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第三十話 春明

 地下へと続くあの階段を降りていく二人。普段ならば、この階段の段階では、無限魔が襲ってくることはない。

 だが今回は、何が起こるか全く判らない状況。真澄は自動小銃を、ルチルは魔道杖を構え、警戒しながらゆっくりと降りていく。


「しかし眼妖達……まさかロアの恵の地である、“聖魔の域”にまで侵入するなんて、本当に許せません! すぐにでも成敗しないと……」

「聖魔の? ディークだと、狩り場はそう呼ばれてるのか?」


 そう言えば以前ルチルが、狩り場は教会が管理していて、選ばれたものしか入れない、という話しをしていたのを思い出す。

 ゼウス大陸にも狩り場があるのにも驚くが、その謂われは全く違うようであった。


「ディークだと、狩り場も女神様が与えた物になってるのか?」

「その筈ですよ? ゼウス大陸の資源が枯れ始めたときに、女神ロアが大陸中に光の柱を注ぎ……そこから無限に資源を与える魔物が現れる聖域が出来上がり……」

「いや、そういう神聖な話しはべつにいい……。だが少なくとも、この大陸にある狩り場は、ロアとかそういう奴が作ったものじゃない」


 相変わらず何でもロアの加護にする発言のルチルに、真澄は少々引き攣りながら、そう答える。


「えっ……ここでは違うんですか?」

「ああ、こっちじゃ誰が造ったのかも、はっきり判ってる。あの狩り場を、大陸中に急に作り出したのは、“春明(はるあき)”ていう異世界の人間だ」


 以前この大陸は、徐々にだが資源があまり採れなくなってきた。

 このままだと、資源の奪い合いで、国同士の争いが起こる可能性も示唆され始めたときに、それを解決させてみせると、各国に急に名乗り出てきた者がいたのだ。

 それが春明という鶏型の獣人の少年と、彼に付き従う数人の、同じく異界生まれの七人の戦士達。


【俺がこの世界に、最高のゲームの舞台をくれてやるよ! お前達も俺の作ったゲームを楽しめ!】


 そう言って、この大陸の各地に、異界の技術なのか不思議な力で、彼らは多くの狩り場を作り上げた。

 洞窟や荒野の中など、一定区域にのみ住まう、無限魔という魔物達。彼らは討伐すると、そこから優良な資源が手に入る。

 しかも無限魔は、いくらでも無制限に発生するために、実質無限に資源を手に入れられるのだ。


 国の了承を得ずに、勝手にあのような異質な地を作り出すのは、かなり問題であった。だが彼らのおかげで、危惧されていた資源枯渇の問題は、これで解決したと言える。

 それはもう百年以上前の事で、今では狩り場とそこで働く鉄士は、この大陸では日常の一部である。


「その人達がロアの使いだったということは……?」

「それはないだろうな。そいつら、はっきりと自分達は異世界の“人間”だと言ったらしいからな」


 そうこう言っている内に、二人は階段を降りきり、あの洞窟の広間へと辿り着いた。あの分かれ道が無数にある、溜め池のある広間の中。

 そこには話しに聞いたとおりに、無限魔がいた。あの眼鏡付き人型眼妖が、十数匹程度。蛇型の眼妖が、三匹ほど、その広間の中にたむろしている。


「本当にいたよ……こいつら! お前達! 私達鉄士の仕事を荒らすんじゃない!」


 一斉に襲い来る眼妖達。ここでも人を襲う習性は変わらないようだ。それに真澄が、小銃を発砲した。


 パン! パン! パン!


 目を撃ち抜かれて、次々と倒れていく眼妖達。だが一斉に突撃してくる彼らを、こちらに到着する前に、全滅させることはできず、倒しきれない数がどんどんこっちに近づいてくる。

 だが近づいてきた眼妖達を、待っていたルチルが、あの魔法で浄化していく。あっという間に、この広間にいた眼妖達は、全て駆逐される。


「さて……今日はどこにいくか?」


 眼妖の残骸で泥だらけになった広間。次に彼女たちがとる選択肢は、この広間にある分かれ道のどの道を通るかである。


「私は……狩り場のことはよく判りません。ただ眼妖の汚れた気配は、どの道からも感じるので、多分どっちにいっても同じかと……」

「そうか……じゃああそこにいくか」


 真澄は適当に道を選び、歩み出す。それにルチルも続く。

 今までの狩りは、そう深くないところで、適当に雑魚無限魔を狩って、収入を得ていた真澄。だが今回は、この狩り場にいる、全ての眼妖の駆逐が目的だ。


 もしかしたら今日一日では終わらないかも知れない。もしかしたら、今まで興味を持たなかった、この狩り場の親玉がいる最奥にまで行く必要があるかも知れない。

 死の危険性もある今回の狩り場探索に、真澄は緊迫しながら、前に進んでいった。





 半分が水路になっている、その通路には、まだ新しい無限魔の死骸が、いくつも転がっていた。

 刃物や鈍器でやられたと思われる傷を負った無限魔達が、無数の血を垂れ流して倒れ込んでいる。その他にも、眼妖の残骸と思われる、泥魁もいくつかある。

 どうやらここで、無限魔と眼妖が戦ったようである。


「さっきまでここで皆戦っていたんでしょうか?」

「そうだろうな。回収されなかった無限魔の死骸は、狩り場の自動洗浄機能で、勝手に消えるはずだから。これはまだ死んでから一時間も経ってないはず……」


 それらの死骸を踏み越えて、真澄たちが通路を進む。途中で無限魔の死骸の数は、一気に減る。

 真澄は以前も、この通路を通ったことがある。だが一緒にいた鉄士が怪我をしたために、ここより奥へは進んでいない。

 真澄にとっては、この狩り場の探索の、最長記録を更新中である。さてここにあるのは、死体だけではない。当然生きている眼妖もいる。


「「ギャギャァァァアアア!」」


 聞き慣れた呻き声が、通路の奥から聞こえてきた。それと同時に複数人の足音が、この涼しく狭い地下の通路に、音楽を奏でているがごとく、良く響き渡って聞こえてくる。


「来たぞ! 近づいてきた奴は頼むぞ!」

「はいっ!」


 先程と同じ陣形で、戦闘態勢に入る二人。ただし先程と違って、ここは狭い通路の中。そして敵は、前方の一方向からのみきているのである。

 複数の敵を相手にする戦いでは、これはとても敵を狙いやすく、戦いやすい環境である。


 通路の奥から、眼妖の群れが、こちらに迫ってきた。ただし通路が狭いので、多くても二隊列での、直進突撃であるが。

 そんな他に避ける場所がない、恰好の的に、真澄は容赦なく小銃を撃ち放った。


 ダダン! ダダン! ダダン!


 無数の足音が響き渡る通路の中に、更に銃声という新たな音響が重なり、通路に響く音が二重奏になる。距離二百メートルにまで接近したそれらを、真澄が正確に撃ち抜いていった。


 多くの眼妖達が、眼球を撃ち抜かれて倒れていく。それはまさにヌルゲーのシューティングゲーム。同じ方向からしか来ない敵を、真澄は次々に、易々と撃ち抜いていった。


 倒れた眼妖達の亡骸を、後続の眼妖達が次々と踏み越え、ある者は躓いて転ぶ。そうして迷わず、突進するが、その後続の敵も撃ち抜かれていった。


(ここまでか……)


 だがやはり弾切れは来た。15連射をしたところで、とうとう小銃の発砲音が途切れる。だがそれと同時に、真澄の小銃を握る左手の側に、何かが出てきた。

 何もない空間から、とつぜん瞬間移動したかのように現れた謎の物体。真澄は反射的にか、それともいつも頭に流れてくる、勾玉の武器使用知識の影響からか、それが地面に落ちる前に、素早く手に取った。


(これは……代わりの弾か!?)


 それは横に反り返った、謎の小さな箱のような物体。少し反り返って曲がっており、薄い長方形の形をしている。ちょうど手でに握りしめるの、丁度いい大きさと形であった。

 それは今源一が変身している、89式自動小銃の前方の握り手と、全く同じ形である。


 源一のいた世界の者が見れば、それが何なのかすぐに判るだろう。これはこの銃の弾倉である。

 これまでは撃ち尽くしても、このような物は出てこなかった。それが今になって急に出てきたのは、源一のレベルアップの影響であろうか?


「真澄さんそれは?」


 突然召喚されてきた謎の物体にルチルが困惑する中、真澄は即座に弾倉を入れ替えた。突然銃の取っ手が、組立の玩具のようにあっさり外れる。

 そしてその外れた跡に、先程出現した新しい取っ手=弾倉を、素早く差し込んだ。この動きは、ほんの二秒。プロの軍人並みの、素早い再装填である。


 ダダン! ダダン! ダダン!


 再度発砲される小銃音。眼妖達がまた次々と撃ち倒されていく。眼妖達は足下に転がる味方の残骸が足手纏いになって、走行速度が落ちて中々真澄たちとの距離を縮められない。

 中には一度眼妖の眼球を貫いた弾丸が、その直ぐ後ろにいたもう一匹の眼妖の眼球に命中し、一連射で二匹撃ち倒されることもあった。


 そうしている内に、また真澄の小銃の弾倉が切れる。だがすぐにまた、さっきと同じように、新しい弾倉が召喚された。

 そしてまた再度装填して、撃ち直した。こうして二度の再装填を経て、四十二回連射された小銃弾が、百発百中で、この通路に現れた全ての眼妖を撃ち倒した。

 場所が敵を銃撃するのに適した場所であったためか、ここでの戦闘で、ルチルの出番は全くなかった。


「凄いです真澄さん……あの数をたった一人で……」

「狭い通路だったからな、敵を狙いやすかっただけだ。それにこいつにまた新しい力がついていたしな。全く本当に謎の魔具だなこれは……。まあおかげで私の願いが叶えられそうだが」


 小銃化した源一を、ペットをあやすように撫でる真澄。初期の頃は、呪われた道具と忌諱していたが、今はすっかり源一の力を頼っているようだ。

 まあ勿論、ルチルが言うように、これが神からの召し物とは思っていないが。


「さて次の領域に行くか……私がまだ行っていないところだが」


 死んで溶けた眼妖の残骸のせいで、泥まみれになった通路。そこを靴を汚しながら、二人が次のエリアへと進んでいった。


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