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タカスガタイキ即興小説まとめ/雑多ジャンル

テレビみたいに、彼は。

 節分の季節になると、必ずいるんだ。

 豆を鼻に詰めて遊ぶような男子が。

 私は、そういう奴を見るたびに「死ね」と心の中で呟いている。極寒ブリザードである。しかし、東野だけはちょっと別だ。あいつだけは、私、一目置いている。あいつは鼻に詰めた豆をそのまま吸い込んでしまうのだ。意味はよくわからないし、汚いから半径二メートル以内に近づきたくはないのだが、とにかく体を張っている。つまり、それだけの覚悟を奴はしているということだ。


 ところで、あいつと私は学級委員だ。

 うちのクラスでは、飼育係も兼ねている。私達の仕事というのは、お楽しみ会を企画したり、クラスでアンケートをとったり、金魚が泳いでいる水槽にぱらぱらとエサをふりまいたり、そういうかんじ。それを私たちは二人で分担してやる。


 不思議と、私といる時の東野は全然ふざけない。


 むしろ、私よりも真面目なくらいで、水槽にそそぐエサを付属のスプーンで丁寧に計量したりする。私が横着して消した黒板を、後から綺麗に黒板消しでなぞる。そうしていると、普段の馬鹿している東野とは、全然違う感じがする。でも、私にはこっちの方が、本当の東野なんじゃないかなと思えた。いつもの東野は、なんだかテレビの中の人みたいだ。カメラに見える部分しか存在していないみたい。背中側がどうなってるか想像できない。それに比べて、放課後、がらんとしている教室でアンケートの仕分けをしている東野を見ると、ほっとする。こいつはどこにも行かないだろう――と無意味にほっとする。少しくらいお互い違うことをしていても、ふっと後ろを振り向いて「東野」と呼べば、なに?と顔を上げてくれそうな。うん、なんだか意味がよくわからないな。それで私は何に安心するんだろう。でも、とにかく安心するのだ。明るくて、馬鹿で、クラスの人気者の東野を見てると、なんだかこう、もやもやするから。


 その東野が死んだという話を、中学にあがった最初の夏に聞いた。


 重い病気だったらしい。

 入院することになって、中学校には通えなかったそうだ。

 教えてくれたのは友達で、「小学校の頃の同級生なんでしょう?」と訊いてくるその友達に、私は、そう、とだけ返した。


 東野。

 消えちゃった。

 テレビのスイッチを消すみたいに画面から消えちゃった。


 寂しくて、人気者の、私だけが背中側を知っている、あの頃、小学六年生だった男の子――。


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