第十五話 昇級の条件
「すごいです真澄さん……弾を避けられるなんて」
「私も驚きだ。元々自分にこんな反応力があるとは思えないが……そんでこいつらどうするか? 警察に連れて行けば、金を貰えるだろうか?」
「とりあえず……皆さんつらそうですので、治療を……」
「はっ?」
真澄が驚いたのは、ルチルの行動。ルチルは今倒れている異人狩りに近づき、彼らに回復魔法をかけようとしているのである。
「判ってはいるんだろうが……そいつはお前を攫おうとした異人狩りだぞ?」
「ええ……でもこのまま置いていくんですか? 死んでしまいますよ!」
撃たれた彼らは、銃創から水道のように、どんどん血が流れている。銃創の殺傷力は、弾丸が身体を貫いたことよりも、その傷跡から出る出血量が、最も大きな要因になる。
彼らはまだ息があるが、このまま放置していけば、間違いなく失血死するであろう。そしてこの辺一帯は、眼妖騒ぎで人々が避難したところ。彼らを引き渡す警察署も、病院も近くにはない。
「まあ聖女らしい発想だが……しかしこいつらを回復させると、また私らに襲いかかってくるかも知れないぞ?」
「それは……でも……」
「ああ、いい。お前を悩ます気はないから。何か縛る者があればいいんだが……」
「それなら私持ってます!」
次元収納からルチルが次々と、その必要な者を取りだした。それは牢獄で使われるような、金属製の手枷と足枷である。しっかり鍵も、一緒に取りだしていた。
「お前……何でそんなもの持ってるんだ?」
「国を出る前に、教会から頂きました! どこで何があっても大丈夫なよう、色んな物が、私の人現収納に収まってますから!」
「お前は宣教師だろう? お前を送り出した奴は、この国で人間と戦わせる気だったのか? まあ、いいか……」
テキパキと異人狩り達に、その枷をつけていく真澄。異人狩り達も、自分たちの状況がやばいと判っているのか、特に抵抗する様子がなかった。
そして先に枷をつけられた者達に、ルチルが回復魔法をかけようとする。
『ちょっと……これやばいわよ』
『何がだ? ただ回復するだけだろ?』
拘束した敵を治療しようとするルチルの行動に、何故かルチルが訝しむ。
『真澄が撃った弾は、全部貫通してるからいいとして……さっき仲間に撃たれた奴は、多分身体の中に、まだ弾が残ってるわ。弾が入った状態で、傷を塞いだりしたら……後々こいつは確実に死ぬわね』
『ああ、そういえばそんな話しあったな』
源一も以前ネットで見た情報から納得した。弾丸というのは、貫通するよりも、体内に留まった方が、殺傷率が高い。体内に異物が残ったまま、回復魔法で傷を消してしまったら、後々高確率でこの異人狩りは死ぬ。
そうこうしている間に、その問題の人物に、ルチルが回復魔法をかけてしまった。二発撃たれた彼女は、この場で最も重症であるために、先に治療が行われたようだ。
以前衛生兵が使ったのと同じような光がルチルの魔道杖から放たれ、異人狩りの女の銃創に向けられる。
『まあ、元が悪人だし。そう慌てることでもないんだろうけど……あら?』
ここで少し意外なことが起こった。回復が行われた女異人狩りの銃創。その傷口が塞がる前に、その穴から何かが出てきた。
まるでスイカの種のように、赤い液体で濡れながら、スポンと飛び出してきたのは、一個の丸い金属の塊だ。真澄が撃った拳銃の弾とは、明らかに形が違う。パチンコ玉より少し大きめのそれは、間違いなく先程こいつが仲間に撃たれた、鉄砲の弾である。
弾はコロコロと地面に転がっていく。そしてその後、彼女の傷口は急速に回復していった。破けた服から見える、腹に開いた丸い穴が、ドンドン小さくなっていき、僅か十秒足らずで消滅してしまったのだ。
『異物の摘出と、傷の回復を同時に? しかもこの回復の早さ……判っちゃいたけど、とんでもない魔力と技力ね、この子……』
かなり強力な魔力を使ったのに、全く疲れていない様子のルチル。彼女はこの場で、わずか二分足らずで、異人狩りの傷を全て治してしまった。
ルチルによる治療が終わり、一カ所に纏められた異人狩り達。武器を取り上げられ、両手足を枷がかけられて、身動きが取れない状態。
そんな彼らの、穴が開いた着物や肌には、大量の血糊で真っ赤に塗れているが、外傷はもうほとんどない。そんな彼らに、真澄は銃口を向けて問いかける。
「お前ら異人狩りだな? 今まで攫ってきた奴はどこにいる?」
この問いに、彼らはすこしどよめき始める。今にも引き金が引かれそうな銃口に怯えながら、彼らは答えた。
「いやしらね……」
パン!
言葉を発した者の顔の側を、一発の銃弾が通り抜ける。彼の頬には、弾道が通った跡の、小さな傷がついていた。自分を見下す彼女の引き金の指は、随分と軽いようであった。
「本当なんだ! 俺ら今日雇われたばかりで、何も知らないんだよ!」
「雇われた? ほう……」
「ちょっと俺ら金に困ってて、そしたら何か変な奴が、俺らに言ってきたんだ。異人共を捕まえてつれてくれば、人数に応じて金をやるって……あの鉄砲だって、そいつに貰ったものだし」
あの時こいつは、自分が持っている鉄砲のことをよく知らないようであった。その渡した者は、鉄砲が単発式であることを教えなかったのだろうか?
「その変な奴ってのは誰だ? 名前は聞いてないのか?」
「ああ、聞いてねえ……白い虎の被り物をしてたから、顔も見てねえし」
「顔も名前も明かさない奴と取引したのか? ふざけてんのか? 頭吹っ飛ばされたいか?」
「いやいや! 本当なんだって! 前金もとんでもねえ額もらったし、とても断れる状況じゃ……」
「本当だとしても、とても許せることじゃないな。とりあえずここで指の一本でも吹っ飛ばすか?」
「真澄さん、よしましょうよ……。後は警察に任せておけばいいでしょう?」
少々興奮した様子で銃口を近づける真澄に、当の被害者であるルチルが、少し引き気味に止めに入る。言ってることは真っ当なので、仕方なく真澄は銃口を引き下げた。
「ちい……だが今すぐに警察に連絡は無理だな。私らこれから眼妖狩りにいくんだ。それが片付くまで、そこで仲良く待ってな」
真澄は犯人の引き渡しより、眼妖狩りの収入を先に優先するようだ。だがこの言葉に、異人狩り達は再び当惑する。
「眼妖? あんた眼妖狩りに? でもなんでこんな所に?」
「そうだが? この辺りに眼妖が湧いてきてるから、そいつを討伐しに行くんだが、お前ら知っててここで待ち構えてたんじゃないのか?」
「いや、そんなこと聞いてねえぞ!? この辺りは今は誰にも見られないからって、言われてたが。確かに妙に人が通らなくて、変だと思ったが……」
「お前らの事情など知らん。言いたいことは、警察署で全部話せ。それから、今かなり苛ついてるんだな……一人一発だ」
その場で動けない異人狩り達に、発言通りに一人ずつに、顔面に蹴りを喰らわせる真澄。鼻血を垂れ流して悶絶する彼らを背に、真澄たちはさっさと目的地に、再び足を向けた。
『真澄、異人狩りに随分と怒ってたな……。ルチルを攫われそうになったのに、ご立腹か?』
『う~ん、どうでしょうね? この人、異人と色々縁があるからね』
彼女らが辿り着いたのは、弘後市からそう離れていない、山中の寺であった。
日本の寺とよく似た感じの木造の建物群。堂塔はないが、街道から脇の小さな分かれ道の先にある門といい、石畳の道といい、寺院本堂といい、日本製と全く同じである。
ただし門の両脇に置いてある、門を通るものを威嚇するように建っている、高さ三メートルほどの二体の像。その像は仁王ではなく、刀を持った黒鬼の像であった。二体の鬼というと雷神・風神を連想するが、どうもそんな感じではない。
『なあ、あの鬼ってお前達か?』
『そうかもしれないわね。アマテラスの宗教は、土地神を祭る神道と、冥界にいった先祖の霊を祭る鬼仏教だからね。まあ、私らの仲間に、あんなごつい顔の奴はいないけど』
どうもこのアマテラスでは、冥界の鬼と死者は神様であるらしい。
まあ今はそんなことどうでもよく、その門を潜り抜ける真澄たち。そして寺の境内の中にいる、敵を見つけ出す。
「結構いるな……情報より多くないか?」
「多分もっといます。林の中から、穢れた者の気配が、ここと同じぐらい……」
寺の中にいるのは、以前街中に現れたのと、同型の蛇型眼妖達。その数は六匹。しかもその内の二匹は、あの眼を防護する透明膜が張られていた。
「シャァアアアッ!」
真澄たちを見るなり、一斉に襲いかかる蛇型眼妖達。寺の境内から門の方にいる真澄たちに襲いかかってきた。
真澄とルチルが、それを無言で迎撃する。真澄の自動小銃が火を噴き、ルチルの光魔法の光球が、敵に向かって飛ぶ。
蛇型人妖達は、それにあっさりと倒されていく。ある者は銃弾で眼を貫かれ、ある者はルチルの魔法によって浄化されていく。
『ねえ、あんたのレベルアップの条件、今判ったかも』
『えっ、そうなのか?』
倒した眼妖が泥へと変じていく中で、小次郎が源一にかなり重要なことを口にした。
『あの眼妖よ。今あいつの残骸から、少しだけど魔力が流れてるのが見えるわ。どうやら眼妖を殺すと、強くなれる仕様なのかも』
『そうなのか? そういや前に眼妖を何匹も殺してから、強くなってたな』
源一はもう一度、あのステータス表を見てみる。確かに次級の点数が眼妖を殺す度に上がっているようであった。




