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2.ミルフィと勇者様②

 町の中心にある主のいなくなった旧王城は、たくさんある部屋が銀行とか市場とか訓練用のダンジョンとか、いろんな用途に使われている。

 勇者様が滞在していたのは、その一角にある、宿屋として使われている区画の一部屋だった。


 町の別なところにも宿屋はあるけど、何といってもお城だから間取りは広いし、買い物も楽だし、有料ではあるけれど温泉までついてるしで基本的にはいいことずくめだ。

 宿屋の区画の支配人みたいな人に勇者様の部屋を聞いて・・・ってところも難関だと思ったんだけど、そこはすんなりクリアできた。


 もしかしたら、勇者様のファンの子だと思われたのかな?

 いや、それでも普通は追い返されそうな気がするけど・・・

 まあ、ともかく今の私にとってはありがたい。

 私は勇者様のいる部屋の前に立ち、頑丈そうな扉をノックする。


「はい」

 すぐに中から若い男の声がして、扉が開かれた。

 やばい、ここまでして急に緊張してきた!

「・・・あ、あの・・・」

 目の前の男の人が勇者様っぽいのだけど、私は緊張しすぎて声がなかなか出ない。


 あと、勇者様補正っていうの?

 あんまりにもかっこよすぎて目が合わせられないって言うか。

 ちょっと私、いくらなんでもドキドキしすぎだってば!

 勇者様は大人だから、私より背はずっとおっきいんだけど、上から見下ろすんじゃなくて、わざわざしゃがみ込んでくれて私の顔を覗き込んだ。


「君は・・・フタバのお友達かい??」

「ち、違います、そうじゃなくて・・・」

 なんか舌がまわらなくて言いたいことが半分も言えない私を見て、勇者様は私を中に入れてくれた。


 ソファーに腰かけて出された飲み物を一気に飲み干して(遠慮もせずに)から、私はようやく落ち着くことが出来た。

 いや、まだすごく緊張はしてるんだけど、学校でジャッキーと模擬戦をやらなきゃならなくなった経緯とか、何とか勝ちたいって思う気持ちとか、私のたどたどしい説明を勇者様は丁寧に聞いてくれた。


 あと、さっき勇者様が言ったフタバって言う子は私と同じ年くらいの子で、栗色の髪にショートカットのお人形さんみたいな女の子だ。

 私に飲み物を持ってきてくれたのもこの子。

 あれ、この子ずっと私の顔をのぞきこんで・・・ちょっと楽しげ?

 私の顔に変なものがついてるわけじゃないよね!?

 やだからね。勇者様の見てる前でそういうのは!


 ともあれ、まずは私の能力を勇者様に見てもらうことになった。

 そりゃそうだよね。どんな能力かわかんないと、どこを鍛えたらいいか作戦も立てられないもんね。

 まず、得意なのは風の魔法。

 ただ、魔力的に直接ダメージを与えるのは難しい。

 いちおう「空気弾」が使えるけど、私の威力じゃ私が普通に素手で殴るのとあんまり変わらないから決定的なダメージにはならない。


 実際に使えそうなのは空気を水あめみたいにドロドロにする『粘りの風』とか固くする『固い風』、目つぶしに使う『砂ぼこり』それに特に名前はないけどジャンプする時とかは追い風を吹かせたり空気抵抗を少なくしたりして速さや跳躍力の補助ができる。


 ちなみに『粘りの風』とか『固い風』があんまりカッコ良くないのは私のネーミングセンスが悪いせいだ。たぶん。

 この二つは、いちおう私のオリジナルだかんね。


 あと、ユリカのを見よう見まねで火の魔法っぽいのを使えるけど、これは多分役に立たない。

 本物の火の魔法ならいいんだけど、形だけまねただけなので私のは「熱い風」だったりする。

 瞬時に出しても陽炎ぐらいは立つけど炎にしようと思ったら立ち止まったまま集中してもそれなりの時間が必要。

 そんな状態だと、模擬戦では殴り放題だもんね・・・。


 それからもうひとつ。

 私は詠唱の速さだけだったら誰にも負けない自信がある。

 それこそ、大人の魔導士が相手でも、だ。


 一通りの魔法をみてもらって、勇者様が褒めてくれたのも、やっぱりその詠唱の早さだった。

 これは魔法戦だったら大きなアドバンテージになるんだけど、ダメージの取れない魔法が連発出来ても 戦士系の子に有効かどうかはよくわからない。


 その後見てもらったのは、魔法以外の能力。

 同い年の女子の中で、腕力なんかの力全般はほぼ平均ぐらい。

 足の速さとか跳躍力は風魔法ナシでも女子の中ではトップではないけど2番か3番くらいにはなれそう。もちろん風魔法有りならダントツトップだ。


 そして反応の速さは足よりもっと自信がある。

 とはいえその辺の能力が全部クラスで断トツの男子に挑むからにはその辺は長所に数えることはできない。

 やっぱり直接のダメージは取りにくくても風魔法に頼るしかなさそうだった。


「それと、もう一つ適性を確かめたいんだけど良いかな?」

 勇者様にそう言われれば、私の答えはもちろん決まっている。

 促されて庭に出ると、すごく大きな盾を渡された。

 これって、すごく体の大きい騎士とかが使う『タワーシールド』っていうやつだ。


「勇者様、私こんな重いの持てませんよ」

「持ち上げなくていいから、地面につけたまま支えてて。あと、その盾、絶対壊れないから安心してね」

 ん?ん????

 私は良く状況が飲み込めていなかった。

「あと、フタバも手伝って。盾の上から剣で殴るんだ。念のため言っとくけど、殴るのは絶対盾の中心部だけだぞ」


 あ、あの子やっぱり戦士系なんだ。

 装備は細身の剣と丸くて小さな盾。剣が『レイピア』で盾が『バックラー』ってやつだ。

 「危ないから盾から顔して出してのぞかないで」

 勇者様に注意されちゃった。


 でも確かに、あの細い剣で『タワーシールド』の上から殴られるだけなら絶対大丈夫なはずだ。

 はずだったんだけど・・・

 勇者様の合図でフタバが私の持つ盾を殴り始めると、正直ビビった。

 フタバの体格は私と変わらないくらいなのに、すごい迫力だ。

 たったの2、3発ぐらいのところで、私は悲鳴を上げて盾を離してしまっていた。


 思わず手を離してしまったタワーシールドが私の方に倒れてくるのを、勇者様が支えてくれる。

「今のは、力が足りてなかったわけじゃないってこと、わかった?」

 私はコクリとうなずいた。

 確かに、力尽きるまで支え続けて最後に押し切られた、というわけじゃない。


 前もってわざわざ勇者様が、絶対安全だってことを教えてくれていたのに、私が勝手に怖がって手を離してしまっていた。

 だから頑張って怖がらないようにして・・・って思ったけど、勇者様が教えてくれたのはそういうことじゃなかった。


「戦士系の子はみんな、ちっちゃな頃からたくさんアザを作りながら鍛えてきてるから、1週間ぐらいでそれを身に付けようと思っても無理だと思うよ。だからそうならないように立ち回ることを考えた方がいい」


 さすが、的確だ。

 いわれてみると当たり前にも思えるんだけど、自分だけじゃ絶対気付けない。

「具体的な立ち回り方は僕も考えてみるから、3日後くらいにまたおいで。あと、君はそれまでに全力で走りながら魔法を使う練習をしておいて。あと、息が切れてるときに詠唱する練習もね」

 勇者様のアドバイスの一つ一つから力がもらえるって言うか。

 自信というところまでは行かないんだけど、ちょっとずつ希望が見えてくる感じだ。


「ありがとうございます。勇者様!」

 私は改めて御礼を言う。

 けど、なんか勇者様の反応が、ちょっと違和感!?

 ・・・

「ねえミルフィ、そろそろ僕のこと、勇者様、じゃなくて名前で呼んでくれないかな?」

「!?」


 あれ、そういえば私、はじめ緊張しすぎてて・・・名前言ってなかったような。

 何で知ってるの!?

「ミルフィひどいなあ、ホントに私たちのこと忘れちゃった?それに、さっきあたしのこと『友達じゃない』って言ってた!?」

 この子がフタバ・・・


「フタバ、フタバ・・・って、もしかして??」

 この国では珍しいその名前に、確かに聞き覚えはあった。あったんだけど、なかなか記憶がつながらなかった。

「そ。」

 悪戯っぽく笑顔を見せるフタバ。

「・・・てことは、勇者様は、ラルフお兄ちゃん?」

 何も言わなかったけれど、その表情がそれを肯定していた。


 私は初等学校に入る前まで、ここよりもずっと田舎のラマルクという町に暮らしていた。

 田舎だから、ここよりも星が良く見える。

 天文学者のパパにとっては観測がしやすかったって事だ。

 その町は小さな町だったから、子供の数は少なかった。


 あの頃すごく泣き虫だった私と孤児だったフタバは、一番ちっちゃくてみそっかすにしかなれないこともあって他の子にはあんまり相手にしてもらえなかったんだけど、面倒見のよかったラルフお兄ちゃんが他の子にたのみこんでくれて私もフタバも仲間に入れてもらうことができたのだった。


 そういえば、同い年だったフタバとは、『どっちがラルフお兄ちゃんのお嫁さんになるか』で何度もケンカしたっけ。

 今はそんな事言っても相手にしてもらえないってわかるけど、あの時は超本気だった。

 つまり、ラルフお兄ちゃんは私の初恋の人だったわけで、それを忘れていたなんて超ショック・・・。


 当時のケンカの結末はたいてい私の方が泣かされて、でも私が泣くとフタバはあわてちゃって慰めてくれるとか、そんな関係だった。

 その頃、フタバが戦士系を目指すようになったのは『ラルフお兄ちゃんみたいになりたい』からで、私が魔法使い系を目指すようになったのは『将来ラルフお兄ちゃんと一緒にパーティを組みたいから』だった。


 最初のうちから才能があってラルフお兄ちゃんに稽古もつけてもらっていたフタバと違って、私は『魔法使いになりたい』って言ってるだけで魔法はまだ使えなかったから、すごい劣等感があった。

 けど、そんな時、あの事件が起きた。

 私のママを含めたプロジェクトチームが作った飛空艇が大事故を起こしたのだ。


 今までこの世界で誰も飛んだことのない3000メートルを超える高さへの到達。

けど、それをめざした飛空艇は墜落し、生還者は誰もいなかった。

ママはその事故に巻き込まれてしまった。

 そして、ラルフお兄ちゃんの両親も・・・。


 そのことで、私は二重に苦しむことになった。

 一つ目はもちろん、ママが死んじゃった事。

 悲しくて、何日も泣いて暮らした。

 涙は枯れても、悲しさは無くならなくて、あの時の苦しさは表現のしようがない。


 でも、もう一つの苦しみはもっと厄介だった。

 ママとラルフお兄ちゃんの両親は同じ事故で死んでしまったのだけれど、立場は全然違っていた。

 つまり、私のママは加害者の側であったということ。

 だから私は勝手に、ラルフお兄ちゃんに恨まれてるだろうって思っていた。

 思い込んでいたから、お兄ちゃんに合わせる顔が無くて、ずっと家の中で泣いていた。


 でも、お兄ちゃんはわざわざ訪ねて来てくれて、私に優しくしてくれた。

 だけどそれは、別れの挨拶でもあった。

 その頃にはもう武芸者として限りなく一人前に近かったお兄ちゃんは、修行の旅に出る、という話だったのだ。


 本当は一人で行くはずだったんだけど、結局フタバは一緒に連れていくことになったらしい。

 もともとフタバに身寄りはなかったし、どうしてもラルフお兄ちゃんと離れたくないと言ってフタバが聞かなかったそうだ。

 けど、私にはパパがいたから、フタバみたいについていくことはできなかった。

 ・・・やだ、思い出しただけで涙出てきた。


 その時、まだ魔法が使えなかった私に、ラルフお兄ちゃんが言ってくれた言葉があった。

 「流れ星が消えるまでの間に【魔法使いになりたい】って3回お願いしてごらん」

 そう言って、例の魔法使いの三角帽子の形をしたアクセサリーを私にくれたのだった。


 まだちっちゃかった私でも、流れ星にお願いをするとかなうって言う話は聞いたことがあったけれど、ラルフお兄ちゃんの言葉だから、それは特別だ。

 最初はもちろんダメで・・・でも、何度も何度も練習して・・・

 なんでダメだったか、今の私ならわかる。

 それは、そのままお兄ちゃんが言った通り。

 流れ星が消える前に3回言い終わらないといけなかったのだ。


 お兄ちゃんに最後に教えてもらったことをできるようになりたい一心で練習を続けてそれが出来るようになった頃、私は誰よりも早い詠唱で魔法が使えるようになっていた・・・

 その頃はもうお兄ちゃんはいなかったから、お礼を言う機会がずっとなかったけど、それが出来る日が来たことが、嬉しくてたまらない。


 「お兄ちゃん、ありがとう・・・」

 今日は恥ずかしいから、聞こえないくらい小さな声で言っておく。

 でもいつか、絶対ちゃんとお礼、言うからね。


次のお話は完成直前なので、明日10月2日(日)に公開の予定です。

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