表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/62

第十二話 MK3

 朝になって真澄は早々に出かける支度を始めた。


「ルチル、私は今から狩りに出かける。だからしばらくここで留守番してくれ」

「えっ? 昨日あんなことがあったのに、もうですか?」

「昨日の治療費に加え、宿代が一人分増えて、早急に稼がねばならないんだよ……」


 これにルチルが、ハッとして苦笑いをする。


「じゃっ、じゃあ私も……」

「お前は一日安静にするよう言われたんだろ? まだ二十四時間経ってないから、後数時間待て」

「じゃあ、その数時間が経つまで、狩り場の外で待ってます! また昨日みたく、あの穢れた者が出てくるかもしれませんし!」

「まあ、安静に待つならいいか……昨日の鉄砲音もあるしな」


 実は昨日、この宿の近くで、不審な銃声を、多数の人間が聞いているのである。

 誰がどこで撃ったのかは不明。もしかしたら銃声ではなくて、小さな花火かも知れない。とにかくこの件で、警官達がこの辺りを警戒して巡回しているのだ。

 この件を考えると、この辺りに置いていくのも、あまり安全ではないかも知れないと、真澄は考えた。そのため今日は二人で狩り場に出かけることになる






 昨日も通ったあの狩り場の管理施設。昨日あれだけのことがあったが、もう調査は終わっているらしく、狩り場は開放されている。

 施設の中では、待機室にいつもより多めの鉄士たちがいた。狩った大地魔の死体を持ち込んで、ここで細かい解体を行っている者。ついさっき採った獲物の取り分を、色々議論しているものなど。

 昨日はたまたま狩り場の参加者が少なかったようで、今回は待機している物だけでも、結構な数がいる。


 そんな彼らだったが、その施設の中に真澄たちが入った途端、急に空気が変わった。

 侍風の女性と、神官風の偉人の少女。この二人の組み合わせを見て、皆一様に注目している。そしてすぐに意識的に目を背ける。中には、ひそひそと会話している者もいた。


「なあ、あの二人って確か……」

「ああ、最近この辺りに来た……」


 何事か話しているが、その内容までは聞き出せない。昨日とは違う施設の様子に、真澄とルチルは何事かと首を傾げた。


「真澄さんって……この辺りだと、有名な人なんですか?」

「いや、それはないだろう。私はつい数日前に、ここに来たばかりだ。むしろルチルの方が原因じゃないのか? お前の手当たり次第の布教は、新聞にも載ってたぞ」

「えっ、そうなんですか!? それはすいません……」

『いやいや、違うでしょ! 昨日あれだけ目立つまねしといて、今さら何言ってんの!?』


 昨日街中で蛇型人妖を射殺し、そのすぐ後でこの辺りで眼妖の群れを二人で殲滅した、真澄とルチル。

 その事実が頭に入っていないらしい二人に、小次郎は勢いよく突っ込むが、生憎彼らにはそれは伝わることはない。


「じゃあお前はここで少し待て……。少ししたら、獲物を持ってここに戻ってくるが」

「はい、いってらっしゃいませ♫」


 さてそんな風に、一旦別れようとしている二人。そしてこの時に、小次郎が少々焦った様子で、源一に話しかける。


『参ったわね……この子少し危ない奴に、眼をつけられてるみたい……』

『危ない奴? どこだ?』

『あっちよ……あそこで何も会話せずに、チラチラとルチルを見てる奴よ……』


 源一が視点(源一はマスミの懐にいるのだが、何故か外の様子が見える)には、待機室の椅子に座り込んでいる二人組の鉄士がいる。

 忍者のような身軽な黒装束で、頭に防具と思われる鉢金をまいた、三十歳ぐらいの男女の鰐人の鉄士。地球側の感覚だと、コスプレのような外観だが、鉄士には様々な種類の装束を着た者がいるので、別段浮いた様子はない。

 むしろ一人だけ西欧的な服を着ている、ルチルの方が浮いている。最も異人というのはそこまで驚くほど珍しい物でもないのか、彼女が特に注目される様子はないが。


 源一が見たときには、彼らはルチルから目を向けていなかったが、小次郎が言うには彼らはルチルを見ていたらしい。


『あいつらが? 何でやばい奴だと判る?』

『ついさっき、ちょっと気になって、審判の眼で、あいつらを鑑定したわ。あいつらかなりの前科持ちよ。窃盗・誘拐・密輸云々と、色々と手を広げてるわね……』

『へえ……』


 一目で犯罪かどうか判るとは便利な能力だと源一は思った。しかし何故ここでルチルが狙われるのか?


『どうやらあいつら“異人狩り”の常習犯みたいね……』

『異人狩り?』

『ええ……冥界で判事をしてる時に、時々アマテラスからそういった罪人の魂が送られてきたわ。どうもアマテラスじゃ、異人を狙っての強盗犯が結構いるようね。まあわざわざ異国まできて観光をする奴って、金持ちが多いみたいだしね』


 彼女はこれまでの布教活動で、多くの人の目に止まっていた。あれだけ目立てば、異人狩りの目にも止まりやすいだろう。

 それに奴らが知っているかどうかは不明だが、彼女が着ている法衣は、一生遊んで暮らせるほどの値打ち品である。


『うわっ……あいつこんな所に女の子一人置いていくつもりだわ。判っちゃいたけど、あの女、頭悪そうね』


 様々な素性の、武装した人間が大勢たむろしている、狩り場の管理施設。真澄はルチルの実力ならば、一人にしても大丈夫と思ってるのか? それとも本当に何も考えていないのか?

 病み上がりのルチルを、本当にここに一人で置いておくつもりである。


『全くしょうがない奴だ……しゃあないな』

「むっ?」


 突然ずっとマスミの懐の中にいた源一が、突然懐から飛び出した。自動で空中を飛び、勝手に離れる勾玉。

 今までは捨てても戻ってくる困った動きをしていたが、今回は勝手に真澄の元を離れたのである。


「うわっ!? えっ?」


 そして困惑するのはルチル。源一は蝿のように素早く飛び、ルチルの身体にくっついたのである。まるでバッジを差したように、彼女の服にへばりついているのだ。


「おいおい……今度はルチルか? 一体どういう原理で、人を選んでいるんだこれは?」

「……取れません? 急にどうしたんですか石さん? 何かお気に召さないことでも?」

「何話しかけてるんだ? それに意思があるわけでもないし……とにかく引き剥がさなければ」


 そう言ってマスミは腰の刀を抜く。施設の待機室で、突然抜刀が行われたことで、他の者達も動揺して、一斉に彼女を注視する。


「ちょっと、何をするんです?」

「服から切り取る。その服は自動で直るんだろ?」

「そうですが……しかしこれは……」


 源一は磁石のように吸い付き、彼女の皮膚に服を押し当ててくっついているのだ。これで切り取ろうとすると、彼女の皮を切り取りかねない。


「しょうがない……今まで見たく、何かの拍子で取れるかも知れない。その石はとりあえずルチルに預けるぞ」

「えっ!? ちょっと待って下さい! この石を持たずに行くんですか?」

「そうだが? どのみち使えないんじゃしょうがないだろう?」

「それはそうですけど……それじゃあ私も一緒に行きます! もしかしたら、危なくなったときに、また使えるようになるかも」

「いや、しかしな……」


 その場で少し口論になる二人。何のかんの言って、最終的に彼らは二人で狩り場に行くことになる。


『ふう……これでルチルを一人にせずにすんだな。いやしかし俺としたことが、即効でこんな名案を思い浮かぶとはな』

『どうでもいいけどさ……どうしてあんた、この子の胸にくっついてるわけ?』


 今源一が密着しているのは、ルチルの胸元。彼女の僅かだが膨らみのあるそこに、源一は力強く吸い付いているのである。


『何でって? こっちについた方が気持ちいいからだけど?』






「あっ、取れました……」

「またか? 本当に何に反応して動いているんだか……」


 狩り場の洞窟内部を進む二人。源一は急に彼女の胸から離れ、今度はマスミの手元に戻る。訝しげに思うが、今更引き返すのも何なので、このまま洞窟内を進んだ。


 昨日も通った地下の狩り場の道。今回は以前よりも鉄士が多いようで、至る所で剣戟や魔法と思われる爆発音が聞こえてくる。

 途中で狩りを終えた鉄士や、現在狩った獲物を解体中の鉄士とすれ違う度に、頭を下げて挨拶する。最初の層にいる無限魔は、あらかた先に来ていた者が狩ってしまって、リスポーンが間に合っていない。

 そのため真澄たちは、昨日より更に奥まで進んでいく。


「ここが狩り場……もっと薄気味悪いところだと思ってましたけど……」

「意外と賑やかなものだろう? 狩り場は、俺たちみたいな戦いしか能がない奴らにとっては、重要な仕事場だからな。人の出入りは多いもんだ。そういえば異国にも狩り場はあるらしいが、あっちではこんな感じじゃないのか?」

「いえ、私は狩り場に入ったことないんです。ディークだと狩り場は全部、教会が管理していて、神からの許可を得た者しか入ってはいけない決まりなんですが」

「全部、公務専用なのか? それは不便だな……おっ?」


 そこそこ奥まで進んで、ようやく無限魔と遭遇する。途中で誰かに狩られて皮や牙を剥ぎ取られた死体は、幾つも通りがかりに見かけたが、今回は誰の手もかかっていない、生きた無限魔だ。

 それは先日も戦った、あのトカゲ型無限魔だ。しかも今回は三体いる。道筋は以前通った道よりも狭く。三匹は互いに密集する形で、こちらに向かって威嚇している。


「とうとう来たか……むっ?」


 すると彼女が握っていた源一が、またもや変身する。今度は銃器ではなかった。


『あの狭い路地なら、爆発が一番だ!』


 彼が変身したのは、小さなスプレー缶のようなデザインの、妙な小物であった。スプレー缶なら噴射口がある部分に、金属製のピンが填められている。それは地球でのMK3手榴弾とよく似ていた。


「それは……何でしょう?」

「爆弾のようだ。握ってみると判る」


 無限魔達は威嚇をやめて、今こちらに突撃してきた。真澄は即座に、その手榴弾のピンを引き抜き、それを野球ボールのように、彼らに投げつける。

 無限魔達の目の前に落ちて、カラカラと空き缶のよう転がっていく手榴弾。無限魔達はそれを只のゴミのように認識したのか、興味を示さずに突撃する。

 トカゲの身体が手榴弾を跨ぎ、真ん中にいる一匹の腹の下に、手榴弾の位置が入ったときに、それは一瞬で破裂した。


 ボン!


 途端に起こる大爆発。この狭い地下道の中で、その爆音と爆風が響き渡り、マスミたちの元にも土埃と熱風が吹き荒れた。


「うっ……」


 爆風に対して、目に腕を構えて防護する二人。一瞬の爆発の後で、そちらに再度目を向ける。そこには血みどろのグロテスクな光景が広がっていた。

 体中に焼け焦げ、さっきまでその身体の一部であったであろう部分が肉体から分離し、あちこちに血と肉片がこの地下道に飛び散っている。

 手榴弾の近くにいた二匹は今ので即爆死。一匹は片足を失って、倒れ込んでもがき苦しんでいた。


「今のは……魔法なんですか? あんな威力の魔法、私の国だと、相当上位の魔道士の方にしか、使えないはずですけど?」

「うん……まあ魔法の道具を使ったんだから、魔法なんだろうな……おっ?」


 見ると真澄の手元に、勾玉の姿に戻った源一が無事帰還していた。先程爆弾になって吹き飛んでいたはずだが、今は無傷で真澄の元に戻っていく。


「粉々に吹き飛んだと思っていたが……どうなってる?」

「きっと神聖な魔具ですから、このぐらい大丈夫なんですよ!」

「そういうものなのか?」


 とりあえず倒した獲物の元へと行く。小次郎も彼女らについていきながら、源一に問いかける。


『あんた大丈夫なわけ? さっき派手にぶっ壊れてたけど?』

『ああ、ちょっと痛くて熱かったけど、全然平気だぜ』

『自己修復能力持ち……しかもこんな一瞬で? あんたのその器を作ったのって、何者かしらね?』

『さあな? もしかしたらあの子の言うとおりに、本当に女神様かもな。何しろ地獄とかも本当にあるぐらいだし』

『いえ、それはあり得ないわね。だって女神ロアってのは……』

「うわっ……これは駄目だな」


 小次郎が何か言い淀んでいる間に、真澄が落胆の声を上げた。藻掻いていた一匹に止めを差した後で、仕留めた獲物の検分をしたところ、その悲惨な状態に声を上げたのだ。


「これは駄目なんですか?」

「ああ、これだけ焦げてると、皮はもう使い物にならんな。肉も食えたもんじゃなさそうだし。こっちの奴の牙は、まだ使えそうだが……。しかし何故今回は鉄砲にならなかったんだ?」


 どうやら手榴弾は威力が強すぎたようだ。見るも悲惨な状況の死体を見て、真澄はガッカリしているよう。

 小次郎は先程の話しを中断して、源一に一声かける。


『とりあえず……次は普通に銃になっておきなさいよ』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ