31.1年生パーティの失敗(前編)
そんなこんなでフタバが学校に復帰して数日。
あんなことがあったから、ディックやエイルだけじゃなく、他の子だってさすがにあんな意地悪はしないだろうけど。
でもね、それでもやっぱり『恐怖症』をそのままにしといちゃだめだと思うんだよね。
フタバ本人も克服しなきゃ、とは絶対思ってるはず。
元々が冒険者志望だし。
だけどこう言うのって、無理しすぎると逆効果だから何から手を付けたらいいかが難しい。
ゆーくんから、2度目の訓練用ダンジョンのお誘いが飛び込んできたのは、ちょうどそんなタイミングだった。
みんな、ゆーくんのこと覚えてる?
ユリウス・ハウエル君、1年生。ジャッキーの弟なんだけど、性格は全然違って引っ込み思案な感じの子だからクラス中でけっこう孤立しちゃってたらしい。
だから私は、『ゆーくんがクラスの誰かを誘えたらみんなで一緒にいこ』っていう約束をしたんだ。
そしてせっかくだからこの機会にフタバも一緒に連れていくことにした。
1年生とのパーティだからそんなにハードじゃないし、リハビリには丁度いい、と思ったからだ。
でも、ゆーくんが連れてきた子も、別の悩みを抱えていたのだった。
「ゆーくん以外の子とパーティーを組むのはやだ・・・」
そう言って、会うなりゆーくんの後ろに隠れてしまったこの子はフィオナと言う名前らしい。
今年の1年生の中では魔法使い系の子でもちゃんと魔法を発動させられるのはこの子一人だけで、得意の属性は水。
ちなみにグロリアさんのお弟子さんって言ってたから、ユリカの妹弟子ってことになる。
うーん、世の中せまい・・・。
「ねえフィオナ、このお姉さんたちは大丈夫。『あんなこと』にはならないから。それに、ずっと二人っきりのパーティってわけにもいかないだろ?」
ゆーくんはそう言うんだけど、フィオナちゃんは口をつぐんだまま。
なんかこの子にもいろいろ複雑な事情がありそうだ。
ゆーくん優しいから、もしかしたらこの子の抱えてる問題を解決してあげようと思って私に声をかけてきたのかもしれない。
そういう事だったら私ももちろん協力しちゃうよ!
「フィオナちゃん、何があったのかな?よかったら私にも教えてくれない??もしかしたら力になれるかもしれないよ」
私はちょっとかがんで、フィオナちゃんと目線の高さを同じにして頭をそっと撫でてあげた。
優しい大人の人がやってるのを真似しただけで、上級生とは言え3つしか年の違わない私がやるのが適切かどうかはわからないけど・・・
フィオナちゃんは、しばらくじーっと私の方を見ていた。
何か言い出そうとして、でもためらってやめて・・・。
1人ではなかなか決心がつかなくて、それを何回か繰り返した後、ゆーくんがフィオナちゃんの肩を軽くポンと叩くと、意を決したように話し始めてくれたのだった。
ゆーくんとパーティを組む前、フィオナちゃんは1年生女子だけの4人パーティに加わっていたらしい。
フィオナちゃん以外の3人は、リーダーで剣士志望のレイラちゃん、それに双子の槍使い志望のボクっ子姉妹、ユリちゃんとマリちゃん。
ちょっとパーティのバランスが悪く感じるかもしれないけど、1年生のパーティだからこんなもんだ。
だって、魔法使い系志望の子でも実際に魔法を発動することが出来ない子の方が圧倒的に多いくらいだから、パーティが組めたとしても戦士系の子ばかり4人になるということも珍しくはない。
そして、『戦士系の子だけじゃないパーティ』ってだけで1年生の中ではちょっとすごいって言われたりする。
レイラちゃん、ユリちゃん、マリちゃんはクラスの戦士系女子でもトップクラスの3人組で、その中にフィオナちゃんが入れたのは『すごいパーティって言われたい』っていうレイラちゃんたちの思惑が絡んでいたようだ。
(この子たちに限らず、パーティってそういう動機で組んだりすると大抵うまくいかないんだけど・・・)
「さあみんな、これから訓練用ダンジョンにはいるわよ。いちばん弱いレベル1だけど、クリアすれば今年の1年生いちばんのりよっ!」
リーダーのレイラちゃんの掛け声に、ユリちゃんとマリちゃんはすぐに応じるんだけど、おとなしいフィオナちゃんはちょっと勢いについて行かれず、ちょっと遅れて申し訳なさそうにちっちゃな掛け声を出した。
それに思わず、
「でも、ゆーくんはもうレベル10までクリアしちゃったって・・・」
って言っちゃって、それがちょっと良くなかった。
プライドの高いレイラちゃんのカンにさわってしまったようなのだ。
「ふん、あんなの、お兄さんが強いだけじゃない。私たちは1年生だけでクリアするのよ。1年生だけでのクリアは男子のパーティもまだなんだから、クリアすれば私たちが1年生最強パーティよ。だからフィオナも足ひっぱっちゃダメだかんね!」
レイラちゃんが言うのも全くの間違いではないし、勢いよく言われてフィオナちゃんもちっちゃくうなずいて
「うん・・・」
って答えるしかなかったらしい。
こうして1年生女子4人パーティの挑戦が始まった。
レベル1ダンジョンの敵はコボルトで、しかも本物よりもずっと弱く設定されている。
だから、レイラちゃん、ユリちゃん、マリちゃんは最初の方のザコのコボルトは特に問題なく倒して行けたんだけど、後ろにいるフィオナちゃんの『ウォーターボール』の魔法は敵に当たるか味方に当たるかわからない、って言うような状態だった。
だいたい、戦士系の子は武器を振るえばつたない技術でもそれなりに形になったりはするけど、魔法使いはそうはいかない。
まず、魔法を発動させること自体がちっちゃい子には大変だし、それをクリアしても安定させるのはさらに大変だ。
「もう!フィオナは何もしないでいいから、そこに突っ立っててよ!!」
イライラしていたレイラちゃんは乱暴に叫んだ。
フィオナちゃんはちょっと泣きそうになったけど、言われたとおりに攻撃魔法を使うのをやめた。
やっぱり、このパーティに入るんじゃなかった。
フィオナちゃんはこの時点で、そう思い始めていたらしい。
レイラちゃんをはじめ、ユリちゃんもマリちゃんもそれなりに鍛えていたから、ザコが相手の時はそれでもよかった。
でも、問題は最後の、3つ目の部屋だった。
ボスコボルトが1体と、幹部風の中ボスコボルトが2体。
フィオナちゃんが攻撃魔法を使わないから事実上3対3で、ボスとは当然のごとくレイラちゃんが戦ってるんだけど、大苦戦だった。
それぞれ中ボスと戦っているユリちゃんやマリちゃんも簡単に勝てるような状況じゃなく、このままじゃ先にボスにレイラちゃんがやられてさらに2対2で戦ってるところに一番強いボスに加勢されたらどう考えても勝ち目がない。
「フィオナ、ぼさっとしてないで、サポートしてよ!こうげき魔法じゃないやつ!なんでもいいからほじょする魔法を!!」
レイラちゃんも焦って言ったんだろうけど。
でもね、ついさっき『何にもするな』って言ったのに舌の根も乾かないうちにこんな言われ方されたらフィオナちゃんだって面白くないよね。
それに、『ウォーターボール』以外の魔法を使うことは全く想定していない。
(ほじょまほう・・・)
フィオナちゃんはちょっと考えてから、『濃霧』の魔法を使った。
直接攻撃する以外の魔法でフィオナちゃんが使えるのはこれしかなかったからだ。
でも、単純に『使える魔法がそれしかない』と言う理由だけでその魔法を使ってどうなったかは、みんなの想像通り。
ただでさえ暗くて風の通りの悪いダンジョンで、前も後ろも分からないぐらいの濃い霧が発生したらどうなるか・・・ちょっと考えたら、わかるよね?
次回の更新は1月8日(日)の予定です。




