第三十章 底知れぬ思惑
「数が少なくなれば支配もしやすくなりますよ」
ゲオルギウスのその言葉通り、再び襲い掛かって来たモンスターの動きは素早い。先程とは比べ物にならないくらいに。
それだけならまだしも、
「ミラばっかり狙いやがって、何のつもりだ!」
その三体の攻撃は明らかにミラに集中していた。と言うか、オレに対してはほぼ無視といっていい。こちらが触手などで攻撃すれば回避したり反撃したりしてくるのだが、それ以外はほとんど見向きもしやがらない。
「言ったでしょう。邪魔者には死んでいただくと。その娘は目障りなのです」
そう言いながらゲオルギウス自身は相変わらず動こうとしない。本当に何を考えているのかわからない奴だ。
「オレに仲間がいるのが不満ってか! てめえだってモンスター連れてんだし、むしろそいつらだって邪魔者じゃねえのかよ!」
「これは私の武器です。それにこの程度ではあなたの障害にもなりはしないでしょう。なにより、私が気に入らないのは仲間がいることではなく、そのエルフの娘やいなくなった妖精の娘が弱過ぎることですよ」
「はあ!? 何言ってやがる!」
リングフォックスがミラの背後から噛みつこうとしたのを触手で弾き飛ばしながら言う。如何せん、動きもよくなっているのか仕留めきれない。
「あなたは闘技場に来てから明らかに動きが鈍くなっている。それはその娘達に対して常に気を配り、今のように守り続けているからだ。要するに、その娘たちはあなたにとって足手まといなのですよ。有用な仲間ならともかく、宿敵との戦いを穢すような輩は邪魔者以外の何者でもありません」
「まさか、さっきからお前自身が手を出さないのはそれが理由だってのか」
「ええ、その通りです。今、私が手を出せば有利に事を進められるでしょう。だが、ゲオルギウスにとってオズワルドは絶対に滅ぼさなければならない存在であると同時に、死闘を繰り広げる好敵手でもあります。そんな勝ち方はありえない。つまり、その娘達にはオズワルドと共にいる資格などないのですよ。まあ、そんな弱者だからこそあなたは守るのでしょうがね」
今、分かった。こいつ頭良いくせにバカだ。だからこそ思考が読めない。
それにしても、やたらと宿敵ってところを重視しているが、オレにはそんな感覚はない。それとも完全に覚醒するとそうなってしまうものなのだろうか。
(んなもん要らねえっての)
勝てるチャンスをそんな理由で見送るなんてバカバカしいとしか思わない。それにそもそもミラ達は足手まといなんかではない。
言い返してやろうとした、その時、
「……好き勝手言うのもいい加減にしてください」
ミラの静かな怒声で打ち消された。間違いない、この声はマジギレしている時のものだ。
オレが戦々恐々としていると、ミラの注意が逸れたところを狙うかのようにデザートイーグルが上空から奇襲を仕掛ける。
だが、それを察知していたミラは矢を二本手に持つと、まずは片方の矢を弓につがえて放つ。何故だかいつもより遅い矢は簡単に躱されてしまい、次の瞬間すぐさま放たれた第二射が的確に翼を貫いた。
一射目は逃げる方向を誘うためと注意を引き付ける為で、本命の二射目を悟らせないようにしたのだ。しかも、緩急をつけたことによってより躱しづらくなっていたはず。
そして、そのまま落下してくるデザートイーグルの首目掛けて、ミラは腰に差してあったナイフを突き立てた。どうやら買い物でミスリルナイフの代わりになる者を用意していたらしい。
「足手まといとかオズさんと一緒にいる資格がないだとか、言いたいこと言ってくれてますけど、あなた何様ですか? そんなこと敵であるあなたに言われる筋合いありません。それに、そもそも私達は足手まといになんかなりません」
ミラが弓を構えながらそう言い放つ。
ゲオルギウスは見下したような目でミラを見ていた。
「自力ではその程度のモンスターを倒せない輩が何を言うかと思えば。あなたが倒したのは初めのオズワルドの協力があった一体と運よく奇襲が決まった二体だけではないですか。それともあなた一人の力で倒せると言い張るのですか?」
「出来ますよ、それくらいのこと」
その言葉にゲオルギウスは大きな声を立てて笑い出した、戦闘中のはずなのに一体どうなっているのやら。
「おい、ミラ!」
「オズさんは力を温存しておいてください。私は大丈夫ですから」
そう言うミラの表情は落ち着いていた。決して怒りに身を任せてこんなことを言い出したのではないとわかる。何か考えがあってのことなのだろう。
その表情を見て迷っていたら、手遅れになった。
「面白い、では見せてもらいましょうか」
そう呟くと同時に残り二体のモンスターが完全に狙いをミラに定めて、その周囲を円を描くように回り出す。
(付き合ってられっか!)
すぐさまオレはミラの加勢に入ろうとして、
「手出しは無用ですよ、オズワルド」
吹き荒れる火炎に進路を塞がれてしまう。こいつ、最初からオレとミラを分断することが出来たっていうのか。
「見物しながら倉庫での話の続きでもしましょうか。どうせ、今一対一で戦ってもあなたはあの娘の事が気になって集中できないでしょうから」
そうこうしている内にミラにモンスターが襲い掛かった。




