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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第三部 ギルド編

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第十八章 治療

 結局ここにいた奴隷はその二人だけで、傷が深かったのは男の人獣、ゴラム・ハーラスの方だった。


 ちなみに名前はもう一人の獣人、ネイ・フォルに聞き出した。脅す形になったがこの状況なのでドンマイで。


 ゴラムの体の至る所に切り傷や擦り傷が大小問わずにある。


 だがその中でも一番目を引いたのは背中を斜めに走るようにして、剣のような物で斬られたであろう大きな一本の線のような傷。この頑丈そうな筋肉と毛皮で覆われた体にたった一撃でこれだけのものを残すとは相当な一撃だろう。


 逆に言えばそれだけの一撃を受けてなお動けるゴラムもぶっ飛んでいるのだが。人間なら恐らく即死している。それだけ深い傷だった。


 さすがに無理が祟ったのか、ゴラムはあれからすぐに気絶するように眠りについた。いや、もしかしたら傷の痛みで本当に気絶したのかもしれない。


「くそ、オレの回復薬じゃ応急処置程度にしかならないな」


 レベルが上がったことで多少効果も良くなっているのだが、それでもこの傷を治すには至らない。しかも運の悪いことに動いたせいか傷が開いてしまったのかまた出血し始めている。


 どうやって傷を塞ごうかと考え、


(う!?)


 その流れる血を見た瞬間、急に猛烈な乾きが襲いかかってきた。こうなる心当たりは一つ。


 急いで「吸血衝動」のスキルをオフにした。幸いオフにできない呪いみたいなスキルでなかったのですぐにその衝動は消え去る。


(ヤバかった。ここで吸血なんてしたら止めさすことになるところだ)


 今まで便利だったスキルにもこんなデメリットがあろうとは予想外である。


 とにかくこれで一つの問題は解決したが、肝心の出血に関してはいい手がないのが現状だ。回復薬を口に流し込み続けるが出血が止まる気配はない。


 そもそも基本的に回復薬は体力や気力を回復させるものであって傷そのものを治すには回復魔法が必要なのだった。オレに回復魔法は使えないし、肉屋も同じだ。


「ネイって言ったな。お前、回復魔法は使えないか?」

「……使えるならとっくの昔に使ってるにゃ」

「だろうな」


 万が一の可能性を期待したのだがやはりそんな都合よくはいかない。


 血の匂いを嗅ぎ取ったのか、モンスター達が興奮したように更に吠え出す。中には檻の中で暴れ出す奴まで現れた。


 思えばオレがこの倉庫に来た時にうるさかったのも、ゴラムの血の匂いに反応していたからなのかもしれない。声をかき消してくれるのは助かるが、これ以上騒がれると異変を察知した誰かが、いつここに来てもおかしくなかった。


(……致し方ないか)


「ネイ、こっちにきてゴラムを抑えるのを手伝え」

「……何をするつもりにゃ?」


 渋々といった様子で近寄ってきたネイ。生憎、懇切丁寧に教えている暇はない。


「いいからそっち側半分抑えてろ。全力でだぞ」


 説明しても聞かないだろうから即行動だ。治療中に人が来られたらどうしようもないのだから。


 オレはネイに突き付けていた触手を戻すと、その先に熱を集めていく。ただ高温にすればいいだけではないので慎重に調節しながら、けれど迅速に。


 もう一つの触手の準備も終えた後、数秒かけて作り出したその熱の塊を


「ゴラム、耐えろよ」


 聞こえていないだろうがそう断って、ゴラムの背中の傷に押し付けた。


「が、あああああああああああああああ!」


 その瞬間にゴラムの体は跳ね上がり肉の焼ける嫌な臭いが辺りに漂う。ネイは咄嗟の反応だったのか、しっかりとゴラムの体を抑えてくれた。


「ぎ、が、あ、あああ!」


 傷を焼いていく度に狂ったようにゴラムは叫ぶ。拷問に等しいのだからそれも当たり前だった。だけど、こうしないと助けられないと心を鬼にしてオレは手を休めることはしない。


 どれだけの時間が経ったのか、ようやく傷を焼き切るとゴラムは静かになった。死んではいないがこれだけのことに耐えたのだ。しばらく目を覚ますことはないだろう。


 オレも精神的に疲れ切っていた。こんな経験したことないし、することになると思ってもいなかった。そして二度と御免だ。


「それにしても痛ってーな」


 肉を焼いた方でない逆の触手は噛み付かれすぎて穴だらけになっていた。ヴァンパイアスライムになって色が真紅になっていたせいか、液体に還った体が血のように見える。


 幸いこんな風になってもスライムなので必要な体力さえ消費すれば穴は塞げる。極論になるが、オレは回復薬で体力を回復し続ければどんなに体を失っても復元可能なのだ。


 もちろん即死だったらさすがにどうしようもないのだが。


「な、何やってるにゃ!?」

「ん、いきなり何だよ?」


 穴だらけの触手を復元させていると急にネイが話しかけてきた。何をそんなに驚いているのやら。


「だ、だって、なんで、そんな傷だらけになってまで……何が目的なのにゃ?」

「しょうがないだろうが。舌を噛み切られたら治す意味ないし」


 この触手はゴラムが苦痛から誤って舌を噛み切らないためにずっと口の辺りに絡ませておいたのだ。全力でやれば簡単に抑え込めたが、それだと頭蓋骨ごと潰してしまいかねなかったので手加減をした。結果、抑えきれなくなって何度も噛み付かれたて傷だらけ、というわけだ。


「さっきも言ったがオレは敵じゃないし、目的はお前らを助けに来たんだよ。いい加減、話を聞けって」

「……」


 これまでと違ってネイはこちらの話をどう捉えるか迷っているようだった。このままちゃんと話をして誤解を解こうとしたのだが、


「っち! 誰か来たか」


 係員が来てしまったようだ。気付かれたのだろうか。


(いや、それにしては数が少ないし慌てている様子がない。単純にモンスターを運びだしに来ただけか?)


 だとしてもオレはこのままここにいるわけにはいかない。急いで自分の檻に戻らなくては。


「詳しい話はまた後で。すぐに戻ってくるからそれまでちゃんと隠れてろよ」


 返事を聞く間もなくオレは急いで元の檻へと戻る。


「お、いた」


 滑り込むようにして檻の中に入った時に係員がオレの檻を発見した。間一髪、数秒遅かったら見つかっていただろう。


(次からは檻ごと持っていこう)


 そうすればわざわざ戻る必要もなくなる。


 そうして次に戦いに出向いたのだが、相手はまさかのゴブリン。体当たり一撃で終わらせたのは笑い話にもならないだろう。

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