表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/50

0.ミルフィの日常~小4になりました!~

 私の目の前で、小さな女の子がわっと泣き出した。

 3年生だった昨日までの私なら、多分そのまま見過ごしたところだ。

 だけど、今日から小学4年生。

 小学校を上と下に分けたら、今日から上の学年なのだ。

 だから、これからはちっちゃい子の面倒も見なきゃね!


 私は一緒に遊んでいた同級生の輪を離れ、その小さな女の子の所にかけ寄った。

「どうしたの?」

 私が聞くと、女の子は上の方を指さす。

その先には、高い木の上に引っかかった風船。

 よくありがちなシーンだ。

 

「大丈夫!私が取ってきてあげる。私ね、魔法使いなんだよ!」

 あまり深く考えもせずに、私は言ってしまった。

 この安請け合いをするクセのせいで、私はこの後何度も痛い目に合うんだけどそれはまた別の話。


「ほんと?」

 女の子の顔が、パッと明るくなる。

 木は高いし、下の方には枝がないから上るのも難しそうなんだけど・・・。

 喜ばせておいてやっぱりダメだったらかわいそうだから、頑張っちゃうもんね!


 本当なら、ここで空飛ぶ魔法でも使ってさっそうと風船を取ってきてあげられたら一番カッコイイ!

 でも、私の得意の魔法属性は風なのに、まだ空を飛ぶ魔法は使えない。

 さて、どうしたもんか・・・。

 あ、馬鹿にしないでよ。

 空を飛ぶ魔法って実は相当難しいんだかんね!

 少なくとも私たちの学年でちゃんと使える子は誰もいないぐらいには。


 木の上に引っかかってるのがもし、ボールとかであればいくらでもやりようはある。

 『気弾』の魔法をぶつけて落としてあげればいいし、いっそ魔法じゃなくても石を投げたら落とすことができるかもしれない。


 けど、ものが風船となるとそう簡単にはいかない。

 石や『気弾』をぶつけたら風船は割れちゃうかもしれないし、うまく引っかかった糸が木の枝から外れてくれたとしても、落ちてこないで飛んでいっちゃうだろう。


 うーむ・・・。

 私は、ちょっと首をかしげて考える。


「無理しないでいいですよ。風船ならまた買ってあげればいいですし」

 って、お母さんらしき人がそう言うんだけど、それを聞いた女の子は

「やだ!あれがいいの!!」

 ってまた泣き出す。


 ここで逃げたら上級生失格!

 こうなったら意地でもなんとかするもんね!!


 私は使える魔法をいくつか確認してみることにした。

 まず、風魔法としてはオーソドックスな『かまいたち』。

 ・・・でも、これはダメだ。

 今は攻撃をしたいわけじゃないからね。

 じゃあ、『砂埃の風』は?

 うーむ、これは目つぶしぐらいしか使い道がない・・・。


 そしたら、空気を固めて壁にする『固い風』はどうだろう。

 うまく使えば弓矢や剣撃からも身を守れる・・・って言う感じの魔法。

 つまり、普通に考えたらただの防御魔法だ。

 だけど、別に攻撃されてるわけじゃないから防御魔法も意味はないかなあ・・・。


 けどね、魔法使いの本領っていうのは、『どんな魔法を使えるか』だけじゃない。

 手持ちの魔法で何ができるか、が大事だかんね!

 魔法が足りなければ工夫で何とかするんだよ!!


 私は『固い風』をちょっと小さめに出してみた。

 ちょうど、高さ30センチぐらいの踏み台くらいの大きさだ。

 そしてそれを、ぐっと踏んでみる。

 ちょっとゆれるけど、大丈夫、いけそうだ!


 そして、2つ目、3つ目と『固い風』を出して階段のようにつなげていった。

 これだと魔法を使う回数が半端じゃないから体力的には相当きついけれど、なんとか風船を取るところまで行ければ・・・。


 風船の引っかかってる高さはだいたい、建物の3階ぐらいだった。

 『固い風』の階段は、木の周りを廻るようにらせん状に組んでいく。


 そしてちょうど、半分ぐらいの高さまできたところで、私の同級生たちもみんな近くに集まってきているのに気が付いた。

 空を飛べないはずの私が空中に浮かんでるもんだから、物珍しくて見学に来た、ってところかな。


 ちなみに『固い風』は、本来魔法使いのお師匠様みたいな人から教えてもらような正式な魔法じゃなくって、それを早く簡単に、そして魔力が小さくても使えるようにした私のオリジナル。

・・・まあね、オリジナルって言っちゃえば聞こえはいいんだけど、要は『手抜き版』の魔法なんだよね。

 だから、誇れるのは『燃費』だけでその強度にはあんまり自信がない。


 防御に使う時はそれを補うために同じ魔法を連発するんだけど、どんどん先に階段を作らなくちゃならない今の状況ではそんな余裕はない。

 だから、

「ついてきちゃダメよ!」

 って、みんなにはあらかじめ言っておいた。

 まあ、『固い風』は透明でみんなには見えてないから、登れると分かってても相当怖いはずだけど・・・。


 その先も、ちょっとずつ高くなるにしたがって怖くなるし、風が吹けば立ってられずにその場で『固い風』にしがみつかないとならないし、ですごく大変。

 体力的にもかなりキツいし限界が近い。


 だけどあの小さな女の子が

「おねえちゃんがんばって!」

 って応援してくれてるし、まだ頑張るもんね!


 そしてあともうちょっと、の所まできた。

 だけどまだ安心はできない。

 一つ一つの『固い風』の強度が下がってきてて、踏み抜いちゃうのが怖い感じになってきたのだ。

 魔力不足だった。

 この高さから落ちたらかなりマズイよ・・・。

 それに、息もかなり上がってきてるし。

 

 ちょっとここで休憩しよう。

 魔力の回復にはもっと時間がかかるけど、呼吸だけでも整える。

 ここからなら思い切り手を伸ばせば・・・届くはず!


 それから、私は思い切って風船の引っかかった枝の方に両手と片足を伸ばした。

 枝をつかんじゃいさえすればそっちに移動して、枝の上で休憩できるからね。

 そこで回復してから戻れば、無事に地上に帰れるはずだ。


 けど、そんなに甘くはなかった。

 枝はなんとかつかめたんだけど、ギリギリすぎたから、残した方の最後の足に力がうまく伝わらなくて、宙ぶらりん状態になっちゃったのだ。


「ダメ、ミルフィってば、パンツ見えてるよ!こら、男子は下からのぞくな!!」

 注意してくれたのは、1年生の時からずっとクラスメイトのユリカ。

 だけどこれ、どうにもならないってば。

 だいたいこの状態で女の子のパンツをのぞくとか、クラスの男子ひどすぎる・・・(泣)。


 しかも見るだけじゃなくて、男子の誰かが指さして

「見ろよ、あの黄色いの。小便のシミじゃね?」

 なんて言って他の男子はゲラゲラ笑ってる。

 くぅ・・・。


 確かに腰から下のあたりはスースーして心許ないけど、それは春の風がまだ冷たいからであって、チビってるわけじゃない・・・はず!

 『はず』って言うのは自分で確認できないからだ。。

 冷静に考えればこの距離で小さなシミまで確認出来るわけがないから、単に適当なことを言ってからかってるだけなのがわかったはずだ。


 だけど私は気が動転していた。

 高いところの怖さと、パンツの恥ずかしさと、その他いろいろ。

 なんとか後ろに残った足に力を込め直して、あわてて木の方に飛び移ろうとするんだけど・・・。

 

 ダメだった。

 風船だけは取れたんだけど、木の方をつかんだ手はすべってしまい、そのまま地面に向けて真っ逆さま!

 やばいじゃん!

 ここで死んだら早くもこのお話終わっちゃうじゃん!!

 しかも、このままだと人生最後の思い出はパンツでした、なんてことになっちゃう。

 それ、シャレにならないよ!


 きっとみんなが大人になるころには名前すら忘れられて『ほら、誰だっけ、あのパンツを見せてた娘』みたいに回想されるんだ。

そんなの絶対いやだってば!!



 ・・・けど、奇跡的に強度の下がった『固い風』がクッション代わりになってくれたおかげで私は無傷ですんだのだった。

 ふう、何とかひと安心。


 あと、そうそう、ちゃんと女の子に風船も返してあげたよ。

「はいこれ。もう離しちゃダメだよ」

 そう言って、慎重に手渡し。

 簡単に離しちゃわないように、女の子の手にクルッと巻き付けてあげた。

 これにて一件落着だ。


「ありがとう、魔法使いのお姉ちゃん!」

 女の子も喜んでくれてなにより。

 それに、『魔法使いのお姉ちゃん』って言ってもらえたのも嬉しかったな。

 なんでかって?

 だって、もし『パンツのお姉ちゃん』って言われてたらすごいショックだもんね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ