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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第三部 ギルド編
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第二十七章 大反乱

 もちろんオレは生きていた。


「ほんと、スライムでよかったわ」


 天井の崩落に巻き込まれはしたものの、戦いによって出来た地面の隙間に収縮して逃げ込むことによってほとんどダメージを負うこともなく生き残ることができたのだった。


 ゲオルギウスがどうなったかはわからないが、これで死んでいてくれることを祈るのみだ。かなり深手を与えた後のこれだから死んでいてもおかしくないはずだが。


「とにかく、まずはここから出ないとな」


 視界は真っ暗だが、スキルのおかげでちゃんと見えている。ただ瓦礫などが散乱しすぎていてほとんど周りの様子を見渡すことはできなかった。


 扉の残骸らしきものを見つけたので、その方向に体を隙間にねじ込みながら進んでいくと、


「おっと」


 意外と呆気なく外へ出られた。元々扉の近くにいたのが幸いしたのだろう。


 そうして外へ出たオレを出迎えたのは当然ながら武器を持った係員らしき連中だった。


「か、確保だ! 確保しろ!」


 またしてもリーダー格の男が何か言い出すが、周りの奴らは動きだそうとしない。


 まあ、あの戦闘をほんの僅かとはいえ見たなら、オレがそう簡単に捕まえられる存在だとは思わないだろうから当然だ。


 こいつらには折角の好機を台無しにされたから若干イラついているし、話す気も起きない。


 あれだけ派手に戦闘していたから上の階に人がいてもとっくの昔に逃げ出しているとわかってはいた。けど、万が一のことがある行動をせざるを得なくしたのはこいつらだ。悪気がないとしても良い感情は持てない。


 とにかく面倒事は御免なので逃げ出そうかと考えていたら、


 ズンっという音が後方から聞こえてきた。振り返ってもそこにあるのは瓦礫に覆い尽くされた倉庫しか見えない。


「……マジかよ」


 間違いなく空耳なんかではない。だとしたら可能性は一つしかないではないか。死にはしなくても身動きは取れなくなるだろうと思っていたのに、まさかこれでもダメなのだろうか。


 是と言わんばかりにまた音がして今度は振動も伝わってくる。周りの係員の奴らも青い顔しているところを見ると状況はわかっているみたいだ。ただ、どいつもこいつも固まったまま動けないでいる。


 仕方ないので目を覚ましてやることにした。はっきり言ってこの場に残られても邪魔なだけだし。


「がああああああああああ!」


 かなり加減して動きに支障が出ないように気を付けながら吠える。所謂、喝を入れてやったのだ。


 びくついていた奴らの視線がこちらに視線が注目したところで、首と触手の手を使ってさっさと行けと示す。


 この態度で我に返って数人が慌てた様子でこの場から離れるために走り出す。その態度は逃げ出すといってもおかしくなかったが一人でも動き出せばつられるのが人間というものだ。


 他の未だに何が起こったのか理解していない奴らも周りに置いて行かれるのは御免とばかりに走り始める。素早く避難するのはいいのだが、この状況を他の客などに知らせてくれないと困るので、


「よっと」

「ぐえ!」


 リーダー格の男を捕まえてその肩に飛び乗る。そして耳打ちで話しかけた。


「客とか避難させろよ。ビビッて逃げ出しやがったらどうなるか覚悟しとけ」

「りょ、了解です!」


 とてもいい返事だった。まあ、これだけ人数がいれば誰かしろに伝わるだろうが念には念を入れて置いて損はない。


 そうして全員いなくなったところでオレは「黒閃」を溜め始める。


(出てきたところにぶっ放してやる)


 一撃必殺、それで片づけられれば被害は出ない。


 段々、音と振動が大きくなってきている。そろそろ瓦礫の拘束も限界だろうか。


 次の瞬間、黒い影が瓦礫の山の中から飛び出してきた。


「終わり、だ!?」


 ギリギリで放とうとした「黒閃」を止める。何故なら出てきたのはゲオルギウスではなかったからだ。四足の獣型のモンスターではあるのだが、首が一つしかないしそもそも犬じゃない。


 一番近い獣は虎だろうか。目が三つあったり体の色が青色だったりとそっくりとは言い難いが何となく近いものはある。


 しかし、どう見たってゲオルギウスが乗り移ったケルベロスではない。


「まさか崩落で檻が壊れたのか?」


 だとしたら他のモンスターも逃げ出している可能性がある。


 と、そこで、


「うわ!?」


 いきなり地面が隆起してバランスを崩した。すぐさま跳躍してその場を離れると、オレのいたすぐ近くから巨大なモグラのようなモンスターが地面に穴を開けて、そこから顔を覗かせていた。ちなみに鼻のあたりがドリルのようになっている。本当に何でもありだな、異世界。


 その鼻ドリルが独特の高い音を立てながら回転し始めるとモグラはまた地面に潜ろうとする。


「って、それは不味い!」


 地下に逃げられたらオレには追えないし、客が集まっている所に地下から不意打ちで襲撃されでもしたら防ぎようがない。もはや倉庫内に閉じ込めておくのは諦めるにしても、こういう通路以外に進路を確保できる奴は削っておかないと。


 この虎のように通路を移動するしかないなら、その行く先を特定することも出来るし対処もしやすい。そこら辺はこの闘技場にいる警備の奴らに任せるとする。最悪、飼い主の魔獣調教師がいるだろうからそれに任せればどうにかなると信じるしかない。


 既に跳躍して集中が切れた時点で溜めた闇の力は拡散してしまっているので、他の手でこいつを仕留めるしかない。


 オレはミスリル化した触手を棍棒状に変化させる。そして、


「烈震衝破!」


 モグラの頭めがけて振り降ろした。咄嗟の行動だったのでモグラ叩きを連想して棍棒で攻撃してしまったのはここだけ話だ。


 全力で打ちつけた棍棒は頭蓋骨ごと頭部を粉砕して血飛沫が上がる。グロいがそんなことでメンタルをやられている場合ではない。


 襲い掛かって来た虎も触れさせる間もなく棍棒で頭をぶっ潰して終了。こいつら本選から出場だけあって強いが、それでもアリティアレベルがいいところだ。一対一で手こずる訳がない。


 だったら倒すべき敵は残り一体。


「どうせてめえも無事なんだろ、ゲオルギウス! 隠れてないでさっさと出てこい!」

「そう言われては仕方ありませんね」


 その言葉と同時に瓦礫の山が赤く光ったと思うと火炎がすべてを吹き飛ばした。そして、現れたのは、


「……おいおい、嘘だろ」

「まぎれもない現実ですよ」


 まずは六つの眼の内の一つが潰れたゲオルギウスがいた。体も焼けただれているし至る所から血が出ている。天井の崩落はノーダメージではなかったようだ。


 ただ、その後ろにモンスターの大群がいるのは夢であって欲しい。少なく見積もってもこのまま戦ったら十対一にはなるぞ、これ。


 単体で戦う分には問題ないが複数だと話は別だ。しかも、ゲオルギウスまでいるとなれば勝てる気がしない。


 と、言う訳で結論は出た。


「うん、無理」


 捨て台詞を残す暇も惜しんでオレは全力での逃亡を選択した。


 敵前逃亡上等だ。こんな数相手に戦うなんて勝算が無さ過ぎる。命を懸けるのと捨てるのでは全く意味が違うのだ。こんなことで格好つけて死ぬなんてまっぴら御免である。


「あれだけ堂々と出てこいと叫んでおいて逃亡ですか。呆れますね」

「うるせえ! くやしかったら追い付いてみろ!」

「言われなくてもそうしますよ」


 ゲオルギウスが駆け出すと周囲のモンスターもそれに付いてきた。


(よし、これならイケる)


 オレだってただ単にビビッて逃げているわけではない。こんな狭い通路ではゲオルギウスの発火能力から逃げる場所がほとんどないし、物量的に押し切られる可能性が高い。


 しかもここで戦って建物全体にどんな影響を与えるかもわからない。ただでさえ倉庫の天井などを破壊しているのだ。これ以上暴れれば最悪の場合、建物自体が自壊することも考えられる。


(この際、囲まれるのはしょうがないな。建物への影響を考えずに戦えて、その上こいつら全部を収容できる場所と言えばあそこしかない)


 道順は何度も係員に運ばれたので覚えている。先に逃げた奴らのおかげかそこまでの通路にも人気はない。


「着いた!」


 そうして辿り着いたのはお察しの通り闘技場だった。

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