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24.『大いなる記憶』

「あたしたちはね、この世界であなたたちが決して知ってはいけないことを、知っているの。天の果ても、地の果ても。それに、この世界が存在する意味も。だから、この世界の創造主は人間があたしたちダークエルフを忌み嫌うように『設定』したのよ。人間とダークエルフが『交流』しないようにね。もちろん、『設定』はそれだけじゃないわ。この世界で人間が、人間であるための『核』のようなもの・・・それをあたしたちは、『大いなる記憶』って呼んでいるわ。もちろんあたしたちダークエルフには、別の『設定』がある・・・」


 ・・・?

 なんか、話が大きすぎて良くわからない。

 でも、一つだけ分かるのはチェルニィが大真面目に話してるってこと。

「こんな話は、聞きたくない?」

 チェルニィはそう言ったけど、私は首を振った。

「ううん、続けて」

ってね。


「『大いなる記憶』が必要な理由は、この世界に『積み上げられたもの』がないからよ。人間は初めから人間で、人間でないものに変わってしまうこともない。でも、最初から人間であるためには『人間とはこういうもの』って言う設定が必要なの。もちろんあたしたち、ダークエルフもだけどね」


 人間は初めから人間で、人間でないものに変わってしまうこともない。

 それは、この世界の事しか知らない私にとっては『当たり前』としか言いようがないことだけど。

 でも、チェルニィの言い方からすると、やっぱり異世界はあって、異世界ではそれが『当たり前じゃない』ってことだ。


「ねえチェルニィ、人間が人間ではない何かに変わってしまう・・・そんな世界があるの?」

 もしもそんな異世界があるのだとしたら・・・そんな風に考えるだけで怖いんだけど。

「あたしもそれは知らないわ。『人間が別のなにかに変わる』のかどうかは知らない。だけど、異世界では『別のなにかが人間になった』事は確かよ。


 チェルニィは知らないって言ったけど、すごく気になるって言うか、心に引っかかる。

 本当に知らないのかな?

 もしかしたらチェルニィはちっちゃいから知らないだけで、大人のダークエルフなら知ってるのかな・・・?


 ・・・って考えてたら、またバシーンッ!っと頭を叩かれた。

「・・・そんなこと、思ってないよっ!」

 反射的にすぐにそう言っちゃったんだけど。

「あら、あたしまだ何も言ってないけど?」

「・・・」

 しまった。引っかけられた。いや、これは私が勝手に引っかかった感じなのかな?

「やっぱりあたしのことチビって思ってるんじゃないのよっ!体の大きさ以外は全部あたしの方が大人なんだかんねッ!」

 とてもそうは思えない・・・なんて考えたらまた引っ叩かれちゃう。


 いや、叩かれた。ホントにポンポンと・・・

「やめてよ!私の頭はゴムまりじゃないんだかんね!!」

 私は思わず、勢いよく起き上がった。

「あら、そろそろ元気になったみたいね。頭痛としびれがなきゃ、もう大丈夫なはずよ」

 ん、どうだろ。

 

 私は手を握ったり開いたり、体の他の所を動かしたりして確認してみる。

 うん。大丈夫そうだ。

 立ち上がってみても、目まいもしないし、手も足もちゃんと動く。これなら問題ない。

 私が意識がなかった時間がどのくらいかはわからないけど、少し暗くなり始めていたのがまだ完全に日没にはなっていないから、そんなに時間は経っていないはずだ。

 私が気づいてからでも15分足らず。きっと、毒と言うより痺れ薬みたいなもんだったのかな。

 まあゴブリンも、餌を取るための狩りをするなら自分たちが食べられなくなるような毒は使わないよね・・・。

 いや、そんな風に考えるとちょっとゾッとするけど。

 

「ありがとう・・・もう平気そうだわ。けど、フタバはまだ気づかない?」

「それは当分無理よ。たぶん一晩くらいはかかるわ。さすがにあたしもそこまでは付き合いきれないから、あんたがおぶっていくしかないわね」

 ん~、おんぶが出来ないとは言わないけど、そのまま街までいけと言われてもあんまり自信はないなあ。

 でも・・・。

 私はチェルニィの方をチラッと見た。

 さすがにちっちゃいこの子にお願いすることは出来ないから仕方ないよねぇ・・・


 って思った瞬間、また引っ叩かれた。今日何度目??

「あたしはね、あんたの頭をゴムまりだなんて思ったことはないわ。例えるならそうね・・・太鼓みたいなもんかしら?」

 それ、余計ヒドイよ・・・。


 フタバは意識がないから、思っていた以上に背負うのは大変だった。

 意識がある人だったら背負う時って掴まってくれたりするんだけど、そうじゃないから完全に背中の上に乗っけないといけないから、私がかなり前のめりにならないとずり落ちちゃう。

 けど、今がんばらないでいつがんばるのっていうか、とにかくやるしかないんだ。

 一旦背中に乗っけちゃえば、頑張ればなんとかならないことはない。

 模擬戦の一件で体を鍛えてたのもちょっとは効果があったのかもしれないし。

 それに夜遅くなればなるほど危険も増すから、そういう意味でもフタバが回復するまで待っているのは現実的じゃないよね。


 来るときは相当歩いたように感じたんだけど、帰りの道は信じられないくらいにあっけなく道までたどり着いた。

 丘みたいなのを越えた数も明らかに少ないし、池っぽいところなんていくつも通り抜けてたのに帰りは1カ所しかなかったし・・・。

 たったこれだけの距離を、私たちはどうやってあんなに時間をかけて歩いたんだろう・・・。

 森の中だから完全にとは言わないけど、歩く方向はあまり変えずにほとんど一直線に進んでいたはずだったんだけど・・・。

 しかも、太陽が見えないほど深い森じゃない。

 だから歩く方向が変われば太陽の位置でわかるはずなのに。

 でも、すごく不思議なんだけど確かに私とフタバが道を外れたところまで戻ってきたのは間違いない。


「じゃあ、あたしが案内するのはここまでよ。あとは自分で帰りなさい」

 ここからなら一本道だから、確かに大丈夫。

「うん。今日は本当にありがとう。この借りはいつか絶対返すよ!」

 フタバを背負ったままだから大変だったけど、私はそのフタバを、一回勢いをつけて上にあげてから、片手でチェルニィに握手を求めた。

「あたしはダークエルフ。あなたは人間。借りを返すどころか、きっと二度と会うことはないと思うわ」

 と言いながらも、チェルニィは私の手を握り返してくれた。

 なんか、まるでずっと友達だった子みたいな気になってくる。

 だから私は、こんな風に言い返した。

「ううん。そんなことないよ。私は人間とダークエルフが仲良くできる日もきっとくると思う」

 仲が悪い理由が何かあるわけじゃないんだとしたら、仲良くできなきゃおかしい!

 そう考えちゃう私は、『甘い』んだろうか?

 もちろん個人レベルで嫌いとかはあるんだろうけど、それは人間同士だって嫌いな人とかいるしね。


「あんたがそういうとそんな風に思えてくるから不思議ね。本当は『人間とダークエルフが仲が悪い』ってのは絶対に覆すことのできない『設定』みたいなもんのはずなのに、あんたはそうじゃないみたいだもんね」

 でも、もしチェルニィの言う通り『設定』があるのだとしても、それは覆すことができるってことだ。

 私は人間だけど、ダークエルフが嫌いじゃないもの。

 それに・・・。

「私だけじゃなくて、チェルニィも、でしょ?」

 って言ってみたら。

「それはどうかしら?」

と、チェルニィはちょっと悪戯っぽく笑った。


 さあ、あとは街まで歩くだけ。

 そう思って数歩歩いて、振り返ってみたらもうそこにチェルニィはいなかった。

 さすが、というか音もなく消えた感じ。

「また、会えるよね」

 私は、確認するようにそうつぶやいた。


次回の更新は12月24日(土)の予定です。

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