第十一章 便利機能
ヘルハウンド討伐の依頼のノルマは五体。現在倒したヘルハウンドは十二体とその数に問題はない。問題があるとすればどうやって倒したことを証明するかだ。
「これって体の一部とか持ち帰るのか?」
「ギルドカードを持っていれば、倒したモンスターの事は自動で記録してくれますから特に何もしなくて大丈夫です。まあ、売れる部位とかは肉屋さんが終わってから取りますけどね」
何という便利機能だ。おかげで肉屋に肉を回収させるのに躊躇がなくなって大変助かるというものだ。よくある設定の特定の部位を持って帰るとか、実際にやると怠いのは目に見えている。
そもそも、形がないモンスターの場合は証拠なんて持って帰れないのだから、こう言う風なシステムで当然なのかもしれない。これなら詐称もできないし。
そう言う訳で肉屋が喜んで残飯を回収しているのは放っておくことにした。あいつにとって久々の商品の仕入れだし、一人で集中してじっくりと回収したいだろうから。決してこれまでの仕入れが出来なかったことに対するフラストレーションを解消するかのような、あいつのハイテンションに付き合い切れそうにないからではない。絶対にだ。
それよりも今はチャットの事だ。戦闘中にいきなりテンションガタ落ちになった理由をまだ聞いていない。
「なあ、チャット。どうしてそんなに怯えているんだ?」
攻撃魔法が使えない事をそんなに知られたくなかったのだろうか。ここまで過剰に反応するなんてただ事ではないだろう。
そう思って問うてみたが、返答は予想外のものだった。
「……だって、オズは私達のことを置いて、どこかに行っちゃんでしょう? 昨日、オズがいない時にミラと話したんだから」
「待て。一体何の話をしてるんだ?」
二人を無責任に置いて行くなんて一言もいったことはないし、そんなつもりは毛頭ない。確かにギルドでそれっぽい話が出たが、明確には答えてはいないはずだ。
「その、オズさんは私達を安全な場所まで連れていったらいなくなるかもってことを話してしまって」
ミラが申し訳なさそうな顔をして説明してくる。
「だから考えたの。どうやったらオズが私達を置いて行かないかって」
「その答えがそれか?」
「そうよ。役に立つって思ってくれれば、これからも一緒に連れて行ってくれるかもって思ったの」
こんなことで嘘を吐くとは思えないし、本当のことなのだろう。だとしたら的外れもいいところだが。
「あのな、オレはお前ら二人の安全を確保したいんだぞ。戦える、戦えないなんて関係ないに決まってるだろう」
「だったら、私達のことを置いて行かないって約束できる?」
「それは……」
この言葉に頷くことは出来なかった。本音を言えば皆で旅を続けたかったが、それは危険と隣り合わせだと理解している。
チャットに関しては妖精だという事させ秘密にしておけば、このまま人間に紛れても何も問題はない、どちらを選ぶか、答えは出ているも同然だった。
「私はオズとミラだからこそ、妖精郷から出て一緒に行くって決めたの。それなのに置いてきぼりなんてひどいわ」
チャットの瞳は絶対に譲らないと語っていた。
考えてみれば、オレとミラが居なければチャットは孤独なのだろう。周りに知り合いもいない状況で、命を救ったオレ達は数少ない頼れる相手なのかもしれない。
そもそも、バカなところはあったが親切心から優しくした相手に騙されたのだ。その騙した種族である人間に猜疑心を抱いても何らおかしくはない。むしろ当然のことだ。
そう考えると、置いておくのもどうなのかと思われた、安全を確保するのは絶対だが、だからと言って心が休まらない場所に放置するのも何か違う。
「……まあ、それはギルドマスターからの依頼が終わってからにしよう。それまではなんにせよ一緒に行動するんだし」
一緒に行くにしても別れるにしてもあの依頼の特典を貰っておくのは悪くない。話はそれからだ、とオレは逃げることにした。
「……はーい、わかりました」
チャットは不満と不安が入り混じった表情だったが了解してくれた。いい齢した大人だろうに、子供みたいにむくれている。それはある意味こちらに気を許してくれていると言う事なのだろうか。
「と、とりあえず次はゴブリンを探しましょう!」
空気を入れ替える為か元気よくミラがそう言ったが、嫌な雰囲気はほとんど薄れることはなく、この気まずい状態でゴブリン達を倒すことになったのだった。




