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第十九話 後始末

 さてその巨人を倒し、眼妖に支配されていた山村地区を開放した二人の英雄は、病院の布団に寝かされていた。

 同じ部屋の畳で、二人揃って寝ている二人。彼らの間には、カーテンのような布地で仕切られているが、互いに隣にいるのは判っており、声を出せば直ぐ隣にも聞こえる。

 前回もルチルが担ぎ込まれたこの病院。ただし今回はルチルだけでなく、真澄まで治療を受ける羽目になっていたが。


 前回のルチルは、数時間ほどで退院だったが、今回は傷の深さが半端ないために、真澄の方は最低二日はここで過ごすこととなっていた。

 さて騒ぎが起きたその日、すっかり夜が更けた時間のこと。


「はぁ……まさか私がここに来ることになるなんてね。また治療費がかさむわ。あのデカブツを倒した報酬が出ればいいけど」

「多分大丈夫ですよ。あそこには証拠が沢山あるはずですし……確か看護師の方が、町で騒ぎになってるって話してましたし」

「ふう……そうだったな。しかし眼妖狩りなんて大したことないと思って行ってみたら……あんなのが出るなんて聞いてないわ。マジで死ぬかと思ったなさすがに……」


 いつもは狩り場の中で、ある程度安全が守られた形で戦っていた真澄。そんな彼女が、あの神社と今回とで、二度も命の危機に晒されたことになる。

 正直真澄の方は、眼妖に関してうんざりといった感じだが、ルチルの方は反応が違っていた。


「でもあの大きな眼妖をやっつけたおかげで、多くの人が救われたはずです。もしあれが町に出てきたらと思うと……」

「でもそれで挑んで死んだら、何の意味もなかっただろう」

「ですがどうにかできましたよね。やはりロアのお導きは正しかったんです! あの大きな穢れた者を倒し、人々を救う役目を果たすことができました」

「お前……まさか私らがあの化け物に襲われたことも、危うく死にかけてギリギリのところで助かったのも……全部その女神とやらが決めた運命で正しかったと?」

「勿論です! 女神ロアはこの世の全てを知り、全てを正しく導かれるお方です! 私達がその方を信じることで、私達がこの世で生まれた意味を知り、全てを正しく……」

「ああ、判ったから……もう静かにしよう。ここは病院だ」


 あんな目にあいながらも、未だに全ては女神のおかげで良いことだった言い張るルチル。真澄はそれに呆れながらも、他宗教を無理に否定しようとせずに、黙って聞き流していた。


『なあ……あの時俺がレベルアップして、あいつを倒せたのって、マジでギリギリだったが……。あれも女神が決めたことなのか?』

『まさか! もしそうなら、もっと早くロケット弾に変身できるようにしろと、訴え出てやるところよ。私が被害者の立場だったら、絶対にそうするわ!』


 ちなみに今の源一のステータスは……


 転生武具 源一 第三級

 第一形態:軍用シーフナイフ

 第二形態:自動式拳銃

 第三形態:自動式小銃/手榴弾

 第四形態:小銃榴弾/機関銃

 次級 150/4000


 その病室にいる小次郎と源一。源一は今、真澄の布団のすぐ隣に置かれている。病室までついてくるこのストーカー石に、真澄はもう諦めたのか、特に警戒する様子はない。


『まあ、今回の件のおかげで、あの子と眼妖達の関連性はないことが証明されたわ。その辺は少し安心ね』

『まあ、あれのせいでルチルも死にかけたからな』

『それもあるけど、ルチルがあの野党を助けたときよ。あの時審判の目を向けてみたら、野党に回復魔法をかけた件が、きちんと善事として検索できたわ。悪意とか企みのある行為じゃなかったみたいだし、純粋に人を助ける意思でやったみたい。今までの振る舞いを見ても、この子が嘘を言ってる感じじゃなかったしね。あの狩り場前での行為がどうして検索できなかったのか判らないけど、もしかして何かミスがあったかしら?』


 少なからずルチルに対して疑いを持っていた小次郎も、これでようやく彼女を信頼する気になったようだ。


 さてそんな時に、この病室に訪れる者が一人。それは一人の若い警官であった。年齢は三十歳前後であろうか? 背丈は160㎝に届かない範囲で、かなり低い。

 女性的な顔立ちだが、髪が短いために、性別の判別がつきづらい。真澄の所までやってくる彼女は、どうやら只の見舞いではなかった様子。

 ちなみに髪の色は黒で、皮膚色は茶褐色である。真澄が寝ている仕切りの、カーテンの外側には、彼女の部下と思われる警官も、数人待機していた。


「やあ、大活躍だったわね。あの呪われた石っての、随分役に立ってるみたいで」

「どこかで会いましたか?」


 何だか親しげな様子で話しかける彼女に、真澄が首を傾げていた。どうやらこの警官は、女性であるようだ。


「ああ、悪いわね。少し馴れ馴れしすぎたわ。こっちは君のこと、よく知っているわ。この前警察署で、石を話そうとかなり騒いでたでしょ? その時に君のことを見ていたよ」

「ああ、そうだったな……」


 あの騒ぎでは、かなり大勢の警官が、石を外そうと四苦八苦している自分を見ていた。最近の活躍云々を別にしても、真澄は結構警察に顔を知られているようだ。


「それに後から前の事件のことも知ったわ……。すまないね……警察と話しをするなんて、君にはあまり心地よくないでしょうけど……。ていうかあなたよく、あんな気軽に警察署に入れたわね? 少し前にあんなことがあったんだから、普通は……」

「あの件のことか? それなら、もう気にしてないぞ。それよりあそこは、あの後どうなった?」


 どうも今日のこととは別件の話しらしい。心底不思議そうな女警官に、あっけらかんとした真澄。どうも彼女が、警察署に普通に出入りしたのが、警察の側からすれば、不思議なことらしい。


「よくそんなこと言えるわね。あの自称“神の目を持つ超級の警官”のせいで、君だけでなく私ら警官全体が酷いことになったというのに……」

「すまないと思うなら、これ以上そのことには触れないでくれるか? あのいかれ警部の、阿呆面を見て、こっちの気は充分晴れたからな」

「そうか……すまないな。君の言っていた巨人のことで、現場からの検査報告から、確かにあそこに巨人はいたようだな。あの巨大な泥の残骸も、きちんと確認できた。しかし派手にやったな君は……。林の寺の中も、ボロボロだったし」

「仕方がないだろうが……あんな巨大な奴がいるなんて、知らなかったんだ」

「ああ確かに……これはこっちの調査不足もあったようね。しかし今まで何度か、偵察を送っていたのに、そんな巨大な奴がいるのに何故気づかなかったのか……? まあともかく、壊れた寺のことで、弁償しろと言わないよ。報酬も規定通りに払うことにする」

「追加報酬はないのか? あんな予定外の奴が出てきて、私はそれを倒したんだが?」

「悪いがないわ。あまりそのことで追及すると、後々面倒な話になるから、これで妥協したほうがいいわよ」


 案に壊された寺の件での修繕費のことがちらつかされている。真澄はかなり悔しげにしながらも、仕方なく言われた通りにそれで妥協することに。


「それからあなたが捕らえたという異人狩りの話しだが……街道のどこを探しても、そんな奴はいなかったわ? 一応お前が撃ったらしい場所で、血痕と銃弾(リーダー格が撃った弾)は見つかったが……」

「そうなのか? しばらく見ないうちに逃げだしたか……」

「どうやってですか!? 鍵は私が持ってますし、あれがそう簡単に外せるとは思いません! 聖なる加護がかけられた、特注の枷だと聞いてました!」


 二人の会話に、カーテン越しに隣の会話を聞いていたルチルがそう口にする。確かに両手両脚を拘束された人間が、そう簡単に逃げられるわけがない。


「確かに不思議な話ね……酒井君から聞いた話しだと、そいつはかなり興味深いことを言っていたらしいし、是非こちらも尋問にかけたかったが」


 女性警官が残念に思っているのは、その異人狩りが口にした言葉をよく探れなかったこと。

 彼らを雇って、異人を攫わせようとした者がいるという話。この時期に急に異人狩りが頻出したのは、多くの人々の間で不思議に思われていたが、その原因が見え始めたのだ。

 まあ当人達が言うには、雇い主の顔も名前も知らないようなことを言っていたので、彼らを捕らえても、有力な情報を聞き出せなかった可能性が高いが。


「ああ、それと聞きたいんだが……」


 話を終えて立ち去ろうとする警官達を、不意に真澄は呼び止めた。


「なあ……狩り場の封鎖はいつ解けそうだ? 私は早い内に、金を集めたいんだが」

「ああ、まだしばらくは無理だ。……というか、今の流れからすると、狩り場どころか町の出入りすら規正されるかもしれないわよ。一昨日の街中での銃声といい、今日出てきた巨大な眼妖といい、外は随分と物騒になったからな。避難区域でない村も、警官を増員している。まあ眼妖狩りに行く鉄士なら、外に出るのも難なく許可されるでしょうけど。まあ今後も君の活躍を期待しているぞ♫」

「何故私に期待する? この石の力を言っているのなら、今すぐ回収して欲しいんだけど?」

「ははははっ、馬鹿を言うな! そんな呪われてるかもしれない道具、こちらは御免被る! それじゃあまたな!」


 何だかあまり宜しくない期待の言葉をかけて立ち去る警官。眼妖の出没に、戦力が頼りない今の状況では、警察の仕事に鉄士が介入するのも、特に抵抗はないようである。

 ちなみに件の街中での銃声の件では、当時真澄が宿にいたことが、店主から証言されているので、真澄たちに疑いはかけられていない。


 警察がいなくなってしばらくしてから、真澄は姿の見えない、隣の区切りにいるルチルに問いかける。


「なあ……お前はこれからどうする気だ? 町の外に自由に出れなくなるかも知れないが、またあの布教をするのか?」

「いえ、ロアの教えを説くのは、前に言われたとおりに、しばらくお休みします。今はあの、眼妖と言う、穢れた者をどうにかしないと……。この国が平和にならないと、布教なんてできません」

「そんなのこの国を出ればいいだけの話じゃないのか?」


 眼妖の出現は、津軽王国のこの地方にしか出ていない。少なくとも国外に出れば、安心して布教もできるはずである。


「考えましたが……やはりそれは駄目です。聖女として、この国の危機を見捨てるなんてこと許されません! 聖女として女神ロアの信徒として、私の私に与えられた新たな使命を全うします!」


 どうやら彼女の中では、眼妖の殲滅は完全に使命になった様子。前にもそんなことを言っていたが、今回の彼女の言葉は、揺るがない強い決心が感じられる。


「はぁ……私はどうしたものか? この町での収入源が絶たれてしまったが……また眼妖狩りをしなければいけないのか?」


 狩り場の封鎖が長く続けば、やがて眼妖狩りに出かける鉄士も多くなるであろう。この流れに、真澄もついていかなければいけなくなるが……


「私はもううんざりといった感じなんだが……。またあんなやばいのに出くわして、死にかけるような目にあうのはな……」

「大丈夫ですよ! “私達”には、女神ロアのご加護があります! 確かに今日は危ない目にあいましたけど! やはり運命の導きによって、あの巨悪を打ち倒したじゃありませんか?」

「その“導き”というのは、この石が大砲に化けたことか? 正直私には、この石がロア教と関係があるようには思えないが……」


 相変わらずロアの導きというものを信じているルチルに、真澄は大分疲れた様子で語りかける。


「言っておくが、私はロア教の信者じゃない。お前の事は嫌いじゃないけど、だからってお前の信じる神を受け入れる気もない。正直今回私が、死にものぐるいで戦って生き延びたことを、勝手に全部女神のおかげにされると、正直不快なんだがな」

「真澄さんそれは……」

「お前もだルチル。お前今日は私のために、随分と身体を這ってくれたな? それはまあ感謝するが……それも全部ロアのおかげだって言うのか? ロアがお前の心を操って、あんな行動を取らせたと? お前の信じる神は、人を洗脳して操るような奴なのか?」

「まさか!? そんなこと、あるわけないじゃないですか!」


 ルチルが叫ぶが、その声には何故か、戸惑いと迷いが感じられた。


「だったらもうこのことで、あまりロアの名前は出すな。お前が信じる神が、どの程度の力があるか知らないが……少なくとも“今回の件”は、私とお前の力と気合いで切り抜けたんだ。後ついでで、この石の力もな。お前は力を誇示して、神を信じさせるのは野蛮と言ったな? じゃあこっちからも言うぞ。何でも神の思い通りに自分が動いていると思うより、自分の力と思いで事をなしたと思う方が、遥かに立派だと思うが?」


 ルチルはしばらく黙っていた。カーテンが敷かれているので、その向こうのルチルが、どんな顔をしているのか判らない。何か考え込んでいるようだが、一分ほどして、彼女が重く口を開いた。


「そうですね……私は真澄さんと出会えたのは、ロアのお導きだと今でも信じてます。でもあの時、あの巨悪に勝てたのは、きっと私と真澄さんの力です。真澄さん……私達頑張って、そして勝てましたよね?」

「ああ、勿論だ」

「真澄さん……私はこの国の人達を、あの穢れた者達から救いたいんです。どうか私と、これから一緒に戦ってくれませんか?」


 ルチルからの眼妖討伐の懇願。以前の流れ弾事件から、その場の流れで今まで一緒にいたが、今ここではっきりと彼女は、真澄と共闘を願い出たのである。

 今度は真澄がしばらく黙っていた。こちらも色々と考え込んでいるようだ。そしてしばらく考え込んだ後で、真澄がようやく口にする。


「そうだな……どのみち生活するのに、金は稼がないといけないしな。いいさ、お前と一緒にこれから戦おうか?」

「真澄さん!」


 歓喜の声を上げるルチル。突如二人の間を区切っていたカーテンが払いのけられる。


「うわっ!」


 布団から起き上がったルチルが、大喜びで真澄に抱きついたのだ。このことで、また少し病院内が騒がしくなる。


『おうおう……どんどん百合百合しくなってきたな。まあこういうのも悪くないか?』

『はいはいそうですね……。しかしまた面倒なことになったわね。まあ、現世の旅も結構面白くなってきたけど』


 本当なら源一を回収しに、現界に舞い降りた筈の小次郎。だがいつのまにかこの二人の眼妖狩りに付き合う流れになっている。

 この野外での仕事の延長は、本当は彼女にとっては宜しくないはずだった。だが小次郎は、この世界での旅を実は楽しんでいるか? 何だかこの状況に、満更でもない様子であった。



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