第十章 扉の向こうには
目を開けたらそこには誰もいなかった。
アベルはもちろんのこと妖精達もいない。
「一体、どうなってるんだよ?」
さっきの光は肉屋が消えたときに浴びたときの光だった。それで今度はアベル達まで消えるのか、わけがわからない。
「って、ミラ! チャット!」
一番初めに確認しなきゃいけないことを思い出す、もしこれで二人まで消えていたらと考えたら背中に悪寒が走った。
慌てて振り返ると、そこにはミラがいた。よかった、どうやらミラは今回も無事らしい。
だが、安心出来たのもつかの間だった。その背後にいるはずだったチャットの姿がなかったからだ。
光に目が眩んだのか、目を抑えているミラのもとへ駆け寄ってみる。
「大丈夫か?」
「はい、大丈夫です。だけど弓で狙いをつけるために凝視していたのが災いしました」
目がいい上にモロに光を浴びてしまったというわけか。
「ミラ、落ち着いて聞いてくれ。敵とチャットの姿が消えた。前の肉屋の時と同じみたいに」
「……魔力の反応が消えたのでもしかしたらと思ってましたけど、やっぱり」
どうやらミラも視界は潰されても、周囲の状況は把握出来ているらしい。出なければこうしてのんびりしてはいないか。
「とにかく周囲を捜索してみよう。どこかに連れ去られただけかもしれないし、それに」
ドン、という音が続く言葉を途切れさせる。音は入口のほうから聞こえてきた。
聞き間違えかと思ったがすぐに同じように音が鳴る。どうやら外から何者かが扉を開けようとしているらしい。
ミラの目が潰されている今、戦えるのはオレしかいない。
(やるしかない)
もしかしたらチャットかもしれないなんてありえないことも考える。一体、あの状況でどうやったら動きが鈍っていたチャットが一瞬で外に出られたというのか。
音が大きくなり、やがて扉がゆっくりと開いていく。
そこから現れたのは!
「おやおや、ようやくご帰還ですか」
「に、肉屋!」
懐かしい骸骨を顔した腐れ外道商人だった。
「え、肉屋さん、いるんですか?」
「お前、どこに行ってたんだ?」
オレ達の問いに対して肉屋は相変わらず飄々とした態度を崩さない。
「これまた奇妙なことを言いますな。どこかに行っていたのは白骨ではなくオズ殿達のほうですよ」
「どういうことだ?」
どう考えてもいなくなったのは肉屋だ。あの場に荷物もすべてあったし、肉屋だけがいなくなったと考えるのが当然だろう。
「まあまあ、話は腰を落ち着かせてから話しましょう。こんな」
そう言って肉屋が周囲を見る。
「誰もいない廃屋では落ち着かないでしょうからね」
その言葉通り、この場はどこにでもありそうな木造のくたびれた廃屋の中だった。




