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10.ゆーくんの初恋(後篇)

 せっかくだから、ゆーくんの忠告には従ってトイレには前もって行っておくことにした。

 上級生として、もっとカッコ悪いところをゆーくんに見られちゃうのはさすがにやだからね。


 そして、さあ、って感じでダンジョンの入り口に二人で並ぶ。

 どのぐらいのレベルがいいのかは私には全然わからなかったからゆーくんにまかせたら、lv4にすることになった。


 そういえば、はじめての人のレベルの目安は学校の学年と同じぐらい、って書いてある。

 (私はこの時、『4人パーティの時』って書いてあるのを見落としていた)

 係の人から渡されたのは、お馴染みの守護の腕輪lv2の他に、番号の書かれた鍵が3つ束になったもの。地下1階、地下2階、地下3階のそれぞれ4号室の鍵。

 それから、パーティナンバーが11番であると告げられた。


 地下室の図面は入口の所にしっかり張り出してあって、各階は全部おんなじ単純なつくり。

 つまり、ちょっと聞いてはいたけどこれなら迷うことは絶対にない。

 地下牢は、お城の真下じゃなくって上から見た位置的にはちょっと北側に飛び出した感じになっているらしく、階段じゃなくってすごくゆるやかな下りになった石作りの長い廊下でつながっていた。


 先に行くにしたがって、だんだんとジメジメした感じになってくるのが分かる。

 わかってはいたけど、ちょっと苦手な雰囲気だ。

「だいじょうぶ。こわがらないでいいからね」

 ゆーくんに不意に手を握られてちょっとビックリしたけど、ちょっと緊張してたのが和らいだのも本当。


 だから、わたしもゆーくんの手をちょっと強く握り返した。

 それにしてもゆーくん、洞察力がすごいって言うか、私がちょっと怖いな、って思ったりするのを鋭く感じ取ってくれてる、っていうか。


「ねえミルフィ、ここのダンジョンって、ちずに書いてあるへやのほかに、もうひとつとびらがあるのって知ってる?」

「ううん。私ここ初めてだから詳しくないし・・・」

「うんとね、そのとびらは、ちがう世界とつながってるんだって」

「へえ・・・ゆーくんは物知りなんだね」

「1年生は、みんな知ってるよ。でも、おっきい子はみんなそんなわけないって言うんだ。お兄ちゃんも信じてくれなかったし。・・・でも、ミルフィは信じて?」

「わかった。私はゆーくんのこと信じるよ」


 こうやって話を振ってくれるのも、気を紛らわせてくれるつもりなのかもしれない。

 ホントにやさしい子だなあ、って思う。

「ゆーくんも、ちがう世界に行ってみたい?」

「ぼくはいかない。帰れなくなったらやだもん」

「そうだよね。私もだよ」

 私とゆーくんは、顔を見合わせて笑った。


 そんな風にゆーくんとお話をしているうちに、だいぶ気持ちにも余裕が出てきたし。

 石の廊下は結構長かったはずだけど、部屋の並んでるあたりまですぐについた感じだった。

 そして、4番目の部屋。

「このとびらを開けたら、すぐにモンスターが出てくるからね。レベル4のモンスターはなんだったっけ・・・とにかく、早くたおさないとつぎのが出てきちゃうから、きをつけないと・・・」

「うん。わかった。一緒に頑張ろうね」

 そう言って、ゆーくんもうなずいてくれるのを確認してから、1階の4号室の鍵をえらんでガチャリと鍵をまわす。


 それから重い扉を開けると、ギイッとちょうつがいがちょっと嫌な音を立てた。

 ・・・

 あれ、何もいない?

 ゆーくんは私をかばうようにして、扉の中を慎重に確認してから壁に背中をつけたまま部屋の中に入った。

 うーん、男の子。


「だいじょうぶみたいだよ」

 そう言われてから、ゆーくんのマネをして、壁に背中をつけて部屋の中に入って行く。

 なんかまるでエスコートされてるみたいだ。

 2人とも部屋に入って、部屋の中を確認・・・しようとした瞬間、突如、ガチャガチャっと音がして・・・

「ひっ・・・」

 と思わず悲鳴を上げた。


 超ビックリした。ゆーくんの言った通り、トイレ行っといてよかったかも。

 いや、あんなことがあったからって私がおもらしを意識しすぎなんだ。

 別に驚くたびにちびってるわけじゃないんだから、変に意識しすぎない方がいいよね。


 ゆーくんは見たことがあるからか、

「あ、これこれ。コイツしゅみ悪いよね」

 なんて言ってるけど、多分初めて見たら誰でもびっくりするよ。

 スケルトン、と言えばそうなんだけど、武器が太腿の骨、盾が腰の骨って・・・


 けど、驚いてばっかりもいられない。

 とにかく、こいつをやっつけなきゃならないんだからね。

「ゆーくん、ちょっと回り込んで斜め前から攻撃して。真後ろだと攻撃魔法が使えないから」

「わかった!」


 スケルトンの動きはあんまり早くはない。

 でも、部屋の隅に追いやられるとまずいから、対処を間違えないようにしないと。

 さすがに1対1だとゆーくんは苦戦してるみたいだから、早く援護しないとね。

 私は水筒から水を手の上に垂らし、『ウォーターカッター』を発動した。

 詠唱の速さを生かして2発、3発と連発する。


 だけど、水を『鋭いけど薄い』刃物にする『ウォーターカッター』は皮膚を切り裂くみたいな攻撃だから、そもそも骨しかないスケルトンにはあんまり効果がない。

 かといって、『砂漠の嵐』とか使ってもすり抜けそうだし。


 それなら・・・

 私は、今度はわざと『水の刃』を作らずに、固まりのまま水をぶつけてみた。

 即興でやってみたけど『ウォーターフレイル』って感じかな。

 『ウォーターハンマー』だと違う意味になっちゃうからね・・・って、私なんでそんなこと知ってるんだろ。


 まあ、それは置いといて、刃をやめて鈍器っぽくしたのは正解だった。

 ガツンという音といっしょに確かに手ごたえがあった。これならダメージも与えてるはず。

 ただ、『ウォーターカッター』の時には全く私には向いていなかったスケルトンの注意が私の方に向かってきた。


 首を不自然にぎぃっと回転させてこちらに向かってくる気味の悪さはやっぱり慣れることがない。

 それに、『ウォーターフレイル』が『ウォーターカッター』よりも重いせいで、水の引き戻しがうまくいかなかったから、もう水魔法が使えない。


 攻撃できる手段はかなり減ってしまったけど、守りを固めるならなんとかなる。

 ゆーくんも結構ダメージを受けてるはずだから、しばらく私が囮になって・・・と思った瞬間、ゆーくんが横から無理やり飛び込んできた。


 スケルトンの攻撃は遅いから、冷静にかわしていけばそんなに当たる感じじゃないんだけど、ゆーくんが突っ込んでくるとことに合わせるように攻撃されてるから、これはかわせない。

 私もあわてて『固い風』をスケルトンのすぐそばに発生させるけど間に合わず、スケルトンが武器にしている太い骨がゆーくんの頭を直撃した。


 腕輪の設定が痛みを感じないモードにしてるから大丈夫なはずなんだけど、それでも衝撃がすごかったのか、ふらふらと2、3歩後ずさる。

「ゆーくん、無茶したらダメだよ!」

「ぼくが前でたたかう・・・ミルフィは、ぼくがまもるもん」


 ちょっと、キュンときた。

 でもゆーくん、勇気と無茶は違うよ。

「ゆーくん、お願いだから、私のことも信じて。こいつは絶対倒そう。2人で」

 私には、ゆーくんの反応を待っているひまはなかった。

 とにかく、スケルトンの動きを止めなきゃならない。


 ちゃんと、冷静に『固い風』を使いながら牽制していけば、そんなに簡単にはスケルトンの遅い攻撃なんか当たらない。

 でも、有効な攻撃魔法がない今、どうしたら・・・

 そうだ、一つだけ方法がある。

 私だけじゃ無理でも、ゆーくんと2人なら。


 スケルトンの動きを制限する『固い風』の他に、後ろ側の足元にも『固い風』を作って積み上げていく。

 でも、それはスケルトンを転ばせる為じゃない。

 動きの遅いスケルトンは、多分足元になにかが当たっても転倒はしないだろうし。

 むしろ逆に、そちらの方へは近寄らせないように注意する。

 そして、1段、2段、3段、4段、そして5段。

 『固い風』を階段みたいに組み上げるのに成功。


 でもそのままじゃ、透明だから見えない。

 だから、危険なのを覚悟のうえで私は『砂埃』を発生させた。

 もちろん、スケルトンに対して目つぶしの効果なんか期待できない。

 透明な『固い風』で出来た階段に、砂がかかって見えるようになった。


 これで狙い通り。

 このとき、太い骨の攻撃がかわし切れなくて右肩を殴られたけど、まだ何とか大丈夫。

 「ゆーくん、階段に上って勢い付けて上から殴って!」

 「わかった!」


 ゆーくんは私に言われた通り、勢いをつけて階段を駆け上がる。

 スケルトンの注意は、まだ私の方に向いている。

 多分、とどめを刺しにきているんだ。

 私は、『固い風』でガードを固める前に、勇気をもって一歩前に踏み込んだ。


 私が引いて守ったら、上からジャンプしたゆーくんの攻撃が届かないと思ったからだ。

 『固い風』の壁を、なるべく大きく!強く!!

 そして、ゆーくんの一撃がスケルトンの頭にヒット。

 スケルトンの頭は、ちょうど私が作った壁とゆーくんの攻撃に挟まれた形になった。

 そして頭蓋骨に大きな穴が開いて、音を立てて崩れていく。


 ホントのホントにギリギリだったけど、なんとか2人でスケルトンをやっつけた!

私とゆーくんは、思わずハイタッチ。


 けど、私たちは、時間をかけ過ぎた。

 最初と同じようなガチャガチャという音。

 ・・・嫌な予感。

 そしてその予感は、当たりだった。

 音のした方を見ると、最初のと同じぐらいの大きさのスケルトンがこちらに向かってくるところだった。


「ひっ・・・」

 最初のとは違って武器は持ってなかったけど、私とゆーくんはほとんど同時に首をつかまれていた。

 苦し・・・くは、なかった。

 新たなスケルトンの動きも、すぐに止まった。

 一瞬、ほっとしたんだけど。

 だけど私とゆーくんが付けている腕輪はもう赤く光っていて、それは私たちの失敗を意味していたのだった。


 つまり、わかりやすくいうとスケルトンの動きが止まったのはゲームオーバーになったからってこと。

 1体目であんなにギリギリだったのに、もう1体なんてとても無理だったのだ。


「ナンバー11のパーティは全滅です。受付まで戻ってください」

 しばらくしてから、係の人が来てそう教えてくれた。

「残念・・・失敗しちゃったね」

 そう言ってゆーくんの方を見ると、目に一杯涙をためて、しゃくり上げていた。

 え・・・なんで泣いてるの!?


「ねえゆーくん、失敗しちゃったのは確かに残念だったけど、次、頑張ろうよ。ね?」

 でも、ゆーくんは

「次なんて、ないもん」

 って言った。

「ミルフィが、いっしょに行ってくれるのは今日だけって言ったから、ぜったい今日クリアしたいって思ってたのに」


 ・・・そっか。

 私は確かに、今日だけって言った。

 言ったけど、全然そんなつもりだったわけじゃなくて。

 だけど、結局私はゆーくんを泣かせてしまった。

 ダメだな・・・このままじゃ、上級生失格だ。


「ねえゆーくん、それじゃ、こうしようよ。もしゆーくんが、勇気を出してクラスの他の子もさそって来たら、3人とか4人のパーティだったら私も一緒に行ってあげる。2人っきりは今日だけだけど、みんなでクリアしたらきっともっとうれしいよ?」


 私の言い方が、これで正解だったのかどうかはわからない。

 ゆーくんは、なかなか泣き止んではくれなかったけれど。

 でも、ちっちゃく頷いてくれたのだった。


次回の更新は11月5日(土)の予定です。

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