45.チェルニィ救出作戦⑤
0話をまだ読んでいない方はそちらも読んでみてもらえるとうれしいです。
すごく居心地の悪い石畳の上で毛布すらない状態だったけど、私たちはその夜、ぐっすり眠ることができた。
次の日が大変なのはわかってるから、本能的に今はちゃんと体を休めておかなきゃ、って感じてたのかもしれない。
夢すらぜんぜん見ないほどだったからね。
あと、比較的あたたかい季節だったのも不幸中の幸いだった。
それですらやっぱり石畳は冷たくて、3人で身を寄せ合って寝たぐらいだから、寒い季節だったら凍え死んでも不思議はない。
もっとも、寒い季節だったら毛布ぐらいはあるのかもしれないけど・・・。
そんな状況ではあったけれど、昨日さんざん叩かれたお尻を除けば特段痛いところもなく、あっという間に朝は訪れた。
陽が差し込まないから全然時間のがわからなくって、まだ夜中なんじゃないかと思ったぐらいだ。
だけどこれで私とフタバはここを出られる。
もちろんその前に、チェルニィに声をかけるのを忘れない。
昨日と同じように。
「絶対に助けるから待ってて!」
ってね。
そしてフタバは、
「借りを作って返さないままなのはあたしも性に合わないかんね!」
って続ける。
「いいわ。あんたたちを信じてあげる!」
チェルニィはやっと笑顔を見せてくれて、私と、それにフタバと順番に握手をした。
それは昨日とは、明らかに違う反応だった。
あとは、私たちが頑張ればいい。
きっと、うまくいく。
そのはずだ。
それから、釈放された私たちをラルフお兄ちゃんが直接迎えに来てくれた。
ラルフお兄ちゃんが差し伸べてくれた手を、私とフタバはちょっと迷ってからギュッと掴んだけど、口は真一文字のまんま。
「お灸が効きすぎちゃったみたいだな・・・けどな、お前らあそこであの状況で人に怪我させりゃ、言い逃れのしようがないぞ」
ラルフお兄ちゃんが言ってることは、私たちももちろん理解できている。
私たちは、あのセンパイ2人に怪我をさせたのは紛れもない事実で、そして争いの原因は、私たちがチェルニィを助けようとしたことだ。
チェルニィはダークエルフで、ダークエルフはモンスターってことになってるから、周りに見てる人たちからしたら、私たちが一方的に悪いように見えたはず。
下手をすれば『モンスターと手を組んで人間を滅ぼそうとする悪人』ぐらいに思われちゃっても不思議はないのだ。
だからきっと、あそこでラルフお兄ちゃんが来てくれなかったら、そして2人の怪我を治してくれていなかったら、私たちの受けた罰はこんなもんじゃなかったかもしれない。
つかまって憲兵に連れて行かれた時はラルフお兄ちゃんに見捨てられたんじゃ・・・なんて思ったりもしたけど、今はそんなことは全然考えてもいない。
だって、ラルフお兄ちゃんがわざわざ私たちがチェルニィと同じ部屋になるようにしてくれたのが分かったからね。
正直言ってあれだけお尻を叩かれたのはさすがにまいったけど・・・。
けど、ラルフお兄ちゃんの問いに答えなかったのは別の理由だった。
私はずっと、チェルニィを助ける一番よい方法を考えていた。
だから、一応確認する意味で
「今回だけは、もしラルフお兄ちゃんが反対しても、絶対チェルニィは助けるから!」
って言った。
「反対なんかしないよ。俺もそれなりに事情は分かってるつもりだし、それに・・・グロリアさんから聞いたろ?俺が勇者になるより前の話」
それが、ラルフお兄ちゃんの答え。
そう言ってから、ちょっと照れ笑い。
でもね、私がラルフお兄ちゃんを好きになったのは、みんなが思ってるような『完全無欠の勇者様』にあこがれた訳じゃないもんね!
それに、ちょっと照れてるラルフお兄ちゃんも大好きだよ!!
昔のラルフお兄ちゃんをちょっとでも知っていることが、なんか誇らしい。
・・・ってそんな事言ってノロケてる場合じゃなかった。
とにかく、信じてはいたけどラルフお兄ちゃんの口から反対はしないって言ってもらえたから勇気100倍!
反対されても・・・なんて一応言ったけど、本当に反対されてたらやっぱりものすごくショックだもんね。
それから、ラルフお兄ちゃんは私とフタバの怪我を魔法で直してくれた。
一応言っとくけど、ラルフお兄ちゃんの魔法はフタバと違って強力なので・・・。
えっと・・・その・・・うん、何が言いたいかって言うと・・・。
つまり、お尻を触られたわけじゃないって事!
いくらラルフお兄ちゃんでも、触られたら恥ずかしいじゃん。
・・・と、それどころじゃなかったんだ。
なんかさっきからずっと調子がくるってる気がするけど、でもここからは大まじめ。
チェルニィを助けるためには、ここからが本番だもん!
「もうラルフお兄ちゃんミルフィばっかりずるい!弟子のあたしを差し置いて!!」
フタバはちょっとゴキゲン斜め。
私と同じようにずっと考え事してるように見えたけど、そうじゃなかったのね・・・。
「こらこら、こんな所でやきもち焼くなよ。ここは2人で力を合わせないとダメな所だろ?」
ラルフお兄ちゃんは、これ、なんかうまくあしらっちゃってる感じだよね?
私が言うのもなんだけど、フタバよりも私に気を使ってる感じ?なんでだろう。
「いいもん。ラルフお兄ちゃんがあたしよりミルフィをお気に入りだってことはずっと前から知ってたから!」
フタバは膨れ顔。
もちろん、私はコメントできないよ。
何を言ってもドツボにはまりそうだしね。
これにはラルフお兄ちゃんもちょっと苦笑いだ。
「ねえフタバ、その話、今じゃないとダメかな?・・・その話は、今じゃなかったらいつでも聞くから!」
そんな風に、私は恐る恐る、そんな風に言ってみた。
話の渦中にあるのは私なんだけど、これは『話を逸らす』んじゃなくて『話を戻す』ためだからね。
逃げるつもりでも隠れるつもりでもない。
なんたって、チェルニィを助けるためのタイムリミットは今日、日が暮れるまでしかないんだもん。
「んもう、仕方ないわね。わかったわよ。もう言わない!だってこれじゃ、あたしが駄々っ子かお邪魔虫みたいじゃない!!」
フタバはまだ不満げだったけど、物わかりの悪い子じゃない。
その証拠に、この後チェルニィたちの村に行くんだけど、ちゃんと一緒について来てくれたからね。
しかもフタバにとってはあの近くはゴブリンに襲われて死にそうな目にあったところだ。
多分私たちが人生で初めて、死を覚悟した瞬間。
一歩間違えばゴブリンのディナーにされちゃうところだった!
その時は私も一緒だったんだけど、あの時の精神的なダメージは明らかにフタバの方が何倍も大きいのだ。
だから、単にちょっと付き合ってくれる、何ていう軽いもんじゃなくて、それなりの覚悟があっての事に決まってる。
もっと言うと、あの時フタバは先に倒れた私を助けようとしてくれたわけだし・・・。
さあ、ここからは私たちの『冒険』だ。
ラルフお兄ちゃんは自分の意見で反対はしないって言ってくれたけど、勇者様の立場では私たちのやろうとしてることを手伝うことは出来ない。
それは私にもわかるし、わかってあげないといけない事だ。
だから、ここから先は私たちでやらないとならないんだ。
うまくいくかどうか、不安はあるけどちゃんと作戦は考えてある。
ラルフお兄ちゃんも
「お前たちならきっと大丈夫だから、出来ることを思い切りやってみろ」
って言ってくれた。
その言葉は、まるで確信に満ちているようでなんだか勇気が湧いてくる。
ラルフお兄ちゃんは、きっと私たちが成功する未来の事を知っているのだと、私は思った。
次回の更新は明日2月26日(日)の予定です。




