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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第二部 妖精編

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第十六章 嘲笑

 ガラスが砕け散るような音、それは三つの音が重なってできたものだった。まず魔法陣が破壊された音。次に大剣が砕け散った音。


 そして最後は女性を捕えていた結晶がひび割れ始めた音だ。


 そのひびはもう限界とばかりに瞬く間に結晶全体に広がっていく。すべてが崩壊するのに数秒と掛からなかった。


 そうして解放された女性がこちらに向けて落ちてくる。だが今さっき全力を振り絞りその上、身をバラバラにされたかのような激痛に苛まれるオレに彼女を抱きとめる余裕はなかった。


 だから目標をこちらから女性に変えたアベルを止める術もない。そう、オレには。


「「な!?」」


 オレとアベル、二人を驚かせたのは他でもないチャットだった。魔法陣が無効化されると同時に目を開けたチャットが弾丸のような速度でその女性に向かって飛んでいき、そしてその体を空中で受け止める。小柄な体では信じられないような力だった。


 この行動に一番衝撃を受けたのはアベルだった。


「バカな、なぜ動ける! もはや活動など出来ないはずだし、そもそもそいつにはそこまでの腕力は与えていない! 何故、作られた実験動物の分際で創造主たる私の予想を超えられるというのだ!」


 見ていて哀れになるくらいに取り乱しているアベルだが、オレはその隙を逃すお人よしではない。


 体に鞭を打ってどうにか跳躍すると新たに作り出した剣を突き出した。大剣を作り出したかったが痛みで力が集まりきらなかったのでこれが精一杯だったのだ。


 相手もバカではなく避けようとしたが動揺した状態から完全には不可能だった。浅いがしっかりと斬りつけてダメージを負わせることに成功する。


「この戦闘の余波で酷使していた結晶が砕けたのはまだわかる。だが、そいつの行動だけはあり得ない。起こり得てはいけないはずだ!」

「実際起きちまったことにいちゃもん付けたって何にもならないぜ、頭が固い研究者さんよ」


 チャットが女性をオレの後ろに寝かせる。かなり大変そうだが手伝ってもいられなかった。


 魔法陣と結晶が砕けたせいか周囲に異常に濃い魔力が漂っている。本能的ここに長居はしては不味いのが嫌でも理解できた。ここは普通の生き物が生きていられる空間ではなくなっている。


「なぜだ、どうして!」

「それは彼女の魂があなたに作られたものではないからですよ」


 どこからか現れた肉屋がアベルの目の前に立っていた。戦闘中にこいつが割って入ってくるなんて珍しい。


 当然肉屋がいればミラもいるわけで、


「オズさん、無事ですか?」

「ああ、チャットもこの人もこの通りだ」


 今のところ色々やばかったりもしたが全員無事だ。


「何をバカなことを。オレ以外に誰がここで妖精を作り出せるというんだ!」


 アベルが肉屋に突っかかる。


「では一つ聞きますが、あなたはこの作られた妖精に名前を付けましたか?」

「……付けるわけがないだろう、そんな実験動物にごときに」


 こいつがチャットの名前を呼んだことはなかったし、それに嘘はないだろう。そもそもこんなことで嘘をつく意味がない。


「では彼女は何故オズ殿達に向かってチャットと名乗ったのでしょう? もっと言うならその名は誰から与えられたのでしょう」


 言われてみれば名前は自分で作るものじゃないし、誰か名付けた人物がいるはず。だがアベルでないとするならいったい誰が?


「結論から言ってしまえばこのチャットという個体は所謂、分身なのです。その女性のね」

「な、なんだと?」


 アベルがこれまでにないほど動揺していた。

 それに女性の分身とはどういう意味なのか。


「もちろん肉体はあなたによって作られたものですが。彼女は囚われながらも一つの個体に魔力を通じて自分の意識を、魂の一部を分け与えたのです。助けを呼ぶために。あなたはそれを勘違いして自分が魂を作りだしたと思い込んだに過ぎないのですよ」

「う、嘘だ! 私はその個体を作り出したんだ!」

「では何故この一体だけしか作らなかったのです。いえ、作れなかった。そうでなければこの一体だけにする意味はありませんよ」


 他に魂を持つ個体を作れていればチャットにここまでこだわる必要もない。オレ達のような厄介者が出てきたなら尚更だ。


 なにより、アベルの表情がそれを肯定していた。


「偶然の産物で作り出したからこそあなたはこの個体に執着した。けれど結局あなたがしていたことは人形を作りだしてそれを弄り回していただけ。魂の研究とは名ばかりのただのおままごとだったというわけです。笑い話にもなりませんよ」


 そう言って肉屋は笑っていた。嘲るように、これぞ嘲笑というかのように。


「オズ殿から話を聞いた時はおかしくて仕方がありませんでした。愚か者には理解できない? あなたほどの愚か者もそうはいませんよ」

「……嘘だ」


 肉屋のその言葉は決定的だった。


「嘘だ嘘だ嘘だああああああああああああ!」


 アベルの様子が明らかにおかしい。同調するように周囲の魔力が暴走し始めた。


「肉屋、下手に煽るなよ!」


 何か知らないがヤバい状況なのは間違いない。ただでさえこっちはミラもオレも魔力切れが近いっていうのに相手を覚醒させてどうするのか。


「魂だけになってもどうにか研究という目標があったおかげで自我を保っていられたのでしょうが、それがすべて無駄だったと絶望すればこうなるのは必然ですな。いやはや、予想通りすぎてつまらない」

「お前こうなるってわかってたならやめろよな!」


 いや、こいつのことだからこれを狙ってやがったのか。あえて強敵を用意してオレの進化を促しているのだろう。


「オズ殿が本気になられればこの程度の相手は敵ではありませんよ。ですから早く新たな力を覚醒させてください」

「それができないからさっきから手こずってんだろうが!」


 誰が好き好んで苦戦するかっての。


「仕方ありませんね。特別サービスで進化する条件をお教えしましょう。結晶などで大量の魔力を摂取することによってオズ殿にも暴走していただければいいのですよ。今ならそこら中に大量の魔力が溢れてしますし、それを取り込めばすぐに条件を満たせるはずですよ」

「……オレにもああなれと?」


 魔力をまき散らして暴走している奴を目の前にしてお前も暴走しろときたか。こんな状態になりたがる奴がいるわけがない。当然オレもその一人だった。


「だけど、そうしないといけないんだな?」

「はい」


 他人を暴走させるってのになんて軽い返事だ。こっちの身にもなれっての。


 結局、こいつの望み通りというのはむかつくが今は文句を言っている場合ではないも事実。


「わかった。ミラ、チャット達を連れて離れていてくれ」


 暴走するとなったら何が起こるかわからない。巻き込まないようにミラ達が離れ終わったのを確認すると、


「さてと!」


 そこら中にある魔力をできる限りコントロールする。覚えたてのスキルのせいか完璧とまではいかなかったが、これだけあれば下手でも大量の魔力を集めることも可能だった。


 湖からコップ一杯程度の量を汲む程度のものだったが、それでも十分すぎる魔力だ。


 対するアベルも暴走しているせいかどんどんその身に魔力を取り込み、肉体は完全に滅んでいた。代わりに半透明だった幽体が実体化したかのようにどんどんその姿を濃くしていく。


 ここからバーサーカー同士の戦いになるというわけだ。肉屋に勝ちを保障されているとはいえ気が重い、そもそもどれくらいオレの意志は暴走に呑み込まれるのだろうか。


(ええい、やってみないことにはわからねえよな)


 悩んでも相手が強くなるだけだ。意を決し、集めた魔力を一口で呑み込む。別に食わなくても取り込めるのだろうが、この方がスキルの効果で害があっても大丈夫だろうという気休めだ。


 そう、それは気休めにすぎなかった。


 なぜなら、視界が暗転するのに一秒もかからず、意識が現実から乖離したからだ。

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