第十七章 手っ取り早い方法
こちらを踏み潰すように振り降ろされる足をオレは下がることで回避する。
「いきなりふざけんな! 話を聞けって!」
そう言いながらもこうなることは予想出来ていたので不意を突かれたりはしなかった。
どうやら両手に手錠のようなものが嵌められたままのようだし、あれだけの出血もある。動きはかなり鈍い。
ただ、こちらの言葉を完全に聞く気がないのか次の攻撃に移ろうとしている。いくら攻撃されようが当たる気はしないが、あれだけの出血をした向こうの体では攻撃をするだけでかなりの負担がかかることは予想に難くない。
それに、少しくらいの騒音ならモンスターの鳴き声でかき消されてくれるだろうが、騒ぎを続ければいずれ気付かれるだろう。長引かせるわけにはいかなかった。
「仕方ねえか。許せよ!」
動き出そうとするそいつに向かって触手を伸ばす。
咄嗟に身を捻って躱そうとするのは流石だが、そんなものでは無意味に等しい。なにせこれはオレの体の一部だ。軌道を変化させるのも容易いこと。
そのまま触手を首に巻き付けると、最低限の加減はして地面に引き倒した。抵抗されるが、力はこっちの方が上なので関係ない。
「が、は!」
顔面が地面に叩き付けられ短く息を吐く音がして、動きが止まる。このまま電気を流したり、麻痺毒を与えたりして身動きできなくしてしまいたかったが、出血に見合った怪我していることからそれは躊躇われた。
「ま、まだだ。俺は負けるわけには……」
そう呟いて立ち上がろうとしているが、腕も足も震えている。明らかに限界だった。
「だから話を聞けっての」
その人物は狼のような頭部を持っている、人獣族の男だった。性別は勝手な憶測だが俺って言っているし、間違ってないはず。
「オレは敵じゃないって何度言えばわかるんだ?」
「黙れ! 誰が敵の言う言葉に耳を傾けるものか!」
格好つけるのはいいが、この状況でそんなこと言ってもダサいだけ。現に満足に立ち上がることすらできないのに、強がりもいいところだ。
「敵か味方かはこの際置いておくことにして、まずは傷を見せろ。そこまで強力じゃないが回復薬は作ってやれるぞ」
「誰が貴様のようなモンスターに情けなど」
「だからそれは置いておけって言ってるだろ。それともこのまま死にたいのか?」
話を聞かないにも程がある。面倒なのでいっそのこと昏倒させてしまおうか。
「俺は誇り高き狼の人獣族! 何者にもひれ伏しはしない!」
「……うん、もういいや」
この無駄に熱い感じに付き合っていても埒が明かなそうなので強制的に眠っていただこう。
触手を棍棒に変更、「鉄化」して頭を殴った。ミスリルだと流石にヤバいと判断した結果の行動だったのだが、
「ぐう!」
「まだ意識あんのかよ」
獣がベースのせいなのか体は頑丈なようだ。結構強めに殴ったのに意識を保っていられるとは思わなかった。
「うーん、怪我人にこれ以上はマズイよな」
既に十分過ぎる程マズイ気はするのだが、そこは気にしない方向で行こう。だって話を聞かないこいつが悪いのだし。いつ係員がやってくるかもわからないのでタラタラやっている余裕はない。
「てか、意識あっても動けないならそれで構わないのか」
抵抗らしい抵抗も最初だけだったし、今の状態ならこのまま治療することも可能だろう。
そう思って、人獣族の男にオレは近付こうとしたのだが、それを阻むようにもう一つの影が猪の影から飛び出してきた。
奴隷はてっきり一体だけかと思っていたが、複数体いたらしい。
次に現れたのは、猫耳を付けた人間のような女。恐らく猫の獣人族とかだろう。
「それ以上近寄るにゃ! 少しでも近寄ったら」
「ああ、もうそういうのはいいから」
セリフの途中で触手を走らせる。時間がないと何度も言わせるなっての。
二本の触手を剣に変化させて、二体のそれぞれの首筋に突き付ける。
「動いたら、もう片方の奴がどうなるかわかるよな? 隠れている奴がまだいても同じなのであしからず」
完全に悪役のセリフだが、これが一番手っ取り早くこちらの要求を呑ませられる方法なのだ。場合が場合なので仕方ないということで。
この状況で無茶をするほど愚かではないらしく、二人とも諦めたかのごとく項垂れる。まあ、オレが敵だったら完全に終わりだろうからその反応は正しいと言えば正しいのだが。
もちろんオレが敵だったら、だ。
「とりあえず、怪我してる方の治療からだな」
その後、モンスターが人を脅しながら治療するという何とも奇妙な状況が作り出されるのだった。




