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第三十四話 大蛇討伐

「残るは三つ!」


 頭を三つ潰されても、大蛇眼妖の本体は倒れる気配がない。これを倒すには、全ての頭の眼球を潰さねばならないのだろうか?

 真澄は残弾の少ない機関銃を、再び自分たちを見下ろす大蛇眼妖の頭に向けるが。


「待てぇ! ここから先は我ら、ディーク騎士が引き受ける!」

「蛮族共はすっこんでろ! こいつは俺たちが、ミミズ以下に簡単に殺してやるよ!」


 突然そう叫んで、飛び出してきたのは、なんとブルーノ護衛のディーク騎士達であった。その中にはトーマの姿もある。

 彼らは何を考えているのか、武器を持って、野牛の群れのように一直線に突進していった。


 疲労のためか仲間達の攻撃の嵐は弱まってきている。その状況で下の方から近接戦で攻撃しようとする騎士達。

 大蛇の頭の一つが、頭を少し降ろし、突撃してくる騎士達を睨む。そして口を閉じ、少し息を吸うような動作をすると、その巨大な口を一気に開いた。


 ボォオオオオン!


 その口から放たれるのは、灼熱の炎だった。喉の奥から、激流の放出される、赤いエネルギーの波が、先程のロケット弾以上に、この辺りを明るく染める。

 そしてそのドラゴンらしい炎のブレスが、かかってきた騎士達を、雪崩のように呑み込んだ。


「ぎゃぁあああっ!?」

「なっ、何でだぁ!?」


 鎧を着ているものの、全身を覆い尽くす炎の前には、充分な防護効果にはならないようだ。全身が火達磨になって転がり落ちる騎士達。

 フルフェイスの甲冑で覆われているために見えないが、鎧の下の身体は、熱せられた板金によって、酷い火傷を負っているだろう。

 さらに一番前方にいた騎士が、即座に飛びかかってきた大蛇に噛み千切られた。この戦いの場で、初の死者の出現である。


「何をしているんだ君たちは!?」


 仲間の死を悲しむ前に、激昂して叫ぶブルーノ。何の策もなしに敵に突っ込み、呆気なく返り討ちになった騎士達。他の仲間達が、倒れた騎士達を掴み上げ、大急ぎで大蛇のいる場から引き離す。

 大蛇の口が、そんな彼らに襲い来る。ある警官が、両手を掴んで引っ張っている騎士の足に、大蛇の牙が噛みついた。

 具足の板金はあっさりと破られ、牙が肉に食いこみ、その状態で大蛇はその騎士の身体を引っ張り上げる。

 警官は救出不可能と判断し、即座にその騎士を掴む手を離して、その場から脱出した。その後の騎士がどうなったのかというと、もう語るまでもないだろう。


「やっ、やられちまった!? ちくしょう!」


 一番後方にいたトーマが、そう叫んでUターンしてこちらに引き返してくる。一番後方の位置にいた彼は、前で走っていた仲間の身体が縦になってくれたおかげで、炎による傷がかなり薄かったようだ。


「はっ、話しが違うぞ!? 魔人は、俺達だけは殺さないようにしてるんじゃなかったのか!?」

「何を言っている!?」


 ブルーノの側まで逃げてきたトーマが、突如意味不明の言葉を発し、ブルーノを困惑させた。

 だが今はそれを考えている暇はなく、ブルーノを含めた治癒魔法を体得した仲間達が、火傷を負った騎士達を、緊急治療する。


(死体が消えない……やっぱり狩り場の機能は止まってるのか?)


 大蛇に噛み千切られ、放り捨てられた騎士達の姿を見て、真澄は心の中で毒づく。

 そうしている間にも、大蛇の攻撃は飛んできた。巨大な胴体が前進して、一行との距離をつめ、そして三つの頭が牙を鳴らして、一行に襲い来る。

 こちらを噛み殺さんと飛んでくる口。狙われた戦士系の鉄士が、地面を蹴り勢いよく飛び跳ねて回避した。

 先程まで彼が立っていた場所に、大蛇の巨大な口が飛んできて止まり、ガチリと固い歯がぶつかり合う音が聞こえてきた。


「りゃぁあああ!」


 その地面付近で一時止まった頭に、真澄が機関銃を撃ち込んだ。無数の銃弾が、先程同様に、その大蛇の眼球を仕留める。

 これで残りの頭は二つ。


 真澄はたった今、こちらに向かって火を噴こうとしている二つの頭に、機銃掃射を仕掛ける。いくつかもの弾丸が、大蛇の口と喉に損傷を与えた。

 それに怯んだ大蛇が、小さな悲鳴を上げて、口から少量の炎をライターのように噴出させた。どうやら二度目の火炎放射は、撃つ前に止めることができたようである。

 だがそこで弾切れになった。次の弾を撃てるようになるには、後数分は待たないと行けない。


「よしっ! 後は私達に任せろ!」


 見ると美夜子を初めとした、十数人の仲間達が、刀や槍を持って、先程のロビンのように、大蛇の身体にしがみつき駆け上っている。

 彼らは胴体の分かれ道である地点にいっていた。そこに生えている、まだ生きている大蛇の首の根元。彼らはそこに向けて、木こりが木を切るように、刀で斬り付け始めた。


 ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!


 気の力を纏って斬撃力を増した、光る刀身による斬撃。敵の身体に乗っかり、もしくはしがみついた剣士達が、そこをひたすら斬り続け、損傷を与え続けている。

 削ぎ落とされた肉が、あちこちに飛び散り、そこら辺を泥で汚す。他にも大勢の近接戦系の仲間達が、大蛇眼妖の巨体を取り囲み、身体の各部を刀や槍で攻撃を咥え続けた。

 そんな彼らに、三つの頭が噛みつかんと、頭を自分の身体に向ける。


「いけない! ええい!」


 攻撃を咥える彼らが、噛み殺される前に、ルチルが一生懸命に神聖魔法を、その頭に撃ち込んで動きを抑制させる。

 いくつも切れ込みを与えられ続け、どんどん細くなっていく、大蛇の根元の胴体。そしてとうとう限界が訪れて、その頭のついた胴体が、本体と切り離され、地面に倒れ落ちた。後には全ての頭をなくした、首無し大蛇の姿が佇んでいた。


「よし! 眼鏡を外して、目玉を潰せ!」


 頭が地面に落ちると、他の仲間達も一気にそれに押し寄せてきた。あるものはまだジタバタ動く長い首を、滅多刺しで動きを止める。

 顎の辺りに鉞の一撃が加えられ、口の開閉が一時できなくなる。そして数人の者達が、眼球の守りである防護膜の、皮膚との接触部分を突き刺した。

 皮を剝ぐように、防護膜の節が埋まった肉を切り裂いていく。そして数人の力自慢が、その露出した節を掴み上げて、思いっきり引っ張り上げた。


 ベリッ!


 まるで紙を千切るような音が聞こえてきた。眼球を覆っていた防護膜は、カツラを外したように、大蛇の顔から引っ剥がされた。

 巨大なコンタクトレンズのような透明な厚い膜が、本来守るはずの眼球から引き離され、放り投げられる。


「やれぇえええええっ!」


 そして剥き出しになった眼球目掛けて、皆が一斉にその眼球に、武器を振り下ろした。


 ザクッ! ザシュッ! ドスッ!


 行われる集団での滅多刺し。皆が眼球目掛けて、刃を突き刺しまくる。眼球は結構頑丈なのか、気を纏った渾身の刺突でも、あまり深くは突き刺さらない。

 だが何十回と突き刺され、眼球から灰色の血が吹き出していく。やがて眼球そのものの強度が脆くなったのか、刃がかなり深く突き刺さるようになっていく。

 やがて修復不可能なまでに眼球が損傷を受けた大蛇眼妖。そのままピクリとも動かなくなり、全身が溶け出していく。


 ドン!


 今まで上半身を立ち上がらせた状態で、痙攣していた本体が、石化したように動きを止めた。

 そして立ち上がった身体が倒れ、大きな振動を立てて、地に倒れ伏す。それと同時に、切り離された胴体と本体両方が、瞬く間に溶けていった。


「うわわわっ!?」


 頭部に乗り上げていた者達が、慌てて溶けていく身体から飛び降りていく。既に彼らの靴は、泥沼を歩いてきたかのように、べちょべちょに汚れていた。

 完全に溶解した大蛇眼妖。それが今、完全に死んだことが、はっきり見て判る。


「ようし、やっつけたわ! これでこの狩り場は開放された!」

「「おおおおおおっーーー!」」


 皆で手にした勝利に、皆が一斉に歓声を上げる。弘後町の大事な収入源である、この弘後狩り場を、見事謎の敵眼妖の手から、自分たちの力で取り戻した。まさに町の英雄に相応しい偉業であろう。

 だがこの歓声の中、一人足りない者がいた。そして何人か、喜んでいない、むしろ蒼白している者がいる。


「たっ、大変よ! ブルーノさんが捕まった!」

「「!!??」」


 皆が喜んでいる中、水を差すように投げかけられた、とある鉄士の言葉。その言葉一つで、歓声で騒がしかったこの広間が、一気に静寂に包まれる。

 それに皆が、こいつは何を言ってるんだ?といった感じで、その鉄士に顔を向けた。


「あっ、あんたは……」


 真澄はまたもや見覚えのある人物の顔に気がつく。ついさっきロケット弾の噴射で転倒して、戦線離脱していたあの女魔道士である。


「捕まった? そういえばいないが……」


 見るとさっきまで共に戦っていた、あのイケメン司祭の姿がどこにもない。

 さっき身体を焼かれて、動けない状態の騎士達は残っているが、彼らの側にもおらず、騎士達も当惑しているようだ。これはどうしたものかと、皆が動揺し始めた。


「何か急に隠密(=忍者)みたいな奴が、あっちから出てきて、ブルーノさんを後ろから飛びかかって、鎖みたいなので縛り上げて、連れて行っちゃったわ!」

「はあっ!? お前、止められなかったのか!?」

「止められるわけないじゃない! 私腰を打ってたし、それにあまりに一瞬のことだったし……」


 折角敵を倒したと思ったら、まさかの事態に騒然となる。この事態に覚えがないわけではない。今はやっている異人狩りだ。眼妖への対処に一生懸命になっている中、うっかりそのことを忘れていたのだ。


「くそっ、何でこんな時に……いや、こんな時だからこそ狙ってきたのか?」


 あの戦いで、神聖魔法を全力で撃ち続けていたブルーノは、大分疲労しているようであった。

 それにいつもはブルーノを守っていたロビンは、現在さっきの戦いで負傷して、思うように戦えない状態である。


「奴らは外に出るはずだわ! ここに隠れていたとしても、先に入り口を抑えておけば、退路を防げる! 皆、とにかく外に出るわよ!」

「おおっ!」


 先程の戦いの熱も残って、皆が一致団結して動き出す。美夜子の指示の元、皆大急ぎで、狩り場から地上への道を走っていった。



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