第二十章 同じく意志ある獣
そうして倉庫に戻るとそこには目を覚ましたゴラムが待っていた。ネイは相変わらず敵意を向けてくるが、ゴラムの方は先程とは違っていきなり襲い掛かってくることはなかったのは幸いと言うべきだろう。
「ネイから話は聞いた。お前が俺の事を、身を削ってまで治療してくれたらしいな。感謝する」
そう言ってゴラムは頭を下げた。話し方やら態度といい、なんだか時代劇に出てくる武人みたいな印象を受ける。
「冷静になれば話が出来るじゃないか」
少し前とは大違いだ。若干の皮肉を込めてオレはそう言った。
「それに関しては申し訳なかった。言葉も話していたから、てっきり教団が新たな名付きを送り込んできたものだとばかりに思ってな」
「新たな名付き? どういうことだ?」
その言い方だと教団が名付きを従えているかのようだ。
「俺とネイは同じ村に住んでいたんだが少し前、村にレゾナス教を名乗る奴らに襲撃されたんだ。もちろん抵抗したし初めの内はこちらが優勢だった。だが、その名付きが現れてから形勢は逆転したんだ」
ゴラムは悔しげに拳を地面に叩き付ける。
「あのアリティアとかいう奴は明らかに外見はモンスターのくせに、人並みに賢く言葉も話していた。今のお前の様にな。そして名付きに相応しい圧倒的な力も持っていた。俺達はなす術なく蹂躙されるしかなかったよ」
教団が名付きを従えているなんて情報聞いてない。ギルド側でも把握していないのだろう。知っていたら教えているはずだ。
アリティア。グーラですら言葉は話せなかったのにそいつは人間のような知性を備えている。まるでオレのように。
「あいつは俺達をいたぶり仲間を嬲り殺しにした。しかもバカにするかのようにこちらを嘲笑いながらだ! 俺も戦ったが背中に受けた一撃で戦えなくなって、運よく生き残った奴はみんな捕まったよ。俺とネイは捕まった中では戦闘力が高かったから回復する前に早めに売られることになったらしい」
「そうして今ここで捕まってるってわけか」
ってなると他の仲間はまだ教団に捕まっているのか。ランディに言えばそいつらの救出も可能かもしれない。
それにゴラム達がやたらとオレのことを敵視していた理由もこれで発覚した。そんな仇同然の相手と似通った奴がいきなり現れれば冷静さを失っても仕方ないのかもしれない。
そのアリティアとかいう奴はゴラムの背中の傷からして剣のような刃物を使うようだし、最低でも武器を使ってくる程度の器用さは備えていることが窺える。戦うなら単純な力だけだったグーラよりも厄介なのは間違いないだろう。
(……ってオレは何を戦う事を前提に考えてるんだ)
流石にこんな街中に名付きが紛れ込んでいるとは。
そこまで考えて自分が潜んでいるし、ありえない事ではないと思い直した。
万が一ということも考えられる。油断は禁物だ。
「まあ、昼までにここで隠れていれば助けは来るはずだから、まずはそれこなしてからだな」
そいつが何故人間並みの知性を持っているのか。また、どうやって教団は名付きをしたがえているかなど気になることは多々あるが、今は気にしてもしょうがない。やれることをやるのが最善の手のはずだ。
この二人を逃がせれば安全な所でもっとゆっくりと情報を聞き出せるはずだし。
そこまで話したところでまたしても人の来る気配。まあ、次で終わりってことは残るはもう片方の準決勝だけだろうし、その決着が着けばすぐ迎えに来るのは当然だった。
ミラの話によれば、決勝が終わって戻ってくる頃までには二人は救出されているはずだ。昼休みの取引に間に合わせるにはそこがギリギリだし。
もし、それを過ぎても二人がここに残っていたら緊急事態という訳だ。そうならないことを祈るのみである。
「じゃあな。しっかり逃げてろよ」
「色々とすまなかった。ここを出たら礼をさせてくれ」
ネイが一向にこちらと打ち解ける気がないようなので、オレとゴラムだけで互いに別れの言葉を口にしてオレは決勝の舞台へ向かうのだった。




