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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第二部 妖精編

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第十九章 妖精郷の終わり

 アベルが完全に消え去り、これで脅威は去ったはずだった。


「それにしても強すぎだろ」


 全力で放った一撃、それはオレの予想をはるかに超えた威力を秘めていた。闇が通ったところはきれいさっぱり何もなくなっている。


 木はもちろん地面も一歩先から地盤沈下したかのようにそこだけ滑らかに削り取られていた。オレの前面だけ完璧な更地状態である


 消滅という言葉をこれ以上に体現した現象もないだろう。

 実際には闇が消し去ったのか。それとも飲み込んだのかはわからないが、どっちにしたって過剰と言える威力だ。


 こんな力を一度の進化で手に入るなんて思わないだろう、普通。

 でも、心のどこかでは納得している部分もあった。


 名付きになってもグーラほど圧倒的な力は得られていなかったが、それはまだ力に覚醒していなかったからだったのだ。しかもまだ完全に覚醒してはいないみたいだし。


 もしかしたらグーラも名付きになった後にしばらく力を覚醒させる期間があったのかもしれない。


 要するに名付きと言っても無条件で強くなれるわけではなく、しっかりと努力をしなければいけないということだ。まあ、力が目覚めるとこれだけの一撃を放てるようになるのはかなりの反則技って気もしないでもないが、便利だし気にしない方向で。


 それにしても特殊スキルって強そうなスキルを手に入れられたのはいいが、些か技名が厨二病過ぎないだろうか。三十近いおっさんにこれはキツイものがある。


 というわけであの闇を覆うなんちゃらかんちゃらは略して「黒閃」と呼ぶことに決定。試しにスキルを使おうとすると、先ほどと同じように剣に魔力が集約されていく。


「ってこれ以上はマズイな」


 もう一発、放とうものなら森林伐採なんてレベルじゃなくここの環境を破壊しかねない。まあ、妖精郷内なので気にする必要はないかもしれないが、それはそれ、これはこれで。


 一応、前例があるためアベルが完全に消滅したかどうか注意深く周囲を観察して調べる。そうして、今度こそしっかりと死亡した(正確には消え去った)ことを確認してからミラ達の元へ戻る。だが、そこにはやはり大口を開けて驚きを表す二人が待っていた。


「二人とも、どうしたんだ?」


 阿呆みたいに口開けて。


「ほ、本当にオズさんですよね?」

「正真正銘オズワルドさんですが、何か?」


 というかオレ以外にこんなことできるスライムいたら困るだろうに。主に人間が。


「なんか進化したらすごい力が手に入ってさ。見ての通り、一撃でした」


 単純に説明するならこれでいいのだが、ふざけているようにしか聞こえないのはなぜだろう。しっかりと要点を捉えている説明なのに。


「……まあ、オズさんですもんね。だったら仕方がないのかな?」

「なんだ、そのオレが非常識な存在みたいな言い方は」

「生まれて半月も経たずに、それだけの力を得た時点でまともじゃないです」

「……」


 否定したいが否定できなかった。こっちでは確かに生まれて間もないのは事実だから。


「で、でもこれは肉屋の手助けあってのことだから」

「いえいえ、白骨の予想を超えておりますよ」


 どこからともなく表れた肉屋もこちらの敵だった。


「白骨は魔力を過剰に摂取することでネオマジックスライムに進化してもらうように条件を揃えたはずでしたが、まさかこうなるとは。相変わらずの規格外でなによりですよ」


 チャットですら横で頷いて肯定を示していた。味方はいないのか。


「まあ、そのおかげで助かっているんですけどね」


 そういってミラがため息をつきながら笑っていた。


「だ、だよな。強くなったのは悪いことじゃないだろ。それより今はチャットのことが優先だろ」


 肉屋の話ではチャットはこの女性の分身のようなものらしい。だったら早く元に戻すべきじゃないのだろうか。限界が近いと言っていたのも肉屋なのだから。


「結晶から脱出できた時点で条件は満たしております。じきに戻るでしょう」


 肉屋がそう言ったら、チャットの体が光り始めた。どうやら時間が来たようだ。

 

 七色に輝き、それと同時に肉体が光の粒となって崩壊していく。元々は作られた体。創造主が殺された今、魔力の供給もなくなって維持していられないのだろう。


 消えかけているというのにチャットは笑顔だった。


「……」


 そして最後に何かを言って、こちらに向けて頭を下げると、完全に光の粒となってしまった。


 その光の粒は横たわった女性へと流れ込んでいる。これで彼女も目覚めるのだろう。


「ありがとう、だそうです」

「……そっか」


 ミラが教えてくれたチャットの最後の言葉を噛みしめた。


 結局、今回オレに出来たのはこの女性を助けることだけだった。作られた命であったその他大勢の妖精達は死なせている。


 そんなオレに礼を言われる資格なんてない。でも、それでもチャットはそんなオレにありがとうと言ってくれたのだ。


「……ありがとう」


 そう言うべきはこちらの方だ。おかげでオレは強くなれた。


 単なる力だけではなく、心が。


「感傷に浸っているところ悪いですが、もうすぐここは崩壊しますよ。巻き込まれれば、白骨はともかくオズ殿達はこの世界ごと消滅してしまいますが」

「それを早く言えよ!」


 肉屋の空気を読まない発言で現実に引き戻された。言われてみれば周囲の結界が崩壊し始めている。

 感傷に浸らせてもくれないなんて時間とは残酷なものだ。


「とにかく脱出するぞ! 話はそれからだ」

「では、白骨が示す地点に先程放った一撃を叩き込んでください。ミラ嬢はこの女性を背負っておいていただけますかな」

 そうして指示されるように手早く準備を終えると、黒閃を放った。


 あっさりと結界に穴があいたのですぐさまそこに飛び込む。


 全員外へ出て穴を振り返ると、どんどん小さくなっていた。そこから中の妖精郷がどんどん崩壊していくのが見える。


 穴はどんどん小さくなっていって、そして完全に閉じきった。


「……これで、終わったんですね」

「ああ、終わったな」


 これが妖精郷で起こったことの顛末だった。

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