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18.お祭りの夜(後篇)

 それからフタバ、ユリカと合流。

大量のお菓子を抱えた私を見て、2人もビックリだった。

 まあそうだよね。

「どうせ私だけじゃ食べきれないからみんなで食べよ」

 もちろんこんな量を独り占めにするつもりはない。

 そんなことしたら、体重計に乗るのが恐いし。


 唖然としたままの二人に、そのあと私は

「でも、すもも飴は私が食べる!」

 ってちゃんと付け加えておいた。これは重要だかんね!!


 むしろ、私としてはこれだけあれば十分なんだけどね。他は全部あげたっていいくらい。

「じゃあ、ありがたくいただくとするわ・・・けど、ここじゃ人が多すぎるからちょっと人の少ない通りに行こうよ」

 ってフタバが言って、みんなでちょっとした路地に入る。


 大通りから数メートル入っただけの所なんだけど、目が明るいのに慣れてしまってたこともあってかなり暗く感じる。

「うーん・・・ちょっと、怖い感じじゃない?」

 ・・・って私は思ったんだけど

「大通りから見えてるとこだから平気でしょ」


 てフタバにすぐに否定された。うーむ・・・。

 まあ確かに、少しぐらい暗いのを怖がってたら冒険者になるのは無理だわね。

 まあそれは置いといて、とりあえず、この大量のお菓子をいったん下に降ろさないとすもも飴が食べられない・・・。


 え?しつこい?

 いや、好物ってそういうもんでしょ!

 けど、どっこいしょとばかりにお菓子を下に置こうと思った瞬間、私の手からすもも飴が奪われた。


「フタバったらイタズラしないでよ!」

 両手いっぱいのお菓子を抱えたまま私は抗議したけど、

「あたしじゃないってば!」

 って言われた。それなら・・・


「じゃあユリカ!?」

 って思ったけど、当のユリカは片手に焼きそば、片手はお箸で塞がったユリカが口いっぱいに焼きそばを頬張ったまま

「ふが??」

 って感じだった。

 うわ、ユリカったらもう食べ始めてるし。しかも女の子的にはアウトな反応だ。

 食い気優先モード全開だ。ついでに言うと、焼きそばは大盛り。


 まあ、これならユリカが犯人じゃないってのははっきりわかった。

 じゃあ、私からすもも飴を奪ったのは一体誰・・・?

「あ、あいつ!」

 フタバが暗闇の方をビシッと指す。綿菓子でね。


 本人はちょっとカッコつけてるつもりっぽいけど綿菓子で指してもかっこ良くはないよ。むしろ可愛い感じだ。お子様的な意味で。

 まあ、それはとりあえず置いといて、綿菓子が指し示すその先にいたのは、私たちよりもだいぶ小さそうな・・・あれ、女の子かな?


 ・・・いや、ちがうか。だってそれにしてはあまりにも素早すぎるもん。

 あの速さは、人間業じゃないって言ったらちょっと言い過ぎかもしれないけどイメージはそんな感じだ。

 それに、暗闇に紛れてすごく見にくい。

 薄暗いとはいえ大通りからの光が当たればもうちょっと良く見えてもよさそうなもんだけど・・・。


 私からすもも飴を奪った『それ』は、よく見ると光の当たるところをうまく避けて、闇から闇へと移動している。

 うーん、やっぱ人間じゃなさそうかなあ・・・

「あんた、ちびっ子だからって泥棒は許さないかんね!」

 綿菓子を逆の手に持ち替えて腰の木刀に手をかけるフタバ。

 『それ』はじりじりと暗い方へと後ずさったが、フタバがそれを追っかけてちょうど暗闇に入る瞬間、突如として反転してフタバの方へ突進し、素手で綿菓子の綿の部分だけを奪い取り、そのままそれを口に運んだ。

 フタバの手に残されたのは、綿菓子の棒だけだ。


 でも、今ちょっと見えたよ。さっきまでよりもだいぶ目が暗いのになれてきたからね。

 『それ』は、肌の色は黒に近いけど、やっぱり女の子で多分間違いない。

 「そっちがその気なら、あたしも本気で怒るかんね!」

 フタバは綿菓子の棒を投げ捨てて、木刀を両手で握り直した。


 まさか本気で殴るつもり?あんなので殴ったらケガくらいじゃすまないかも。

 人間かどうか怪しいぐらいの素早さだけど、相当ちっちゃい子だよ!?

 けど、『その子』はたじろぐ様子も見せず、今度は私のすもも飴を口に運ぶ。

 ・・・って、あ、ヒドイ!吐き出した。いや、取って食べちゃうの自体ひどいんだけど、どうせならちゃんと食べてくれた方がまだマシだわ。気分的には。


 しかも周りの水あめの部分はしっかり食べてるから、吐き出したのは酸っぱいすももだけだ。

 でも、『その子』の様子を見てると多分、甘いと思って食べたら酸っぱいからびっくりしたんだろうなあ、って感じだった。

 だって、フタバに木刀振り上げられても平気な顔してたのにすももをかじった時は明らかに動揺してたもん。


 フタバは木刀の先を『その子』の方に向けながら、少しずつ間合いを詰めていく。

 言っとくけど木刀で本気で殴っちゃダメだかんね。いや、口に出しては言ってないけど。

 で、今は『その子』がいるのが大通り側、私たちがいるのが路地の暗い側だ。

 でも、『その子』の動き方を見てる限り、明るい方へは行きたがらないみたい。

 顔を見られるのが嫌なのかな(私には見えたけど)


 フタバもそれをわかったみたいで、木刀を大きく横に伸ばして通せんぼしながら間合いを詰めて行ってる。

 でも、それでも『その子』の素早さが上回った。

 フタバのほんの一瞬のスキをついて駆けだした『その子』は木刀の切っ先のもうちょっと先をすり抜けて、今度は私の横へ。


 けど、そう簡単には逃がさないよ!

 私がたくさんのお菓子を抱えたままだからほとんど身動きが取れないと思ったのかもしれないけど、私は両手がふさがってても魔法使えるんだもんね!


 私は得意の『固い風』を『その子』の足元に発生させる。

 速度だけならかわされてもおかしくないのかもしれないけど、『固い風』は透明だし、しかもこの状態から魔法を使われるとは思っていなかっただろうから、意表を突かれた格好になったんだろう。

 『その子』は見事足を引っかけて盛大にすっ転んだ。

 石畳の上だからかなり痛そう・・・ごめんね。けど、泥棒さんを逃がすわけにはいかないからね。


 で、あとはフタバに任せといて大丈夫なはずだよね。

 何度も言うようだけど本気で殴っちゃだめだからね!

 本当は、何度もどころか一度も口に出しては言ってないけど・・・。

 そんなことを私が思っているのを知ってか知らずかフタバはそのまま勢いよく走っていく。


 ・・・って、フタバも『その子』と同じように『固い風』に足引っかけて転んでるし。

 ダメじゃん!

 しかもフタバは、倒れて膝小僧を抱えている『その子』に真上からダイブする形になった。

『その子』はあわてて逃げようとしたみたいだけど、とても間に合わない。


「むぎゅ」

『その子』が上げかけた悲鳴も含めて、全部フタバに押しつぶされる形になった。

 こうしてみるとホント、ちっちゃいなあ・・・

 ちょっとお説教したら許してあげるくらいにしとかないと可哀想かも。


 私の見た感じでは、痛そうなのは下で押しつぶされてる方の『その子』だと思ったんだけど、

「痛っ」

 と声を上げたのはフタバの方だった。

 よく見ると、手を噛み付かれてるし。

 フタバが噛まれた方の手をさするそのスキに、『その子』はするするっと抜け出した。


 それからふところに手を突っ込んで何かを取り出し、それをこっちに投げてきた。

 石?大きさは、ビー玉ぐらい。暗いから何なのか、はっきりはわからない。

 数は、だいたい10個ぐらいかな。

 でも、それはこっちまでは届かずに足元のバラバラと落ちるだけ。

 だったんだけど・・・次の瞬間激しいパンパンという破裂音と共に『その子』が投げたものが火花を散らす。

 これ、癇癪玉じゃん!こんなのに足元でさく裂されたもんだからたまったもんじゃなかったわ。

 私たちがワーキャー言って騒いでる間に、『その子』はいつの間にかどこかに姿を消してしまっていた。


 さらにというか、しかもというか。

 私はユリカが食べ残してた焼きそばを頭からかぶることとなってしまった。

 本当にこれは『してやられた』って感じ。


 最悪。

 ・・・最悪なんだけど。

 何故だか私たちは急に可笑しくなってお互いに笑い合った。

 主には焼きそばを被った私の格好が笑われていたのかもしれないけど。

 でも少なくとも、何故か『その子』に対する怒りの感情って全然わかなかったんだ。

 それにね、この時は思いもしなかったことだけど、私とフタバは『その子』に命を救われることになるんだよ。


次回の更新は12月3日(土)の予定です。

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