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4.ミルフィvsフタバ

 それからの訓練は前日まで以上にたくさん走ったりしたけど、体がだいぶ慣れてきたのか、筋肉痛なんかはだいぶマシになったし、食欲も出てきた。


 毎日走るコースは同じだったから、だんだん町の人に挨拶されたりもするようになったりしてちょっとうれしい。そういう時ってやる気もアップするよね。


 空気がおいしい、って言う人がいて今までは意味が良くわからなかったんだけど、何となくこういう事なんだろうなあ、と思う。


 あと、『熱風』を発動してから『砂埃の風』を後掛けで重ねる技『砂漠の嵐』を練習。

 これをやると単なる『熱風』よりもダメージが取れるはず。

 熱くなった砂粒が直接当たるからね。


 ただ残念なのは『熱風』が瞬時発動ではあまり意味がないのでせっかく練習した『全力で走りながらの発動』ができないことだ。

 つまり大きな隙ができるってことだから、よっぽど余裕のある局面で使うか、逆に他に手がなくなった時にイチかバチかで使うかぐらいしかないからね。


 ただ、最後に決める技が他にないから、この技の出しどころがなければ最後まで逃げ切って引き分けに持ち込めれば私としては上出来だ。

 失敗しても反撃される恐れのない終了時間寸前にぶっぱなす、なんていう手もないことはないけど、時計を見ながら戦うほどの余裕があるとはとても思えない。


 で、今日がラルフお兄ちゃんに言われてた日。

 旧王城の、闘技場で私はフタバと対峙していた。

 当たり前だけど、学校の施設よりすごく立派。

 つまり特訓の仕上げに学校の模擬戦と同じルールでフタバと対決するようにお兄ちゃんに言われたのだった。


 フタバの武器は分厚い布が二重に巻かれている小さめの木刀と盾。

 安全ではあるんだろうけど、あれで殴られたらやっぱり痛そうだ。

「もしあたしに勝てたらきっと明日も楽勝だよ。まあ、ミルフィに負けてあげる気は全然ないけどね~」

 うわ、フタバったらすごい自信。


 まあ、勇者様であるラルフお兄ちゃんに稽古付けてもらってたらそりゃ強くなるよね。

 ジャッキーとくらべてどっちが強いかは、私にはわからないけど・・・。


 あと、ビックリしたのは観客がすごかったこと。

 それも全員がこの宿屋に泊まってる現役バリバリの冒険者さんたちだ。

 なんかそれだけでも緊張する。


「フタバちゃんがんばれ~」

 誰かがそういうと、場がわっと盛り上がった。

 これ、ちょっとしたアイドルレベルだよ!?

 完全にアウェイだと思っていたら、他の誰かが


「もう片方の子もスゲー可愛いぞ」

 って言ってくれてまたわっと盛り上がる。

 こういう場じゃなければ引いちゃうところだけど、こんな風に緊張しちゃう場面では応援されるってのはそれだけでもうれしい。


「じゃあ、ルールの確認を行うよ」

 場を仕切るのは、もちろんラルフお兄ちゃんだ。

「剣撃も魔法も、まともに一発入るか寸止めまでもっていったら終わりでそれ以外は全部無効。試合時間は5分で判定はナシ。つまり時間切れは全部引き分けだ。学校ほどちゃんとした安全対策はできてないから怪我には十分注意してね」

 私とフタバはほとんど同時に小さくうなずいた。


 開始時の二人の距離は5メートル。実際こうして向かい合ってみると思ったよりも近い。

 下手をすると始まって一瞬で負ける距離だ。

 『固い風』で壁を作って相手の動きを封じながら戦うと言う基本戦術は決まりだけど、その為には常にこちらがペースを握り続ける必要がある。そもそもが魔法使いに不利なルールなんだから仕方ない。


 お兄ちゃんの合図で試合が始まると、まず私は『砂埃の風』を正面と足元に2発連続で放った。

 要するに目つぶし狙いなんだけど、一発目は怯ませるのが目的、そして2発目は地面から本当の砂も一緒に巻き上げてさらなる目つぶし効果を狙うのが目的だ。


 これでフタバの出鼻をくじくのは成功。ふふ。私の風魔法はこないだ教えてあげた『固い風』だけじゃないのよ。

 とはいえやっぱり次に使うのは『固い風』だ。


 フタバが怯んでいるすきに一気に近づき体の真正面に大きめの『固い風』を発生させる。

 フタバはそれを、何度も剣を振るって壊そうとしている。

 その間私は次の準備。フタバの左右にも『固い風』を発生させた。これで横には逃げられない。


 フタバは最初の大きい正面の『固い風』を必要以上に攻撃している。

 すごくスキが大きいからチャンスなんだけど、なんで・・・?


 一瞬考えて、わかった!

 多分あれは、『固い風』を壊すと私が頭痛でダメージを受けると思ってやってるんだわ。

 こないだフタバが魔法使ってた時そうだったからね。


 でも最初の『固い風』からはもう意識を切り離しているから、実際には私がダメージを受けることはない。

 この間に私はフタバの後ろ側に、そして仕上げにフタバが必死で壊している『固い風』のさらに内側にもう一つの『固い風』を発生させた。


 これで四方への動きを全部封じることができたから、大チャンス!!

 ここで仕上げに『砂漠の嵐』よ。ちょっと熱いかもしんないけど我慢してね。

 この状況なら『走りながらの詠唱』も不要だから、魔法の発動さえ間に合えば確実に勝てるはず!!

 でも残念ながら、正面や左右に比べて私からの距離が遠かった後ろ側の『固い風』が薄かったのがばれて、すんでのところでそこを破られてかわされてしまった。


 おしい。後ろの壁も、先に回り込んで至近距離で作っとくべきだった。

「ミルフィなかなかやるじゃない。でももう同じ手は食わないわよ」

 フタバはにっと笑った。

 こんな風に1回決めそこなうと、魔法使い側は最初からもう一度、優位をちょっとずつ積み重ねていかないとならない。


 逆に一瞬スキを見せればすぐに負けちゃうわけだから、わかってはいたけど、やっぱりすごく不利なルールだ・・・

 ましてや私の『決め技』は一つしかないんだからなおさら。

 けど、今はそんな事言ってる暇はない。


 常に何らかの魔法で相手の動きを封じ続けないとならないから早く次の手を打たないと。

 私はもう一度『固い風』を発生させて、フタバがそれを殴ろうとする瞬間にポイントをずらす感じで前に押し出した。


 本当はそれで転倒させたかったんだけど、フタバの盾にうまくさばかれた。

 その後、『固い風』の威力よりも魔法の発動の数を優先させて何が何でも一定以上の距離を保とうとしたんだけど、フタバはそれを破壊しようとはせずに盾で受け止めたまま、滑らせるように横に移動してきた。


 これなら『固い風』自体はこわれないんだけど、無理やり押し込んでくるから渦巻き状に移動して少しずつ距離を詰められてしまう。

 一周してくるころには古い方の『固い風』の効力はなくなってるし。


 これ以上近づかれるとまずいと思い、後ろに飛びのこうとするけど、フタバにうまく足を引っかけられて、私は盛大に後ろに転倒した。


 後から聞いたんだけど、戦士系の子って剣の使い方だけじゃなく、こういう足技の訓練なんかもちゃんと受けてるらしく、「ソードレスリング」なんていう呼び名まであるらしい。


「きゃあっ」

 と私が悲鳴を上げて仰向けにひっくり返った瞬間には、フタバに馬乗りになられてのど元に剣の切っ先を向けられていた。

 (負けちゃった・・・)

 それから私もフタバも最初の場所に戻り、2人同時に

「ありがとうございました」

 と一礼。武道ではこういう時でも礼が大事らしいので、私もそれに従う。


 最初はパラパラと、そして次第に拍手が大きくなる。

「二人ともよかったぞ」

 誰かがそう言ってくれて。

 私もフタバも子供だからというのは当然あったと思うけど、観客(野次馬?)の皆さんの反応はほぼみんなが好意的だった。


「ミルフィおもったよりやるじゃない。あたしもちょっと危なかったわ」

 フタバが右手を差し出してきたので、私も握手に応じる。

「ありがと。でもやっぱ、フタバはスゴイね」

 正直な感想。

 私もラルフお兄ちゃんと一緒に旅してたらもっとすごい魔法使いになれてたかも・・・なーんてちょっと思ったりもしたけど、やっぱりそれは無理。

 私にはパパがいるからね。


「でも、これだったら明日はいい勝負できるかも。相手の子の事は知らないけど・・・」

 これ、励ましてくれてるのかな?

 フタバと私は同い年なんだけど、昔っから私の事を妹扱い?みたいにする。

 けど、不思議とそれが嫌と思ったことはあんまりない。


「あ、そうそう、まだミルフィには言ってなかったけど」

 と、不意にフタバが切り出した。

「明日からあたし、ミルフィたちとおんなじ学校に行くことになったんだ」

「ほんと!?」

 これはいきなりだったんで、すごくびっくりした。


「ホントホント。だから明日の試合はあたしも直接おうえんしちゃうからね!」

 これは心強い。

 じゃあ私の代わりに戦って、って気もするけどそれは言いっこなしだ。

 これまで1週間せっかくがんばってきたから。


 それにラルフお兄ちゃんも

「結果は気にしないでいいから頑張って来い!」

 って言ってくれたし。

 これ以上ない準備ができたと思う。

 その後、この日もフタバがマッサージをしてくれて体調も万全!

 さあ、明日もがんばるぞっ!!


次回の更新は明日10月9日(日)の予定です。

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