1 村長視点2
ちょっといつもより長め。
ちょっと会話多め。多分ここまでで最多。
出発して数分で、マルグリアの家の前まで着いた。
彼女の工房は家の裏手にあるため、皆で荷車を曳いて回り込んだ。
と、そこには見慣れぬ小屋があった。
いや、小屋と言えない、窓や扉はおろか壁すら無い、柱と屋根だけの建物があった。
中央にはなにか穴の開いた台座の様なものがあるようだが、何のためのものかは分からん。
装飾だけは見事なものだが・・・
確か、最近まであんなものは無かったはず。相談事とはコレについてか?
そんな風に考えながら、マルグリアに続き工房内へ入る。
「薬はテーブルの上にあるのだったな?」
「ええ、テーブルの上の鍋です。」
うむ、確かにテーブルの上には中身がたっぷり入った大鍋が鎮座している。
この量だと彼女一人どころか数人がかりでやっと動かせる重量になるな。
小分けにできず鍋ごと運ぶのであれば、彼女一人では不可能だろうが・・・
まず、どうやってこれをテーブルに載せたのだろうか?
・・・まぁ、細かいことは後回しだ。この薬を早く皆の元へ運ばねばならん。
「こぼれない様に封をしてましたので、お願いいたします。」
「よし、分かった。さあ、皆で運ぶぞ!」
「「「「おぉぉ!!」」」」
彼女が蓋を被せてこぼれない様封をした鍋を皆で運びだし荷車に載せる。
おっと、動かない様ロープで固定をしなければ。
「すまんが、俺はマルグリアと少し話がある。ムガル、薬を運んで皆に分けておいてくれ」
「ああ、村長わかっただよ」
「薬は一人コップ一杯も飲めば十分ですので、十分な量があると思います。余ったら蓋をして、そのまま残しておいてください。あとで小分けにしてから封をして万が一に備えたいので。
効果の出方が違う可能性がありますが、治りますので安心してください」
「わかっただ。そいじゃ戻るべ」
一緒に来た中で最年長の木こりのムガルに薬を託す。実直な男なので大丈夫だろう。
マルグリアは使用量と効果を伝える。・・・効果の出方がはっきりしていないのか!?まぁ、彼女の事だ、大丈夫なのだろうが・・・彼女にしては珍しいな。そんな不安定なものを使うなど・・・
「村長、皆行きました。」
呼びかけられて意識を戻す。少し考え込んでしまったようだ。
「ああ、すまない、すこし考え事をな。で、相談事とは一体?」
「はい、まずこの小屋からです。」
彼女の相談事は想像の斜め上どころか、空の彼方だった。
まとめると、まず、あの小屋。中央の設備は井戸と言うらしいが、そこからマナ水が取れて、魔力結晶も採取可能な上、施されている装飾が魔導装飾で小屋自体も一級の遺跡であり研究対象であること。そして、薬が伝説・神話級の代物であり、同じく伝説・神話級に分類される材料もかなりの量があること。さらには、それらが1,2日の内に成された事象であること。
正直、気絶するか、現実を否定できれば良かったのだろうが、目の前に「でん!」と実物があっては否定できることではない。
全てが騒乱の種に、災いの種になるな・・・
薬や材料などの貴重もほどがある代物と言うことは金になるということ。それも常識外れのものとなろう。噂が広がれば、彼女や娘のリリアちゃんが襲われる可能性が高い。
何より、この井戸と言うものは動かせないし、継続してマナ水が湧き出しているのだ、隠せない。この場所を巡って争いが起こることは必至だろうな。
真火についても用途以外使えないが、移すことも出来ないから井戸と同じようなものだろう。
材料に関してはどこかに隠してしまえば大丈夫だろうが・・・・
「これらの処分をどうするかか?」
「ええ、この地を治める子爵様にすべて献上してしまうのが早いのでしょうが、そうすると住むところが無くなってしまいますし、正直新しい家に移るにも費用が・・・」
ある程度処分方法を考えてはいたか。さすが厄種にしかならないことを理解している。
「それなら君たち母娘に問題は起きないだろう。なに、一時的にうちの離れにでも住めばいいさ。それにこれ程のモノだ、褒賞もそれなりのモノになるだろうから、それを元に新築すればいい」
「ありがとうございます。すぐに荷造りしておきます。」
頭を下げ彼女は言った。この村では空家と言うものは存在しないからな。ウチは村長として客人が来る場合があるため離れがあるが、普通はせいぜいが小さな倉庫だ。家が無ければ新築するしかないが、数か月はかかるから、その間の生活を心配したのだろう。
「しかし、この井戸。このままで良いものでしょうか?」
彼女はそう心配そうにつぶやく。
「まぁ、献上してしまえば後は子爵様の判断次第だ。気にせずとも良かろう」
「いえ、今は探索者たちが1時間ほどの往復時間で《マナ水》や薬草を回収していますが、この井戸があれば森に入る危険を冒さなくて済みますので、取り合いになるのではと心配しているのです」
ああ、そうだったな。この村はマナ泉のある地点へ一番近い採取拠点が発展してできた村だ。
探索者が知れば、需要の大きい《マナ水》が危険を冒さず採取できるのだ、殺到するだろうな。
・・・加えて魔力結晶も取れるとあれば・・・探索者同士での斬り合い・殺し合いが発生するな。
村人には止められんぞ・・・
「・・・子爵様にすべて献上し、あとはお任せするしかあるまい・・・」
そう絞り出すように答える。
もう、一村長の範囲を超えているだろう!?私はすべてを子爵様に委ねることにした。
人はそれを責任放棄・丸投げというかもしれんが、もう無理!胃がもたんわ!!
「おか~さん~~~おか~さん~~~!ドコ~~~~!?」
リリアちゃんの声が聞こえる。
マルグリアがここに来る前に家で寝ていると言っていたが、どうやら起きたようだな。
「ほれ、娘のところに戻ってやれ。心配しているぞ。」
「はい、それでは、色々よろしくお願いいたします」
「分かっている。早く行ってやれ」
そう言って、広場に戻るため歩き出した。
任せたとはいえ、村長として配分を監督しなければな。
遠くから馬の駆ける音が響いて来た気がした。
村長、丸投げしました。胃のために・・・
本日発覚のうっかり?
⑤人一人では困難な重さの鍋を移動してしまった。
⑥人の欲望・業の深さを元人間なのに忘れてる。リメンバー・アフリカ支援。
※井戸を青年協力隊などが掘ると、その場では感謝されるが、すぐ埋められてしまうことがある。理由として、井戸を狙った他部族からの攻撃を受けるからと、支援が受けられなくなる(貧乏なままの方が支援を受けやすい)というもの。
どこかで聞いた話ですので、嘘かホントか・・・でもそういう話が人の業の深さをよく表していると思います。
次は丸投げされた側の視点で書こうと思います。