クレイジーな豆の木 その1
「ジャック! おいジャック!」
「……ちっ、何だよ」
「聞こえてるなら返事ぐらいしろスカポンタン! とっととこの野菜たちを倉庫に運べションベン野郎!」
「わーったよ」
「本当にお前は使えないやつだ! 亀がビビってクソを漏らしちまうほどのノロマっぷりだ! 精子だった時に体力を使い果たしちまったようだな!」
(うっせーんだよクソ親父が! 死ね!)
俺はジャック。どこにでもいるごく普通の農民だ。
母が天国へ旅行中のため、今は親父と二人暮らし。
生活はお世辞にも充実しているとは形容できない有り様で、メシは毎回野菜ばっかりの自給自足クオリティだ。肉(meat)料理に出会った(meet)試しがない。
そこに親父が毎日のように罵声を浴びせまくるんだから、もうストレスはオリンポス山(火星にある標高ニ五kmの山)。胃がいくつあっても足りねえ。
そんな貧乏生活を癒してくれたのが雌牛のベティだ。
……おいおい、勘違いしないでくれよ? 俺にその手の趣味はないからな?
なんと驚くなかれ! ベティはただの牛ではなく獣人なのだ!
これには俺もおったまげたよ。ある朝目覚めたら、俺の横で女の子がスースー寝てたんだから。慌ててそいつを起こしたよ。どうなったと思う?
第一声が「あたしはベティ! 雌牛よ! んじゃよろしく!」なんだぜ。 どこの世界に雌牛を自称する女がいるかってんだ。つーか馴れ馴れしすぎだ。
だが、頭に生えた二本の角を目にすれば、嫌でも彼女を牛だと信じざるをえない。何より胸がでかい! 俺の一〇倍はあるんじゃないか?
そんなこんなでベティは家族の一員となり(貧乏にもかかわらず親父は快諾した。胸に惹かれたんだろう)、楽しみを共有し、苦しみを分かちあう仲になった。
最初は家族が一人増えることに内心猛反対だったが、今ではベティなしの生活なんて想像できないまでになった。分からんもんだな、人生は。
だがしかし、その生活も長くは続かなかった。
今年は凶作続きで収穫状況が最悪で、資金繰りのためにベティを売り払わねばならなくなったのだ。
俺は親父に抗議したが、「うるせーんだよ! 女は金との引換券だ! 童貞チェリーは黙ってろ!」と激しく怒られてしまったためにそれ以上の行動ができなかった。
「ごめん、ベティ。親父を説得できなかった……」
涙を流しながら家庭が直面している状況を打ち明ける。あまりにも身勝手な理由に申し訳無さ過ぎて、ベティの顔を直視できなかった。
「ジャックが気にする必要なんてないわ。家族じゃないのに今まで散々世話になったのはあたしなんだから。だから元気出して、ねっ?」
「本当にごめん……。俺…………俺が金持ちだったらこんなことにならなかったのに……。何もできなかったのが悔しい!」
「大丈夫よ。ジャックはいい子だもん。絶対幸運が舞い降りてくるわ。神様はジャックを見捨てない」
「でも……ベティがいなくなるのはやだ……」
「また会えるって。あたしの直感を信じなさい!」
胸を張って力説するベティ。彼女の自信に満ちた表情を眺めていると、少しずつ元気が出てきた。
本当はベティだって辛いだろうに、大声で泣き叫びたいであろうに、決して涙を見せることなく頑張っているのだ。俺より小さいのに。
とすれば俺だっていつまでもウジウジしてるわけにはいかない。笑顔で送り出そう。それが今できる精一杯の愛情表現だ。
「……分かった。元気でな、ベ……ティ……っ!」
こうしてベティは売られていった。
手元に残ったのはいくらかの金と、妹同然の家族を失った大きな喪失感だけだった。
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・良かった点
クレイジー桃太郎よりも話はできている
・改善点
勢いが足りない