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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第三部 ギルド編

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第十章 アンバランス

 さすがに街のすぐ外にはモンスターはいなかった。あの村にあった物よりも強力な魔物避けの結界が張られているし、それを破ってやって来ても冒険者に狩りつくされるだろうから当たり前だが。


 普段これだけ平和なのに、名付きが現れただけで北の門のような厳戒態勢が敷かれることから改めてその恐ろしさを教えられるというものだ。


 そんなことを考えながら歩くことしばらく、街を出てから三十分以上経過したその時、ようやく敵の姿が見えた。


 まだ距離があって影しか見えないが、その姿は明らかに人間じゃない。恐らく、四足の獣だ。


「あれがヘルハウンド。この一帯に数多く生息する狼型のモンスターです」


 ミラはこの距離でもしっかりと見えているのか断言した。一体どれだけの視力があるのやら。


「確かヘルハウンドのランクはE-だったよな」

「はい。だけど、群れで行動する習性があるので一人で挑むならもう少し危険度は上がると思います」


 そうなるとEランク以上の力がないと厳しいということか。だとしたら、


「遂に私の出番ね!」


 とか元気よく飛び跳ねている横の人に任せるのは不安しかないのだが。


「チャット、さっき決めた約束は守れよ」

「もちろんわかってるって。それより行きましょう。早くしないと逃げられちゃうわ」

「ったく、しょうがねえな」


 オレは檻から出るとチャットの肩に飛び乗る。


 約束とはオレがこうして傍に着き、撤退の指示を出したら素直に従う事。チャットの力を見るためにギリギリまで手を出すつもりはないが、危険だと判断したら容赦なく介入する気である。


 ミラも後方支援はオレの指示があるまでしないことに決めてあるので、最初はチャットの単独の戦闘となる。


「じゃあ、行くわよ」


 チャットがそう言うと背中から半透明の蝶々のような羽が現れる。実際に背中から生えているわけではなく、魔力で背中に作り出しているのだとか。その為、出し入れ自在と使い勝手がいいらしい。


 フワリと重さを感じられない軽やかな動きで宙に浮きあがると、そのまま一気に前方に加速した。羽の形に似つかわしくない、かなりの高速飛行で危うく吹き飛ばされそうになったのはここだけの話だ。


 しっかり監視すると言った本人が付いて行かないなんて笑えないし。


 ただ、予想外の早さでミラは完全に置いてきぼりだった。まあ、敵の力を感知してみるにオレだけでも充分だろうから構わないが。


 チャットは十秒もかからず距離を詰めると、ヘルハウンドの前に降り立った。当然、いきなり現れた獲物にヘルハウンド達は威嚇するように唸る。


「本当に大丈夫なんだな?」

「任せておいて!」


 自信満々の様子で腰に差してある杖を構えるチャットに気負いも不安も見られなかった。心配は消えなかったがこれなら多少は期待してもいいのかもしれない。


 なんてことを考えていたら、一体のヘルハウンドが勢いよくこちらに向かって飛び掛かって来た。思った以上に跳躍力で上空からチャットにその牙を突き立てようとして来る。


 だが、いくら俊敏であろうとそれは陸上という限られた範囲だ。


「もう、危ないわね」


 瞬時に羽を使って後ろに飛んだチャットに追いつけるものではない。


 だが、ヘルハウンド達も一度の攻撃で諦める訳もなかった。今度はすべてのヘルハウンドがこちらに向かって突っ込んでくる。しかも逃げられないように周囲を取り囲むような連携を見せて。


 その数十二体。敵はかなり素早いし、すべての攻撃を見切るのは不可能に思われた。


「チャット、上に逃げるんだ!」


 上空に逃げれば地に足を付けるヘルハウンドは追って来られない。いくら並外れた跳躍力と言っても空を飛べるミラに敵うものではないのだから。


 だが、チャットはこのアドバイスに首を傾げる。


「どうして?」


 この能天気な言葉に言い返そうと思ったが、すぐ傍までヘルハウンドが来ていたからそれも無理。咄嗟に楯を作ってチャットを守ろうとするが、それは徒労に終わった。


 チャットが地面を滑るように移動したことで、敵は攻撃を空振りしたからだ。


「この程度じゃ私を捕まえることなんて出来ないわ」


 前に呆気なく囚われた奴のセリフとは思えなかったが、その言葉は偽りではなかった。


 足を地面からほんの少しだけ浮かして、舞うように低空飛行を続けるチャットにヘルハウンド達は触れることすらできなかったのだから。


 チャットは距離を取ることなく、敵の攻撃が届く範囲に居続けている。だが、幾度と繰り返される牙や爪の連撃も、まるで幻であるかのように触れることも敵わない。


 いくら宙に浮いており、躱す技術が高かろうが、四方八方から繰り出されるこの攻撃を躱しきれるわけがない。何かタネがあるはずだった。

警戒は怠らずに観察し続けた結果、一つの事実に気付く。


「避けてるんじゃなくて外れているのか?」


 ヘルハウンド達の攻撃は速く鋭い。だが、そのほとんどが僅かにチャットには当たらないような軌道で繰り出されているのだ。まるで目測を見誤っているかのように。


 チャットはその軌道から逸れた攻撃だけを躱しているのだ。


「魔法で幻影を見せて攻撃を外させているの。どう、私もやるでしょう?」

「それは認めるが、戦闘中なんだからもっと集中しろよ」


 今のところ掠る気配もないとは言え、敵の集中攻撃に晒されているのだ。そんな誉めて欲しそうに胸を張って自慢している場合ではないだろうに。


「もちろん、これだけじゃないわよ。マジックシールド!」


 そう言ってチャットは杖を振る。すると、半透明な壁がこちらの四方を覆うように展開された。そしてそれはヘルハウンド達の攻撃をすべて受け止めてもびくともしない。


「魔力で作った楯ってところか」

「妖精郷の結界程じゃないけど、それなり強度がある魔法なんだから」


 空中すら飛べる高い機動力を持ち、魔法を絡ませることで攻撃を躱す。その上、当たりそうな攻撃をこうして防壁で無効化できる。想像以上の実力だった。


「それで、これからどうするんだ?」


 このまま戦ってもこいつらがチャットを傷つけることは出来なのはわかった。だが、それだけでは勝てないのもまた現実だ。だって、ヘルハウンド達にダメージを与えられているわけではないのだし。


 これだけ自慢気だったし、さぞかしすごい奥の手があるのだろうと思って問いかけてみたが、何故かチャットは目を合わせようとしなかった。


「え、えっと……そうだ! これだけじゃなくて、支援魔法も使えるのよ。これがあればオズの力とか素早さを強化することも出来るんだから! あ、後は……回復魔法も使えるわ!」


 この慌てようと、誤魔化し方からして予想は付いた。


「倒す手段がないんだろ?」

「そ、そんなことないわ!」

「じゃあなんで、どもってるんだよ。正直に言えって」


 別にそんな隠すことでもないだろうに。防御とか支援に特化しているのだったら、それもあり得ない話ではないだろう。


「……怒らない?」

「別に怒ることじゃないだろう、こんなこと」


 何故、そこでそんなセリフが出て来るのやら。戦えなくて怒るなんてどこの鬼軍曹だっての。オレはどこにでもいる一介のサラリーマンだ、元だけど。


「……ちょっとだけ」

「ん?」

「……攻撃魔法は、その、ちょっとだけ苦手なの」


 こちらの様子を窺うようにして小声でチャットはそう言った。何をそんなに言いにくそうにしているのか、さっぱりである。


「まあ、他にこれだけやれれば十分だろ」


 それがオレの正直な感想だった。人には得手不得手がある。オレで言えば直接戦闘は得意だが、それ以外はからっきりだし。その逆の人物がいても何らおかしくはない。


「こいつらはオレが片付けるから、チャットは離れててくれ。あ、試しに支援魔法を掛けてみてくれるか? どんなもんか確認したいし」


 チャットの実力を見るという目的は果たしたし、これ以上オレが戦わない理由もなくなった。さっきからずっと壁を壊そうと必死になって体当たりとかしているヘルハウンドには悪いが、もう用済みである。


「……わかったわ」


 だから何でそんなに怒られた子供のようにテンションが下がりまくっているのだ。まったく責めてないのに。


 まあ、話はこいつらを片付けてからにしよう。


 オレの指示通り、支援魔法を掛けると同時に周囲の壁が消え去った。そしてチャットはオレをその場に置いて、一瞬で上空へと退避を終わらせる。


 そうなると当然壁に突撃を繰り返して来ていた奴らはそのままの勢いでオレに向かって突っ込んでくることになるのだが、


「じゃあな、犬ども」


 とりあえず前方の奴らには触手の剣を横に一振り。スキルの効果か闇を纏ったその一撃はいとも容易く、半分のヘルハウンドの命を刈り取る。


 すぐさま反転し、適当にもう一振りで更に四体が死体に成り果てた。運よく生き残った残り二体はその後ろで固まっている。いきなり防戦一方だった相手がこんなどえらい反撃してくれば無理もない。


 ただ、硬直したのも僅かの間で、勝てないと判断したのか二体とも踵を返し逃げようとする。既に目標数はクリアしているが、もちろん逃すつもりはない。


 触手を伸ばして、横から胴体を貫いて仕留める。残り一体は、


「ミラ、頼んだ!」


 その言葉が終わる頃には、放たれた矢が正確にヘルハウンドの眉間に突き刺さっていた。

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