第二十一章 同じ存在
決勝の相手は通常のホブゴブリンだったが、はっきり言って準決勝の奴より弱かった。単純な力ならホブゴブリンの方が上だったが、ただその力を工夫もなく力任せに振るうだけ。読みやすいことこの上ないしこちらの攻撃も簡単に当てることが出来た。
敬意を払う相手とも思えなかったので容赦なく押し潰すことで命を奪わせてもらった。僅かでも力を得られるならそれに越したことはない。
そういう訳で本選出場を決めたオレは倉庫への戻る最中だった。だが、その時点で嫌な予感がしていたのだ。
予感というよりは感知したという方が的確か。血の匂いを。
(闘技場の方からするならともかく、間違いなく倉庫側から漂ってきやがる)
それもかなり濃い匂いだ。これまでこんな匂いはしなかったことからオレが決勝に行っている間に何らかの流血する事態が起こった事が簡単に予測できる。
係員は気付いていないのかトロトロと歩く。いっそのこと抜け出してしまおうかと思ったが、何とか踏みとどまった。
万が一、ネイ達に関係ないことだったら騒ぎを起こすのは不味い。下手すれば逃げるのを邪魔してしまいかねない。
(ああもう! 早くしろよ!)
苛々しながら待つこと数分、ようやく倉庫が見えてきた。そうしてこれまで通りに係員が無造作に倉庫を開ける。
その瞬間、それを待っていたかのように腕が伸びてきて係員の首を掴んで、そいつごとオレも倉庫内へと引きずり込まれた。
いきなりのことに係員が檻を手放したことによってオレは地面を転がるはめになる。檻が止まると同時に周囲を確認すると
「が、あ」
片腕で宙に浮くように首を絞められて係員は苦悶の声を上げていた。
そしてなにより首を絞めている方は明らかに人ではない。人型ではあるが全身に魚の鱗のようなものがあり、左半身が白い鎧なようなもので覆われていた。ただ鎧はところどころ壊れているかのように継ぎはぎの状態だったが。
「運が悪かったな。己の不運を呪いながら死んでくれや」
そう言って男の腕に力が込められ、
「アリティアああああああああああああああああああああ!」
る前に背後から跳んできたゴラムが大声で吠えて拘束された拳を上から叩き付けた。だが、その攻撃は敵のもう片方の手で簡単に防がれていた。
「雑魚が。まだ動けるとは大したもんだが、その程度で邪魔すんじゃねえよ!」
ゴラムは両手で力を込めるのに対して敵は片腕で、しかももう片方の手も動かしながら相手をしている。幾ら拘束されているとは言えかなりの威力があったはず。それを文字通り片手間にあしらうとは。
だが、その攻撃のおかげで相手の両手は塞がった。
「おらぁ!」
オレは檻をぶち抜いて触手を相手に向かって突撃させる。最近使ってなかった槍状にして。
「な!?」
完全に不意を突くことに成功し、触手が鎧で覆われていない方の腹部を完全に貫いた。敵は耐えきれず手を放し二人を解放してしまう。
「まだだ!」
オレはそこで止まることなく体ごと勢いよく前に出る。その勢いのまま倉庫の壁にまで敵を叩き付ける。丁度触手が相手を壁に縫い付けるように。
「ぐは!?」
口から青い血を吐いているが追撃を止める気は更々ない。ゴラムがアリティアと言っていたということは、こいつは恐らく名付き。この程度で名付きがくたばるわけがないのだ。
すぐさまもう片方の触手で剣を作り、振り降ろそうとして
「調子に、のんな!」
「うお!?」
敵はその直前に槍状の触手を掴むと痛みを感じていないかのように胴体から引き抜き自由になると、遠心力を利用するように思いっきりそれを引っ張った。その所為でオレも引き寄せられて目測が狂ってしまう。
剣での攻撃は大きくはずれ、そのまま壁に叩き込まれた。
(いって!)
そう思ったのも束の間、すぐにもう一度、今度は逆の方に引っ張られるのを察知して、
「やらせるか!」
触手から熱や電気など生成できるものはすべて作り出す。
「あつ!?」
レベルが上がって一瞬でもかなりの高熱を作り出せるようになったというのに、熱いで済んでしまうとは。やはり名付きはイカれている。
作り出した熱のおかげでアリティアから逃れることは成功したが、途中まで振り回されてしまったのでハンマー投げのようにして、壁に叩き付けられることはなかったものの吹っ飛ばされる。
進路上にあったモンスターの檻に激突して、そのままぶち抜いた。ミスリル化していたし、相当な威力になっていたのだろう。
中にいたモンスターはいきなりの出来事に驚いたのか目を丸くしてこちらを見ていた。
「邪魔したな」
大したダメージは負ってないのですぐにぶち壊したところから外に出る。
すると、アリティアはこちらを警戒するように向いてその場で待っていた。どうやらゴラムのように片手間で相手に出来るとは思っていないらしい。
視界の隅でゴラム達が動いていることで無事を確認してオレは話し出す。
「一応確認しておくが、お前が人間みたいな名付きっていうアリティアだな」
「その通りだが、てめえ何者だ?」
ごもっともな質問だ。
いつもなら素直に答える義理はないとか言うのだが、今回に限っては聞きたいこともあるので正直に話すことにした。
「オズワルド。ギルドの刺客で、お前と同じ名付きだよ」
「さっきぶっ殺したギルドの刺客にまさかのスライムの名付きか。は! おもしれえ奴がいたもんだ。名付きってのはどいつもこいつもそんな風に言葉を話せるのかい?」
この口ぶりだと今まで他の名付きにはあったことはないようだ。
それに救援隊はこいつに殺されてしまったのか。だとしたらこの血の匂いはその彼らの物だろう。
もう少しオレが早く来れば助けられたかもしれないと思うとやり切れない。
「……いや、前にあった名付きの知能はその種族に見合ったものだった」
悔やんでいる場合ではないのでオレは目の前にことにどうにか集中する。
「ってことは俺みたいに全部の名付きが人間の転生体って奴じゃないのか。良いこと知れたぜ」
「……その言葉は、つまりお前は人間の転生体。人だったころの記憶があるってことだな?」
「ああ。情けないことに今はこんなマーマンなんていう半魚人みたいな姿だがな。完全じゃないが人間だった前世の記憶は持っているぜ」
隠す気がないのか呆気ないほど簡単にその言葉を引き出せてしまった。
「どうせあんたも同じくちだろ? こうして話すと会話の節々に人間臭さが出まくってるぜ」
「一つ聞く。お前は教団に操られているのか? だから獣人の村を襲ったりしてるのか?」
これは重要なことだった。こいつはモンスターの人を襲う本能は薄いように見える。だとすればわざわざ人を襲うことに積極的になる理由はないはずだ。
もちろん、本人がそれを望む奴でない限りはだが。
「ああ、教団ね。あれには従っちゃいるがそれは俺の意思でだ。あそこにいれば獣人どもを殺しても罪に問われることもないし、何より強くなれる。モンスターとして追われることはないし良い隠れ蓑だよ」
「……そうか」
これで心配していたことは解消された。
こいつは糞だ。容赦する必要なんて皆無。
出来ればもっと話をして情報を引き出したかったが相手はそんなつもりはないらしく、戦闘態勢に入っていた。
「てめえも俺の強さの糧になれ! 名付きならいい獲物だろうよ!」
「黙れ、クズが」
威勢よくこちらに突っ込んでくるその顔面にオレは容赦なく拳を叩き込んだ。




