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第三十二話 多勢の助っ人と、世間知らずな聖者

 その広間での戦闘は、そう時間がかからず終わった。残っていた敵は千匹以上いたようだが、その殆どを駆逐し、通路の方からは、殆ど敵が出てこなくなっていた。


「こんなにいたのか……やはり私とルチルだけで討伐は、最初から無理だったか」


 眼妖の残骸のせいで、完全に泥沼化した広間の床を眺めながら、真澄がそう呟く。この数だと、機関銃の弾帯がもう一つあったとしても、全滅は無理であったであろう。


「ここだけじゃないぜ! さっきこっちに入る前の通路にも、眼妖が山ほどいたしな。お前ら、俺たちがいなかったら、後ろから挟み撃ちにされて、やられてたぜ」

「そうなのか? ……悪いな、助かった」


 眼妖達との戦いで、同じく泥まみれになった鉄士の言葉を聞いて、初めて気づいた。

 考えてみれば真澄たちは、前方の通路から湧いてくる敵ばかりを注視して、自分たちの後ろにある、もう一つの通路には全く気にかけていなかった。

 この狩り場の洞窟は、最初の部屋からして幾つもの通路に別れて入り組んでいる。遠回りをして、自分たちを挟み撃ちにすることは、十分可能である。


「ありがとうブルーノさん。あなたにまた助けられた……」

「そう畏まることはないさ。私一人に助けられたわけじゃない。それに先に君たちが、あれ程の敵を減らしていなければ、果たして勝てたかどうかも判らなかった。……さて、この奥には何がいるか? まだ魔人……眼妖の気配は、完全に消え去ってはいないが?」


 ブルーノ言葉を聞いて、真澄がルチルに目を向けると、彼女も頷いていた。どうやらここで倒した分が、ここを占領した眼妖の全てではないらしい。


「かなり大きな気配が一つ、この地下のどこかにいる。もしかしたら、この眼妖達の首領的な存在が、どこかにいるかも知れない……。方向的には、あちら側か?」

「本当ですか? 凄いですブルーノさん。私にはそこまで判らなかったです」


 通路の通っていない壁のあるとある方向を指差すブルーノ。それにルチルが感嘆の声を上げる。

 だがこの洞窟は幾つもの通路で入り組んでいるために、方向だけを差されても、どの道を行けば良いのか判らない。だがそれに、一人の警官が声を上げた。


「あっちの方向? もしかして、この狩り場の親玉がいる部屋かも」


 そう口にしたのは、真澄達をこの狩り場に連れてきた、あの顔なじみの女警官である。彼女の言葉に、皆が注目した。


「親玉の部屋? お前知ってるのか?」

「ああ、私も昔鉄士をやっていたときに、ここの親玉を討伐したことがある。多分だが、そっちの方だと思うわ。道筋も覚えてるから、そっちまで案内しましょうか?」


 彼女の言葉に、皆が沸き立った。話は簡単、その部屋の敵を倒せば、この狩り場で起きた問題は、万事解決である。


「ようし、すぐにそこまで連れていけ! 皆さっさと狩って、この狩り場を俺たちの手に取り戻すぞ!」

「こっちはブルーノさんがいるんだ! 絶対に負けやしないさ! 皆恐れず行こうぜ!」


 先程の戦いで、結構消耗したはずだが、まだやる気は満々だ。それと同時に、新聞で名声を聞いていたとはいえ、ついさっき会ったばかりのブルーノへの信頼が厚い。

 先程の戦闘では、敵軍の三割近くを、ブルーノが一人で倒していた。どうやら彼の力は、ルチルを遥かに上回るようだ。

 その力の強さと、神聖な輝きを放つ魔法の美しさ故に、ブルーノはこの短い時間で、また急激にファンを増やしていたようだ。


「凄いですねブルーノさん……こんなに早く、皆さんから頼られるなんて……。外でどんな風に、皆さんを説得したんでしょう? 私なんてどんなに布教しても、誰も見向きもしてくれなかったのに」

「まあ、この手のことで、得手不得手はあるだろう? 何度も言ってるけど、ルチルのやり方、問題有りまくりだったし」






 女警官(途中で聞いたら、名前は美夜子(みやこ)というそうだ)に先導されて、洞窟内を進む一行。

 その数は真澄たちも合わせて、百四十五人。狭い通路を進むには、大人数過ぎる団体は、ぞろぞろと軍隊のように縦数列に並んで進軍している。

 途中で自然発生した無限魔が襲撃したが、数の暴力で一瞬で蹴散らされる。これほど大規模で、ヌルゲーなダンジョン探索はないだろう。


 そんな中で、真澄がブルーノに声をかけていた。


「しかしすごいですね。こいつらさっきまで、臆病風に吹かれてたのに、随分と血気盛んに……。神の教えとやらを説いたんですか?」


 やや茶化すような口調の真澄。ブルーノはゆっくりと顔を横に振った。


「まさか……異国の教えで人を動かせるわけがない。ただ皆、きっかけを掴むのが難しくて、踏み込めなかっただけですよ。二人だけで向かった真澄たちを、皆心配してたからね。でも皆、本当に命をかけた戦いは、あまりしたことがなかったようですからね。ですが眼妖がいる以上、真澄だけでなく、弘後も安全ではない。町の平和を願う気持ちを大事にするように、必死に説いた。それでも迷っているようなので、私が正面から行くから、皆が後ろからついてくるよう言ったら、どうにか止めに入ってきてね。そうしている内に、皆が段々とやる気になってきたようだ」

「ふ~~ん」


 何とも納得できるような、できないような話しに、真澄はとりあえず頷いてみせる。


「でもまあ……ここまでやれば、あなたのロア教も、この国に上手く広まるかも知れませんね」

「まさか、広まるわけがないでしょう。私一人が恩を売ったからと言って、この国の人々が、ロアを崇拝する理由もない」


 またもや意外な発言。自分たちの絶対的な教えであるロアの教えが、この大陸では通用しないことを、軽く笑いながら、あっさりと認めたのである。


「私達はずっとロアの加護の元で、平和を保ち暮らしてきた。だがこの大陸では違う。この大陸の人々は、ロアを信仰せずとも、ずっと昔から平和に暮らしてきたんだ。恐らく私の国にロアがいるように、この大陸にも我らの知らない神がいるのだろう。そこに異国の神に教えを教え込もうとしても、皆迷惑するだけだろうな」

「えっ、そうなんですか!?」


 自分がしてきたことを全否定されて、驚きの声を上げるルチル。ルチルだけではない。何故か周りにいた騎士達もである。

 しかもその後彼らは、ブルーノに対して訝しむような、蔑むような視線を一瞬だけ見せた。明らかに自分たちが崇拝する宗教の司祭に向ける目ではない。そしてそれに真澄は、即座に気がついた。


「(こいつら、やっぱりな……)でもそれだとブルーノさんが、この国で善事を行う理由などなくないですか? だってこの国で、どんなに人を救っても、結局誰もロアになびいたりしませんよ? だったらここまでやばいところまで来なくても、王女の捜索に専念した方が……」


 眼妖への対処は、王女捜索の手がかりに繋がる可能性がある。だがこんな明らかな危険地帯に飛びこんで、それで死んでは元も子もない。真澄はそういう意味で言ったが、ブルーノはまた首を横に振る。


「何を言ってるんだい? 別に私は、任務のためだけに、眼妖と戦っているわけではない。私は神に仕える身として……その前に人として、やらなければならないことをしているだけだ。今この国は、眼妖という魔人の危機に晒されている。人々を守るために戦う。それだけで十分じゃないのか? 別に教会の利益にならなくとも構わん。私とロビンが出会ったのも、そのためにロアが……いや正直言うとロアとか運命とかは関係なく、ただの偶然の出会いだった気もしているが。それでもこの力を、人のために使えるなら、それで私は幸せだよ。自分が存在していることを、実に嬉しく感じるからね」


 何という慈善に溢れた言葉。まさに絵に描いたような聖人君子である。横でその話しを聞いている者達も、何やら感動しているようである。

 だが真澄は、何やら微妙な様子である。ブルーノの王道的な善人ぶりを疑っているわけではない。むしろ信じたからこそ、彼女は内心穏やかではなかった。


「少し話しが逸れますが……ブルーノさんは祖国のディ・・・・・・ウェイド王国をどのぐらい知ってます? 国の歴史とか習いましたか? 他にも王都とかで、色んな人を見たりしました?」

「いや? すまないが我が国の歴史は、全く知らないな。王都どころか、屋敷の外の風景を見たこともないな。特別な力を持った聖者は、余計なことを知らなくて良いと、ずっと屋敷の中で勉学だけをしていたからね」

「「「!!??」」」


 周りで話しを聞いている者の事を考えて、ディークという名前を必死で誤魔化して質問した真澄。

 そしてそれの回答に、さっきまで横で話しを聞いて感動していた者達も、急に話が変わった辺りから、当惑し始めた。


 ブルーノの身の上は、ルチルと全く同じであった。国から大事な任を受けるほどの立場の人物で有りながら、自分の国のことを全く知らないのだ。


 真澄は騎士達に目配せする。彼らは明らかに「余計なことを言うな!」と言わんばかりの目で、真澄を睨み付けている。

 だが真澄はその無言の脅しには屈しなかった。そして先程本で見た、ある事実をブルーノに語ろうとする。


「ブルーノさん……信じられない話しでしょうが、実はディークは……」


 自分の知る真実を語ろうとする真澄。騎士達がそれを聞いて、何人かが腰の剣に手をかける。だがその直後、先頭を進んでいた美夜子の声が、軽快に一行に向かって発せられた。


「ここから一つ領域を抜ければ、親玉の部屋に到着するわ! 皆気を引き締めてね!」


 もうすぐ近くに目的地があるようだ。これではあまり長い話しをするわけにはいかない。ブルーノもまた、関心がそっちに向いたようだ。


「うむ……確かに魔人の大きな気配が、どんどん近づいている。後少しで決戦であろう」


 探索としては実に短い時間で、親玉の部屋に到着する一行。親玉というのは、源一の世界で言う、ダンジョンボスのことで。そこまで到達し、親玉を倒すことが、その狩り場を制覇したという証となる。


(……鉄士になって、初めて到達する親玉の部屋が、こんな状況か? やれやれあまり面白くない制覇だな。だがそれより、今はこっちの話しが重要なんだが……)


 とりあえず今は話しを後にするしかない。真澄はそう考えて、話しを中断させた。そうして一行は、とうとうその目的地へと辿り着く。



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