30.放課後の決闘(後編)
でも、ここであせったらダメ!
最後まで絶対食らわないように、防御重視。
最悪時間内に勝ちまで持っていけなかったとしても、私はさんざん攻撃を当ててるし、一発も食らってないんだから勝敗は明らかでしょ。
ていうか、一発くらったらたぶん、一気に逆転負けなんだけど・・・
けど、最初の頃よりだんだんディックの攻撃が私に近いところへ繰り出されるようになってきた。
なんで!?
でも、時間ももうちょっとだし、多分ディックの体力(の判定)ももうちょっとのはず・・・とにかく丁寧にかわして、スキを見ながら攻撃の方も丁寧に・・・。
そう思ってたんだけど、ディックの攻撃が本当に当たりそうなところまで近くなったので、私はやむを得ず、慌てて横へ走った。
なんで?なんか魔法がうまく機能してないのかな?
私のいる場所がバレてるような気がするんだけど、何でかわからない。
ちゃんと光は曲げてるからまともには見えていないはずなのに・・・
焦っていたため、動きが鈍る。
攻撃はさっきまでよりすごく近くに来てるけど、まだ確実に当ててくる感じではないから見えてるわけじゃないはずだ。
けど、ぎりぎり当たらない攻撃を見切れるほど私には度胸も技術もない・・・。
だから私は、とにかく大きな動きになってでもかわすことに専念。
だんだん、攻撃する余裕もなくなってくる。
もうちょっと当てれば勝てるはずなのに、こっちはかわしながら視界を幻惑する『固い風』を出し続けるしかない。
それが途切れたらどうにもならないのは明らかだし・・・
明らかに良くないパターンに陥っている。
けど、あと1度でもいいから何とか反撃して当てたい。
だから、小さく見切る感じでかわそう!
・・・でもその判断が間違いだった。
ダメになってきたのは分かってたんだから、素直にまた真後ろに逃げておけばまだよかった。
距離を大きく取るのが絶対条件だったのだ。
ディックのその攻撃は適当じゃなくて、正確に狙った攻撃だったのだ。
「!?」
それは、私の足を狙った攻撃だった。
走っている私の足の間に出した木刀をを薙ぎ払われたので、私は転倒して地面に勢いよく投げ出された。
木刀で打たれた足もものすごく痛いし、地面にに打ち付けられた膝も肘も痛い。
さらにディックは大きく木刀を振りかぶった。
完全にうつ伏せに倒れてるから、これはかわせない。
私は思わず目をつぶったけど・・・次の攻撃は、こなかった。
「・・・そこまで。勝負ありだ」
ジャッキーがディックの木刀を素手でつかみ、そう宣言した。
足を思い切り打たれた一撃で、既にダメージの限界値を超えた判定で、腕輪も赤く光っていた。
絶対に勝ちたかった戦いで、私は負けたのだ。
実際にけがをしたわけじゃないから、足や膝、肘の痛みはすぐに治まった。
けど・・・悔しすぎて何が何だかわからないっていうか、混乱してるのが自分でも分かる。
「ほらミルフィ、立てるんなら立て。終わったらちゃんと礼しろよ」
ジャッキーに促されて、私はよろよろと立ち上がる。
本当に、さっきの痛みはウソみたいに何でもないんだけど・・・
「ありがとうございました・・・」
礼に合わせて、たったそれだけの言葉を発しただけで、涙があふれてくる。
「ほら、お前ら・・・」
ジャッキーが促して、私とディックは握手をさせられる。
拒否するわけじゃないけど、やっぱり悔しい・・・。
それからさらに、ジャッキーは軽く私を小突いて私に合図をする。
そうだった。私は負けた場合でも、謝らないといけないんだった。
さっきと違って、今はもう私も悪かったってことは理解してる。
それでも私が一方的に謝るっていうのはやっぱりためらいがある。
けど、それでもやらなきゃいけないんだ・・・
私が負けて、しかも謝らなかったらクラスの雰囲気は最悪・・・。
それは避けないといけない。
私は一回ディックの顔を見て、でもすぐに視線を下に逸らして、そのあと
「さんざんヘタレとか言って、ごめんなさい・・・」
って言った。
胸がすごく熱くなって、涙だけじゃすまなくなって、私は号泣した。
ダメだ。感情が制御できない。
なんでこんな風になっちゃったんだろう。
「ずりーぞ、泣くのは」
と、ディックは言った。
私はしゃくり上げて、無理やりに鳴き声を止める。
何かしゃべればまた泣き声になってしまいそうで、何も言えない・・・
「お前優等生っぽいから、ヘタレとか言われてたのは余計にムカついてたけど、もうどうでも良くなった・・・お互い様だしな・・・」
言ってることは、わかる。わかってるけど、やっぱり声しようとすると泣き声にしかならない。
そんな私を見かねたのか、ユリカが私の代わりに
「だから、何もしてないフタバにだけでも謝ってあげて、ってこと。あと、あんな事2度としない、ってね。それでいいよね?ミルフィ??」
って言ってくれた。
私は首だけで、ちっちゃく頷く。
ディックはちょっと考えて、
「俺が勝ったら謝らないってルールのはずだったけど、こんな頼み方されちゃ断れねえよなあ・・・わかったよ。フタバには謝るから、もう泣くんじゃねえ」
そんな事言ったって、泣くんじゃねえ、って言われて泣き止めるぐらいだったら初めから泣いてないよ。
「それにな、最後は俺が勝ったけど、俺も結構焦ってたんだぜ。でもお前、致命的なミスをしてただろ・・・気づいてるか??」
私は首を横に振る。
分からない、っていうのもだけど、頭の中がぐちゃぐちゃで考えが全然まとまらない。
でも、ディックがいろいろ話をして、私を泣き止ませようとしてるって事だけは伝わってきた。
そう思うと、こいつもそんなに悪い奴じゃないじゃん・・・。
「俺も最初は気付かなかったんだ。だけど、気付いたときは吹き出しそうになっちまったぜ。だってお前、姿を消して戦う作戦なのに、木靴の音がポッコポッコ鳴ってるんだもんよ。けど、だから場所がバレバレになった。それが無かったら俺の方がかなり危なかったよ、マジで」
そんな初歩的な・・・うーむ・・・。
「あと、話し戻すけど、フタバの所に謝りに行くときはお前、一緒に来てくれよな。俺一人じゃ多分会ってももらえねえから」
今度は私は首を縦に振った。もちろん、断る理由はない。
「それじゃ、クラス全員で行きますか」
とユリカが言うと
「おし、行こうぜ!」
とジャッキーが続ける。
「おいおい、勘弁してくれよ。さすがにそれは、恥ずかしいぞ・・・」
ディックだけが、一人で抗議。
「あらディック、アンタがフタバに惚れてたの、まさか気付かれてなかったとでも思ってたの!?10歳のオトコノコとしては、大好きなオンナノコに意地悪しちゃいたくなっちゃったのよね??しかもそのオンナノコが自分より強かったもんだから余計に・・・かな???」
ユリカが突っ込むけど、え??そうなの???
私全然気づかなかったけど・・・
もしかして、私がニブイだけ??
「う・・・うるせえ!そんなんじゃねえよ!!なんつうか・・・規格外じゃないライバルがいなくなると困るとか・・・ただそんだけだ!惚れてるとかじゃねえよ。絶対!」
口ではそういうんだけど、顔は真っ赤だしすっごく慌ててるから、結構図星なのかな。
でも、そういうの女の子は理解しないかんね。
次やったらもう本当に一生絶交だと思うよ。
まあ、ディックがフタバとうまくいくかと言うと相当厳しいような気はするんだけど、それでもなんとか最悪の事態は避けられたと思う。
予定したシナリオ通りには行かなかったけど、少なくともフタバが安心して明日からも学校に来られるように・・・はなりそうかな?
次回の更新は1月3日(火)です。




