第二十三章 宿敵
アリティアが肉塊に成り果て力が手に入るのを確認した後、オレは急いでネイ達の元へと向かった。無茶な動きをしていたし、ゴラムは傷が悪化していてもおかしくない。
「肉屋、アリティアの肉とあの鎧を回収しといてくれ」
「承りました」
異変に気付いた係員がやってくる前に治療を終えたらすぐにでも逃げなければならない。幸いオレと一緒に行動していた奴は気絶しているようなので目覚める前にトンずらするのが一番だ。
近寄ってみると二人とも意識ははっきりしていた。
「怪我は無いか?」
「ああ、俺は大丈夫だ」
「ネイも無事にゃ」
二人とも傷が増えている様子もないし、これならすぐにでも動けそうだ。
「急いでここから離れるぞ」
流石にこんなことが起こった場所で隠れきれるとは思えない。目立つのを避けるなどと言っていられる場合ではなかった。とにかく逃げなければ。
「わかった。ただ奥にまだ救援に来てくれた冒険者達がいる。やられてしまったやつもいるが何人かはまだ生きているはずだ」
生存者、全員殺されたとばかりに思っていたからその言葉はオレに喜びを与えてくれた。ただそれと同時に頭を抱えさせもしたが。
「怪我人を運ぶとなると難しいな」
ゴラムやネイは怪我人だしどうするか悩んでいると、
「オズ殿!」
肉屋が真剣な声色でこちらを呼んでくる。何事かと思って振り返って、
「な!?」
転生してからこれまでで一番驚愕する光景を目の当たりにした。
そこにあった光景は透明になっていたはずの肉屋が姿を現して、そのすぐ目の前にあの鎧が宙に浮くようにして存在しているというもの。その鎧の手にはどこから取り出したのか真っ白な剣を持っていた。
そして、何より驚かされたのは肉屋の片腕が空中で回転しながら宙に浮いていてことだ。
二人の体勢から見てその剣で腕を斬り飛ばされたことは明らか。
その指は透明になる為に指輪が嵌っており、無理矢理透明化を解除されたことが嫌でも理解できた。
「肉屋が攻撃をくらっただと!?」
あり得ない、無敵のはずの肉屋に一体どうやったら攻撃を与えられるというのだ。
追撃とばかりに振られた剣の一撃を肉屋はこれまで見たこともないような機敏な動きで後ろに飛んで回避する。回避が必要な時点でやはり無敵の効果が無効化されているのだ。
鎧は肉屋を逃すつもりはないらしく、そのまま空中を滑るように移動すると剣を振りかぶり、
「させるか!」
すぐさま飛び出して庇ったオレの剣と鎧の剣がぶつかり合う。当たった瞬間に感じた力はこちらが上、押し切れるかと思ったが急に力が抜ける感覚と同時に剣の形を保っていることが出来なくなった。
(一体何が!)
剣どこから触手状に保つことも出来ずに崩れたオレの体の一部はそれまでの拮抗を嘲笑うかのように振るわれた鎧の剣によって両断された。
「こ、んの!」
激痛が走るがここで止まったら更なる追撃を許してしまう。咄嗟に出来る限りの火炎を吐いて牽制するとオレは肉屋の体をもう片方の触手で掴むと後ろに跳躍する。
(こっちの触手に異常はないな)
だとすれば、あの剣に何らかの秘密があるのは間違いなかった。
距離を取ってお互い相手の様子を窺うように睨み合う。向こうもただ襲ってくるわけでなく、それぐらい出来る頭は持っているわけだ。
「恐らくあの剣にはスキルを無効化する効果があると思われます」
肉屋が触手から地面に降り立ちながらオレに語りかけてくる。
「なるほどな。お前のスキルもそれで無効化されたってわけか」
肉屋の無敵能力もスキルによるもの。その大本であるスキルそのものを無効化されたら普通に攻撃が通るようになるわけだ。
オレの体もスキルによるもので剣やミスリル、触手状に変化させている。それを無効化されたらただの軟体生物の体に戻るしかない。
「それにしても、そんな重要な情報を交渉なしに教えてもいいのかよ?」
「助けられたお礼ですよ。それに何も知らない状態ではオズ殿でも勝てるかわからない相手ですからね」
この鎧はそれ程の相手というのか。気を抜くわけにはいかない。
「お前、何者だ?」
オレは鎧に問いかける。返答があるかわからなかったが、
「ふふふ、今代のオズワルドは色々と面白い存在ですね」
答えではなかったものの男とも女とも聞き分けが付かない声が鎧から発せられる。
その声を聞いた瞬間オレの背中に凄まじい悪寒が走った。
これまで出会ってきたどんな存在よりもヤバい。直感がそう警鐘を鳴らしているし、それ以外の自分の中の何かがそう告げている。
こいつは相容れない敵だと。お互いが殺し合う事しか選択肢がない不倶戴天の敵だと。
「お前は何なんだ!」
無意識の内に問い詰める声が怒鳴り声となっていて体から闇の力が湧き上がるように溢れ出て来る。まるでこの力そのものまでも、こいつを敵視しているかの如くこれまでにないほどに荒ぶって。
さっきまではこいつがアリティアの本体とかかと推測していたが、それは間違いだったこいつはそんな程度の存在じゃない。
そんな生易しい相手ではなんかではない。もっと凶悪で恐ろしい存在だとオレは何故だか理解していた。
「ふむ、ですがまだ完全な覚醒には至っていないのですか。半分程と言ったところでしょう」
「グダグダとわけのわからないこと言ってないで答えろ!」
オレは剣を作りそこに闇の力を集め始める。次にこいつが返答を返してこなかったときは容赦なく「黒閃」を放つ気だった。
こんなところであれを放てばどう考えても取り返しのつかない騒ぎになるし、下手すればモンスターの檻を壊してしまう大参事を招くことになるとわかってはいた。だけど、それを理解した上でなおこいつを生かしておく方が危険なのだとオレは判断したのだ。
根拠などない。だというのにオレの中の本能のような何かがそう告げてくるのだった。
「そう気を荒立てないでください。私のことはあなたが一番よく知っているでしょう。まあ、今代のあなたと会うのは初めてですから自己紹介くらいはしておきますか」
そうして半身の鎧は言い放った。
「改めまして私の名前はゲオルギウス、あなたの仇敵にして対極の存在、永遠の宿敵ですよ」
「宿敵……だと?」
「ええ、お久しぶりです」
白の鎧、ゲオルギウスはすべてを知っているかのような超然とした態度で、オレ達の前に現れた。




