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8.リベンジ!

「今日は普通にストレートのセミロングって言ったじゃん。なによこれ??」

 私がユリカに文句を言ったのは、頭の上の違和感に気づいたからだった。

 そして上を見上げて、その『違和感の原因』をちょいとつまみあげる。


「それって、アホ毛ってやつ?大丈夫、可愛いから」

 フタバは横から口を挟みながら、すっごいおなか抱えて笑ってる。

 その上私がつまんだその『アホ毛』をちょいちょいと指先でつついてるし。


 これ、絶対遊ばれてるよね。

 だいたい何が大丈夫なのか、謎じゃん。

 まあ、それはいい。

 というか、ホントは良くないんだけど仕方ないというか。


 それより、問題はこっち。

「ちょっと話があるんだけど、いいか?」

 ジャッキーだ。

 変なタイミングでいきなりだったこともあって、私はちょっと身構える。

 私はこの男子が、いろいろあってちょっと苦手なのだ。


 向こうもそれがわかっているのか、すっごくバツの悪そうな声のかけ方だったんだけど。

 フタバやユリカがいちゃまずいのか、来いって言ってるのかな?

 一瞬嫌な感じの間があって、こめかみのあたりから冷や汗が流れるのを感じた。


「何言ってんのアンタ。あんなことがあったばっかりなのに、ダメに決まってるでしょ!ダメ。ダメ。一生ダメ!!ばっかじゃないの!!!」

 いや、私はそこまで言ってないよ。

 横から口を挟んでまくし立て、喰ってかかったのは、フタバだかんね。

 それはそれで、別の意味で冷や汗ものだ。


「ひでえ・・・話しぐらい聞いてくれてもいいじゃん・・・」

 そう言われてもね・・・大人みたいに体がおっきいこともあって、近くに立たれるだけでも威圧感を感じるんだもん。


「あと、フタバは来たばっかだから知らないと思うけど、もっと前にも原因があるのよねぇ。ジャッキーも、忘れた訳じゃないでしょ?あれが原因でミルフィがやぼったい服しか着なくなっちゃったのよ」

 あ、ユリカ、その話もしなくていいから。


 実は私は、1年生の時に初対面だったのにいきなりスカートめくりのイタズラをされて泣かされたことがあるのだ。

 それ以来私は短いスカートは履かなくなった・・・と言うことになってるんだけど、ホントは魔法使いっぽいローブを着るようになっただけで、関係ないんだよね。


「あ・・・あれは先生にダマされたんだよ!俺が悪いんじゃない!!」

 ジャッキー、それ言い訳になってないよ。

「先生にダマされて女の子のスカートめくるわけ?そんなわけないでしょ!フタバも言ったけど、あんた本物の馬鹿じゃない??」

「いや、ホントに先生が言ったんだよ!」

 そして、ジャッキーはこう続けた。

「『人の嫌がることをすすんでやりなさい』ってな。」


 それは普通、人がやりたがらないような面倒な事とか大変なことを引き受けろって言う意味だよ。

「・・・それでミルフィが嫌がるスカートめくりをしたわけ?違うでしょ??」

「ゴメン、そういうギャグを思いついたんで思わずやっちまった・・・」

 あ、分かってたわけね。そんな理由で私はスカートをめくられたのか・・・

むう。


この話題、いつまで続けても意味はなさそう。

「もう、3年も前のことはいいから。で、話を聞くだけ聞いてあげるのは私としては構わないんだけど・・・でも、・・・」

私はその続きの『1対1になるのはこわいからイヤ』っていう言葉を、口ごもって飲み込んだ。

さすがに失礼だと思ったからだ。


それを、困ったことにフタバが勝手に『異訳』した。

「この間のリベンジさせてくれたら話だけは聞いてあげるってよ」

「リベンジって?」

「魔法戦のルールで、この子と対戦すんの」


「魔法戦って、素手か杖での攻撃はアリなんだっけ?」

「ルールではアリだけど、あんたはダメ。あんたに殴られたらこの子泣いちゃうでしょ!」

「それ、ただのサンドバッグじゃん・・・」

「これから魔法の練習したらいいんじゃない?今日の放課後までしか時間ないけど」

「ひでえ・・・」

私ぬきで、なぜか話が出来上がっていく。


ていうか、戦士系の子にそのルールは私が聞いててもひどいと思うよ?

「そんなルールなら私もやってみたいわ」

ユリカまでそんな・・・

「お前ら、見かけによらずえげつないな」

だから私は違うってば。えげつないのはフタバとユリカだけ。


「別にいいのよ?あんたが嫌ならこの話はナシってことで。」

あいかわらず、私は話の外。

「くそっ、わかったよ、やればいいんだろ、やれば。そのかわり、勝敗と関係なく話は聞いてくれよな。絶対俺に勝ち目はないんだし」


あ、受けちゃうんだ・・・

ちなみに私が逆の立場だったら、そんな条件絶対受けないけど。

そんなわけで、私は自分の意志とは関係なく『リベンジ戦』をやることになってしまった。

あんまり気は進まないんだけどね・・・。


で、その日の放課後、闘技場の使用許可と『守護の腕輪(Lv2)』の貸し出しを受けた。

あと、安全対策は出来ているとはいえ子供だけでの試合は危険なので、フランソワ先生が立ち会ってくれることになった。


「本当に、そのルールでやるんですか?」

と、フランソワ先生もちょっと困惑顔。

「合意してますから問題ありません」

ユリカは真顔で言うんだけど、あれは合意って言うのとはちょっと違うと思うよ?


あ、そうそう、私がためらってたんで、先にユリカが行くことになった。

これはジャッキーもフランソワ先生には聞こえないようにぼそっと言ってたんだけど、ユリカはホントは関係ないんだけどね。

「じゃあ、はじめてください。危なそうだったら止めますからね」


シュミット先生の合図と比べると、なんとも間の抜けたやる気の出なそうな合図だけど、ともかく、試合開始だ。

そういえばジャッキーって何か魔法使えるのかな?

基本的に、魔力が全くのゼロって人はいない。

だけど、魔法を発動できるかどうかって言うのは別問題で、魔法使い志望の子だって私らの学年だとまだ使えない子も結構いるぐらいには難しい。


けど、実際フタバはちょっとした魔法は使ってるし、ジャッキーなんて同い年とは言え規格外のかたまり みたいなもんだから、実はものすごい攻撃魔法を隠し持ってました、なんてオチがある可能性も完全には否定できない。


そうすると、下手すると返り討ちにされたりして。まさかね・・・。

それで試合の中身の方だけど、一見してどっちも何もしていないように見えた。

あれ、ユリカなんかあせってる?

よく見ると呪文の詠唱は何度もしてるのに、魔法が出ない。


「ごめんな。俺もただのサンドバッグはやだからさ」

って言ったところを見ると、ジャッキーがなんかしたんだと思うんだけど。

ユリカはかなりパニック状態みたいだ。

あわてて呪文を詠唱しようとするんだけど、速くし過ぎて舌を噛みそうになってるし。


「いいこと教えてやろっか?魔法を封じてるわけじゃないから、だいたい10メートル以上離れると魔法使えるし、発動さえしちゃえば範囲内でも効果がないわけじゃないぞ」


うわ、弱点までしゃべっちゃうとか余裕だし。

でも10メートル以上離れると使える、ってことは空間に対して魔法を使えなくしてるってことだ。

例えばだけど、『火球』の魔法を発動させるとしたら、発動直後よりもある程度の大きさになってからの方が当然エネルギーは大きくなる。


で、発動自体をとめちゃうってことだから、魔法が発生して大きくなってから打ち消すよりも簡単だっていう事でもある。

相手の魔法を封じるわけではないから相手に抵抗される心配もない。


「ユリカ、だったら外よ。闘技場の半径は10メートルよりおっきいから、一番離れたところからなら『火球』でも何でも撃てるはずよ!」

フタバはそうアドバイスしてたけど、多分それは、適切じゃないと思う。


そのアドバイスのおかげで、ユリカはさんざん走らされるハメになったし、ジャッキーの方はと言えば中央の近くをほんの数歩移動するだけで10メートル以内に近寄ることが出来る。

結局5分間、ユリカは一度も魔法を発動させてもらうことは出来なかった。

ジャッキーの方もいちおう『有効打』は一切ないので引き分けではあるんだけど、事実上で言ったら明らかにユリカの負けだ。


ユリカはものすごく息を荒くして悔しがってたけど、多分あの調子だと時間がいくらあっても勝つのは無理だったと思う・・・。走りすぎて今にも倒れそうだしね。

これ、無策で戦ったらユリカと同じ結果にしかならなそうなんだけど・・・


あ、そんなことないか。『あの方法』なら。

私はひらめいてしまったのだ。ちょっとズルいとは思うけど。

「俺は疲れてないからすぐでもいいぞ」

ジャッキーったら全然余裕みたい。


私たちからしたらホントに怪物みたいなもんだわ。

こんな怪物相手にするんだから『あの方法』使ってもいいよね?

「それじゃあ、第二試合もはじめてくださいね」

というフランソワ先生の合図で私の試合も開始。


多分この時の私の顔はちょっとニヤケていたと思う。

ズルいって自分でも分かってたからね。

戦士系の子の使う魔法がどんな感じなのか、フタバの時の例で考えたら、魔法を発動してる最中は素早く動くことは出来ないはずだ。


そしてジャッキーは、本来は魔法戦でもアリのはずの素手や杖での攻撃は使えない。

けど、私の方はそれを禁止されていないのだ。

・・・ってことは、もうこれしかないでしょ。


私はおもむろに歩いて行って、ジャッキーのむこうずねを木靴で思い切りけり上げた。

「・・・ってえっ・・・」

鍛えることのできないところへの攻撃はさすがに効いたのだろう。木靴だし。

ジャッキーは片足立ちになって蹴られたところを手で押さえてたし、守護の腕輪の方もちゃんと反応して赤く光っていた。

私の勝ちだ。


「何よミルフィ、考えてることはあたしらよりヒドイじゃない!」

 なんてフタバは言ったけど。そんなことないよね?

 勝てそうな方法、他に思い浮かばなかったし。

 これにてリベンジ完了っと♪


次回の更新は10月29日(土)の予定です。

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