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5.ミルフィvsジャッキー

 そして翌日、フタバがフランソワ先生に紹介されると、教室は大騒ぎになった。

 まあそうなるよね。

 なんたって『勇者様の弟子』だからね。


 あと、フタバが孤児だったこと、隠しといた方がいいのかなあ、と思ってたけど自己紹介で本人が話してしまっていた。


 あ、そうそう、この世界の子供は、みんなが学校に行けるわけじゃない。

デリルという名のこの町の中でも学校に行ける子はせいぜい半分くらいで、もっと田舎の方だとそもそも学校がない。


 ちなみにパパと私がラマルクという田舎町からこの町に引っ越してきたのも、私を初等学校に入れる為なんだよね。

 フタバは孤児だったせいでこれまで学校に行っておらず、4年生から編入ということになる。


(そういえばフタバはしゃべり言葉がちょっとあやしいところがあるから、ちょっと教えてあげた方がいいかも)

 なーんて思っていると

「フタバちゃんはミルフィとちっちゃい頃からの知り合いだそうなので、学校の事いろいろ教えてあげてね♪」

 と、先生に押し付けられた。まあいいけど・・・


 そんなわけでフタバの席は、私の隣になった。

 ちなみに私の後ろの席はユリカなんだけど、仲のいい子同士が初対面の時ってうまくいってくれるかどうかちょっとドキドキするよね。

 うまくいってくれないと後が大変・・・。


 でもこの2人に限って言えばそういう心配は全くなかったみたい。

「フタバちゃん髪キレイね~。触らせてもらってもいい?」

 って言ってさっそく髪の毛いじり。フタバも全然嫌がるそぶりは見せなかった。


 それにしても・・・

「ユリカってばそこから!?」

「ふふ。終わったらミルフィのもやったげるから♪」

 そういえばこの子、1年生の時私に初めて話しかけてきたときもそこからだったわ。


 しかもあの頃は今ほどうまくできないから、かなり変な髪形にされてしまったという・・・

「まず手始めはシンプルなところからかな・・・」

 そういうとユリカは、あごのラインぐらいまでしかない、本当はまとめる必要があんまりなさそうなフタバの髪をツインテ風にしていった。


 まだ伸びきってなくて無理やりです、って感じのツインテール。

 でもかえって可愛い・・・


「あれ?フタバ、その髪飾り・・・」

 私が言ったのは、剣をかたどった金色の髪飾り。

「ああ、これ?これ、ホントはミルフィのとセットなんだよ?」

 私のってことは、この三角帽子のアクセサリーのことだ。

「これってラルフお兄ちゃんにもらったやつだけど、じゃあ・・・」

「そう。ラルフお兄ちゃんが2つセットで買って、あたしにくれたのがこれ。しんちゅうでできてるんだって」


 そっか。じゃあ私と一緒で5年間ずっと大事に使ってるんだね。トレードマークみたいなもんだ。

「へえ、そうと聞いたらミルフィもおそろいの髪型にしなくちゃね」

 どうやら私もツインテにされるようだ。フタバよりはだいぶ髪が長いからホントのおそろいではないけど。


 ほとんど毎日やってるだけあってさすがにユリカは手早くて、すぐに完成。

「うん、ミルフィもかわいくできた♪」

 このタイミングで鏡を見るわけにはいかないけど、今はユリカの言葉を信じることにしよう。


「ほらそこ!そろそろ授業を始めたいから静かにしてくれると先生うれしいな♪」

 あ、やばい。

 いつのまにか朝の会も終わってるし、さすがにおしゃべりしすぎた。


 そんなこともあったので、その日の語学の授業も一番最初に指されたのは私だった。

 ユリカやフタバが指されたってよさそうなもんだけど、なぜか私。

 うーむ・・・。


 そして、とうとう来てしまった模擬戦の授業。

 目一杯がんばってきたつもりだけど、それでもやっぱり不安だったりする。

 まあ、やると決めたり不安になったりはこの1週間ずっと繰り返してきたことなんだけど、うっかりしてるとすぐそんな風になっちゃうから、もう一度気合を入れ直さないと。


 そんな状態だから、シュミット先生のルール説明もあんまり耳に入ってきてなかった。

 前もってルールの確認はしてたからそれは大丈夫だったはず・・・あれ?

「じゃあ、対戦する子は始める前にこの腕輪を身につけるように」


 シュミット先生にそう言われても、私は??って感じだった。そんなルールあったっけ・・・。

「こらミルフィ、おまえ一番最初なんだからちゃんと話聞いてないと怪我するぞ」

 怒られちゃった。


 けど、わかんないままやれ!みたいなことはなくて、ちゃんともう1回説明してもらえたから良かった。

 シュミット先生は「怪我するぞ」なんて言ってたけど、この腕輪は「守護の腕輪(Lv2)」っていうアイテムで、剣も魔法も一定以下のダメージを完全に防ぐ、むしろ怪我をさせないためのアイテムだ。


 まあ大人の本物の剣士や魔法使いが本気出したら防ぎきれないだろうけど、私ぐらいの魔法なら全然通らないし、剣はそもそも木刀に分厚い布まで巻いてあるから、こちらもダメージにはならなそうだ。


 ただ、模擬戦の時は『痛みだけは感じる設定』にしてやることになってるらしい。そうじゃないと本気出さない子もいるからかな。

 ちなみに設定を変えれば痛みも感じない設定にもできるらしい。

 というか、本番で使う場合、普通はそうする。


 ともかく、この腕輪だけはホンモノの冒険者さんたちが使っても十分効果が期待できそうな高価なアイテムだってことは間違いなさそうだ。

 あと、本来受けてるはずのダメージが分かる仕様になっていて、ある程度以上のダメージになると腕輪が赤く光って負けになる。

 この部分だけは特別な『学校仕様』だ。


 そして、闘技場の中央でジャッキーと向かい合う。

 こうして見ると、ホントに大人みたいにでかいわこいつ。

 身長で私より頭一つ分以上、体重でだいたい2倍くらい差がある。

 その相手が本物じゃないとはいえ剣を装備して目の前に立ってるんだから威圧感は半端じゃない。

 気合負けしちゃわないように、私は自分の作戦を一つずつ確認していく。


 まず開始直後に気を付けること。

 次に『固い風』で相手の動きを封じること。

 あとは5分間ペースを乱さずにそれを続けて、チャンスが来た時だけ『砂漠の嵐』だ。


 その作戦を、私は誰にも聞こえないように何度か口の中でつぶやいた。

 確認するっていうより、緊張を止めるためだ。

 「手は抜けねえから、無理と思ったら早めに降参しろよな」

 ジャッキーにはそんなことを言われて、いつもだったらカチンとくるところだけど今はそんな余裕もない。


「腕輪があるから大丈夫。腕輪があるから大丈夫。腕輪があるから大丈夫」

 私は3回、言った。

 返事と、自分に言い聞かせる為、それに再確認の意味でもう1回。

 そして、大きく息を吸い込む・・・。

 それからシュミット先生の合図で試合開始だ。

 

 私はその直後、まず「わっ」と大声を出した。

 同時に『変声』の魔法で音を大きく、そして低く変えてやった。

 空気中を伝わる音の波を増幅したり波長を変えたりすることが出来る魔法だ。

 いつもの私の声とは全然違う重低音での大声で、まずは怯ませることに成功。

 そして『固い風』作戦もまだジャッキーにはばれてないはずだから、あからさまであってもまずは相手の目の前に素早く壁のように『固い風』を連発する。

 

 ジャッキーが剣を振り下ろすよりも前に体が引っかかった感じがするから成功だ。

 でもジャッキーも優れた剣士だからそのまま体で『固い風』を押しても簡単には突破できないってことは感覚ですぐにばれてしまう。

小さく一歩引いてから改めて攻撃して来ようとする。


 この攻撃をまともに間に合わされちゃうと一気に不利になっちゃうから、私の方は次の作戦を実行する必要がある。

 私はまず、最初に出した『固い風』を意図的に消した。

 発生させた魔法はそのままにしておくと少しずつ効果が薄れて消えていくけど、強制的に解除することも可能だ。


 このことで、勢いをつけて壁に攻撃しようとしたジャッキーは肩透かしされたみたいな感じになる。

 そこに合わせ、足元に新しい『固い風』を発生させた。

 そしてそれより私の手前側の腰ぐらいの高さの所にもう一つ。

 攻撃しようと思ったところに壁がなく、その一歩ぐらい先に足元にだけ引っかかるものがあったらどうなるか。


 そりゃ、つまずくよね。

 それが私の狙い。

 その狙いはズバリ当たって、ジャッキーは足元の『固い風』に引っかかって転倒した上に、腰ぐらいの高さの『固い風』に顔面をぶつけた。


 これはちょっと痛いはず!

 一瞬、(これで勝てた?)と思って先生の方を見たけど、反応はないし、腕輪も光っていない。

 そっか、『固い風』は触れるけど透明で見えないから、有効打にはならないんだった。

 ダメージ自体もほとんどないしね。


「へへ、なかなか面白いことするじゃん」

 あら、やっぱこのぐらいじゃ余裕がありそう。

 でも勝てないなら勝てないで、5分間ペースをつかみ続けて引き分けを狙うのが私の作戦だから、私としては休まずに続ける必要がある。


 だから改めてジャッキーの体の直近に『固い風』を発動!

 けど、同じ作戦だけでずっと通用するほど甘くはなかった。

 私が魔法を唱えると同時に片足を軸にもう片方の足だけ半歩引いて小さい範囲で回転を利用して剣を振り、発生した瞬間には『固い風』が次々に破壊されていく。

 いくら私が詠唱の速度に自信があると言ってもブンブン剣を振り回す速度と競争するのはさすがに無理がある。


 このままではどうにもならないので私は横方向に移動・・・と見せかけて、もう一度ジャッキーの足元に『固い風』を発動。

 全力疾走しながらの魔法の練習の成果だ。

 よし、引っかかってくれた!

 私は転倒するジャッキーと、今度は一気に距離を詰めた。


 転んだところの真上に大きな『固い風』を発生させれば立ち上がってくるまでに時間が稼げる。

 そこへの『砂漠の嵐』が狙いだ。

 けど、ジャッキーは倒れかけながらも剣撃を出してきた。


 (普通こんなところから反撃できる??)

って角度だ。体幹がよっぽどしっかりしてるんだろう。

 私はあわてて真後ろに飛びのいた。

 危なかったけど、何とかかわせた。

 1週間の訓練でだいぶ体力はついたはずだけど、さすがに息が切れてきている。


 考えてきた作戦も、あまりにも早く対処されすぎてネタが切れそう。

 なんとかあせりを悟られないようにしないとまずい。


 ジャッキーは仁王立ちしている。

 『固い風』はさっきのように剣撃の速さとの勝負になったら勝ち目がない。

 蛇に睨まれた蛙、ってホントにこういうことを言うんだろう。

 気が付くと、打てる手が何もなかった。

 じりじりと後ずさる。

「そろそろこっちからも行くぞ」

 私は、ぶるっと体が震えた。

 この後は、思い出すのも嫌なぐらいの猛攻に晒されることになった。


 次々と繰り出されるジャッキーの早くて重い剣撃を、一つ一つ丁寧に『固い風』で防いでいく。

 でもさっきまでの、相手の体のすぐそばに発生させるのとちがって完全に守り一辺倒だから、もはや反撃につなげることが出来ない。

 こうなったらもう無理だ。

 早く降参しないと・・・。


 そうだ、この試合の前にジャッキーにも無理と思ったら早く降参しろって言われてる。

 けど、怖くて声が出なかった。

 そのうちに腰が抜けて、逃げることもできなくなった。

 『固い風』のガードが間に合わなくなったら多分死ぬ。


 腕輪の効果で死ぬようなダメージは受けないだろうけど、きっとショック死する。

 何でこんな勝負、受けちゃったんだろう・・・

 今日になってからだって、怖くなったからやめるって言ったら無理やりやらされることはなかったかもしれないのに。


 死ぬ人が寸前に見る走馬燈っていうの?それも見えたような気がした。

 ダメだ。もう『固い風』の集中力も続かない・・・

 !!

 散漫になった私のガードを突き破ってジャッキーの突きが私のみぞおちに入ったのはその直後だった。


「あぐ・・・・・・」

 冷静に考えれば、ほとんど痛くはない。

 腕輪の効果は体へのダメージを防いでくれるだけで痛みは防いでくれないはずなのに。

 シュミット先生がジャッキーの勝ちを宣言する。腕輪は光ってなかったけど、寸止めしてくれたのは明らかだったからだ。


 もう終わったはずなのに、腰は抜けたままだし震えも止まらない。

 奥歯もガチガチ鳴りっぱなしだ。

「いつまで恐がってるんだよ」

 ジャッキーは私に右手を差し出してきた。

 そうだ。礼に始まり礼に終わる、だった。


 ちゃんと握手には応じないと・・・でも、立てない。

 私も右手を差し出して応じると、ジャッキーは腰を抜かしたままの私を引っ張り上げた。

 それでもまだ、ヒザは震えたままだ。


 なんとか震えを止めようとしているとこへ、ジャッキーが私に耳打ちしてきた。

 (お前、いつのまに水魔法も得意になったんだ?)

 ・・・?

 最初、何のことか意味が分からなかった。

 けど・・・我に返るとお尻がぐっしょり濡れていることに気がついた。


 さっき猛攻を受けたときに私は怖くておしっこを漏らしてしまっていて、それをからかわれているのだ。

 なんとか嘘だと思いたかったけど、内股を伝う雫がそれを許してはくれなかった。

 おもらしなんて、初等学校に上がってからしたことなんてないのに。

 悔しくて、恥ずかしくて、涙が出てきた。


 私は空いていた左手でジャッキーの頬を思い切り引っ叩いた。

 声は出ない。

 声を出したら号泣してしまいそうだった。

「ゴメン、もうからかわねえよ」

 ジャッキーはそう言った。

 確かにこの後、このことでからかわれることはなかったけど、この時の私はどう反応していいのか分からなかった。


 この日、私は先生に言って、先に帰らせてもらった。

 この日の事は、早く忘れてしまいたい。ほんとに。


次回の更新は10月16日(日)の予定です。

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