29.放課後の決闘(前編)
「おまえ、まだ分かってねえな?」
ディックとエイルがいない時を見計らって、ジャッキーが私を指さして言ってきた。
・・・??
「なによそれっ」
そりゃ、本当にわかってないけどさ・・・でも、だいたい人の方指さして言うとか失礼じゃん。
ちょっとムッとした。
「俺があいつらに『負けたらフタバに謝れ』とは言ったけど『お前に謝れ』って言わなかった理由だよ。全然わかってねえだろ」
「・・・」
分かってないどころかチンプンカンプンだってば。
でも別に、私に謝ってくれるかどうかなんて、そんなに重要な事じゃないと思ってた。
だって、ホントにひどい目にあったのはフタバであって私じゃないからね。
けど、ジャッキーが言おうとしてるのはそういう事じゃなかった。
「俺が言ってもコイツ素直に聞かないからさ、ユリカお前教えてやってくれよ」
ジャッキーはそう言ってから、ユリカに
「お前はわかってるんだろ?」
って付け加えた。
ユリカは一つふうっと息をつくと
「まあ、気付いてはいたけどね・・・なんでこんなことになったのかっていう、根本的な問題だから」
「え?ユリカまで何言ってんの??」
私はすぐに聞き返す。
まさかユリカまであいつらの味方するわけじゃないよね??
けど・・・
「ねえミルフィ、あんたあの2人のこと散々ヘタレとか馬鹿とか言いまくってたけど、あいつらはそれで何も感じてない、って思ってた?」
「・・・」
私は何も答えられなかった。
「多分私は、それが原因の一つだと思うよ?ディックやエイルがやりすぎなのはもちろんだけど、もし決闘に勝っても負けても、あんたの方もあいつらに謝った方が良いと思うわ」
そんなことは考えたこともなかった。
ただ思ったことを口にしていただけだったからだ。
でももしそうだとしたら、ディックが『フタバに対してやり過ぎた』って感じの反応をしてたのは、アイツが本当にやっつけたかったのは『私』であって『フタバじゃなかった』からだってことだ。
「一番いいのは、お前が勝った上であいつに謝れば一番丸く収まるだろうな・・・逆にお前が負けた上に謝りもしなかったらずっとクラスの雰囲気は最悪だ。そういうセッティングだから、後はお前ががんばれ。けど、前に俺とやった時みたいな戦法だけで勝てるとは思うなよ。あれだと多分無理だぞ」
ジャッキーはずっと向こうの味方、って思ってたけど、アドバイスめいたことも言ってくれてるし、そうばっかりじゃなさそうな気もしてきた。
私がユリカの方を見ると、ユリカもちっちゃく頷いてくれた。
どうやら彼女もジャッキーと同じ意見みたいだ。
だったらなおさら絶対に勝たなきゃ。
何としても私だけが一方的に謝って終わり、って言うのは避けたいからね。
お昼時間、フタバを送り届ける時に、決まった話の概要を話した。
『ゴブリン恐怖症』の話も結局みんなにしちゃったから、それを隠し続けるのも良くないし。
それに、もう2度とあんなことを起こさせない!っていう決意も伝えたかったしね。
フタバには明日からも、安心して学校に来てほしいから、その為にできる限りのことはやりたい。
フタバはその間何も話さなかったけど、多分ちゃんと伝わってはいたと思う。
でも、私は最後に
「でも、あんまりにもきつかったら無理はしないでいいからね」
って付け加えた。
無理をしないでもフタバが学校に来られるように、私は頑張る!
そして放課後。
覚悟はできてるつもりだけど、やっぱり緊張する。
一応クラス裁判が公認だったからフランソワ先生も残ってくれてはいるんだけど、審判はジャッキーがやることになった。
でも、クラス裁判の裁判長の時とは違って私も文句はない。
だって、模擬戦の審判だったらジャッキーより相応しい人なんていなそうな気がするもん。
さすがに自分の専門の競技でズルはしないだろうし。
「さて、と。いっつもやってるから今更細かい説明の必要はないよな。どっちが勝っても恨みっこなしだぞ」
ここまで来たらもちろん異存はない。
戦士系の子向けの方のルールだからやっぱり不利ではあるんだけど、もうそれは慣れちゃったかな。
それに、私の風魔法は多分、こっちのルールでもそこそこやれる系統の魔法のような気もするし。
最初はユリカが使う火の魔法は攻撃力があるからうらやましいって思ったけど、スキが大きくて破壊力もある、って感じの魔法はこのルールだと実はもっと厳しいことが最近分かってきた。
まあ、この辺りは経験を積んだおかげかな。
あと、さっきジャッキーに言われたこと、『ジャッキーと戦った時と同じ戦法じゃ無理』って断言されたのは気になる。
かといって慣れ始めたばかりの水魔法で戦うのはリスクが大きい・・・。
だけど、今の私にはもう一つ、切り札がある。
切り札って何かって?
それは見てのお楽しみ!・・・って、これから直ぐ使うんだけどね。
ディックはジャッキーほどじゃないけど、私と比べるとやっぱりかなりデカイから、木刀を上から構えられると結構な威圧感だった。
フタバから前に聞いたちょっとした知識によれば、上段に構えるってことは防御を捨ててでも攻撃して一気に勝負をつける狙いってことだ。
木刀の形もオーソドックスな普通のものだし、いつもコイツが模擬戦してるの見てても奇襲とかはあまりなく、ほぼ正攻法だ。
「じゃあ、準備がいいなら始めるぞ」
ジャッキーの掛け声に、私とディックはほぼ同時に頷く。
そして、合図があって試合開始。
ディックはいきなり大きく振りかぶって真正面から攻撃してきた。
私が『固い風』で壁を作っても、上を超えて一撃入れてしまおうと言う作戦だ。
さっきのジャッキーのアドバイスが気になっていた私はハナから最初の攻撃を壁で止めるつもりはなく、真後ろに逃げて距離を取った。
それも、バックしてかわすとかじゃなく、普通に後ろを向いて逃げて距離を取ったのだ。
カッコは悪いし、相手が距離を詰める作戦で来ていたら一瞬でやられちゃうから賭けではあったけど、私がいる所へ向けて大きく木刀を振り下ろしてたから、そのスキに距離を広げることが出来た。
これはホントにアドバイスを聞いてなかったら一瞬で負けてるところだわ・・・。
でも、おかげで最初よりも距離はとれたから、第一段階の作戦としては大成功だ。
そして遠めの距離になっても大技は使わずに『空気弾』をコツコツ当てて、ちょっとずつでも削っていく戦いをする!
ちょっとずつのダメージにはなっても威力はないから、ディックは当然、無理やりにでも距離を詰めに来るんだけど、ここが切り札の出しどころ!
呪文の種類としてはいつもと同じ『固い風』なんだけど、光を屈折させられるアレを使った。あの、課外授業の時のやつ。
これでディックの所からは私の姿が消えたり、実際の場所とはズレて違う場所に見えたりしているはずだ。
ちなみに他の角度や遠くから見てる人には何の変哲もない景色に見えてるはず。
つまり、私が消えたりしてるのはディックのいるあたりから見て、ってだけで、レンズ代わりになる『固い風』を通さないで見ている角度からは消えてもいないしズレてもいないのだ。
ディックはかなりブンブン上から木刀を振り回してくるからもちろん怖さはあるんだけど、でも私のやることは一つだけ。
とにかくちょっとずつでも削って行くことだ。
適当に振り回した木刀を一撃でもくらったら負け。
けど、見えてないはずだから早々は当たらないと思うよ。
私の『空気弾』が来る方向も、ディックが見てる私の方向とは別の方からだから、かなり翻弄できてる実感はある。
眉間とか、頬骨とか、顎なんかにも何発か当たってるから、そろそろダメージも積み重なってるはずなんだけど・・・
次回の更新は1月2日の予定です。




