21.集団下校
「集団下校?」
学校に入って間もなくてこういう事が初めてのフタバが、ちょっと首をかしげた。
「昨日の夜、町の中でゴブリンが出たらしいわ。子供が1人で歩いてて襲われると危ないから、引率の先生がついてみんなで一緒に帰るのよ。」
ユリカがていねいに説明してくれた。大体これで、間違いない。
だけど、本格的な襲撃じゃないし、実際街の中でゴブリンに襲われて死者が出たって話は聞いたことがないのよね。
怪我人が全くないとは言わないけど、まあ『犬に噛まれた』っていうのと同じくらいかな。
もちろん不意打ちされたり1年生とかが狙われたりすると危ないんだけど、ゴブリンが活動するのは夜中だから昼間街にくることなんてまずないわけで。
だから、本当はあくまで『学校としてはちゃんと注意してますよ』っていうポーズを取っているに過ぎない。
・・・って言っちゃうと、身もフタもないんだけどね。
「はい、おしゃべりはそこまで。2時の鐘が鳴るまでに全員校庭に集合するように!」
フランソワ先生は大声で言うんだけど、クラスの中に緊迫感は全然ない。
何人かが間延びした声で
「は~い」
と答えたけど、うーむ・・・もし訓練でももうちょっと真面目にやるべきと思うんだけど。
中にはゴブリンのモノマネしてる男子とかもいるし・・・。
うちの男子ってホントにバカ!(もちろんみんなじゃないけど)
4年生にもなって何考えてるんだかさっぱり分かんないわ。
校庭に降りると、他の学年の子はほとんどみんな並び終わっていて、私たち4年生がほとんど最後だった。
1年生より遅いなんて、ちょっとは恥ずかしいと思ってほしいわ。
特にさっきゴブリンのマネしてた男子たち。
よく見たら他の学年の子はみんな静かじゃん。
もしかして男子が馬鹿なのってうちの学年だけ!?
って思っちゃうぐらいヒドイ・・・。
でも、いつもこうだったっけ?
なんかいつもと違うような違和感。
・・・と思ったら。
「あれ、ジャッキーいないじゃん?」
そう言ったのはフタバだった。
そっか、いつもはあいつがリーダーシップ取ってるから他の男子もここまでバカやんないのか。
そう思うとちょっとあいつのことを見直してみようと言う気にならないこともない。
とは言っても、やっぱ苦手は苦手なんだけど。
「ああ、ジャッキーだったら大人といっしょにゴブリン討伐隊に入ってるよ」
そうなのだ。
アイツは私たちと同じ4年生ながら、すでに騎士とか冒険者としての戦士とかそういう資格をもっている。
ちなみに資格を取るには私がゆーくんといっしょに行った地下牢を改造した練習用ダンジョンのレベル10をクリアする必要がある。
本当は4人でクリアすればいいんだけど、アイツはソロでクリアしちゃったらしい。
改めて言うけどホント怪物だわ。
ちなみに読み方はカイブツじゃなくてバケモノだからね!
だから卒業までは学生ではあるんだけど、こういう時には駆り出されたりするのだ。
(ちなみに資格自体はゆーくんも取っちゃってるんだけど、実力で取ったわけじゃないのはみんなわかってるからゆーくんが駆り出されたりすることはないよ)
まあ、こういうのが初めてのフタバが知らないのは無理もない。
「なんでアイツだけ・・・」
フタバはちょっと不満そう。
なんかこの雰囲気はマズイ、と思ったら案の定、
「ミルフィ、今晩あたしたちもゴブリン狩りするわよ」
とか言い出した。
「そういうと思ったけどダメだってばそれは。」
フタバはいくらなんでもジャッキーに対抗意識を持ち過ぎだと思う。
それに、ゴブリンがいくらモンスターとしては弱いと言ったって、ルールがある試合をするわけじゃない。
相手が多くない場合でも後ろから不意打ちで切り付けられたら怪我もするし下手をすれば命にもかかわる。
それに、フタバはまだこの間怪我したところの包帯だって取れてないのだ。
「ミルフィが行かないんだったらユリカと行くからいいもん」
「え!?無理無理。私ミルフィよかもっと戦闘向いてないかんね」
ユリカにも即座に断られて膨れっ面のフタバ。
「いいもん、あたし一人でも行ってやるからっ」
「それはダメっ!」
こういう時フタバは絶対退かないから、私も思わず声がおっきくなる。
「なんだよ、俺らのことうるせえとか言っといて女子の方がうるせえじゃんかよ!」
!?
よりによってクラスの男子に言われたのはなんかショック・・・
しかもいつの間にか騒いでるのが私たちだけで、しかもものすごく注目されていると言う冷たい空気が・・・
こうなっちゃうと黙るしかないんだけど、フタバったらホントに行きそうで怖いわ。
私たちが黙ると、班ごとに分かれて担当の先生がが並び順なんかの説明をしていった。
ちなみに私やフタバがいる班はシュミット先生だ。
列の作り方は、周りを上級生で固めて下級生は中の方にかくまう。
でもそうすると、どうしても列の数が多くなっちゃうんだよね。
みんなの世界みたいに車が走ってるわけじゃないんだけど、それでもやっぱり邪魔っぽい。
それが学校のアピールってもんだろうけど、ホント徹底してるわ。
まあ、実はこの学校ではこういうことが結構頻繁にあるからみんな慣れたもので、特に問題もなくきれいに列を作っていく。
・・・と思ったら、フタバったら一人だけ列を外れてシュミット先生になにか話しに行ってる。
何を話してるのかは良く聞こえない。
それからすぐにフタバも列に戻ったけど、ちょっと嫌な予感がしたから何を話したかはあえて聞かないでおいた。
その後、1番目の班から順番に帰っていく。
私たちの班は6班あるうちの3番目だ。
ちなみにユリカは残念ながら別の班。集団下校の性質上、家の方向が別だから仕方ないけどね。
そうそう、私たちの世界にはみんなの世界みたいな『ランドセル』って言うのはないんだけど、でも、小学生が登下校の時両手が空いてた方が良いっていうのはわかってるから、ほとんどの子がリュックサックを背負っている。
私が背負ってるのも赤いリュックサックで、後ろにうさぎさんの絵が入っている1年生の時からのお気に入り。
水魔法を使うようになってからは同じ絵の入った水筒も肩から掛けている。
まあ、本当は水筒自体はブリキでできていて、カバーの方に絵がかいてあるんだけどね。
水筒の口を縛るひもを蝶結びにすると、うさぎさんの耳にリボンがついてるみたいになるデザインなんだよ。かわいいでしょ。
あと、フタバのリュックはひよこの絵なんだよ。
私のは1年生の時に買ったやつをそのまま使ってるんだけど、フタバは学校に入ったのがついこの間だから・・・その頃に買ったとしたらちょっと可愛すぎかも。
それはそうと、集団下校って言っても実際には何もない。
本当に、ただ列になって歩くだけだ。
例のチェスの一件で何度か知らない人から名前を呼ばれたりしてビックリしたけど、完全に無視したら悪いので目立たない程度にちょっと手を振っておくぐらい。
あんまり目立ったら、やっぱりシュミット先生に注意されちゃうからね。
そんなこんなで、旧王城前の広場に到着。
歩く速さは一番小さな1年生に合わせたけど、それでも校庭から出発して10分ちょっとくらい。
普段の私たちの登下校なら5分といったところだ。
その先は1~2年生たちは先生が個別に回って送り届けるんだけど、私たちはここで解散になる。これもいつもの流れ。
そして、建前上は集団下校した日は自宅待機ってことになってるんだけど、それを守ってる子はあんまりいない。
いないんだけど・・・ね。
先生がいなくなるとすぐ、フタバに
「さあミルフィ、ゴブリン狩りに行くわよ!」
って言われた。
「さっきシュミット先生に言いに行ってダメって言われたんじゃないの?」
私はてっきりそう思っていた。
だって、先生が認めてくれるはずがないからね。
でも・・・
「ダメって言われるってわかってるのに言いに行くわけないでしょ。模擬戦の練習やるからって言ってこれを借りてきたのよ。これがあれば危なくないでしょ!」
そう言ってフタバが取り出したのは、守護の腕輪lv2。
例の、一定以下のダメージを受けなくなるアイテムだ。
ゴブリンは攻撃力が低いから、これをつければ危なくない、って言う理屈はわからないでもない。
けどさあ、やっぱりなんかダメな気がするのよね。
「ねえフタバ、それは絶対ダメだって。ラルフお兄ちゃんに聞いてもダメって言うと思うよ」
「あら、ミルフィがこのことを告げ口するんだったら、私はあなたのお漏らしの事をラルフお兄ちゃんに言っちゃうからね!」
う・・・フタバそれはひどいよ。しかもずるい。
「ってわけで、決まりね。心配しなくても大丈夫よ、腕輪はちゃんとミルフィの分も借りてあるから」
うーむ・・・大丈夫じゃない気がするんだけど・・・。
一瞬、謝って私だけ帰っちゃおうとも思った。
けど、多分そしたらフタバは一人で行っちゃうだろう。そしてそれは、もっとマズイ。
「危なそうだったら引き返すからね」
仕方なく、私はくぎを刺しておいた。
「ええいいわ。けど、危なくなんかならないから平気よ」
フタバは自信満々なんだけど。
それがかえって不安だった。
次回の更新は明日12月11日(日)の予定です。




