エピローグ
しばらくして、クールダウンしたミラも混ぜて食事をすることになった。皆、腹が減っていたのだろう。最初の内は黙々と食べ続けていた。
少しして食事もひと段落したところで、それまで姿を消していた肉屋も呼び改めて互いに自己紹介をした。と言っても向こうはオレとミラのことは分身の記憶から大体の事はわかっているようだったが。
「私の名前はチャットリア・ベルゼムです。改めてよろしくお願いしますね」
呼び名はチャットのままでいいとのことなのでそうした。今更変えるのもなんだし、なによりこっちの方が呼びやすい。
チャットは妖精であり、妖精族の多くは小人のような姿は子どもの時だけで大人になれば人と同じ程度の大きさになるのだとか。子供の頃は好奇心から時折、人の前に現れることもあるが、大人になるとほとんど正体を明かすことはない為、妖精=小人のイメージが出来上がっているそうな。
そのほとんどに入らない数少ない例外はチャットのような個体だ、間違いない。
現にこいつそれで囚われたわけだし。
ただ、僅かだが中には妖精郷から出てこっそりと人の世に紛れている個体もいるのだというのだから驚きだ。よくこれまで誰にも気付かれなかったものだ。
そうしてチャットの事情を聴いた後に今後どうするか話し合ったのだが、とりあえず全員で南の街に向かうことが決定。何しろチャットは妖精郷が崩壊したことで住み家がなくなってしまったからだ。つまり、今のこいつは前の世界風に言うなら一文無しのホームレスだし。
妖精のホームレス、笑えないな。
この世間知らずのお嬢様を放置したらまた同じ目に合うのは火を見るよりも明らかだろう。ミラと話して然るべき場所に保護してもらうという結論に至ることとなる。
そこまで話したところで、明日からの旅路に備え休むことになったのだが
「……眠れん」
何故だか眠気がやって来ない。疲れてはいるのに。
周りを見ればミラもチャットもぐっすり眠っている。二人とも限界まで魔力を絞り出す羽目になっていたし、それも当然だった。
「おい肉屋」
「なんでしょうか?」
これまたサービスで一晩見張りを買ってくれた肉屋だがその姿を消していた。まあ、姿は見えずとも声が返ってくるという事は近くに入るのだろう。
「正直に答えてくれ」
そう前置きしてオレはずっと思っていたことを口にする。
「もしオレがもっと強かったら、名付きとしての力を覚醒させていたとしたら、他の妖精達も救えたか?」
ずっと引っ掛かっていた考え。戦うことに集中して頭の隅に追いやっていた悩みがそれだった。
返ってきた答えは、
「確実とは言えませんが、少なくともその可能性はあったでしょうね」
あっさりとしたもの。
こいつのいいところは変に気を使わないで事実を述べてくれるところかもしれない。
「……そうか」
意味のない後悔かも知れない。でもやっぱり考えてしまうのだ。自分がもっと強ければ。もっと賢ければ、と。
「でも……だったら、なおさらもっと強くならなきゃな」
弱いままでは他人どころか自分さえ救えない。少なくとも強さがあれば自分とその手の届く範囲の人くらいは守れるのだから。
「おやおや、またくだらない悩みでウジウジへこむのかと思いましたが、成長しましたね」
「何で上から目線なんだよ。まあ、でも、こういうことでへこたれても意味ないってことくらいは分かるよ」
ここで散々、学ばされたのだから。
「それでは悩みが解決したことですし、オズ殿も早くお休みになってください。今まともに戦えるのはオズ殿だけなのですから」
「わかってるよ」
チャットは戦えないと言っているし、ミラも用意していた矢がすべてなくなってしまったので戦力は半減と言っていい。南の街まで戦えるのはほぼオレ一人だけという状況だ。
(いい加減寝るか)
眠れないのだが、そうも言ってられないらしいし。
そうして目を閉じていると妖精郷での出来事が思い返される。
アベル、あいつの研究は本当に無意味だったのだろうか。実を言えば、オレは一点においてあいつの研究は非常に有効な情報をもたらしてくれたことに気付いていた。
オレにとってだけ有効な情報を。
「魂が他のどこかから補充されているかもしれない……か」
アベルの言ったこのワード、普通の奴が聞けば与太話レベルだろう。良くて推測の域を出ないくらいか。
でもオレは知っている。肉屋ですら知らないであろう別の世界からこの世界に来た魂があることを。まさに補充されたとも言える存在がいることを。
何しろ自分自身のことなのだから。
「オレは埋め合わせの為にこの世界に転生させられたのか?」
証拠はないので答えは出ない。けれど、オレはここで初めて何故、自分が転生したのかという疑問を明確に持った。これまでのように漠然としてではなく。
そして、これが後に大きな意味を持つことになるとはこの時のオレはまだ知る由もなかった。
第三部ギルド編に続きます




