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第三十七話 王都への道

 さてそう言って真澄が向かったのは、弘後町の鳥車駅。町から少し離れた、田園の中に、その一連の施設がある。

 郊外であるはずなのだが、この駅のおかげで、人の行き交いが町並みに多い。特に今日は、一際多くいる気がする。

 何台もの鳥車が、引っ切りなしに駅を出入りして、農道を通って遠い場所へと人々を輸送している。

 駅の内部は、多くの鬼鴨を飼育する鳥舎と、放牧する草原・人工池がある。池には水鳥らしく、何羽もの鬼鴨がプカプカと浮いている。皆あまり元気がない、どうやら仕事のしすぎで疲れているらしい。


 そしてその一連の施設の面積と、駅本体の建物は、以前来たブルーノがいた町よりもずっと大きい。時折鬼鴨の、ガーガーと甲高い鳴き声が聞こえるその場所で、真澄たちは特急での空便を求めたが……


「ああ、すいません……今は空便はないんですよ」

「次はいつ帰ってくる?」

「いえ、そっちの方にも、既に予約が入っていて……残念ですが、今日中は無理かと」


 真澄はブルーノに追いつくために、料金はかかれど最速の移動手段である、空便を利用しようとした。だが残念なことに、空を飛べる鬼鴨は、今は出せないとの返答である。


「眼妖の警戒態勢が緩んだことと、狩り場のことで、この町が国中で知名度が上がったせいでしょうかね? この町を出たり入ったりしてる人が、かなり多いみたいで……」

「そうか……くそっ、こんな時に……」


 むしろこんな時だったからこそだろうが。ある意味真澄が招いた事態といえる。


(ブルーノも同じ状況ではないだろうな。そもそもあいつにはロビンがいる。竜形態になれば、あいつ一人でも王都まで飛んでいけるだろうし……。どうせならこいつ(=源一)も、空を飛べる物に化ければ良いのに……)


 もしかしたらブルーノは、もう王都に着いているかも知れない。早く着きたいのだが、ここから陸便で行くと、王都まで半日はかかってしまう。

 だが他に選択肢はない。結局真澄は、陸路の鳥車で、王都まで走ることになった。


「あら、また奇遇ね!?」

「ああ、また会ったな……」


 鳥車の中に乗りこんだ真澄とルチル。座席の大部分が埋まる中、その一席に座ったところ、思わぬ再会であった。ただし真澄にとっては、さほど驚くことも、興味が沸くほどの再会ではなかったが。


「ええと確か、前に商店街であった人でしたっけ?」

「それと前に、あのでかい眼妖と戦ったときも、こいつも一緒にいたな」

「ええ、そうよ。前に言ってたディークの・・・・・・」

「悪いが、今その話しはなしにしてくれ」


 それはこの町に来てから、ある意味顔なじみと言える人物。ただし名前は知らない。

 弘後町来訪後に、最初に狩り場で会話した鉄士であり、その後も何度か顔合わせした、あの女魔道士であった。


「そうでしたか。覚えてなくてごめんなさい。それと一緒に戦って下さって、ありがとうございました」

「ちょっと、何を謝ってんのよ!? あれだけ人がいて、いちいち覚えてられるわけないじゃない。だいいち私あの時も、あまり役に立ってなかったし……」

「ああ、確かにそうだったな」


 律儀に謝罪するルチルに、少し慌てる女魔道士。そして彼女の言葉に、実に納得する真澄。最初の共闘の時もそうだったが、彼女はあまり実力があるとは言えない。

 まあ最初に会ったときから、狩り場で連敗続きと自分で言っていたが。


「しかしこんな所で会うなんてね。鉄士やめて宿屋を始めたって聞いたけど、もう町を出ることにしたの?」

「いや、今日は野暮用で一時的に王都に行くだけだ。お前は、どうしてここに?」

「ああ、うん……もう鉄士やめようかと思って、それで王都の実家に帰るところなの。この前の眼妖狩りの時なんて、対して役に立てなかったし。味方の攻撃で死にかける有様だし……」


 あの件は真澄の後方不注意、というか真澄の知識不足が原因なのだが、どうやら彼女はもう鉄士を続ける気がなくなったようだ。

 だが真澄が関心を引いたのは、彼女の意欲の有無ではなく、彼女の出身地であった。


「お前は王都出身だったのか? じゃあ一つ聞きたいんだが……千江梨刑務所のことで何か知らないか?」


 彼女が聞いたのは、王都付近にあるという、ブルーノの手紙にあった刑務所のことであった。ネットのないこの世界では、そういった施設などの情報を、即座に調べ上げることができない。

 もしかしたらどこかの本に、刑務所のことが記載された物があったかも知れないが、そこまで調べる余裕もない。


「千江梨刑務所? 何でそんなところを? 友達でも捕まってるの?」

「友達じゃないが、今少し気がかりな人達が、そこにいるらしくてな。そのことが知りたくて、今王都に向かってる」

「そうなんだ……しかしあの刑務所か……」


 事実の断片を偽りなく離す真澄。それに不思議そうな女魔道士。彼女の口ぶりは、一応知ってはいるようだが。


「あの刑務所、私がまだ学生だった頃に、ちょっと騒ぎになってたのよね。ちょうど十年前ね、急に新しい刑務所を建てるって、新聞で取り上げられてて」

「何か問題でもあったのか?」

「何の為に作るか、分かんないからね。その時には、刑務所はどこも結構空きがあったはずで、囚人を入れるところは、足りていた筈だったみたい。それに警察の方でも、結構首を捻ってたから。しかもその千江梨刑務所って、数千人は人を入れられるぐらい、かなり大きい刑務所みたいだったし。それで何でそんな税金の無駄遣いをするのかって話しで……」


 確かにそれは不思議な話だ。刑務所は足りてるのに、何故急にそんな大型の刑務所を、新たに作るのか、不思議でならないだろう。

 だがブルーノからの手紙を見た、真澄とルチルは、彼女とは違う反応であった。刑務所が建てられた十年前とは、丁度トーマ達使節団が漂流した時と同時期である。


「その刑務所は、今は使われてるんですか!? どういう人が捕まってるかは!?」


 次はルチルが問いかけるが、女魔道士は今でも首を横に振る。


「いえ、全然……最初は騒がれてたけど、ある時から全然報道されなくなったし。不思議な話よね……」


 鳥車の中にいた他の客は、その刑務所のことを知っていた者は彼女の言葉に頷き、初めて知った者は彼女同様に首を捻っている。どうも色々と不可解な点がある刑務所であったようだ。


(拘束した異人達を閉じ込めるために、わざわざ新しい刑務所を作ったのか? 何もそんなことしなくても、秘密裏の場所に監禁とはできなかったのか? いや……それができなかった? まさかトーマが言っていた“使節団”の漂流者は、何千人にもいて、閉じ込める場所が足りてなかった?)


 国同士での交流を結ぶために送られる団体を、数千人もの大集団にすることなどあるのであろうか?

 普通そんなことしても、経費の無駄としたか思えない。しかも護衛の騎士も大勢連れていたとなると、これでは会談しに来たのではなく、攻めてきたと受け取られかねない失礼な行為ではなかろうか?


「真澄さん……やっぱり異人狩りは王政府が……」


 ドン!


 ルチルが彼女にとっては、考えられる最悪の事態を口にしようとしたとき、突然鳥舎内が、爆撃でも受けたかのように大きく揺れた。衝撃で何人かが、お尻が椅子から少し浮く。


「何だよ? 誰か道に出てきたのか?」


 だが満席近くいた客は、意外と冷静であった。慌てているのはルチルだけである。

 馬車の旅で、こういうことは珍しくない。アスファルト作りでもなければ、道路標識もないこの世界の街道。人や動物が、道に飛び出してきて、鳥車が急停止することは、よくある話しである。

 だがその次に発せられた、御者の叫ぶような声には、さすがに冷静ではいられなくなる。


「たっ、大変だ! この先にでかい巨人が……眼妖が出たぞ!」


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