい巨大な物体。だがそれよりも、ずっと細長い物体に、変化している。








 場所は変わって、王都付近のとある山林の中。そう離れていない、十キロメートル程、南に進んだところには、十万人を越えるこの津軽王国最大の都市・弘前がある土地にて。


 だがそんな人々の賑やかな場所とは打って変わって、そこは人の営みが少なく、寂しい場所。ただし人がいないわけではない。

 この山林の中には、山城のように、頑丈な建物群が、密集して建っている。木々に囲まれながら、さらにそこを覆う、高さ十メートルを超える城壁。そこは五稜郭のように星形に陣取られている。

 城壁の上の渡り櫓には、大勢の武装した看守達が、常に一体を見回っている。さらにその櫓には、外敵に備えた、大砲まであった。最も、真澄が使った戦車砲と比べれば、かなりの旧型であるが。

 城壁の各部には、大型の門が取り付けられている。これもまた分厚い鉄の板でできていて、そうそう簡単に破れる代物ではないだろう。


 そしてそのご大層な城壁の内部にあるものこそが、その件の謎の建物である、千江梨刑務所である。

 形状はシンプルで、超大型の土蔵が、幾つも隣接して建てられているように見える。

 窓が少なく、外から内部の様子は、殆ど判らない。だが内部はかなり複雑で、幾つもの囚人達の檻と、囚人達の生活を支える多くの施設がある。


 十年前に、かなり急いで建造された刑務所は、初期はかなり簡素な建物であったらしい。

 だがこの十年間に何度も建て増しされて、このような要塞のような、立派な刑務所が出来上がったようだ。


 さてそんな刑務所の、付近の林の中で、既にブルーノ達一行は到着していた。犬形態のロビンと、生き残っていた護衛騎士達も一緒である。

 ブルーノは林の木々に隠れながら、その見上げるほど大きな城壁を見ていた。


「信じられない……これほど目立つ施設に、殿下達と使節団は囚われているというのか? ではやはり、異人狩りの正体は、この国の政府だというのか?」


 てっきり闇組織の隠れアジトにでも捕まっているかと思われていた使節団一行。だがこれはどう考えたって、公共の場所である。こんなところを、ならず者が利用できるはずがない。


「だがもし間違いで、ここを攻撃したら……私はとんでもない過ちを犯したことに……」

「ですがブルーノ様。これはロアからの直々のお告げであったのでしょう? ならばここで間違いないのでは? それともご自身の、夢見を疑うので?」

「いや……そんなことは……」


 ブルーノが得たこの場所の情報源は、実は夢見であった。夢の中に、女神ロアを名乗る女性が現れ、この場所にルシア王女殿下が捕まっていることを告げたのである。

 その姿は、まさに聖書の挿絵に描かれた人物像そのものの、美しい女性であった。意識がはっきりする、右も横も判らない世界で、彼の視界にはその女性の姿だけが映っていた。


『そんな……あなたがロアだというのですか?』

『はい……ようやくこうして話すことができましたね。あなたのことは天界から、いつも見ていました。あなたがこれまでしてきた数々の偉業は、とても素晴らしいものです。あなたは私を信愛する信徒達の中でも、今までになく誇らしい存在ですよ』

『はっ!? いえ、そのようなこと……急に言われましても……。何と素晴らしきお言葉、感謝のしようがありません! しかしロア自らが、私のような者に、自らお声をかけてくれるなど……』

『あなたの強い信心と、この地で行った数々の神聖なる偉業で、あなたは神に近づいたのです。そのおかげで、あたなはこの私と、対話する力を得たのですよ。ですがこうして話す時間も、それほど長く保てません。あなたに話すべき事があります。この世界にとって、今最も必要な人物である、ルシア王女殿下のいる場所について、ここで告げましょう』


 ここにきて唐突な、女神直々の協力に困惑したものの、黙ってブルーノはその話を真剣に聞き続けていた。


『刑務所に? 何故です!? まさかこの国が、殿下を攫ったというのですか?』

『この国にも、過ちを犯す愚か者がいるのです。あなたのやるべき事は、王女を救うことだけではありません。この国の……いえ、この大陸の未だ多くある過ちを、私の教えの元で正しく導くことです』

『この大陸を導く? いや、しかし……』

『頼みましたよ……全てはあなたの力にかかっているのですから……』


 その瞬間にロアの姿は、彼の意識から消えた。そして急に目覚めたとき、彼の記憶には、先程の夢の内容が、いやにはっきりと残っていたのだ。





(確かに私は、ロアの教えを全てとして生きてきた……それが我が祖国を導くただ一つの力だと信じてきたが。……しかしあの時のロアの最後のお言葉は、まるでロア教とは無縁のこの地を占りょ……いや、私は何を考えているんだ!? ロアのお言葉に、そのような曲がった解釈をするなど……)


 あれこれ悩んだ後で、ブルーノは気を取り直して、再度城壁を見上げた。だが何度見返しても、やはりどうにも破れそうにない。

 ロビンが竜に化ければ、空から城壁を乗り越えることはできるだろう。だが内部に到達する前に、見張りの看守達から、魔法や銃弾で撃ち落とされるのが目に見えている。

 例え内部に到達しても、そこで待機している看守達に、囲まれるのは確実だろう。


(それに強行突破するとなると、ここで働いている看守達を傷つけることになる。もしかしたら彼らは、罪無き者を捕らえていることを、知らずに働いているかも知れない。そんな彼らを、攻撃するような真似は……)


 物理的な意味でも人道的な意味でも、困難が多すぎる、この刑務所の囚人奪還計画。

 夢のお告げを聞いて、無計画にここまで来たが、ここに到着したところで、一番の問題に直面したようだ。


 ズゥウウン!


 だがこの問題において、天の助けが現れた。いや、この場合は悪魔の助けと言うべきか? 突如その山林に、静かな轟音が鳴り響く。

 これにはブルーノも、そして見回っていた看守達も、当然動揺した。


「なっ、何だ!? 花火ではなさそうだが……」

「おい、あれは何だ!? ……眼妖だ!」


 櫓の方から、看守が見たものは、この林の木々を薙ぎ払いながら、こちらに進んでくる巨人であった。

 そう、それは先程真澄たちが戦ったのと、同種個体の巨人眼妖である。それが林を掻き分けて、この刑務所に向かって、ゆっくりと前進してきている。


「何だ!? どこから湧いてきたんだ!?」


 元々眼妖は、どこからどのようにして出現するのか、謎の個体である。だがこの大勢の看守が見張っている中で、足音も立てずにこれほどの距離に接近するまで気がつかないなど、普通はあり得ない。


「どこかに召喚士がいるかもしれない! 魔道士と思われる者を見つけたら、すぐに取り押さえろ!」


 櫓に次々と上がってくる看守達。その中の高官と思われる者がそう命じる。看守達はあの巨大な怪物だけでなく、付近にいる人間にも目を見張り始めた。



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