第二十八章 活路
闘技場に着いたと思ったら矢が飛んできた。
もちろん「矢を見切る眼」でオレに当たらない軌道であることは見切っていたので、そのままスルー。矢はオレのすぐ横を通り過ぎると後ろに迫っていたモンスターの眉間に突き刺さった。
「ナイス、ミラ」
「何がナイスですか。無茶ばっかりしないでください」
どうしてこの場にいるのかはわからないが頼もしい味方がいてくれるだけで十分だ。今はそれよりも戦うことに集中しなくては。
ぞろぞろと現れた敵の数はおおよそ十体ほど。こちらの約五倍だ。
「数が少なくなっている気がするけど、他のモンスターは途中で逃げ出したのか?」
その中で大将のように中心に居座るゲオルギウスに語りかける。
「この分身体では支配できるモンスターの数には限りがありましてね。支配できなかった個体は他のもっと狙いやすい獲物を見つけたようで、そちらに向かってしまったようです」
(数が減って喜ぶべきか、全部を引き付けられなかったことを悔やむべきか、どっちだろうな)
どっちにしたってピンチには変わりはないのだが。
それに今のオレに出来ることはこいつらを片づけることだけなのだから、それにすべての力を注ぐのみだ。
他のモンスターのことは係員やランディ達がうまくやってくれることを祈るしかない。
「そういや、チャットはどうしてる?」
ゲオルギウスと睨み合いながらミラに小声で話しかける。
「肉屋さんが呼びに行ってるはずなのでもうすぐ来ると思います」
「そうか、だったら」
触手を剣に変化させて戦闘態勢に入る。
「それまで二人で持ちこたえるしかないな」
「二対十ですか。チャットが来るまでに半分は減らしましょう」
「へえ、強気じゃないか」
「弱気になってもしょうがないですから」
ミラを弓に矢をつがえてこちらの準備は整った。
それを待っていたかのようにゲオルギウスも構えをとる。
「邪魔者がいますが、まあいいでしょう」
その言葉と同時に目が光って、
「魔にして人の心を持つ者にして我が宿敵、オズワルド! その魂に至るまで滅ぼして差し上げましょう!」
またしても火炎が立ち上る。
もちろんオレはミラを触手で掴んでその場から離れていた。兆候を見逃すほど間抜けではないし。
ただ、それと同時に周囲のモンスターも一斉にこちらに向って駆け出してくる。オレは火炎を吐いて一斉に襲い掛かれないように注意しながら後退した。
もちろん逃げているだけではない。ミラはオレの触手に掴まれながらも弓を構え、魔力を溜めているのだ。
「オズさん!」
「了解!」
ミラの準備が整ったのを察して、オレは全力で斜め後方に飛びそれと同時に肥大化する。そしてその体の上にミラを載せて触手で体を固定。即席の空中砲台の完成だ。
「風精霊の矢!」
高い位置から放たれたその矢はまずは宙に浮いていた巨大蝙蝠のようなモンスターの体に大穴を開けてやすやすと貫通する。
しかもそれだけに留まらず、その矢はその先にいたゲオルギウスに向ってそのまま飛来する。あの一瞬で二体が射線上に重なるところを狙ったのだ。なんという腕前だろう。
ゲオルギウスにはスキルが効かないが、あれだけの威力があれば無効化しきれない可能性もある。そうじゃなくても余波でダメージは受けるはずだから無駄じゃない。
ゲオルギウスは素早い身のこなしで矢を躱そうとして、
「マジックシールド・プリズン!」
その周囲を立方体のようにして囲む魔法の障壁が現れる。声の主は当然、
「チャット!」
「遅れてごめんなさい。でもこれで相手は動けないはずよ」
チャットは既に羽を出していて、オレ達の横に付き添うように飛んでいた。
「いや、あいつには」
スキルが効かない、と言う前にゲオルギウスは動いていた。その白い装甲で覆われた爪を振って魔法の壁をいとも容易く無効化してしまった。魔法でも無効化できるとなるとやはりあの装甲を破る手段はない。
そう思った時、矢がゲオルギウスに被弾した。高速で迫る矢に対してチャットの一瞬の足止めは躱す時間を削る効果をもたらしたのだ。
だが、その矢が当たったところは左半身の装甲部分。ゲオルギウスの奴は躱せないと判断した瞬間、咄嗟にそちらで防ぐことを選択したのだ。相手を称賛したくはないが、やはり手強い。右半身に当たれば仕留められたかもしれないのに。
そして矢は弾かれた。
「く!?」
ただし、矢が被弾した白い装甲部分は大きくひび割れている。どう見たって効いていた。
「無効化されてない? なんで?」
地面に着地したところで、襲われそうになるがチャットがすぐさま反応する。
「マジックシールド・ウォール!」
今度はそびえたつ壁のように障壁が張られて、周囲のモンスターはその見えない壁に突っ込む形になる。
「力が強いし、長い間は持たないわ」
「十分だ」
ゲオルギウスとは距離が離れているから無効化される心配はなかった。
チャットは手を挙げて障壁を維持しようとするがその頬には汗が伝わっている。それにギシギシと音を立てているし壊れるのは時間の問題。その前に確認しなければならないことがある。
「ミラ、さっきの矢を放つスキルは特別な効果があるか?」
「いえ、エルフ族に伝わる秘伝の特殊スキルの一つですけど、精霊の力を借りる以外は特殊な力はありません」
「特殊スキル……そうか! そういうことか!」
これで活路が生まれたかもしれない。
「二人とも聞いてくれ。あいつの装甲はスキルを無効化する効果がある。だけど、恐らくだが特殊スキルまでは無効化できない」
散々、ありとあらゆるスキルを無効化していたあの装甲も無敵ってわけではないようだ。
「狙うのは装甲がない右半身。だけど、特殊スキルの場合はその限りではない」
もっと情報を交換したいところだが、障壁が持ちそうにない。
「限界だわ!」
「チャットは壊れた瞬間ミラを抱えて空へ飛べ!」
オレとチャットが同時にそう言った瞬間、障壁がガラスの割れるような音と共に砕け散った。




