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第十三話 街道爆破事件

 大体採れる分の獲物を狩り、二人は地上の管理施設に戻っていく。他の鉄士たちは、帰り際には、肉や素材を詰め込んだ大袋を担いだり、荷台に積んで運んだりしているが、何故かマスミたちは入った時と、手荷物が変わっていなかった。

 じゃあ何も狩らなかったのかというと、そうではない。獲物から剥ぎ取った物は、ルチルの次元収納魔法の中である。


「あっ、ミルク! ただいま!」

「姿が見えないと思ったら、ここでずっと待ってたのか? 病院の時といい、随分と場をわきまえた猫だな」


 狩り場への階段の入り口で、ずっと待機していたミルクと合流する二人。二人はそのまま管理施設から出て、真澄が初日に訪れた、町の鉄士組合へと向かっていく。

 素材の鑑定と買い取りは、主にそっちの方でやるのである。


『おい……あの二人、ついてきてるな?』

『ええ、見た感じだと、偶然帰り道が同じに見えるけど……あれは間違いなく狙ってるわね』


 あの二人組は真澄達が、狩り場に入ってから、戻ってくるまで、ずっとあの待機場にいた。その間彼らが、狩りをしている風はない。

 そして真澄たちが外に出てから、数秒後に二人も追うように管理施設から出てきたのである。

 この街道は大勢の鉄士が使用している。鉄士意外にも、別方向への道を進むために、一般の鳥車などもよく通っている。そのため一見して、彼らを不審と気づくのは難しい。


『そういえばあんた……変身した後でも撃ったりできたわよね?』

『うん? ……ああそれはできるけど』


 実は昨日、真澄たちが寝静まった後で、彼らは自身の身体のことで、色々試したのである。彼は勾玉の姿でも、ある程度自由に動くことができた。あの浮遊能力で、自分を手放そうとした真澄に引っ付いたわけであるが。

 その自己移動能力がどの程度なのか、夜の間に実験したのである。結果はというと、勾玉の姿だと自由に動くことはできるが、変身すると一歩も動けなかった。どうやら銃の姿で、空を飛んだりはできないらしい。


 だが武器としての機構を使うことができた。変身した後で、銃の姿で動けない身体。だがその状態で、発砲ができたのだ。

 裏路地の中で、地面に横たわったまま、まるで暴発したように銃弾を発射する拳銃。そのせいで罪なき市民の家の壁に、穴が開いてしまったが、小さな穴なので誰も気づかないだろうと、とりあえずこの件は片付けた。

 ただし身体は動けないために、自分で狙いを定めることはできない。しかも発射速度は、三秒に一発ずつ。これは自動拳銃としては、あまりに遅い。

 やはり使い手がいないと、充分な力を発揮できないようだ。ちなみにその時弾を撃ち尽くすまで撃ったが、それから一旦勾玉の姿に戻って、それから三十秒ぐらい経ってから再度変身すると、弾倉に元通りに弾丸が補充されていた。


『でもあれでどうするんだ? 自分じゃ狙いをつけられないし……』

『狙いをつけなくても、どうにかできる技があるでしょ? さっき真澄さんの獲物を台無しにたあの技……』

『ああ、成る程……』


「うん? ……これは?」

「ただの缶じゃないかしら? 異国じゃこういう入れ物で、果汁を飲むらしいし」

「あの小娘が捨てたのか? 意外と行儀が悪いな」


 異人狩りと思われる二人組の前に、何故か急にコロコロと何かが転がってくる。それを見て二人は一時足を止めるが、すぐに興味をなくして前に進む。

 その缶のような物=手榴弾を通り越して前に進む。彼らが通り越し、二人の背を送った辺りで、突如手榴弾のピンが外れた。誰が外したわけでもない、自動で勝手に外れたのである。このような手榴弾、地球にも存在しないはずだ。

 そして二人が歩を進め、手榴弾との距離がある程度開いた辺りで……


 ボン!


 手榴弾は派手に爆発した。ちらほらと人が通る、静かな街道が、急に爆音が上がり、そのすぐ後で人々の喧騒が広がり始める。


「なっ、何だ!? また眼妖か!?」

「いえ、穢れた者の気配は……あの煙は!?」


 これに当然、真澄たちも気づく。同行していたミルクも、音に驚いたのか、慌てて近くの茂みに逃げ込んだ。

 彼女らの後方、百メートル以上先で、大量の煙と土埃が舞い上がっている。そしてもう少し前に、二人の人間が倒れていた。あの異人狩りの二人組であった。


 背中から爆風を受けた二人は、その衝撃で前のめりに吹き飛び、倒れ込んで顔面を地面に激突させていた。

 手榴弾の殺傷半径から、ある程度離れた距離で爆発したために、一応死んではいない。だがあまり軽くない負傷をしており、背中に火傷を負った状態で、気絶しているようである。


「おいっ! 誰か倒れてるぞ!」

「何てことだ! すぐに病院に連絡しろ!」


 騒ぎを聞きつけた人々が、その倒れた二人に気づいて騒ぎ出す。すぐにその場に警官隊が駆けつけてくる。

 狩り場施設前の街道にて、昨日の眼妖出現に続いて、連日二度目の大事件である。


「今の爆発って……もしかして真澄さん、あの聖なる石を投げました?」

「聖なる? いや、投げてないぞ。ほら、ここにある」


 真澄は懐から、勾玉を取りだして見せる。確かにそれはこの場にあった。では先程街道での爆発は何なのか? 二人は何事か判らず、首を捻っていた。






『凄い早業ね。あの一瞬で、元に戻って、真澄の服まで移動したんだ』

『はははっ! 俺のこの身体の使い方も、大分慣れてきたな! これなら言葉で伝えなくても、あいつを守ってやれそうだ』


 陽気に笑う源一。今の街道爆破事件の犯人は、勿論彼。真澄に気づかれないように、勾玉形態で彼らの元に飛び、手榴弾に化けて、自己起動したのである。


『しかし……結構あんたも優しいのね。粉々に吹き飛ばすぐらい、訳ないだろうに。あの屑共を、距離を取って、ワザと殺さないようにするなんてさ』

『おいおい……。俺がそんな簡単にひとを殺すようなやばい奴に思えるか?」

『ええ、思ってたわ。あんな簡単に自殺なんてする奴だし』

『それは関係ないだろうが!』






 さて真澄たちは、例の爆破事件以降は、何事もなく、鉄士協会に辿り着いた。そして早速換金所にて、採った獲物を差し出すことにする。


「すまんが獲物の換金を頼みたい」

「はい、ではこちらに記入を……何も持ってないように見えますが?」

「大丈夫です! 私が持ってますから」


 手ぶら同然の状態で、換金を申し出る真澄に、担当した受付は怪訝だったが、すぐにそれは改められる。ルチルがあの次元収納で、獲物を次々と空間の穴から採りだしたのだ。

 大きな動物から切り取ったような、幾つもの牙・皮・蝙蝠羽・宝石のような鉱石等々。どれも真澄が、銃弾数発で倒した、無限魔から取りだした物だ。これには換金所の受付も驚いている。


「凄いですね……これは全部あなたが採ったんですか?」

「いえ……やっつけたのは真澄さんで、私は回復と荷物持ちを」

「へえ……さすがは今話題の……いえ、すぐに手続きをしますね!」


 受付は感心しながら、それを鑑定に回し、少し経ってから買い取り金の支払いを行う。


「素材の納入ありがとうございました! また今後とも」

「ああ、また頼む」

「ああ、ちょっと……」


 金を受け取り返ろうとすると、何故か受け柄が彼女らを呼び止める。


「失礼ですが、そちらの異人の方、前に新聞に載ってた、異国の宣教師ってあなたですよね? もしかして鉄士もやられていたんですか? 異人の鉄士なんて珍しいですけど」

「いえ、私はただ真澄さんとご一緒していただいてるだけで……」

「別に本当に鉄士だとしても、駄目ではないだろう?」


 受付の人の素性に口出しするような言葉に、真澄がやや不機嫌な様子で声を上げる。それを感じ取った受付が、慌てて頭を下げる。


「いえ、すいません! 最近異人狩りが酷くなってるから、つい心配してしまって……」

「異人狩りが? そうなのか?」

「異人狩り?」


 これは初めて聞く真澄と、異人狩りという単語自体を初めて聞くルチルが、同時に首を傾げる。


「今日の新聞読んでないんですか? 結構騒がれてますよ?」

「ああ、そういや読むの忘れてたな……判った後で見てみるよ」

「それがいいですね。お二人のことも載ってますし」

「「!?」」







 やがて宿に戻り、早速新聞を見る真澄たち。確かに今日の出だしに、そのことが大きく報じられていた。どうやら昨日と一昨日とで、警察が把握しただけでも、国内で二十件もの異人狩りが発生したらしい。

 ただ金を脅し取るだけのものもあれば、被害者が誘拐されて行方不明になっているものもある。その行方不明者数は、現在確認されているだけでも、既に十五人にも及んでいた。


「驚いたな……つい数日前に眼妖なんていう得体の知れない者が湧いてきたってのに、今度は異人狩りか……元々治安の悪い国ではあったが、ここ最近は酷すぎるだろ……」

「あの……その異人狩りっていうのは、前からよくあったんですか?」


 異人狩りの話しを聞いたルチルが、かなり怯えた様子で答える。自身も該当される、外国人を狙っての犯罪。これに彼女は、少々ショックを受けている様子である。


「ああ、この津軽王国はゼウス大陸のガルム王国と、交易を行ってるからな。異人の出入りも多くて、昔はそういった輩が、よく出たんだ。でも十年ぐらい前から、そういった事件はほとんど起こらなくなったと聞いたが……何で今になって?」


 この津軽王国で行われた異人狩りは、国にとっては下手をすれば、外国との交易の利益に大きな支障をきたす。実際それが過激化されたときに、ガルムの商人達が怖がって、この国に取引に来たがらなくなった。

 そのため津軽王国は、これの取り締まりに、どの犯罪よりも強く対処し、結果として異人狩りの横行は収まったのだが……


「そんなことが……じゃあ連れ攫われた人は? それにディークの方はいますか?」

「さあ? まだ何も書いてないが……そのうち身代金の要求でもあるんじゃないのか?」

「何だか……聞いてた話と違います」

「うん?」


 そのルチルの言葉は、どうも自分と同じ異人が被害に遭ってるのとは、別の意味でのショックがあるようだ。


「私は教会から……アマテラスの国々は天下太平で、とても平和で優しい国だと……。そんな国の人々なら、ロアの教えにも共感してくれるだろうと……」

「ああそれは恐らく津軽とは違う、有力国家とかのことだろうな。ここみたいな小国だと、少々事情が違う」

「そうなんですか……」


 どうもルチルは、色々と偏った情報を与えられて、この国に来たようだ。


「とりあえず今の世の中は、お前にとってはかなり危ないな。お前、すぐに国には帰れないのか? 何なら私が、お前を外ヶ浜まで送ってやってもいいが?」

「いえっ、それは無理です! これは私に与えられて大事な使命ですから! それに私には聖女としてのロアのご加護を受けてますから、大丈夫ですよ!」

「あんな誰もついてこないような布教が、そんなに大事なことなのか?」

「ええっ! それに今はあの穢れた者達もいます! 例え、誰もロアの教えを聞き入れてくれなくても、あの者達をどうにかしないといけないと思うんです! 例え信じる教えが違っていても、全ての人々を平等に救うこと。それが私の聖女たる指名ですから!」

「そうか……」


 勝手に己の使命感を作り上げて、熱く盛り上がっているルチル。これには真澄も諦めたようで、疲れたように息を吐く。

 どうやらしばらくの間、眼妖だけでなく、この頭の中が綺麗すぎる少女の身の回りを守ることも、自分の仕事になったようである。


「だったら……ここではなく、もっと治安の良い国に行くか? そのためにはそれなりに稼がなければ行けないが……」

「ええ、私も一生懸命……て真澄さんはそれでいいんですか? 何だか私の都合に付き合ってくれてますけど?」

「別にいいさ。どのみち、この国からは離れる気でいたし」


 何だかあっさりと、ルチルとの協力関係を引き受ける真澄。銃創に関して縁があったが、随分と過保護な話しだ。


「そうですか……あの、真澄さんはどうして鉄士を? 別にこの町で暮らしているわけではないようですが?」

「ああ、色々あって実家に居づらくなってな。それで丁度いいから、鉄士になって、各地の旅を楽しんでみようと思って、こうしてここにいる」

「色々……?」

「こっちの都合だ、詮索するな。それに只、旅をするためや、武者修行で鉄士をやる奴も珍しくはない。お前の国では違うのか?」

「いえ、それは私にはちょっと……」


 この二人の会話を聞いていた源一と小次郎。この会話に源一は、ふと疑問に思う。


『そういえば俺ら、真澄のこと全然知らないよな……。なあこいつって別に罪人とかじゃないよな?』

『ええ大体はね。ただ子供の頃に、随分と問題を起こしたみたいだけど。ある同年代の子を、散々苛めて、金をむしり取りまくったみたいよ』

『うえっ!?』


 この話には源一は引いた。何と一見世話焼きでいい人そうな真澄が、以前は過度のいじめっ子だったのである。


『その件はすぐにばれて、親から散々叱られまくって、その被害者の子に謝罪にいったみたいね。ぶんどった金も、親が肩代わりして支払ったみたいだし』

『家に居づらくなった理由ってのはそれか?』

『そうかもね。まあもう十年も前のことで、今更って気もするけど……』


 本当にそれだけの理由で、彼女は家を出たのか? 本人に聞けない以上、それもまた謎になりそうである。


「後……確かに私らのことも、新聞に載ってるな。何だか勝手に写真を貼り付けられるが……」

「これは……」


 新聞の紙面の別ページには、眼妖討伐に大きな貢献をした二人組の鉄士、真澄とルチルのことも大きく報じられていた。

 どうやら二人は、たった二日の間に、この辺りではすっかり有名人になってしまったようだ。



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