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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第三部 ギルド編

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第二十二章 力の差

「な、に?」


 呆然としながら、その威力のまま宙に浮きあがったアリティアの足に触手を絡ませるとさっきやられたように遠心力を使って地面に叩き付ける。


「もう一発だ」


 そのまま離すことはせずにもう一回宙に浮いてからの地面に突撃をさせて、元いた場所にアリティアを戻してからわざとオレは解放した。


 これはさっきの攻防でわかったことだが、


「お前、弱過ぎだろ」


 こいつ名付きという割に弱い。


 確かにそれなりに力はある。ゴラムの攻撃を片手で押し留めただけはあるだろう。


 だがその程度だ。グーラだったら押し留めるなんてことはせずに、そのまま軽く力でねじ伏せていたはずだ。ゴラム程度の力じゃ一秒たりとも拮抗なんて出来やしない。それぐらいにあいつ力は常識外れだった。


 だけどこいつは体格も小さいし、あの凄みあるオーラも感じない。オレに言わせればそこらのモンスターと大して変わらないのが正直な所だった。


 これなら対戦相手としては準決勝でやったゴブリンの方がまだ優秀だとすら思える。


「どうせ名付きの力に胡坐を掻いて、自分より弱い奴としか戦って来なかったんだろ?」

「うるせえ!」


 図星だったのか起き上がるとまたしても突っ込んできた。それしか攻撃方法がないのだろうか。


 対処方法のわかっている攻撃などこっちにしたら攻撃してくださいと言っているようなものだ。


「か!」


 まずは火炎を吐く。これでダメージを与えるのが目的ではなく視界を潰すために。


 すぐさま上空に跳ねて天井にへばり付く。そして炎の壁を突き抜けてきてオレの姿をキョロキョロと探すアリティアに目掛けて、背後から鞭を叩き込む。


 思わぬ方向、しかも背後からの攻撃を躱すことが出来るはずもなく鞭の一撃は直撃した。オレがわざわざ殺傷能力の低い鞭を選んだのは別に慈悲を掛けたわけではない。一つ確認しておきたかったことがあるのだ。


 腹に開けた傷はさすがに完治することはないが、血は止まり始めていることからかなりの回復力があることはわかる。殺すなら頭や心臓を狙うしかないだろう。


 さすがにこいつも弱点はカバーするためか鎧を着ているのでそこは狙いずらい。なので殺す方針を一先ず変更し、まずは心を折ることにしたのだ。


 先程も述べたが鞭の殺傷能力は低い。剣や槍のように斬り裂くこともできないし、皮膚を打ち付けることで痛みを与えるのが関の山だ。


 だが、だからこそある意味では鞭の一撃はヤバいのだ。


「確か拷問の道具としても使われてたはずだし」


 瞬間的な痛みでは鞭は恐らく他の武器の追随を許さない。圧倒的な痛みを与えつつ殺さない為、拷問するには最適な道具の一つでもあるのだった。


「ぎゃあああああああ!」


 そしてその効果はアリティアに対して絶大だった。背中を強打されたアリティアはあまりの痛みに耐えきれずに悶絶している。


「なまじ人間の精神なのが仇になったな」


 モンスターの痛みや死に鈍感な精神なら耐えられたかもしれないが、人間の物ではそうはいかなかったらしい。


 もしアリティアがしっかりと精神を鍛えていたなら話は違ったのかもしれないが、力に胡坐を掻いて、怠けていたこいつは転生してからそもそもまともな痛みを知ることもなかったのだろう。


 傷を負ってもなまじ回復力があるから切り傷や刺し傷などは少し痛みを我慢すればどうにかなっていたはずだ。少なくともオレはそうだった。


 だが鞭の場合与えるのは傷ではなく痛みそのもの。痛覚を遮断でもしないかぎりこれを防ぐことは出来ない。


「要するに覚悟が足りないんだよ」


 少なくともこれまでに一度でも死線と呼べるものをくぐり抜けてきたならば、こんな無様な姿は晒さない。


 肉体的には人間の物よりも強くなっているのだから痛みも耐えようと思えば耐えられるはずだ。実際、オレはスライムに生まれ変わって痛みに強くなっている。むしろ、そうでなければこれまで戦えなかった。


 アリティアが鞭の痛みに耐えられないのは結局のところこいつ自身の精神が肉体について行けてないから。それに他ならない。


「やっぱり雑魚だな」


 こいつは名付きかもしれないが、それだけだ。下手すれば闇の力を覚醒する前のオレよりも弱いかもしれない。


「て、てめえ、ふざけぎゃあああああああああああああ!」


 何か言おうとしたが鞭の一撃で悲鳴に変わる。話す暇があるなら攻撃の一つや二つ仕掛ければいいものを怒りと痛みでそんなこともわからないのだろうか。このままだと嬲り殺しだというのに。


「ほら、かかってこいよ」


 オレは一旦攻撃を中止してアリティアを挑発する。攻撃しやすいように目の前に近寄ってやって。


「ぶ、ぶっ殺してやる!」


 アリティアは大きく息を吸い込むと、何かを吐き出そうとする。だが、これは悪手だ。


「遅いっての」


 大きく息を吸い込むことで上がった顎を、容赦なく触手の拳で打ち抜く。作り出した物は青い血を吐くのと同時にそのまま口から溢れ、毒のようなものが周囲に飛び散った。飛散した床が音を立てて腐食しているところを見ると威力はかなりの物だ。


 だが、この近距離でそんな一呼吸が必要でわかりやすい攻撃なんてこの通り、出る前に潰してしまえる。こういう攻撃は牽制に使うか、近距離で使うなら相手に隙を作ってからでないとむしろ狙いどころだろうに。


 やはり戦い方がなっていない。オレもまだそこまで戦闘経験がある方ではないが、それでもこいつが戦い方をわかっていないのは簡単に理解できる。


 ある程度の力の差があれば強力な攻撃を考えなしに連発してれば勝てるが、そんなのは地力に差がある場合だけ。力が均衡している相手では攻撃のチャンスをみすみす作ってやるだけだ。


 しかも今回はオレの方が地力でも上回っているのに工夫何もなければ勝てる訳もないだろうに。


 グーラのように力だけで相手を圧倒するなら話は別だが、こいつはそうではない。どう甘く見積もってもお粗末と言わざるを得ない戦いっぷりだった。

 背中から地面に倒れたアリティアは立ち上がろうとしているが足元がふらついている。


「ほら、避けないとまた地獄だぞ」

「ぎゃああああああああああ!」


 両足に同時に鞭を叩き付ける。だが、この攻撃は半分しか成功しなかった。


(嘘だろ。なんて硬さだ)


 生身の方にはこれまでのようにダメージが通ったが、鎧のほうにあった鞭は弾かれてしまったのだ。鎧の上からダメージを与えることが目的でなくミスリル化した鞭で身を守っている鎧をぶっ壊してやるつもりだったのに。


 ミスリル製の武器の一撃を受けたというのに鎧の方には傷一つ付いていない。なんという硬度、これがアリティアの強みなのだろうか。


 もしこれが全身に覆われていたら厄介なことこの上なかっただろう。例えそうであっても負ける気はしなかったが、半身が露出していてくれて助かったことは否めない。


「こ、降参だ! 助けてくれ!」


 この期に及んで命乞いとは、こんな良い鎧を此奴が持っているなんて宝の持ち腐れもいいところだ。


「バカが、許すわけないだろうが」

「く、くそ!」


 オレが聞く耳持たず触手を構えるのを見るや否や、アリティアは反転して逃げだそうと試みる。確かに敵わない相手から逃げるのも一つの手段だ。


「でも、せめて背中を見せるなら牽制してからにしろよ」


 狙ってくれと差し出された背中に鞭をまた叩き付ける。相変わらず痛みで悶絶していてこれでは逃げるどころではない。


 どうやら命乞いして逃げ出すところを見るとこいつの力はこれですべてのようだ。逃げるのに必死だし、力を温存しているとは考え難い。


(だとしたら、ゴラムの体の傷はなんだったんだ?)


 一本線の斬り傷。あれはこいつの爪や牙なんかで付けられるものではない。


 (こいつがアリティアってことはゴラムも叫んでたし本人もそう言ってたから、そこに疑いようはない。てっきり武器を隠し持っているのかと思ったけど、この様子じゃそれもないな)

「うーん、気になるな」


 これまでアリティアを仕留めずに痛めつけていたのは、そこがどうにも引っ掛かっていたからだ。明らかに聞いていた強さや傷から読み取れる人物像に隔たりが有り過ぎる。


 そのことが何か言い知れない不安となってオレの心に暗雲をもたらしていた。


「一応聞いておくが、これが本当にお前の全力なんだよな?」


 聞こえていてあえてなのか、痛みでこちらの質問を聞いてなかったのか知らないが答えなかったので素直になるまで鞭でいたぶる。相手がクズだと良心が痛まないので助かった。


 五発くらったところでアリティアは泣きながら話し出す。意外に持った方だろう。


「俺の力はこれで全部だよ! 温存している力があったらとっくに使ってるって!」

「だよな」


 だとするとオレの思い過ごしか。武器に関して言えば村を襲った時は持っていて、今回は持っていなかっただけなのかもしれない。


 弱く感じたのはオレが名付きとして力を覚醒させているからと考えれば一応の説明は付く。


(……これ以上考えても仕方ないか)


 だとすると残すは後片付けのみ。


「じゃあ、終わりにしてやるよ」


 触手を鞭から剣に変える。止めを刺すならやはり威力が最も高いこれが最適だ。


「ま、待てよ。正直に話したし見逃してくれても」

「それ、ギルドの救援隊や罪もない獣人達を殺した奴のセリフか?」


 その一言でアリティアを黙らせる。既にオレはこいつを生かしておくつもりなんて更々ないのが伝わったのだろう。絶望という言葉が似合う顔をしていた。


「く、くそ!」


 アリティアはこの期に及んでまだ逃げるつもりなのかまたしても反転して逃走を図る。そして、運の悪いことにアリティアの進む先にゴラムが倒れていた。


 ネイはその傍で自らも怪我していることも厭わずにゴラムの治療に当たっているようだ。


 それをみたアリティアは最後のチャンスとばかりにネイ達に飛び掛かる。人質にしようという魂胆なのだろう。何とも分かりやすい奴だ。


「何度も言ったが」


 オレはその隙だらけの背中に、


「牽制ぐらいしろ」


 容赦なく剣を突き立てた。


 剣に貫かれたまま力なく宙に浮くアリティアをオレは自分の目の前まで持ってくる。


「ま、って、くれ。い、いの、ち、だけ、は」

「更にもう一度言おう」


 肺に穴が開いているのだろうか、何と言っているかさっぱりわからない。そもそも半魚人みたいなこいつに肺があるのかすら疑問だが。


 剣を引き抜いて一撃で仕留めるために闇を込める。


「黙れ、クズが」


 そのまま頭頂部に剣を振り降ろし、オレが触手を元に戻す頃にはアリティアは見事に両断されていた。


 そうして半身を覆っていた鎧が地面に落下し、カランという力ない音を立てて決着を告げるのだった。

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