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41.チェルニィ救出作戦①

 私とゆーくんが地下から戻ってくると、旧王城の中庭ではちょっとした騒ぎになっていた。

「ゴブリン事件が解決したぞ。本当はゴブリンじゃなくて、ダークエルフだったんだ。俺たちが捕まえた!」

 2人組の冒険者には、見覚えがある。

 多分去年の卒業生のセンパイたちだ。


 でも、それよりも大変なことが!

 私は思わず血の気が引いた。

 槍の先に括りつけられたチェルニィの姿を見つけたからだ。


 どうしよう。

 あんまり時間的余裕はないから、チェリニィに私たちが助けられた時のことをフタバに簡単に説明して、それから私は急いで2人の前に飛び出した。


「その子を私に譲ってください!」

 本当はもう少し良い言い方があったかもしれないけど、これしか思いつかなかった。

 2人はちょっとあっけにとられたような表情だったけど、私は大本気だ。

 私の後にフタバ、それにゆーくんとフィオナちゃんが駆けつけると魔法使いの方のセンパイが、

「あなたたち何年生?手柄が欲しい気持ちは分かるけど、私たちにとってもこれは初手柄だから譲れないわ。それに、自分の手柄は自力で頑張ってこそ、よ」

 なんて言い出した。

 とんだカン違い!


「違うわ。私はその子を助けたいの。お金は、お小遣いで払うから。足りなかったら来月の分もその次の分も、全部払うから!」

 私が言った瞬間、周囲がざわざわっとした。

 なんて言うか、不良の生徒を見るような視線を感じる。

 だけど私はそうなることは分かっていて、あえて言ったのだ。


 フタバはさっきちょっと説明しただけで私の意図を汲み取ってくれている。

 私の横に控えて、木刀の柄に手を添えて、いつでも臨戦態勢。

 でも、絶対手を出しちゃだめだからね!

 このセンパイたちの立場からしたら多分、こうするのが当たり前なのだ。

 それにまわりで見ている人達はきっと、私たちの方が、『モンスターを助けようとしてる変な子』って感じで見てるだろうから、強硬手段に出たらどうなるかは火を見るよりも明らかだ。

血の気の多い冒険者が中にいたら、『モンスターの仲間』だと思われて捕らえられてしまうだろう。


 そしたら、槍使いのセンパイが私の鼻の先に人差し指を突き付けて

「あのな、モンスターを見た目で判断するな。特にダークエルフはかなり上位のモンスターだから危険なんだよ。俺が言ってもわからなきゃ、学校の先生にでも聞いてこい」

 って言ってきた。

 そりゃあ、型にはまった考え方をすればそうなんだろうし、学校でもそういう風に習うけど・・・。


「あんたね、あたしたちだけの時ならまだいいけど、こんだけ人がいる中で滅多な事言うもんじゃないわよ。あたしはそんな風には思わないけど、『モンスターと手を組んで人間を裏切ろうとしてる』って思われても仕方ないからね、ほんとに」

 魔法使いのセンパイが私に耳打ちしてくる。


「そんな分かってるよ。それでも私はこの子を助けたいの!」

 こんな言い方をしても、分かってはもらえない。

そしてどんな風に言ったら分かってもらえるか、その答えが見つけられない。

 たとえ2人に分かってもらえたとしても周りにこれだけ人がいる以上、ダメなものはダメだ。

 いくら考えてもいい方法が思いつかない。

 私には、チェルニィを助けることができない。

 私は、助けてもらったのに・・・。

 そう思うと、涙が出てきた。


「とにかく、コイツは憲兵に引き渡す。どうしてもなんとかしたきゃ、憲兵と交渉するんだな。とにかく何を言われても、俺はお前にコイツを引き渡すことは出来ないな。その後の責任が取れないからな」

「待って、お願い!」

私は思わず槍使いのセンパイの腕をつかんだんだけど、すぐに振り払われて、地面に転がされた。


 多分センパイも反射的にやったことだと思うし、私としては大したことはないと思っていた。

 だけど、側から見ていたフタバにはそこまでわからないから、私が攻撃されたと思って反撃する。

 ダメッ!て思ったけど、伝えるタイミングはなかった。


 センパイは一瞬槍を構えようとしたけど、その先にはチェルニィを括りつけたままだから槍は使えない。

 とっさの事だったこともあってまともな対応は出来ず、腕でフタバの木刀を防いだ。

 体制的にも整っていなかったから、センパイは後ろに倒れて尻もちをつく。

 腕の方は、一応防具をつけてはいるんだけど、相当痛いはずだ。


 でも、フタバは攻撃をやめるつもりはない。

 魔法使いのセンパイの方も何か呪文を唱え始めてる。

 もしここで私がフタバの援護で魔法を使ったら本格的に戦闘になっちゃう。

 けど、センパイの魔法は止めないと。


 私は必要最低限の威力で『空気弾』を放ち、魔法使いのセンパイの口元を狙う。

 もちろんセンパイの呪文の詠唱を止めるためだ。

 呪文を唱え始めたのは私の方が後だったけど、言っちゃ悪いけどこのセンパイの詠唱はすごく遅い。

 この速度だったら、センパイが一つ呪文を完成させる間に私だったら5つや6つは完成させられる。

 詠唱の速さだけは自信あるからね!

 もちろんこの場面では、無駄にたくさん呪文を唱えたりはしないけど。


 それでセンパイの詠唱は止まったんだけど、ちょっとコントロールが狂ったのか私の『空気弾』は鼻の頭を直撃し、センパイは顔を押さえながら倒れ込んだ。

 押さえた手のすき間から鼻血がツ~っと手をつたって流れてるし・・・。

 フタバの二撃目も、今度は槍使いのセンパイの手の甲の防具がない部分を直撃。


 でも、目的はこの二人をやっつけることじゃない。

 これは明らかにやりすぎだ。

 下手をすると、ここにいる全員を敵に回すことになる。

 まだそれに気付かないフタバは三撃目を加えようとさらに木刀を振り上げる。

 ダメだったら!ホントに!!


「コラお前ら、こんな所でケンカするなよ」

 そういって振り上げられたフタバの木刀を後ろからちょいと掴んだのは・・・え?ラルフお兄ちゃん!?

 私とフタバはいっぺんに我に返った。

「だけどっ・・・」

 私は言いかけたけど、ラルフお兄ちゃんは首を横に振る。

「見てたからわかってる。けど、お前らの方が悪いだろ?」

 ラルフお兄ちゃんにこう言われたら、私もフタバも言い返せない。

「「ごめんなさい」」

 私とフタバは声をそろえた。


 そして、私はその後気が付いた。

 周りのみんなの敵意がものすごいことに。

 戦ってる最中から恐れていたことではあったけど・・・。


 それからラルフお兄ちゃんは2人のセンパイに近づいていって、

「弟子たちがすまないことをしたね。大丈夫かい?」

 って声をかける。


「こ、こ、子供のしたことですし、このぐらい大したことは・・・」

 槍使いのセンパイは噛みまくり。

 けどこのセンパイ、左手の小指の付け根の所を骨折していたらしい。

 フタバったら思い切り木刀で殴ってたかんね。

 それを手でまともに受けたら、そのぐらいの怪我をしても不思議はない。

 でも勇者様であるラルフお兄ちゃん文句を言うわけにもいかず強がったんだろう。

 あと、鼻血を出した魔法使いのセンパイも・・・。

 

 ラルフお兄ちゃんは2人の怪我を魔法で直してから、私とフタバを2人の前に引っ張ってきて、

「ほら、ちゃんと謝れよ」

 って言った。

 

 チェルニィを助けたいって思ったのは今も変わらないけど、2人のセンパイをケガさせたのは私たちが悪かったってのは分かる。

 だから私たちはすぐに言われた通り頭を下げたけど・・・けど、ラルフお兄ちゃんの真意が分からないのが不安で仕方なかった。


 2人のセンパイはそれですぐに引き下がってくれたけど、チェルニィはそのまま近くにいた憲兵に引き渡されてしまった。

 それから、

「ラルフさん、さすがにあなたの弟子でもお咎め無しってわけにはいきませんよ」

 ってラルフお兄ちゃんに伝えているのが聞こえた。

「・・・だってさ。お前ら、ちょっと頭冷やして来い」

 

 ミルフィライプニッツ9歳。

 私はこうして生まれて初めて逮捕・連行されることになった。


 私たちはラルフお兄ちゃんに見捨てられたのかな・・・。

 逮捕されたことよりもそのことの方が、想像を絶するほどのショックだった。


次回の更新は2月11日(土)の予定です。

それとは別に2月8日(水)にキャラクターの一覧をアップします。

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