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第十八話 爆砕の矢

「もう駄目です……女神ロアよ、力及ばなかった私をお許し下さい……。そして真澄さん……このような不憫な運命に巻き込んで、申し訳ありません……。でも私は、最後まで人のために尽くせてしあわ……」

「黙れ! こっちの気を削ぐな!」


 今だ巨人に追われ続けている二人。全てに諦め、人生の最後の祈りを、真澄の腕の中で語るルチル。それに怒鳴りつける真澄も、だんだん諦めの意識が出始めているようであった。

 疲労を誤魔化し、気力の全てを振り絞って走る真澄も、もう限界が出始めていた。


 ドォオオオオオオオン!


「「!?」」


 そんな時に、唐突に放たれたのは、この林に響き渡る爆発音。音源が彼女らの右手側の方。距離はどの程度か判らないが、結構な威力の爆発である。

 遠くから少しだが、煙が沸き上がっているのが見える。真澄は以前に、これと似たような音を聞いたことがあるが、今自分は手榴弾を使った覚えなどない。

 この爆発に反応して、巨人が一瞬止まる。そして不思議そうに(表情は判らないので推測だが)、爆発音した方角に体勢を少し傾け、その巨大な瞳で見つめていた。


(注意が逸れた!? 今しかない……)


 その間に真澄は走り続けた。彼女には原因不明の爆発を気にかける余裕などない。巨人が少しの間止まったために、彼らとの距離がまた開いていく。

 だが巨人は、しばらくすると爆発音に興味をなくし、再度真澄の方に向き直った。


「私を置いて……は無理ですよね?」

「ああ……お前が先に、私の言うことを無視したんだ。ならばこっちも無視させてもらう」


 そうは言っても、絶体絶命の状態に変わりはない。真澄の走行速度も大分落ちている。このままだと折角開いた距離も、すぐに縮んでしまうだろう。巨人がまた一歩、前に進み出そうしたときだった。


「うあっ!?」


 突如真澄の元に、何かが差し出された。誰かが手渡したわけではない。どこからともなく、まるでテレポートしたかのように、真澄が横抱きにしているルチルの身体の上に乗りかかるようにして、それが現れたのだ。


「……鉄砲?」

「何だこれは!? またあの石が化けたのか!?」


 横抱きにされた状態のルチルが、思わず手で受け止めたもの。そして只でさえ人一人抱えて大変な真澄に、更に積み重なった重たい荷物。それは銃のような何かであった。


 全長が一メートル以上ある、金属製の太い筒のような物体。その筒には、照準器や銃の引き金のような物があり、一見すると大きな銃のよう。

 ただし先端には、先が槍のように尖った、丸みを帯びた円柱状の物体が取り付けられている。それは大きな弾丸のようにも見えるが、取り付け方がおかしい。

 それは地球における対戦車用のロケット兵器、パンツァーファウストOR 110mm個人携帯対戦車弾という武器と、非常に酷似していた。

 プローブは既に伸長されており、成形炸薬弾として、いつでも使えそうな状態だ。


「すまんルチル!」


 真澄は即座にルチルを下ろす。そしてその戦車弾を抱え、あの巨人にロケットの先端を向ける。

 巨人は既に、こちらに向けて一歩進み出た所であった。その巨人に目掛けて、真澄があの巨大な眼球目掛け、引き金を引いた。


 ドォオオォン!


 大筒の真後ろの穴から、もの凄い勢いで衝撃と熱風が吹き出した。その威力は凄まじい上に、その噴き出した位置の真下には、ルチルが寝かされていた。

 熱風はルチルの顔に、強く叩きつけられる。もし彼女が立ち上がっていたら、直接浴びた噴射風に、その場で吹き飛ばされていたかもしれない。


 そして先端の方からは、まるで打ち上げ花火のように、先端のロケットが発射される。

 大量の炎と煙を直線上に吹き出しながら、巨人の顔面目掛けて飛んでいく。その速度は音速を越える銃弾と比べるとずっと遅いが、それでも人が走るよりは速い。

 そして巨体故に動作が鈍い巨人は、そのロケット弾を、避けることも受け止める事もできなかった。その顔の大目玉、防護膜から先に、そのロケット弾が着弾する。


 ボゥウウウン!


 顔面に直撃した瞬間に大爆発するロケット。山のように大きな巨人の頭が、まるで火山噴火したように大爆発し、大量の炎と煙が吹き荒れる。

 そして無数の巨人の身体の破片が、花火のように飛び散り、一帯に四散していった。


「くっ!」


 雨霰となって降ってくる巨人の欠片と体液。真澄は残されたロケット弾の大筒を盾にして、顔を守る。後ろで倒れているルチルは、ちょうど真澄の身体が盾になってもらっている形である。

 やがて全ての残骸が飛び終えた後で、欠片と体液だらけの林の中で、立ち尽くしているのは頭が吹き飛んだ巨人の姿。あの爆発で目玉どころか、顔全体が損壊してしまったようだ。


 その後は普通の眼妖と変わらない現象が起きた。後ろ向きに倒れる巨人。大きさ故か、倒れるだけで地面が響く。

 そしてその後、大きな身体が泥となって崩れ落ちる。その質量故に、泥の量は多く、その場で泥山と沼が出来上がっていく。どうやらあれだけ大きくても、弱点は同じなようで、巨人は間違いなく完全に倒されていた。


「やった……?」

「ああ……」


 勝利の余韻に浸かることも、何か語らう余裕もない二人。勾玉に戻った源一を懐に戻し、ルチルと共に街道を目指す。

 ルチルもどうにか自力で立ち上がり、真澄と共に一言も喋らずに歩いて行った。


(……あれ? ミルクは?)


 途中あの白猫がいないこと気づいたが、生憎彼を探す余裕もない。直前まで無事な姿で駆け込んできたのだから、今だって無事でそのうち戻ってくるだろうと、彼女は黙って進み続けた。






 さてそんな彼女が進む方向から、少し離れた街道のど真ん中。そこには未だに、あの異人狩り達が、枷で拘束されたまま、そこに放置されていた。


「音が収まった? ……何だったんだ?」

「知らないわよ……眼妖共が、こっちに来なければいいけど」


 先程左手側の林の方から、木々のへし折れる音や爆発音が頻繁に響いていて、彼らは大分怯えていた様子。それが収まってしばらくしてから、そこに人の足音が聞こえてきた。


「ああ、すまん助け……」


 ここに誰か来たかと思って、その足音の方に聞こえた方向に顔を向けると、彼らは絶句した。

 それは見知った顔だった。いや正確に言うと顔は知らないのだが、彼らはその人物に会ったことがある。


 それは着ぐるみのような、白虎を象ったローブに、全身をすっぽり被ったコスプレのような変わった人物。

 顔の部分も虎顔のフードで上半分が覆われており、容姿もよく判らない。ただその背丈からして、男性ではないかと思う。


「ああ、何だよ笑いに来たのか!? 見ての通り、返り討ちにされて捕まったよ! こいつの鍵もあいつが持ってて、全然外せねえんだ! これじゃもう仕事はできねえし、完全に失敗だ! だが前金は返さねえぞ! あんな用心棒をつけた異人がいるなんて聞いてねえし。そもそもお前、よくこんな物騒な所に……」


 そう文句をつけるように喋る異人狩りのリーダー格。その白虎男は、その言葉を無視するように、彼らに向けてゆっくりと足を向けていた。






 その後は少し町の中で騒ぎとなった。街道にてボロボロの姿の二人を通行人が見かけ、即座に病院へ搬送される。

 そしてある程度容態が回復した二人から、全容を聞きつけた警官隊が、あの寺院一帯の林の方へと探索へ向けられる。

 そこは木々が大量に薙ぎ倒された林と、大地を進む巨大な足跡。そしてこれまでにない質量の、泥山といっていい程の大きさの眼妖の残骸であった。


 あの巨人の姿は二人しか見ていない。だがこの状況からして、言っていることは事実だろうと警官隊は判断した。それはすぐに速報として記事に載り、弘後町を賑わせることになった。

 さてそんなご時世で、二人が病院に収容されたあたりでの出来事。あの二人が泊まっている宿に、新たな客が訪れた。


「ここの宿泊を頼みたいのだが、よろしいかな?」

「はい、ではこちらに記帳を……」


 慣れた口調で、特に戸惑わずに応対する店主。だが玄関でその人物を見かけた、別の客は少々驚いていた。


 その客の外観は、十代半ばぐらいの一人の少女。小柄な体格で、鰐人ではなく、どうやら純人のようであった。

 頭には西洋魔道士風の三角帽子。呪術の紋様のようなマークがついた黒ネクタイのシャツ。赤と黒の縞模様のミニスカート。そしてシャツの上に、黒っぽい上質な布地でできたローブを纏っている。

 そして手には装飾多めの、彼女の身長以上の長さがある魔道杖が握られている。

 和風文化のこの町に現れた、ルチルに次ぐ、二人目の西洋風少女である。ただしルチルはヒーラー風なのに対し、こちらはウィザード風であるが。


「カーミラさんですね。もしかしてルチルさんのお知り合いの異人の方ですか?」


 頭の中に思い浮かんだ疑問を、率直に口にする店主。現在ここの宿には、ルチルという異人の少女が泊まっている。この少女=カーミラは、純人であることや身なりからして、彼女と同じ異人であると誰もが思うと。

 店主の問いに、何故かカーミラは、まるで悟ったような、含み笑いを浮かべていた。


「ルチルの? ふふふっ……。いや、あいつのことは顔は知っているが、知り合いではないな。強いて言うならば……そうだな、彼らを導く神のごとく存在。いやこの世界を救済すべく現れた、異界の大魔女であるとだけ言っておこうか? くくくっ!」

「はあっ……」


 妙な含み笑いを繰り返して答えるカーミラ。この時店主も他の客も、同時に同じ事を思った。ルチル以上に個性的な客がやってきたと……



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