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第十四話 眼妖狩り

 翌日のこと。二人は再び狩り場に向かうことにした。治安の良い列強国に入るためには、相応の通行料が必要だ。

 そのためにはここでしばらく稼がなければ行けないが。準備を整えた二人。その前に、昨日のように見落としがないよう、真澄は今日の新聞を手に取るが……


「何てことだ……」


 その新聞を見て、真澄は愕然としていた。……というかここ連日、新聞を読む度に、彼女は何度も驚かされているが。


「どうかしたんですか?」

「この町の狩り場……弘後洞穴狩り場が……封鎖された」


 それは彼女らの、この町での収入源がなくなった通告であった。一昨日の眼妖の襲撃に次いで、昨日の街道での謎の爆破事件。警察はあの狩り場に、何か危険なものがあると踏んだようで、その辺一体をしばし立ち入り禁止にしたのである。


『なあ? これってやっぱり俺のせいか?』

『気にしない方がいいわ。一回目は不可抗力だったし……』






 街を進み、鉄士組合に入る二人。だがそこで聞いた話しでは、やはりあの狩り場はしばらく入れないとのことであった。


「それじゃあ、封鎖は解けるのはいつか判らないのか……」

「はい、申し訳ありませんが……」


 受付が真澄の問いに、哀れそうに答える。他にもこのことを聞いてきた鉄士がいたようで、ぶつぶつ文句を言い合っている者が、多数この建物の中にいた。


「参ったな……これから早めに稼ぎを入れたかったところなのに……」

「何か、急ぐようなことでも?」

「国境を越えるのに金が要るんだ。私の連れは、この国に居続けると、少々危ないからな」

「ああ、成る程……」


 その言葉ですぐに納得する受付。この国内で急増した異人狩りは、もう殆どの国民が知っている。

 この国では、ルチルのような者が居座るのは、かなり危険である。この状態が続けば、津軽とガルムの交易にも、大きな悪影響が出るだろう。

 本当なら早々に帰国するのが一番であるが、本人が帰りたがらない以上、そうするしかない。


「でしたら少し危険ですが……眼妖狩りをしてみてはどうでしょうか? 実は本日通達があって、鉄士教会が警察からの請願を頂いて、眼妖狩りにも賞金をかけることになったんです」


 今のこの国に突如出現した、眼妖という魔物。ただでさえこんな状況なのに、更に異人狩りの横行。連続する急速な治安悪化。この事態に、とうとう鉄士教会も、治安維持に協力する旨が、今朝の新聞にも載っていた。


「確かにそれでも金が入るらしいが、かなり危ないな……。“狩り場以外”の場所で致命傷を負ったら、本当に死んでしまうし」

「ええ、本当はあまりお勧めしないことですが、ただ真澄さんとルチルさんなら、大丈夫かと思いまして。あの魔法の鉄砲なら、眼妖なんて敵ではないのでは?」

「まあ、そうかもしれんが……」


 どうやら真澄の持つ、あの連射できる銃は、魔道式の銃だと思われているようだ。まああながち間違いではないが。


「それに狩り場と違って、敵がどの辺りに出てくるかも判らないからな……」

「ああ、それなら大丈夫ですよ。あちらに眼妖の出現地域が、記されていますから」


 指差されたのは、この鉄士協会内の広間の壁にある掲示板。そこにある張り紙には、確かにこの近辺での、眼妖の出現区域が記された地図が貼られていた。


「もうこんなものが……随分と仕事が早いな」

「ええ、こちらも警察隊からの要請が受けた以上、手早く情報を伝えなければ行けませんから! ただ問題なのは、それに挑戦する方々が不足しているので……」

「眼妖狩りに行く奴が、あまりいないのか?」

「ええ、こちらもかなり困っていて……でも真澄さんなら大丈夫ですよね?」


 何かを期待するような受付の真澄に対する口調。見ると周りの鉄士達も、興味深くこの話を聞いていた。


「行きましょう真澄さん! まさかこんなことになるなんて……これはきっと偶然なんかじゃありません! 女神ロアから、真澄さんに穢れを清めるための運命に導かれているんです! 私も精一杯、真澄さんと一緒に戦いますから! 共に世界を災厄から救う、神聖な戦いに挑みましょう!」


 更にルチルが、えらい張り切って、真澄に眼妖退治を勧めてきたのだ。何故か眼妖狩りをすることが、決まったような流れは、確かに運命では?と疑うほどの偶然ぶりである。


(これが本当にロアとやら課した運命なら……私は神を恨むな。全くこの石のせいで、変に注目を浴びてしまったよ……)


 つい数日前までは、名も無き下位鉄士だったのに、いつのまにか人々から期待される新星になっている真澄。

 源一との出会いで、彼女の道筋は色々おかしな方向に流れていた。






 かくして二人と一匹は、この弘後の町を出た。以前行った狩り場とは、全然別方向の街道を、徒歩で進んでいく。

 真澄は眼妖を倒した証拠を示すためのカメラを、わざわざこのために買った。これでまた、手痛い出費をすることになったが……。

 二人の後に、あの白猫のミルクも、しっかりついてきている。正直危ないと思うだろうが、何故か眼妖は人間しか襲わないので、別に大丈夫だろうと、ミルクも連れていくことになる。


「真澄さん、鳥車は使わないんですか? あちらのほうがずっと早いはずですけど……」

「金がかかるから駄目だ。それに鳥車を使うほど、遠い道じゃない」

「そうなんですか?」

「ああ……何故か知らんが、このところ眼妖は、弘後町の周りに多く出没してるようだ……」


 彼らの歩く街道は、最初は田畑の広がる農場の真ん中を通っていた。だが距離が進み、途中の分かれ道に入ると、やがて林に囲まれた林道へと変わる。

 ここに行くと、これまで頻繁にすれ違っていた、自分たち以外の旅人や鳥車も、全く会わなくなっていった。


「何か……全然人が通りませんね?」

「そりゃあ、眼妖の出没地域だからな」


 眼妖が各地で猛威を振るい、警官隊の討伐も間に合わなくなると、各地で避難が行われるようになった。以前真澄が迷い込んだ、あの無人の村も、その一つである。


「恐らくここに来る奴は、何も知らずに迷い込んだ奴か、私と同じ眼妖狩りに出た者だろうな」

「ではあの方々は、どちらでしょう?」

「むっ?」


 ふと気がつくと、前方の街道の真ん中で、こちらに対して通せんぼうをするように立ち塞がる三人組が現れた。いや三人ではなく、六人組だ。

 突如後方の林の方から、もう二人街道に飛び出して、今度は後ろを通せんぼする。前に二人、後ろに二人、真澄とルチルは前後に挟まれた状態だ。

 彼らは時代劇の浪人風の、薄汚れた着物を着ている。そして腰にかけられた刀を、皆抜刀してこちらに目を向けていた。そしてリーダーと思われる一人は、拳銃を持ってこちらに向けている。


「お前らは鉄士か? それとも強盗か?」

「おいそこの偉人の娘を、こっちによこしちゃくれないか? この辺りは物騒だからな、俺たちがだい~じに、家に送りと届けてやるぜ?」


 刀を向けて、いかにも悪党ですといった表情で、ルチルを指し示す。


「えっ? お断りします……。私と真澄さんは、運命に導かれた、神聖な同志ですから、今は他の方とは一緒に行けません。あなた方も、私と共にロアの使命を果たしたいなら……」

「悪いが異国の神の導きなんてお断りだ。もう判ってんだろ? 痛い目にあいたくなきゃ、とっととこっちに来い!」

「ルチルが嫌がっているならお断りだ。お前もとっととここから出て行け!」


 最初に刀を抜いて話しかける時点で、友好的な話し合いをする相手ではないのは、誰の目にも丸わかりだ。

 真澄とルチルがきっぱり拒絶すると、その異人狩りと思われるならず者達は、鼻で笑って一気に刀を振りかざす。


「しゃあない、だったら死んでもらうぜ!」


 ドン!


 異人狩りの一人が、持っていた鉄砲の引き金を引いた。だが真澄を狙ったそれは当たることはなかった。

 彼女は引き金を引かれる前に、弾道を読み切り、身体を横に曲げる。頭を狙った弾丸が、彼女の顔のすぐ脇を通り抜けた。


 パン!パン!パン!  パン!パン!パン!


 勝負は一瞬で終わった。異人狩り達が動き出す前に、真澄は即座に拳銃を引き出し、もの凄い早撃ちで敵を撃ち倒す。前方の三人、鉄砲を持っていた一人を最初にして、三連射で撃ち抜く。

 更に身体を独楽のように回転させて、手早く後ろにいる三人を同様に撃ち抜いた。


「がはっ……」

「何これは……」

「こんなに早いなんて聞いてねえぞ?」


 どうやら真澄の情報は持っていたらしいが、この早撃ちの腕前は、予想外であったようだ。胸や腹から血を流し、異人狩り達はその場で膝をつく。

 地面に流れ出る血の量がとりわけ多い者には、銃創の穴が身体に二つもついていた。どうやら先程のリーダー格の男が撃った弾が、うっかり彼女の後ろにいた仲間に当たったようである。


「くそっ……うりゃあっ!」


 カチッ!


 リーダー格は激昂して、今し方撃った鉄砲を、再度引き金を引く。だがその鉄砲は再び火を噴くことはなかった。


「なっ、何で!?」

「鉄砲のことをよく知らんのか? 普通の鉄砲は、一発しか撃てないんだよ」


 パン!


 そう言って真澄はリーダーにもう一発発砲。腕を撃ち抜かれたリーダーが、その場で悶絶して倒れ込んだ。

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