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1.ミルフィと勇者様①

 異世界。交わるはずのない、どこか。


「この箱庭の人たちは生き残れるのかな・・・」

 ・・・誰かが言った。

 沢山の、箱庭があった。

 ずっと戦争ばかりしている箱庭の人たちは滅びたけれど、ずっと平和だった箱庭の人たちもやっぱり滅びた。

 文明レベルが高くなりすぎても滅亡に向かうことが分かっているからコントロールする必要がありそうだ。

 人類に『天敵』がいて、人類が結束しないと生き残れない、っていう『設定』はどうかな。

 でもずっと天敵がいると、人類の数は減って行くばかりだから、数百年ごとに『魔王』なんかを出現させるだけにして、普段は平和にした方がいいのかな。


 僕は、この箱庭の創造主だけれど、神様じゃないから君たちを導くことはできない。

 もしも君たちが滅びてしまったら、また新しい箱庭を試さなくちゃならないけれど。

 でも、今度はきっと大丈夫。

 僕の、自信作だ。

 さて、もう少し、箱庭の観察を続けるとしよう。

 君たちは、『我々が生き残るため』のヒントを与えてくれるだろうか・・・。




 私はミルフィ・ライプニッツ。初等学校の4年生になったところです。

 初等学校はみんなの世界でいう小学生。

 ただし、私たちの世界には中学校とか高校とかはなくて、初等学校を卒業するとみんな職業ごとの学校に進むか、すぐに家の仕事を手伝って経験を積むか、ってことになるから、学生って言ったら小学生の事だと思って。

 今は語学の授業中。

 担任のフランソワ先生は若くてやさしい女の先生だけど、授業は結構厳しくて宿題なんかも多い。

 あと、なぜか私が良くあてられる。


 初等学校の先生だから基本的には体育以外全部の授業を受け持つんだけど、フランソワ先生の専門は語学と魔法で、魔法の方の授業では私しか答えられないこともあったりするから語学の方でもできる子だと思われてるのかもしれない。

 でも・・・ホントは語学の方はあんまり得意じゃないんだ。

 まあ、呪文の詠唱とかに使う早口だけは得意なんだけど。


 私の将来の夢は大魔術師になること。

 だから、本当はもっと魔法の授業を増やしてほしいと思ってるわ。

 大魔術師なんて目指しても簡単になれるわけじゃないからそれだけの才能が私にあるのかどうかはまだわからないけれど、今のところは魔法理論のお勉強も実技も順調だと思うわ。


 私たちの住むこのデリルという町は、昔は王都だったけど100年くらいまえに遷都が行われて、今では王国で3番目の都市、という位置づけみたい。

 古都だけあって、石畳の古い町並みがかなり残っている。


 私のパパは天文学者なの。

 いつもはとっても優しいけど、研究に没頭すると声をかけても答えてくれないことも多いわ。

 ちなみにパパは、私たちの学校で1か月に一度だけ屋外授業の臨時の先生もやっている。


 専門は「自然科学」ね。つまり、理科と算数を全部合わせた教科ってこと。

 私にはパパの研究の難しいことはわからないけど、私がもっとちっちゃい頃には箱庭をつかって世界はこんなふうになってるっていう説明をしてくれたりしてた。


 ママは、飛空艇のエンジニアだったらしいけど、大きな事故があって・・・

 パパが使っている望遠鏡なんかも、手先が器用だったママが昔作ったものらしい。

 ママもパパと一緒で、私にはものすごく優しかったのを覚えてる。


 というか、子供の私から見ても「こんなに甘くて大丈夫??」って思っちゃうぐらい。

 私のパパやママは同級生のパパやママに比べてだいぶ年上で、パパとママが私に甘い(ママの方は過去形だけど)のはそのせいらしい。

 そういうものなのかしら。


 これは、私やお友達、周りの子たちが学校で経験した事とか頑張った事なんかを書いた物語です。

 なので基本的には『小学生の日常』のお話なの。

 だけどこの世界には、実はとんでもない秘密があるらしいので、いつの間にかものすごい大冒険に巻き込まれていた!なーんてことも起こるかもしれません。

 ・・・まあ、当分は日常だと思うけど。



 私たちの国では4年生になると、体育の授業の内の周1時間が「模擬戦」にあてられる。

 特に男子たちの中には将来戦士や騎士を目指す子達も多いから、主に剣術での決闘なのだけれど、私たちみたいに魔法を使える子は使っても、ルール上は反則じゃない。

 もちろん狭い範囲の中で武器を持った戦士系の子と魔法使いだったら私たち魔法使い系の子の方が圧倒的に不利。


 そのかわり、魔法の授業では武器は杖だけの防具無しって言うルールでの模擬戦もあって、そっちは魔法使い系の子が有利ってことになるからまあ文句を言うわけじゃあないんだけど。


 今回は4年生になって初めての模擬戦の授業だからなのか、体育のシュミット先生と一番体の大きな男子の指導戦みたいな形で、他の子たちは私も含め、みんなで見学していた。

 この男子の名前はジャッキー・ハウエル。


 この子が剣術はすごく強い、ということは聞いてもいたし、なんとなくわかってはいたけれど、実際に先生との模擬戦を見ると想像をはるかに超えていた。

 この先生、戦士系の子が初等学校を卒業した後に行く上の学校でも教えてる先生で、それこそ騎士デビュー寸前ぐらいの練習生もあしらえる位のバリバリの先生なんだけど、全然引けを取ってない感じがする。


 本当は先生が力を抜いてるのかもしれないけど、私たちには全然わからなかった。

 剣と剣がぶつかる押し合いのところは体格の違いもあってさすがに押され気味だけど、体制が悪くなっても距離を離すのがうまいし何より体幹がしっかりしてて体制が崩れない。

 ちなみにこの男子、顔はちょっとイケメンだし悪いやつじゃないのはわかるんだけど、徹底的にデリカシーにかけているので私はちょっと苦手だ。


 結局その模擬戦は時間制限の5分が過ぎ、決着がつかないまま終わりとなった。

 見本だから判定はなしだ。

 「よし、見本はここまでだ。この後教室に入って細かなルールの部分を学んでもらうが、その前に、来週対戦するパートナーを決めてもらう。あんまり差があると試合にならないのでできるだけ実力の近いもの同士で組むように」


 先生がそう言うと、みんなちょっとざわざわッとし始めた。

 特に、戦士組の男子たち。

 弱そうな子同士でさっさとパートナーを見つける子。

 そして、他の者たちも口々に「アイツとは無理だよな・・・」とか言ってる子もいる。


 つまり、この男子たちはみんな、目の前で圧倒的な強さを見せつけたジャッキーとは絶対組みたくない、という意思表示をしているのだ。

 それ、カッコ悪いよね・・・。

「別に絶対勝たなきゃならないってわけじゃないのに・・・訓練のパートナーぐらいでびびっちゃって、情けないわね!」


 私は思わず口に出してしまっていた。

 そしてすぐ後悔する。

「じゃあ、お前がやればいいじゃん」

 誰が言ったのかはわからなかったけど。

 でも、私がああいう発言をすればこんな風に返されるのは、冷静に考えれば分かったはずだ。


 こんな所で目立った発言をしなければ女子でしかも戦士系でもない私は、当然女子同士のパートナーになるはずだった。

 でも、いくら私がジャッキーの事が苦手でも、あんな風にみんなでハブるのはなんか納得いかなかった。

 かわいそうというのとはちょっと違うけど、なんかイライラしたというか。


「いくらなんでもそれは無茶だと思うぞ」

 と先生が言ってくれたのも、間違いなく私への助け舟のつもりだったんだと思う。

「俺も魔術師系の女子となんか試合したくねえし」

 とジャッキー。

 それ、本人に言われると余計ムカツクから。

 誰の為に私が口はさんだと思ってんのよ。


 我ながらこの時は熱くなりすぎておかしかったんだと思う。

 だって、もはや最初にイライラした原因がなんだったのかが関係なくなってきてるもん。

 けど、ここまで来て引っ込みつかないし。

「そんな事言ってられんのも今の内だけよ!来週私がブッ飛ばしてあげるわ!」

 私は思わず、言い放っていた。


 そりゃ自分でもやらかした!って思ってるわよ。

 多分ツッコミ入れた子も、私が引き下がると思ってたに決まってるし。

 でも、やると決まったらやってやるわ。私は。

 ホントに勝つのは難しくても、みんなをビックリさせるぐらいには!


「ミルフィ、また悪いクセがでちゃったね~ジャッキーに勝てるわけないのに」

 私の髪をいじりながらそう言ったのは、私と同じく魔術師志望のユリカだ。

 言わないでほしかった。自分でも分かってるし。


 彼女は火の魔法が得意。

 ちなみに私が得意なのは風の魔法だ。

 私たちぐらいの年齢だと実は、風の魔法だけで他人にダメージを与えるのはものすごく難しい。


 当てても威力が足りなくて全くダメージにならなかったりするからだ。

 対して火の魔法だと少なくとも相手が当たってさえくれれば火傷のダメージぐらいは与えられるから、ちょっとうらやましかったりする。


「また変な髪形にしないでよ」

「大丈夫、今日は上の方を緩めに結んだただの三つ編みだから。でも、来週の模擬戦の前にはあなたの風魔法にピッタリの流線形ヘアーにしてあげる」

 そう言ってから、ユリカは「にひひ」と変な笑い方をする。

「やめてよ!!」

 私はすぐに拒否の意思を伝えた。


 伝えないとホントにやられる。実際、何度もやられたことあるし。

 流線形ヘアーってどんな髪型だろ・・・という興味はあったけど、でも自分がやられるのは絶対やだ!


「はい、完成。あっと、忘れてた、あんたのトレードマークもちゃんとつけとかないとね」

 ユリカが言った私のトレードマークとは、魔女の三角帽子・・・の形をしたちっちゃなアクセサリーの事だ。

 どんな髪型にする時もお風呂に入るとき以外は、これだけはずっとつけているほどのお気に入りだ。


「さて、話がそれちゃったけど、ホントにどうしよ・・・」

 大体、いくら魔法使用可とはいっても武器有り防具有りで逃げる範囲も限られる授業の模擬戦で、戦士系の子に魔法使い系の子が挑むのはあまりにも不利すぎだ。

 模擬戦で使うフィールドの広さは半径12メートルぐらいだけど、本気で追いかけたら端から反対側の端まででも3秒もかからない。


 しかも、試合開始の時の両者の距離はもっと近いから、今の実力からすると最初の一瞬を負けずに持ちこたえることすら限りなく難しく思えてくる。

「もう、やっぱり無理でしたさっきはどうかしてましたごめんなさい、って先生に言って取り消してもらうしかないんじゃない?取り消してもらえなかったら、私なら泣く。絶対泣くよ」

ってユリカは言うけど、それが出来る性格なら苦労はしてないよ。


 でも、だから痛い目見るんだろうなあ、私は・・・

「ふう・・・」

 意図してないのに溜息出た。

 すごく気が滅入ってる。

 

 ユリカじゃないけどホントに泣きたい気分。

 いくら悩んでても状況は良くならないのにね。

 けど、この後ユリカが無責任に言ったこの一言が意外なヒントになった。

「あ、そういえば今、このまちに勇者様がきてるらしいわよ。神様にも仏様にも頼れそうにないから、いっそ勇者様に頼ってみちゃったら?」


 勇者様が来ていると言う話は、ユリカに言われるまでもなく超有名だったから私も知っていた。


 けど、勇者様って魔法は使うけれどもどっちかというとやっぱり戦士系だからね。

 私とはタイプが違うしこれから戦士系の訓練をしてアイツにかてるようになるわけないし。

 ただ、そこはただの戦士じゃなくて勇者様だ。

 うまく戦士系のなにかと私が使える魔法をうまく組み合わせる方法とか、いいアドバイスをもらえるかもしれない。


 面識もないのにいきなり有名人でもある勇者様にアドバイスをお願いしようなんて我ながらどうかしてる。

 でも、図々しかろうとなんだろうと、やるしかないもんね!


※次回更新は10月1日(土)の予定です。

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