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36.異世界の扉の向こう~ミルフィ編~

 その扉は、ちょっと頑丈そうなのを除けば何の変哲もない扉だった。

 このまま異世界じゃなくって、さらに下の階につながる階段があるって言われてもそんなもんだろうなって思っちゃうような扉。


「ちょっとのぞくだけだよね?」

 そういえば前の時もゆーくんは、『異世界に行って帰れなくなったら恐い』って言ってたよね。

私もそうだけど。

「でも、面白そう!」

 フタバはゴブリンがいなくなって、だいぶいつもの調子が戻ってきたみたいだ。

「あたしも~!あたしもみてみたい!!」

 フィオナちゃんは・・・よくわかってないのかも?


「じゃ、開けるよ!」

 そう言って大きな取っ手をひねり、体重をかけて扉を押してみたけれど、ピクリとも動かない。

 その後引っ張ってもみたけど、それでもやっぱりダメだ。


「カギがかかってるの??」

 今度はゆーくんが押したり引いたりしてみる。

だけど、結果は同じだった。

 普通は鍵がかかってる扉でも、少しはゆれてガチャガチャ言ったりするもんだけど、それすらもなく全く動かない。

 まるで何もないただの壁に、扉の絵が描いてあるかのようだ。


「はやくはやくぅ、かかりの人きちゃうよ!」

 って言いながらフィオナちゃんもマネをして開けようとするんだけどもちろん無理。


 だけど、最後にフタバが触れると、その扉は何の苦労もなく簡単に開いてしまった。

 そりゃあ確かに、多分この中で一番力があるのはフタバだと思うよ。

 だけど、今回に関して言えばそんなの関係ないと思う。

 だって、フタバが力を入れた感じさえ全くなかったもん。

 

 そして・・・。

 扉を押した勢いのまま、フタバは扉を超えてしまった。

 あっ、と思ってあわてて手を伸ばしたけど遅い。

 私はさーっと血の気が引いていくのを感じた。

 だって、異世界に行ったら戻れないって噂だったから・・・。

 このままじゃ、フタバが戻ってこれなくなっちゃう!


「ごめん、ゆーくん。フィオナちゃんといっしょにここで待ってて!」

 それだけ言って、私はフタバを追った。

 絶対にフタバを連れ帰らないと!

 だけど、ゆーくんたちを巻き込むわけにはいかないからこうするしかなかった。

 そして、私がそこで見たのは、一生忘れられない光景だった・・・。


 

 紅い、荒涼とした砂漠。

 だけどそれ以上に私たちを圧倒したのは、空の半分をも覆い尽くす巨大な太陽だった。

 巨大なのに熱くもなく、眩しくもなく。

 むしろ直視できるほどにその光は弱く、その裏側まで透けて見えるようにすら感じられる。

 その光は私たちが知っているそれよりもはるかに赤くって、暗い。


 これが何の景色なのか、きっとほとんどの人は知らないだろう。

 だけど、私は知っていた。

 これは、滅びゆく世界の景色だ。


 私のパパは天文学者だから、他の人がまだ知らない知識や研究結果を簡単な言葉で私に話してくれることがあった。

 パパは私のためになるべく簡単な言葉を使って説明してくれていたんだと思うけど、そのほとんどはやっぱりピンとこなかったって言うのが正直なところだ。

 だけど、この『滅びゆく世界』の話だけは、なぜか明確に映像としてとらえることが出来た。

 なんでだろう。

 多分、よっぽどショックだったからだと思う。


 滅びゆく世界では、太陽がすごく大きくなって、それに反比例するように温度は冷え、光も弱くなる。

 そして、いずれ世界は太陽に飲み込まれるのだ。

 でもそれはずーっと未来で、私たちが生きているうちは決して目にすることの世界のはずだった。

 パパはそう、教えてくれた。

 それなのに、その景色は今、私の目の前に広がっているのだ。


「これが、異世界・・・?」

 はじめから、異世界というのがとんでもない世界なんだって言う予感はあった。

 だけど、まさかこんな・・・。


 よく見ると、私たちが立っているここは外ではなくて、透明な何かで囲われた部屋だった。

 あの紅い砂漠は、決して人間が生きていける世界じゃない・・・。

 本当に外だったら、私はきっと一瞬で死んでいるだろう。

 それに、すぐ後に追いかけてきたはずなのに、そこにフタバの姿がない。

 他に、出口もない閉じられた空間だと言うのに・・・。


「あら、新しい囚人さんはずいぶん小さい子なのね」

 突然の声に、私はビクッとなった。

 若い(って言っても私よりだいぶ年上だけど)女の人だった。

 それに、囚人って??

「私は、囚人じゃないわ。私が来たのは・・・多分、別の世界・・・」

 多分とは言ったけど、確信があった。

 ここは断じて私たちの世界じゃない。


「それじゃあ、あなたは『箱庭』から来たの?・・・でも、あなたたちは何も悪くないものね・・・」

 ???

 なんのことだかさっぱりわからない。

 

「おねえ・・・さんは??」

 おばさん、ではない。

 たぶんおねえさん、でいいと思う。

 お世辞とかじゃなくて。


「私はカンナ。連邦軍の兵士よ。ううん、兵士だった・・・って言うべきかな。今は反乱軍の捕虜。それとね・・・あなたは知らない場所ではもっと警戒するべきだわ。私がもし捕虜でなければ、今頃あなた、死んでるから」

 !?

 え?え??え???

 頭の中が?マークでいっぱいだ。


 私は思わず身構えたけど、

「いまさら遅いわよ・・・安心しなさい。別に今、あなたを殺そうって話じゃないから」

 って言われた。

 うーむ・・・。


「あの・・・さっきから、何が何だか全然わからないんですけど・・・」

 私は素直にそう言った。

 いきなり異世界に放り出されて分かるはずはないんだけど。

「時間はいくらでもあるから、教えてあげるわよ。あなたが飽きるまで・・・ね」



 私が『ここは滅びゆく世界』だって思ったのは、カンナさんの説明と合致していた。

 ここは世界の誕生から100億年、人類の誕生から50億年が過ぎた世界。

 人々が地上で生きていくことはもはやできなくなっていて、地下にコロニーを作って辛うじて生存している。

 50億年を経た文明を持つ人類にとっても、滅亡を止めることは出来なかった。

 

 そんな中、絶望した者たちによる反乱は絶えなかった。

 誰にもどうすることもできないのに、滅亡を止められないのは上層部の責任だと思い込んで・・・。

 それらの反乱軍の中でも最も大きかったのがこの最北端のコロニーであった。


「彼らは、人を人でないものにする研究を始めた。そのためのデータを得るために、たくさんの『箱庭』を作ったの。その中の一つが、あなたたちの世界よ」


 ・・・。

 今までも、話が大きすぎてピンとこないことはたくさんあった。

 だけど、この話は今までのどれとも違う。

 私たちの世界の、存在の理由。

 信じられるはずは、なかった。

 もし信じれば、何もかもが根底から崩れ去ってしまう。


 カンナさんは、さらに続けた。

「私はね、あなたたちの世界を含めたすべての『箱庭』を破壊するためにこのコロニーに侵入したの。あなたたちに罪がないのは分かっている。けど、やつらの研究は絶対に阻止しなければならないの・・・だからもし、その途中であなたと出会っていて、あなたが『箱庭』の破壊を阻んでいれば、私はきっと迷わずあなたを殺していた・・・」

 でも、カンナさんは捕らえられた。

 そして、この監獄へ・・・。


 ここは外の景色が見渡せる、透明な何かで出来た部屋だ。

 しかしここでは、『外の景色』は絶望そのものだった。

 まさに『絶望の監獄』だ。


「けど、私が『箱庭』を破壊しなくても、あなたたちにとってはどうせ同じ事よ?」

 と、カンナさんは言った。

「だって、こちらの世界が崩壊すれば、その中の『箱庭』も一緒になくなってしまうんだもの」

 ・・・と。


次回の更新は1月22日(日)の予定です。

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