20.課外授業(後篇)
「あたしを倒さなきゃ、その子たちのとこへは行かせないわよっ」
「くそっ」
まっすぐなダガーの男は立ち上がり様にフタバに斬りかかる。
普通なら、木刀で相手の真剣を受けたら不利なところだけど、相手の勢いがあまりないと判断したフタバは、あえて受け止めた。
そして、相手の剣が木刀にめり込んだ瞬間に、相手の予想しなかった方向へひねりを加えると、男は思わず武器を手放した。
フタバは木刀を振ってめり込んだ男の武器を遠くへ飛ばしてから、男のみぞおち勢いをつけて突きを入れた。
男は倒れ込んで苦しんでいる。
完全に戦闘力を奪うところまではいっていないが、1対1の戦いじゃないからそこまでの余裕はない。
(とにかく時間をかせいでくれれば・・・)
フタバは今度は三日月型のダガーを持った男と向かい合っている。
普通の曲刀なんかだと反った外側に刃がついているのが普通だけど、よく見るとその男が持っているダガーは内側に刃がついていた。
ダガーと言うよりも鎌に近い使い方をするのだろう。
あれがもし、後ろから相手の首に引っかけて使うのだとしたら・・・。
本物の、暗殺者の武器。
私は正直、ぞっとした。
しかし、内側に刃がついているその武器は、本来『相手と戦う』為にある武器じゃない。
『気づかれずに近づいて暗殺する』為の武器だ。
少なくとも外刃の刀と比べたら間違いなく切れ味は悪いはずだ。
それにかなりの角度で曲がっている分、攻撃できる範囲も狭い。
1対1になったことで行けると判断したのか、フタバは一気に距離を詰める。
思った通り、戦いに適していないこの武器での攻撃は、遅い。
そしてこの攻撃を受け止めてしまえば、次の攻撃が来るよりも早く相手を倒せるはず。
でも、フタバのその判断は、間違いだった。
うまく攻撃を受け止めたと思った瞬間、フタバの左腕を激痛が襲った。
「!?」
「おっと、大事な商品に傷をつけちまったなあ」
ツーっ、と血が腕をつたってヒジのところから数滴がしたたり落ちた。
フタバは意識が遠くなってしまいそうな激痛を、歯を食いしばって耐えている。
(もうちょっと・・・まだ準備が終わってない・・・)
しかし、次に判断ミスを犯したのは男の方だった。
フタバがこれで完全に戦意を失ったと思ったらしく、不用意に武器から手を放してフタバに掴みかかろうとしてきた。
フタバは痛みに耐えながら、男が伸ばしてきた手の甲に渾身の一撃を放つ。
そして打たれた手の甲を反対の手で押さえる男の顔面に向けてもう一撃。
男は鼻血を出しながら砂浜に倒れ込む。
フタバはふうっと一つ、大きく息を吐いた。
「これで、残りはあんた1人よ。さっさとかかってらっしゃい、3人いっぺんにこなかったこと、後悔させてあげるわ」
フタバ、強い・・・。
もしかしたら、残りの1人もこのまま倒しちゃうかも。
でも、最後の1人は一番強そうだし、フタバのケガのこともあるから、ちゃんと『準備』は続けないと・・・。
「ただのガキかとおもったら面白えじゃねえか。お前みたいな跳ねっかえりを所望の好事家もいるからかえっていい値段が付くってもんだ。運が悪きゃあ、狩りの獲物にされちまうかもしれねえなあ・・・。まあ、売った後のことなんぞ俺は知らんがな」
部下2人がやられても全然動揺してないどころか、恐ろしいことをさらりと言う。
この男はホンモノのあぶない人だ。
(フタバ、ホントにもう少しだから頑張って)
「あたしを怖がらせようったって、そんなの無駄よっ」
フタバは、リーダーの男が剣を抜く前に仕掛けた。
命がけだから、もはや卑怯も何もない。
背が違うから頭部への攻撃は届かない。
だから、今度もフタバは小手への攻撃を狙った。
でも、剣を持っていない相手に対して小手を取るのは簡単ではない。
リーダーの男は半身でフタバの攻撃をかわすと、後ろから木刀を掴んで思い切り引き寄せ、そのままフタバの腕を捻じり上げた。
「がっ!?」
フタバは悲鳴にもならない声を上げる。
「嬢ちゃんも相当鍛えてるみたいだからこのくらいじゃポッキリとはいかねえだろう?」
男はさらに、力を加えていく。
「あ・・・がっ・・・」
だめ。フタバも、多分もう限界に近い。
まだ『準備』は完璧じゃないけど、もうやるしかない。
私はその瞬間、『それ』を発動させた。
凄まじい閃光、振動、轟音。
それまで至って平静を装っていたリーダーの男もさすがに焦りを隠せず、思わずフタバから手を離した。
男と、フタバが同時に轟音の先を凝視する。
そこには、石が溶けて人の頭がすっぽり入るくらいの大きさの穴が開いていた。
「あーあ、あんたとうとうあの子を本気にさせちゃったみたいね。岩まで溶かす高温だもの。次は、あんたがケシズミになる番よ?」
男はゴクッと唾をのんだ。
(もうひと押しだ・・・)
「さあミルフィ、やっちゃいなさい。こんどは命中させんのよっ!!」
ふうっ、と、風が通り抜けた。(これも、ホントは私の風魔法なんだけど)
両手をかざして次の呪文を唱えようとする私の髪が逆立つ。
気合を込めて!光を収束させて!!轟音と共に!!!
・・・このへんが、この男たちの限界だった。
リーダーの男が「くそっ」と悪態をつくと、一目散に逃げだした。
怪我をして倒れていた部下たち2人も不格好な走り方でリーダーの男についていく。
そして男たちの姿が見えなくなってから、私は砂浜の上にへなへなとしゃがみ込んだ。
「ふえ~、こわかったあ。もうだめかと思ったよ。フタバはやっぱすごいよ。あんな奴らに立ち向かっていくんだもん。私だったら・・・」
けど、言いかけでフタバにほっぺたを思いっきり引っ叩かれた。
「あたしだってこわかったわよ。こわいに決まってるじゃん。あんなの撃てるんだったらなんでもっと早くしてくんなかったのよっ!」
本気で怒っていて、涙をこらえている表情。
しかもふるふると震えている。
「それは、違うんだよ、フタバ・・・」
「なにがちがうのよっ!」
フタバは私の両肩をつかんで強くゆすってくる。
「お願いだから落ち着いて。ちゃんと説明、するから。」
そう。私は、撃たなかったのではなくて、撃てなかったのだ。
あれはすべて、ハッタリだった。
私がその条件がそろったことに気が付いたのは、ユリカが火の魔法を使った時だった。
真っ黒なすすが付いた岩、そして強い日差し。
それに男たちはフタバとの戦いに気を取られていたから、私が多少何かしても気が付かないと言う状況も、絶対に必要だった。(ユリカは魔法を使ったけど、私が魔法を使えることはばれてなかった)
私はまず、空中におっきな『固い風』を発生させた。
『固い風』は光の角度も変わるから、レンズの役目を果たさせることもできる。
私はその角度をちょっとずつ調整しながら、太陽の光を焦げて黒くなった岩のところに集中させていった。
レンズが一つだと、光の色によって曲がる角度が違うから、他にもいくつもレンズを作ってうまく調節していく。
レンズの形や並べ方は、パパの望遠鏡なんかをよく見せてもらってたからそれを参考にした。
そしてフタバが戦っている間、私はずっと岩に太陽光を集中させた光をあてていた。
やがて岩は赤熱したけど、そのままじゃ、冷えたら元も戻るだけだからまだ駄目。
岩が溶けて流れ出すのを待つ必要があった。
それから、このレンズで集めた光で相手に直接ダメージを与えるのは基本的にほぼ無理だ。
なんでかというと、この光はずっと当て続けないと熱を持たせることが出来ないから、熱いと感じたら逃げることが出来る相手への攻撃として使うのは現実的じゃない。
それにレンズの数がいくつもあるから、微調整を繰り返さないと的に当たらないと言うのもある。
そして岩が十分に溶けたところで、閃光と轟音を発生させた。
閃光は、熱を持たせないでもいい光だから、一つのレンズだけを操って、その光を目に入るように調整すればいいだけ。
音はもともと空気の振動だから、威力は無視で大きめの『空気弾』を撃っておいてその音の波を乱反射させたらものすごい音に聞こえる。
その『空気弾』がさく裂した当たりを見れば、そこには溶けた岩があった。
だから私の魔法が『岩を溶かすほどの威力があった』とカン違いしたっていうわけだ。
つまり、岩を溶かしたのと『音や閃光』は全く別の過程であって、岩を溶かしている間はむしろ絶対に相手に気づかれてはいけなかったのだった。
「・・・それじゃ、ほんとにものすっごくピンチだったんじゃん」
魔法が専門じゃないフタバだけじゃなく、どうやら同じ魔法使い系のユリカも気づいていなかったようだ。
「そうだよ。もうだめだと思ってたよ」
それから、私たち3人はそろってその場でわんわん泣いたのだった。
そんなことがあったので、その後は大騒ぎで。
幸い3人の人さらいたちはその日のうちに捕まったらしく、そちらは一安心。
そうじゃなかったら、また仕返しに来られたりしたらこわいもんね。
あと、フタバの怪我も3日後くらいには包帯もとれてほぼ全快。
しばらくは包帯は取れないし、『全治』ってなるともっと時間はかかるけどね。
あの子、自分で回復魔法も使えるからホントはもっとひどかったのかもしれないけど、キズも残らなそうだからよかった。
私たちだけ離れたところに行ってたのを叱られたり、パパまで指導不行き届きとか言って学長先生に注意を受けたり。
当然、そんな状況だから、今日の課外授業は途中で中止。
私たちの発表の機会もなかった。
そんな状況だったから、私たちはすっかり忘れていたけれど。
でも本当は、それはきっとすごく重要な事だったのだ。
『この世界は、丸くない・・・』
次回の更新は12月10日(土)の予定です。




